『基本と言えば』、魔道をテクテク
俺は国王である。
同時に『土木部総監督』、『死霊騎士団長』、『死霊部統括部長』という役職を渡された。
これは、俺が国政に参加しなくていい、言い訳だ。
国王として、じいちゃんと四領主の五議会に口出しする権利はあるが、行使するつもりは全く無い。
アステルとじいちゃんの弟子であるメイは『五議会相談役』という役職に決まり、『宰相』は廃止された。クーシャは『死霊騎士団副団長』となった。
やることは変わらないが、役職をしっかり決めたのは、これで給料が出せるからという理由だったりする。
もちろんクーシャとはお互いを「団長」「副団長」と呼び合う遊びをした。
普段はいつもの「ベルくん」「クーシャ」で呼んでいる。
仕事は一気に減った。
現場監督はお任せだし、面会は週に一度の夜会で済む、アンデッド契約もアルとクーシャが一気に『騒がしの森』のモンスターを減らしたからなのか、湧きが悪くなったおかげで、こちらも週に一度程度で済むようになった。
アルの進化は一時お預け。
なにしろ『ワゼン』と国交を繋がないと『天空ダンジョン』の素材は手に入らない。
まだ、トンネルは完成していない。
『ムウス氏』の情報もない。
そして、暇になった俺は現在、忍者フーマに見せてもらった忍具を再現出来ないかと研究中だったりする。
元々、言い出したのはじいちゃんだ。
俺の『異門召魔術・皿』。
これは土や火の紋章を使い、素焼きの皿を十枚ほど生み出すという遺失魔術を俺が復活させたもので、じいちゃんが言うには土を鉄に変じさせ、形を丸から十字にする紋章を見つけられれば『忍具・手裏剣』は再現できるだろうということだった。
目の前には『皿魔術』の紙をひろげ、紋章魔術関連の書籍が積み上がっている。
『塔』の食堂の広いテーブルをがっつり占領させてもらっている。
うんうんと唸りながら、睨めっこだ。
「ベルたん、何してるんだ? 」
「ああ、オーガス兄か。
今は皿魔術の改良をちょっとね……」
「ほお……それはまたどういう……?」
オーガス兄は俺の手元の『皿魔術』を覗き込もうと、俺の背後から身を乗り出してくる。
ちょっと近い……暑苦しいとか言うと、オーガス兄が凹むので、少し身体を逃すだけにしておく。
「素材と形……? 」
オーガス兄は俺のメモ書きを眺めながら言う。
「うん、そのふたつを特定して変化させられればいけるんじゃないかと思うけど……」
「例えば、土の紋章を足すとかじゃ、いかんのか?
強度は上がるだろう? 」
「ああ、そっか……」
さすがに『土の紋章』ふたつだと厳しいが空白部分に別の紋章が入る余地はある。
じいちゃんの言う通り『皿魔術』の応用として考えていたのと、忍具は小さいものという固定観念で、余白に足すという基本を見失っていたな。
「ちょっとなにか見えたかも……さすが、基本と言えばオーガス兄。ありがとう」
そう、オーガス兄は母さんの弟子の中でも最も基本に忠実な人だ。
派手さも奇抜さもないが、実直な職人。
それが『基本といえば』オーガス兄だ。
「うん、ベルたんの役に立ったなら良かったよ」
頬を染めて、俺の頭を撫でる姿は少しだけ苦手だ。
「オーガス兄。俺ももう子供じゃないから……」
言えば、少し寂しそうにしながらもやめてくれる。
「お、おお、ベルたんも言うようになったな。ははは……」
オーガス兄は頭を掻くと笑った。
そんなところに、メイが皿に載せたクッキー片手にやって来る。
「あれ、ベルもそれやってんの?」
メイは俺の向かいに座ると、やはりメモ書きを見て言った。
