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レギオンじゃん!お前が呼んだのか?


 俺は魔〈術〉王国ヴェイルの初代国王になった。


 何故こうなったのか、思い返してみても良く分からない。


 なんとなく理解していることとしては、じいちゃんと四領主が合議制で国を治めていくらしいってこと。


 その他には、アステルはいつのまにか俺の秘書みたいな立ち位置になっていた。

 どうしても重要な案件の時は、俺の認可が必要だとかで、そういう時の決定は俺が下すんだそうだ。ただ、その前段階のものはアステルの裁量で決めているらしい。

 宰相なのか、アステル! 


 まあ、それはいいとして、とりあえず俺がやったことだ。


 俺は各領地に一枚ずつ『取り寄せ』魔術を配り、緊急連絡網とした。

 いざとなれば、アンデッドも送れるしな。

 ソウルヘイ領からは各領に十機ずつ『武威徹』を配備したらしい。

 これで、物流に通信は、他に類を見ないものになったと思う。


 魔王となった俺の仕事は、アンデッド作りだった。


「さまよえるワンダリングメイルじゃったか。

 アレを各領二百体ずつ用意して欲しいんじゃ」


「いや、じいちゃん、各領二百体ずつって、八百体じゃん! 」


魔術城まじゅつじょうにも置きたいから千体じゃな」


「まじゅつぞーにも!? 」


 魔術城はうちの『塔』の隣に建設中の城で、俺の居城になるらしい。


「言えとらんぞ」


「驚かせるから、言えるものも言えなくなるんだよ! 」


 詠唱魔術を使う関係で、じいちゃんは滑舌に厳しい。


「俺の負担を最小限にするって話じゃなかったっけ? 」


「まあ、最初は何事も忙しくなるもんじゃ。

 これが終われば楽になるでな」


 『さまよえるワンダリングメイル』は中級上位に当たるゴースト系アンデッドだ。

 ゴースト系だが鎧に取り憑いて動くので、実体があるアンデッドになる。

 同じ中級上位のルガト=ククチなんかに比べると進化は簡単だが、数が数だけに、簡単ではない。


「いや、さすがに千体はちょっと……。

 あの、あれでしょ、金色対策の戦力ってやつ」


「うむ、そうじゃな」


「それなら、ベテランがいいよ。

 ベテランなら、もう千体超えてるし……」


「ベル、もう観念した方がいいよ」


 横で話を聞いていたアルが口を出す。


「うむ、分かっておるじゃろうが、アンデッドは基本的に見た目がアレじゃからな……。

 ただの動く鎧ならば、人形のようにも見えるじゃろうが、腐ってたり、骨だけだったりすると、領民が困るじゃろうしのぅ」


「ぐ、ぐぬぬ……」


 言い返せない。

 魔王国と名乗ったものの、対外的には魔術に重きを置いた王国、魔術王国ということにしているので、気を使わねばならない部分はある。

 さすがに死霊王国と呼ばれるのは避けたい。


 そんな訳で、俺は千体の『さまよえるワンダリングメイル』を作ることになった。


 『さまよえるワンダリングメイル』のレシピは以下の通り。


 ・ゴースト一体

 ・鎧、一揃え

 ・赤月草の煮汁を冷やしたもの

 ・人工霊魂

 ・死喰い蜘蛛

 ・魔術符〈専用のもの〉


 これらの材料を集めるのは、難しくない。

 すでに何体か研究用に進化させた個体もいるので、解読も終わっている。

 一番問題があるとすれば、鎧を一揃えというのがかなり高くつくことくらいだ。

 鎧は全身鎧が良い。

 ゴーストは元人間のゴーストが良い。

 気をつけるのは、このくらいだ。


 俺はクーシャとアル、アルファ、それからクイラス・ソウルヘイの部下が操る『武威徹』を二機伴って、戦場跡地や墓場を巡る。

 質の良い『さまよえるワンダリングメイル』は生前、兵士だったゴーストがいい。


「オーブからだと大変だから、点眼薬でちゃんと見てから人工霊魂を向けるように。

 それから、動物霊は避けてくれ」


 俺は全員にそう注意して、『点眼薬』と『人工霊魂』が入った竹筒を渡していく。

 ゴースト系は自我がない内は竹筒を向けてやれば、勝手に入ってくるので、捕獲は簡単だ。


「ひぃ……ち、血塗れの兵士がっ! 」


 古戦場だった平原に、兵士の叫びが響く。


「おお、いいの見つけたね! 

