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掛かったな。神力剣!


 クーシャの剣を紙一重で避け、アルの魔導剣に焼かれつつもいなし、アステルの投げは自分から飛んで、それでも視線は俺を追ってくる。

 魔神の俺への殺意が高すぎる。

 まあ、着地と同時に、オル、ケルの影に捕まって、俺はどうにか鍾乳石の影に逃げ込んだ。


「なるほど、モンスターのアンデッドを使役しているのか」


 魔神は確かめるように、影に巻き付かれた足を動かそうと試みるが、足は動かない。

 クーシャが無音で背後から斬りつける。

 魔神は飛んだ。


「足を止めさせて、背後からか……狙いは悪くない。

 だが、魔神の機動力の要はココだ。

 あのお方曰く、足なんて飾りです、だったかな。ふふっ……」


 魔神は翼を示した。

 オル、ケルの影は弾け飛んでしまっていた。

 アルの魔導剣をいなした時に焼けた掌を軽く動かして確かめている。

 魔王的特性を持っているなら、再生力もあるのだろう。

 だが、俺たちだって、伊達にこのダンジョン最下層まで来ている訳ではない。

 リザードマン・デュラハンズのキングが叫ぶ。


「グゲェェェッ! 」


 辺りに二人一組で配置されたリザードマン・メイジ・デュラハンズが水流撃系の魔法を乱打する。

 魔神も全て避ける訳ではなく、腕でガードしたりして、それを凌ぐ。

 さらに、魔神が腕を振るうと、爪から衝撃波が出ているらしく、一匹、二匹とリザードマン・デュラハンズの大盾から悲痛な音が聞こえる。

 まあ、盾で受けているから大きな被害は出ていない。


「やあ、的確だ。それに連携もしっかりしている。

 やっぱり、最初に潰すべきは、キミかな」


 すすすっと視線が俺に向く。

 ちくせう。ロックオンされておる。

 まあ、普通に考えればアンデッドを一体ずつ倒して回るより、アンデッドを使役している俺を潰せば手っ取り早いと思うよな。

 俺の場合、アル、アステル、限定的だがアルファ、クーシャにも命令権を持たせているので俺が倒れたら、アンデッド暴走みたいなことにはならないのだが、説明している暇も、理解を得られるとも思えない。