ついでに、自分用のおやつであろうクッキーを一枚、俺に伸ばしてくるので遠慮なくもらう。
「ふん(うん)。ほぉれ(おれ)もって、メイも? 」
「いんや、ボクは『不幸な』ジュンが帰って来るまでは『浮遊魔術』の解析。
お師匠さんがソレやってるの見たからさ」
「ああ。じいちゃんと共同研究して……〈もぐもぐ〉……るところだふぁら」
相変わらずメイは俺に餌付けしてくる。
まあ、拒否する気は全くないけど。
「へぇ、いっぱしの魔導士って感じじゃん」
「国王だけどな」
「魔王だろ。魔術を極めないとね」
まあ、体外的には魔術王だから、間違いではない。
「はむ……」
「待て待て、ベルたんは錬金技士を極めるんだぞ、メイの勝手な憶測で決めることじゃない」
オーガス兄は俺に錬金技士を極めさせたいらしい。
「はいはい。じゃあ、ベルはひっくるめて魔導を極めるってことでどうだろう? 」
「俺の場合、死霊術もあるし、メイが『不幸な』ジュン兄待ちってことは、『神聖魔術』にも手を出すつもりってことだよね。
うーん……極めるのはオーガス兄やメイに任せるよ。
俺は魔導というより、魔の道、魔道を自分のペースでテクテク行くよ」
放っておくと俺は酷い将来を決められそうだったので、自分なりに進むとバッサリ二人の意見を跳ね除けた。
「ふーん、まあベルがそう言うんなら、それでいいけどさ……」
「いや、しかし、それだけの才能と環境があるのに勿体無い……」
「いや、オーガスさん、たぶん心配ないよ。
ベルはボクたちがやることに勝手に鼻を突っ込んで、極めるつもりがなくてもってやつでさ……」
メイはひょいひょいと俺の意見を言わせないとばかりにクッキーを俺の口に放り込む。
「ああ、ベルたんならそうなるか……」
「……〈もぐもぐ〉」
いや、魔導の全てを極めるとか無理だから。
今でこそ『コウス』と俺たちの国の魔術は『神聖魔術』以外はほぼ集め終わっているんじゃないかとは思うが、他にも『ワゼン』や『マンガン』など国毎に特色ある魔術は確実にありそうなんだよな、忍具とか……。
だだ、二人は俺の意見を封殺したところで勝手に納得したようなので、よしとしておこう。
めんどくさい……。
昔から俺の将来は魔導士か錬金技士かという議論をやるのは『塔』のお約束だ。
じいちゃんの弟子も母さんの弟子も、やってることは複雑に絡み合っているので、不毛な議論で終わる。
まあ、俺を弄って遊びたいというのが弟子共通の言語らしい。
これも慣れなので気にせず俺は研究に戻る。
余白に足すとしたらなんだろうか?
俺の使う『皿魔術』は土の紋章と火の紋章があることから、土を焼いて皿を作っているという作業を魔術で代用しているんじゃないかと思っているんだが……手裏剣を作る場合はどうしているんだろう?
簡単に考えれば、鉄鉱石を熱で溶かして形成、だよな。
鉄鉱石は属性的には土の紋章の亜種ではないかと思っているが、付け足すと考えると、土の中の鉄鉱石を選択するような紋章が必要ということだろうか?
うーん……あ、鳥系モンスターが使う羽根手裏剣みたいな魔法とかあったよな。
ただ、アレは鉄製ではない。
では何かと思っても、正直良く知らない。
鉄、鉄かぁ……。
考えていると、ふと鉄晶石という魔晶石があったな、と頭の中に浮かんでくる。
結構レアな属性魔晶石だ。
『皿魔術』のインクを鉄晶石にしたら、素焼き皿が鉄皿になったりしないかな?
レア属性魔晶石だが、クズ魔晶石ならダンジョンの倉庫にそれなりに置いてあるよな。
一度、試してみるか。
俺はダンジョンに向かう。