銀輪騎士団、突撃!
今回も三人称視点で書いております。
やっぱり、王国側の描写もないと、意味が分からないままに進みそうだったもので。
銀輪騎士団、新団長クライド・ポーテットは率いた騎士たちに突撃を命じる。
魔王ヴェイルは簡単に見つからなかった。
『叡智の塔』を中心に行われた捜索。
近隣の村村での聞き込み。
『テイサイート』の街でダンジョンにも潜った。
『叡智の塔』はもぬけの殻だった。
ご丁寧に『塔』に収められた本が全て無くなっていた。
それをするには、一朝一夕では無理だと言うことで、かなり早くから準備していたことが伺える。
だからだろうか、『魔王のダンジョン』が見つかったのは、近隣を回り、『テイサイート』の冒険者に近場のダンジョンのことを散々聞いた後だった。
騎士たちは聞き方を間違えたのだ。
近隣では。
「叡智の塔のヴェイルという者が魔王となった。この近くで最近になってモンスターが現れたなどの話はないか? 」と聞けば、「いえ、知りません。それより、ベイルって誰ですか? 」「悪ガキ、ベイルじゃろ。ほら、スプーから来た成金の息子の……」「ああ、あいつに食われたウチの豚の恨みは忘れねえ! 」「騎士様、スプーですじゃ! ベイルはスプーにおるはずじゃ! 」
それは六年前、まだ『塔』が寺子屋として機能していたころ、何を勘違いしたのか、わざわざスプーから『塔』に学びに来た若者がいた。
名はベイル。
彼は、成金の息子として、とても我侭に育てられた。
そのせいか、まともに勉強もせず、近隣の村で悪さばかりしていた。
そして、騎士にとっては不幸なことに、ヴェイルは『塔』に引きこもっていたから、知られていないのだ。
結果、村人たちが思い出すのは、悪ガキ、ベイルということになってしまう。
「スプー!? スプーだと!? 」
「はい、きっと彼奴はスプーにおります! 」
こうして、不幸な騎士は『スプー』まで足を伸ばすことになった。
『テイサイート』の街で冒険者に聞き込みをした騎士もまた、聞き方を間違えていた。
「叡智の塔のヴェイルという者が魔王となった。この付近のダンジョンに潜んでいる可能性がある。
急に危険なアンデッドが現れるようになったダンジョンはないか? 」
騎士たちは魔王ヴェイルと超級冒険者ディープパープルが共に行動していると聞いていた。
ディープパープルと言えば、長期間のダンジョン行動、それが安直に結びついた結果、いや、騎士たちの灰色の脳細胞が導き出した推理だったのだ。
「いや、知らねーな」「そういえば、ゼリダンジョンは六層目から急に難易度が上がるぞ」
「なんだと」
「ああ、確かに六層目から難易度がいきなり上がるな」
「それはアンデッドなのか? 」
「いや、それを確かめに行ったやつらが帰って来ないから、分かんねー」
「騎士様たちなら、六層目も超えられるんじゃないか? 」「おお、そうだな」
こうして、騎士たちは高難度ダンジョンであるゼリダンジョンに挑むことになる。
これらが、ヴェイル・ウォアムと行動を共にした金十字騎士団の者だったら、また違ったのかもしれない。
もしくは、ただ単に「この辺りでアンデッドが出現した場所は聞いたことあるか? 」程度の質問なら、冒険者たちも『叡智の塔』の裏手、『騒がしの森』でたまに出現する冒険者が窮地に陥った時に現れる『優しいアンデッド』の話を聞けたかもしれない。
だが、金十字騎士団は魔王『金色』を倒すべく動いており、急遽、新団長としてクライド・ポーテットが任じられた銀輪騎士団が魔王ヴェイルを倒すべく派遣されたのだ。
ようやく魔王ヴェイルのダンジョンを見つけたのは、クライド・ポーテットがやけになって手当り次第に騎士たちを辺りの捜索に向かわせた故だった。
『騒がしの森』の端、枝葉に隠されるようにあった木こりの休憩所のような部屋。
洞穴のようにくり抜かれた小さな崖の側面の部屋。
椅子代わりの丸太とたき火跡、雨具代わりなのか、動物の皮が壁に掛けられていた。
それは偶然だったと言っていいだろう。
枝葉でカモフラージュされたそこをたまたま騎士が見つけ、いつまでも魔王の足跡をみつけられず苛立っていたクライド・ポーテットに報告、クライド・ポーテットは苛立ちを紛らわすように、その洞穴に足を運んだ。
「ここがそうか……」
「はい、木こりの休憩所かとも思ったのですが、どうにも怪しいと思いまして……」
「何が怪しい? 」
「入り口を隠す枝葉が真新しいものでした。
この騒がしの森がゼリダンジョンの対地となってから一年は経つと聞きます。
この森を仕事場にする木こりがいるとして、その者は今も森に木を伐採しに行っているとは思えません」
「なるほど、それなのに未だに余所者が入り込まないようにカモフラージュはしているということか……」
クライド・ポーテットは近くに来ている部下を大声で呼んだ。
「おい! 何人か来てくれ! 」
その声は洞穴の中で反響して、どこかから小石が震えるような音を立てた。
クライド・ポーテットは、部下たちに近隣で木こりをしている者がいるか、探させようと思っていたのだが、思わず耳をすます。
「おーい! 」〈カタカタカタ……〉
音を頼りに探せば、毛皮の裏側から聞こえる。
「おい、そこの毛皮を外せ、その辺りを念入りに調べるんだ」
はたして、そこには、隠し扉があったのだ。
ちょうど呼ばれた部下たちが来たので、軽く中を探索させる。
薄暗い通路は人ひとりがギリギリ通れるくらいだ。
三人の部下が、松明の灯りを頼りに中へと入る。
十五分もした頃だろうか。
荒い息をした三人が戻ってくる。
「た、たた、大変です! 中はダンジョンです! 迷路のような狭い通路にゾンビが彷徨いていて……」
こうして、魔王ヴェイルのダンジョンはようやく見つかったのだ。
銀輪騎士団長、クライド・ポーテットは三人ひと組の部隊を二十組ほど用意して、彼らを前に士気高揚を図る。
「よいか、中は狭く入り組んでいると言う。
既に王都へと伝令が向かっている。
無理にお前たちだけで攻略しようとするな。
敵は魔王なのだ。
お前たちは後続の部隊のため、少しでもマッピングを進めるのだ。
アンデッドは無理に倒さずともよい。
まずは現状の把握に努めよ。
なあに、普段の演習通りで良い。
ダンジョン攻略は銀輪騎士団の華道だ!
残念ながら神の試練ではなく、魔王の塒に過ぎないが、それでも戦功は充分に期待できる。
お前たちの働き次第だぞ。……突撃せよ! 」
応、と答えた騎士団員たちがダンジョンへと突撃していく。
そこがただのゾンビの巣ではないと知るのは、この後のことだった。