 少しの時間は稼げたので、良しとしよう。


 魔神が龍翼の角度を変えただけで、俺の方に突っ込んでくる。

 俺は鍾乳石の影に隠れる。


「わわ、来たっ! 」


 どーん、と俺の身体が派手に吹き飛んだ。

 想定よりも魔神の動きが早かった。

 あと痛い。


「へえ、今のを避けるんだ……」


 魔神が俺の居た辺りに降り立つ。

 鍾乳石が爆発四散していた。


「ばか、これが避けられたように見えるかっ! 」


 無様に転がっていたら、いいまとだ。

 俺は悪態つきながらも、どうにか立ち上がる。


「いや、自分から跳んだよね」


 魔神が一歩、踏み出して俺を観察しようとした、その時だ。


「掛かったな」


 俺は必死こいて鍾乳石の影で魔法陣を描いていたのだ。

 狙われているのは分かっていた。

 なので、俺は魔神に襲われる直前、アルファのポルターガイスト能力で吹っ飛ばされた。

 足元に魔法陣を残して。

 魔神は、その爪で俺を貫く予定だったのだろう。

 俺の想定より少し奥に降り立った。

 だから、声をかけて注意を引いた。

 そうしたら、見事に魔神は俺の描いた魔法陣を踏んだ。


 魔法陣は魔神のオドを吸って、勝手に発動する天然の罠だ。

 魔神は下から吹き上がる炎に包まれた。


 魔神が焼けていく。


「ぬあっ……! 」


 炎が収まり、黒焦げの魔神が残される。

 オドを吸われ、身体は炭化、これはさすがに効いただろう。

 魔神から、炭がボロボロと崩れていく。

 後には青い肌が見える。

 ヤバい、再生か。


 リザードマン・デュラハンズの水流撃が再び撃ち込まれる。

 ヤバい、ヤバいと口の中で唱えながら、俺は必死に逃げる。

 もっと魔法陣をデカく描けば良かったか。

 まあ、あれ以上の大きさは時間的に無理だった。


 リザードマン・デュラハンズの水流撃に紛れて、クーシャがオーラソードを放った。

 魔神の左腕と左の翼が千切れた。

 魔神が水流撃に撃たれて転がる。


 俺はアステルと合流する。


「グゲゲ……」


「ご主人様、キングからリザードマンたちに人工霊魂を与えて欲しいと……」


「分かった」


 キングの想いをアルファが読み取って、伝えてくるので、俺は素早く『取り寄せ』魔術を抜いて人工霊魂入りの竹筒を取り出す。


「クーシャ、アル、暫く頼む! 」


 二人はこちらを向かずに頷きで返す。


 クーシャとアルは、阿吽の呼吸で魔神に斬りかかる。


 魔神は身体を再生させながら、二人を相手取る。

 再生された皮膚が見える度、魔神の反応が早くなっていく。


「ははっ、なかなか……でも、まだまだだね」


 もう口元まで再生したか。

 俺はもう一枚の『取り寄せ』魔術で、リザードマン・デュラハンズの盾も呼んでおく。

 装備品はひとまとめなので、クーシャの予備武器なんかもある。

 それを目敏く見つけたクーシャが「か、刀! 」と叫ぶので、俺は刀を見つけて放ってやる。


「クーシャ」


 アルがクーシャに声をかけて、クーシャはアルに持っていた剣を放る。

 アルが両手に一本ずつ剣を装備して、クーシャは刀を手にする。

 アルの手数が増えて、魔神がそれをどうにか捌くと、クーシャが抜き打ちで一撃入れる。

 魔神は左腕が治ったのに、今度は右腕を失った。


「ちっ! やるな! 」


 魔神は左腕で衝撃波を放って、アルを牽制する。

 アルは身体を捻って回避する。

 その隙を使って、魔神は飛び上がって、距離を置く。

 クーシャが追撃のオーラソードを放つが、見え見えの一撃では魔神を捉えられない。


「グゲ、グゲェッ! 」


 キングの指示が飛び、リザードマン・デュラハンズたちが竹筒を噛み砕きながら、水流撃を放つ。

 狙いが龍翼に限定されているので、魔神の足〈翼? 〉を止めようというのだろう。

 ただ、狙いが分かりやすいだけに、魔神も丁寧に対処し出すので、当たらない。

 再生の時間を稼ごうというのだろう。


 手数が足りないのなら、増やせばいい。


「オル、ケル、お前らも行け! 」


 俺は自分を守る盾を攻撃に回す。

 オルとケルが、俺の影から実体化、そして、魔神の影から槍状にした影を突き出す。


「まさか、これだけ多彩なアンデッドがいるとはな。

 ただ、これぐらいなら想定内だ」


 右腕をも再生した魔神が影槍を腕力で打ち砕く。

 鍾乳石を蹴って、飛び上がったアルが空中戦を挑む。


「ふん、無駄なことを」


 魔神がアルの二剣を避けて、無防備な背中を蹴りつける、


「アル! 」


 俺は叫ぶが、アルは落下しながら身体を捻って、持っていたクーシャの剣を投擲した。

 魔神に刺さりはしなかったが、魔神はそれを打ち躱した。

 だが、それが隙になったのだろう。

 ほぼ同時に地上から放たれたクーシャのオーラソードが、再生したばかりの左の龍翼にざっくりと傷をつける。


 魔神がよろけたかと思うと、いきなり糸が切れた人形のように落下した。

 それは意図的なもので、あのまま空中に留まれば、水流撃と影槍の餌食になっていた。


「まさか、これほど苦戦するとは……いや、評価を改めよう。

 私もここで死にたくはない。

 任期を終えるまで、下手な余裕は命取りだ。

 もう、油断はないぞ」


 魔神は立ち上がりながら、自らを叱咤する。


 そうか、任期なんてあるのか。

 魔神と呼ばれるくらいだ。『主神』なんかと面識があったりするのかもな。


 魔神が何やら言葉を紡ぎ始める。

 詠唱魔術、ではない。

 魔神語とでも言うべきか、本人的には意味がありそうだ。

 誰も動けない。神の威光とでも言うのか、光の膜のようなものが魔神を包んでいる。

 アレは触ったらまずいヤツだと、本能が理解する。

 そして、神の威光が消える。

 魔神の手には一振りの光の剣があり、燃えた軍服が白っぽくなって復活していた。


「神力剣……ここからは本気だぞ」


 ん? 魔神の見た目が少し違うような……。


「アルさん、あれ、たぶん角が短くなってますよね? 」


 アステルが言う。

 おお、確かに。

 肉体の一部を代償にした武器か……それは強そうだ。


 リザードマン・デュラハンズの水流撃が飛ぶ。

 魔神は神力剣でそれを斬り払う。

 水流撃は跡形もなく消えてしまった。

 なんだかエネルギーの塊のように見える。


 クーシャがいきなり接近戦を挑む。

 無茶なことを。

 二合、三合と斬り結ぶ。

 急に魔神の影が膨れたかと思うと、オルが現れて背後から爪を振るう。

 魔神は前転するようにそれを避けた。

 軍服の背中がぱっくり裂けたが、それも再生していく。


 オドを打ち消す剣と再生する強化軍服ってところか。


 魔神が背後に斬りつける。

 オルが後ろに跳ぶ。


「ギャィンッ! 」


 オルの胸が大きく裂けた。

 クーシャのオーラソードみたいなもんか。

 神力刃だな。


「オル、戻れ! 」


 俺はオルを下げる。オルは影の中に引っ込んでこちらに戻ってくる。

 「食え」と声をかけて、人工霊魂を影に突っ込んでおく。


「くらえ! 」


 魔神はクーシャと斬り結びながら、俺に向けて神力刃を放つ。

 ちくせう、器用な真似を。

 俺の前に影の壁が立ちはだかる。

 オルか。

 だが、影の壁は易々と切り裂かれた。


「ご主人様! 」


 ギィィンッ! と硬質な音を立てて、アルファのポルターガイスト能力がどうにか防いでくれた。


「神力刃もエネルギーの塊か。

 オルだけで防げないとなると相当だぞ……」


 影の壁は俺の巨大火球を防げるくらいの防御力だ。

 それをあっさり切り裂くとなると、大盾だと防ぎきれない。


「キング、今の理解したか? 」


「グゲ」


 キングは頷いて、フォーメーションを変更した。

 二人一組ツーマンセルから四人一組フォーマンセルだ。

 それを見れば、防御を最低限にして、攻撃を優先したのだと分かる。

 大盾二枚でも防ぎきれないだろうが、リザードマン・メイジたちが逃げる隙間くらいは作れるだろう。


 魔神戦はここからが本番らしい。


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