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残念ながら、魔王です。蹂躙させてもらう……。

 神力剣を手にした魔神は驚異的な粘りを見せる。

 執拗に俺を狙うのではなく、倒せるやつから一体ずつ狙うようになった。

 具体的にはリザードマン・デュラハンズのほとんどが戦闘不能になった。

 オルも攻撃に回すのは厳しい。俺の影の中から影壁を出すので精一杯だ。


「キング! オーガとゴブリン、指揮できるか? 」


「ギギッ! 」


 リザードマン・キング・デュラハンが恭しく礼をするのを見ながら、俺はオーガとゴブリンのアンデッド部隊を『取り寄せ』る。

 キングが指揮を開始する。


「まだ増えるとか、キミは悪魔か!? 」


 魔神が泣き言を零す。


「いいえ、残念ながら、魔王です」


 言いながら、元冒険者のポロ、元盗賊のサンリを部隊長に据えた、元サダラのウピエルヴァンパイア兵たちを『取り寄せ』る。

 望んで魔王になった訳ではないが、魔神の心を乱せるのなら、利用する。


「ふん、魔王だと。

 資質もなく魔王を名乗るのか。

 それは魔族に対する侮辱だぞ! 」


「そういう文句はこの国の王に言え! 」


 俺は半ば八つ当たりで、手を振り下ろす。

 俺の意を汲んで、ポロとサンリがウピエルヴァンパイア兵たちを動かす。


 すっかり取り囲まれる魔神。


「くっ……何故だ! 

 魔神の地位まで上り詰めた私が、何故、こんな目に……」


 一体、斬れば、ひとつ傷つけられ、二体、斬れば、ふたつ傷つけられる。

 数は暴力だ。

 飛んだところで、手斧が、槍が、剣が投げつけられて、いつかは龍翼が傷つき落ちる。


 こちらにも被害はある。

 神力剣はアンデッドの再生力が効かなくなるほどのダメージを与える。

 物理的には、普通の剣で打ち合えるくらいなので、やはり、オドかそれに類するエネルギーの塊がダメージの源なのだろう。

 重鎧のオーガやアルは、鎧にダメージが入るが、それだけだ。

 逆に軽鎧のウピエルヴァンパイア兵やゴブリンの被害が大きい。

 一部には再生できずに消滅してしまった者もいる。


 だが、戦いが長引くことで、次第に魔神の神力剣が短くなっていることが分かる。

 強化軍服は破れたまま、再生しなくなっている。


 魔神の動きが目に見えて鈍くなってきた。


「ふざけるな……ふざけんじゃねぇ! 

 エセ魔王より、魔神が劣る訳にはいかないんだよ! 

 魔王を超えて、その中で選ばれた者だけが、あのお方の御力を得られるんだ! 

 それなのに……それなのに……うあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 魔神が小剣ほどになった神力剣を振り回して叫ぶ。

 魔神の中から光が漏れる。


《おお、まさか……》


 なんだ? 『サルガタナス』が騒ぎ始めた。

 だが、魔神の内から漏れ出る光は、急に力を失ったように消えてしまう。


「そんな……邪神様……なんで……」


《ふん、駄目か……つまらぬ……》


「駄目? なにが駄目なんだ? 」


《眷属に成り損ねたのよ……》


「邪神のか? 」


『ル、ルール違反ゆえ……』


 いや、もうルールの意味なくね?