 ほら、竹筒の蓋開けて、その先を向けて」


 俺は虫取りを先導する達人みたいな顔で言う。


「な、生首だ……生首が飛んでる……」


「レアだよ、レア! たぶん、指揮官クラスの霊だから。

 ほら、竹筒揺らすと、上手く入れなくて彼も困っちゃうよ」


 優しく兵士の腕を固定してやる。

 兵士は目を瞑ってがたがた震える。


「ぽるた! 」


「こら、アル、後輩いじめんなっ! 」


 俺はプリプリしながらアルの元へ行く。


「いや、なんか固まってるから解せないかと思ってさぁ」


 霊と霊が一箇所に固まって、寄り集まって、声にならない叫びを上げていた。


「これ、群体霊レギオンじゃん! 

 ウルトラレア! 」


「マジで! 」


 群体霊レギオンは上級アンデッドだ。

 霊同士が似たような怨嗟の怨みで絡み合って、ひとつになった存在で、アルが言うように解せるような存在ではない。

 普通の霊だと、取り込まれて同調させられるのがオチだが、アルは平気そうだ。

 まあ、今は実体化しているからだろうか。


「って、いうか、アンデッドモンスターじゃん! 

 動くな! 契約するぞ! 」


 そうして、俺はレギオンと契約した。

 怨嗟の霊体って、なんか苦い。


 そうして、レギオンを連れて暫く歩き回ってみたところ、長く尻尾みたいなのが続いている。

 その尻尾は切れずにひたすら伸びているようだった。


 なにかおかしい。『アンデッド辞典』にはこんなこと書いてなかったぞ、と思いながら尻尾を辿る。

 そこは最初にアルがレギオンを見つけたところだった。

 そして、尻尾は地中へと繋がっていた。


「あ、怪しい……」


「これ、地中に死体があるとか、そーゆーこと? 」


 ゴーストを捕まえるのに飽きたのか、ついてきたアルが地中を見て言う。


「死体……いや、死体があるならゾンビにでもなってるだろ。

 まあ、掘ってみれば分かるよな……」


「まあ、そうだね」


 二人で土を掘り返してみる。

 はたして、出てきたのは、金属の何かだ。


「土の中に埋まっていたとは思えない光沢だな……」


 アルは自分の剣で金属を叩いてみる。


「埋まってるってゆーか、土が被さっただけみたい。

 音も軽いから、板? 」


「ああ、確かに……」


 俺は被さった土を払うようにどける。


「あ、剣だ……」


 刀身の一部と柄が見える。あと、その刀身にレギオンの尻尾が巻き付いていた。


 上に被さっていた土をひと通りどけると、白銀の剣で刀身の半ばまで文字が彫り込まれた、波打つような剣だった。

 鍔や柄にも細かい装飾がしてあって、一見すると儀礼用の剣にも見える。

 持ってみると、軽い。

 魔法金属かと思えるような軽さ。

 そして、つい今しがた手入れをしたばかりのような妖しげな煌めきを持っている───。





 悲鳴と怒号が飛び交っている。

 これは、もしかしてロマンサー同士の共鳴? 

 何故だ? 