 まあ、違反ならこれ以上は聞くまい。


「もらったああー! 」


 一瞬の隙を逃がさず、アルの剣が魔神へと突き込まれる。


「ぐっ……もう、一度……」


 魔神がアルに手を伸ばす。

 アルの兜を掴んで、引っ張る。

 ずるり、とアルの兜が外れた。その魔神の腕はいかにも弱々しい。

 おそらく、魔神に力は残っていない。


「あんたは強かった。でも、ようやく分かった。

 私たちは英雄になりに来たんじゃない。

 このダンジョンを糧にしに来たんだ。

 悪いけど、蹂躙させてもらう……」


 同時に、アルの魔導剣が炎を吹き上げる。


 ごばっ、と音がして、魔神の身体からその炎が逃げ出す。

 アルは魔導剣を魔神から引き抜くと、一閃、魔神の首を落とした。




 俺たちはラスボスの部屋を後にする。

 確かにアルの言う通りだ。

 今回のダンジョン攻略は、目的がそもそも違う。

 蹂躙。うん、蹂躙だな。

 軍部の演習によるダンジョン攻略みたいなものだ。

 これはつまり、俺たちのダンジョンもこういう戦いに晒されるということでもある。

 俺たちにとって有利な地形なんかも考えないとな。


 今回の結果として、魔神のアンデッド、魔神の血、魔神の本、さらに魔導具、魔法剣なんかの財宝、行きは時間短縮のためにスルーしたが、帰りはしっかりとクーシャの見つけた鉱床にも寄った。

 帰り道、上に昇るほどモンスターのリポップ率が高いというのも分かった。


 資金も戦力も、さらに魔宝石に財宝の類いも、物凄い実入りになった。

 それもこれも、『取り寄せ』魔術があるからというのが大きい。


 どれだけの戦果も、持てる量に限りがないと思えば、取りたい放題だ。

 これ、商売にしたら凄いことになりそうだな。


 結果的に俺たちが一番苦労したのが、第一層、オーガだらけのところだった。

 何しろ、ウチのアンデッドを見られる可能性を考えると、使えない。

 クーシャ、アル、アステル、俺の四人で突破するしかないのだ。

 しかも、地図がない。

 だいたいの道は覚えているが、大挙して押し寄せるオーガから逃れるために、行きと違う道に入らざるを得ない場合がある。

 俺は途中で、道を記憶する集中力を放棄した。


「光だ! 」


 駆け回ること数時間、それを見つけたのはアルだった。

 出口だ。

 ようやくの出口だ。

 オーガに囲まれないように、常に走りっぱなしで、俺はアルファに押してもらっていた。

 日数は予定の十四日より、二日早い、十二日で帰ってこれた。

 入口に固まるオーガの群れを強引にクーシャが切り開く。


「べ、ベルくん! 」


 クーシャに促されて、先に洞穴の外へ。

 外に出た瞬間、木の板を叩く、カーン、カーンという音が聞こえる。


「冒険者の帰還だー! 」


 砦の外というか、中というか、とにかく砦の者に知らせているらしい。


 俺は皆が出てくるのを待つ。

 アステル、クーシャと出て、最後のアルが洞穴から出ようと振り向いた瞬間、オーガに掴まれてしまう。


「くっ……ベル! 」


「あいよ! 」


 アルに言われるまでもなく、もう狙ってるよ。


 俺は特大火球を放つ。

 後ろ向きに、どうと倒れるオーガ。

 無事にアルも出てくる。


「大丈夫かぁー」


 砦に陣取る兵士から掛かる声に、アルが手を上げて応える。


「上げてくれ」


 俺が開門を促すと兵士が言う。


「おい、あのオーガの魔石はいいのか? 

 かなりの値打ちになるぞ? 」


 言われて洞穴の入り口に倒れているオーガを見る。

 俺はもう動きたくないので、他の面々に視線を移す。

 全員が首をぷるぷると振った。


「疲れた……早く休みたいんだ。

 開けてくれ」


「そんな、もったいない……」


「あんたらが取る分には、俺たちは何も言わない。

 開けてくれ」


 そう言うと兵士は「そうか! 悪いな……」と少しも悪びれることなく言って、城門を開けてくれた。


「あんまり荷物がないな? 」


「ああ、メタメタに打ちのめされて、逃げて来るので精一杯だったんだよ」


 ということにして、俺たちは砦を後にする。

 下手にクリアしてきたなんて言うと、あることないこと聞かれて大変だからな。


 砦から離れたらそそくさと街まで降りて、すぐに街も出発する。


 ある程度の距離を稼いだら、夜になるのを待って『スッシー』に乗って帰るのだった。


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