 ロマンサー同士で起こるはずなのに、俺が触れたのはただの剣だ。

 なのに、何故───。


 この戦はもう五十年以上続いているらしい。

 生まれた時には戦争してて、物心つくかつかないかくらいで、戦闘訓練が始まり、今じゃすっかり慣れた。


 敵は人魔じんまと呼ばれている女性型の魔獣と昔から存在している魔物だ。


 人魔の見た目は人間の女だが、コイツらは魔物で魔獣だ。

 赤い髪の人魔。


 人から生まれたのか、魔から生まれたのか分からないが、言葉が喋れず、動くモノを問答無用で襲う。

 たまに食われる。

 それはつまり、食わずとも殺すということだ。

 人も動物も魔物も関係ない。

 動くやつは殺され、たまに食われる。

 人間の武器を使う知能があり、魔物のように振る舞う。

 そして、魔獣に変身することもある。

 だから、人魔。


 人魔はどこからか増える。

 まるで計ったかのように、人里近くに集団で現れたりするので、誰かが操っているのでないかという噂もある。

 この戦いは終わりが見えない。

 俺たち人間は、追い詰められている。


 ちなみにこの人魔、風の噂によると交合できるらしい。

 俺はしたことは無いし、する気もない。

 見た目がどれだけ好みでも、愛の言葉ひとつ囁けない魔獣風情に興味はない。


 人魔が近づいてくるのを見つけた。

 手にした銃で牽制する。

 腕や足のひとつもぶっ飛ばせば、効果はあるが、弾の一発、二発が当たったところで人魔の動きは止まらない。

 まあ、突如現れ、急激にその数が増えた人魔のせいで、銃は廃れつつある。

 人魔は殺せないが、人魔に使えて、人間を殺せる銃という武器は、作れば作っただけ人間の首を絞めることになる。


 だから、最近の俺は専ら使うのは剣だ。

 銃は牽制だけに使うので、すぐ仕舞う。

 切れ味鋭い剣は、人魔も魔物も、とにかく生きてるやつは殺せる。

 きっと、こんなぐちゃぐちゃな世界を創ったというカミサマってやつも、この剣なら殺せるんじゃないかと思う。


 人魔の銃口が俺を向く。

 あさ……なんとかって銃だ。

 連射が厄介な銃。鈍器としては、そこそこ優秀だ。

 朝銃を人魔が連射する。

 俺は銃口から逸れるように走る。

 耳が痛くなるほどの轟音を背後に、俺は走る。

 音が止む。

 向きを変える。今度は人魔に向かってダッシュだ。


「げげぇーき! ならたーっ! 」


 舌足らずな口調で人魔が叫ぶ。

 コイツ、人間食ってるやつか……。

 人間を食った人魔は人語っぽいことを喋るとか聞いたことがある。

 それも、風の噂だ。


 叫びながら人魔が弾倉を交換しようとしている。


「させるかっ! 」


 俺の剣が人魔の手を斬った。

 弾倉を手にしたままの手が舞う。


「横薙ぎっ……」


 剣を返して、もう一撃。

 しかし、人魔は後ろに跳んだ。外したっ! 

 鈍器が飛んで来るのを、身を屈めて躱す。


「ぐぎぎ……あが……ととさ……がぁっ! 」


 ヤバい。人魔のやつ、獣化しようとしていやがる。

 俺は撓めた身体を発条ばねのようにして、前に跳ぶ。

 人魔の獣化は諸刃の剣ってやつだ。

 獣化する一瞬の隙、その時、人魔は無防備を晒す。


 俺はその一瞬の隙を狙って、剣を振った。

 手応えありだ。

 背後で重い肉が落ちる音がした。


「ぱちぱちばち……」


 口でぱちぱち言いながら、小さく指先だけで拍手する男が、木陰から出てくる。

 なんだ? 気配を感じなかったぞ。


「誰だ!? 」


「ああ、いいんだ。計測は良好だ。もう一人くらい、いけるか? 」


 俺の誰何すいかの声が聞こえているのか、いないのか、白衣を着た白髪混じりの男が勝手に話しかけてくる。


「……何を言っている? 」


「少し疲れが見えるな。スピードというより、緩急自在が強みか……なら、この子が良さそうだ……」


 男は俺を見ながら手元で板のようなものを弄る。


 ガサリと音がして、木立の間に赤毛が見える。

 人魔だ。


「まさか……お前が呼んだ、のか? 」


 どうやったか分からないが、男の言動から、そうだと思われた。


「ああ、通信系機器は分からないか。

 しかし、推測はできる……うむ、いい素体だ。

 情報が遮断されて、もう五十年か……人間の数もかなり減ったからな。

 口伝だけではやはり厳しいか。

 モンスターさえ駆逐できれば、復活の方法も考えるか……」


 ソタイ。何故か耳に残る響きだ。

 男は勝手にブツブツと喋る。

 会話のようで会話ではないのかもしれない。

 しかし、俺は考えている余裕がなかった。


 人魔が走り出した。

 向かって来る。

 銃は持っていない。代わりに鉄の棒を持っている。


 俺はいつも通り、腰から銃を取り出して、牽制を入れる。

 一発、二発、しかし、人魔は怯まない。

 当てる気はないので、当たらない。それはいい。

 だが、スピードも落ちない。これはまずい。

 早い……瞬間的に銃身で鉄棒を受ける。

 パワーもある。

 剣で受けなくて正解だった。切れ味を大事にしているので、俺の剣は薄い。

 下手に剣で受けていたら、おそらく折れていただろう。


 体をずらして、銃を捨てる。

 人魔のパワーに逆らっても無駄だ。受け流すのが一番だ。

 人魔の体が泳ぐ。

 その隙は逃がさない。

 銃を抜くため、逆手に持っていた剣をそのまま振り抜く。

 だが、人魔の体が泳いだのは、わざとだった。

 鉄棒が俺の剣を叩く。

 逃げきれなかった。俺の剣が折れた。


 切先が浅く人魔の体を裂いたが、その切先はもうない。

 咄嗟に距離を取る。

 人魔が追ってくる。やはり、早い。

 今まで出会った人魔の中でも、最速の部類だ。

 振るわれる鉄棒を咄嗟に腕でガードする。


 ゴキリと音がした。


 こりゃ、砕けたな。


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