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開いた!ああ〜……。


 地下七階、俺たちは宝箱を前にしていた。


「わ、罠は外れたよ」


 クーシャに罠のレクチャーをしてもらいながら、宝箱を開けるところだ。

 宝箱の開け方は基本的にふたつしかない。

 ダンジョン内に落ちている鍵を偶然拾い、ノーリスクで宝箱を開けるか、無理矢理こじ開けるかだ。

 鍵はダンジョン内の宝箱ならどれでも開けられるが、鍵ひとつで開けられる宝箱はやはり、ひとつだ。

 何故かこの鍵というやつは、一度使うとダンジョンの不思議効果により溶けるように消えてしまう。


 こじ開けるには、ある程度の知識が必要になる。罠を知り、その解除方法を覚えていないといけない。


 知識としてレクチャーを受けるのは新しい罠の時だけにしてもらっている。

 確かに普通ではありえないスピード攻略ではあるが、なるべく急ぎたいのも事実。

 俺なら一度教えて貰えれば罠の解除の仕組みを理解できる。

 なので、覚えた罠がかかった宝箱は第三の開け方を使っている。


 そう、GP消費によるギフト効果だ。

 古今東西のあらゆる鍵を開けるこのギフトは、鍵の種類によって消費GPの多寡はあるものの、手を翳して念じるだけで済む。

 しかも、正規の鍵を使ったのと同じ状態、ノーリスクだ。


 今回のダンジョン攻略が資金、戦力、さらにアルの進化アイテムの獲得にある以上、宝箱は開けたいが、あまり時間をかけたくない。


 クーシャの指導で罠の仕組みは理解した。

 鍵もこのタイプなら、数秒から数十秒だな。

 せっかくなので、鍵開けはやらせてもらう。


 ……そうそう、ここら辺に引っ掛かりが……それで、こっちを押さえながら、全体を回すと……。


 がちゃ。


「おお、開いた! 」


 アルの声が弾む。

 俺としても実地で試せたのは良かったと思う。

 さて、何が入っているだろうか。

 これまでには、宝飾品、短剣、回復ポーション、脛当て、大盾などが見つかっている。

 既にひと財産だが、資金はいくらあってもいい。

 宝飾品などは換金しやすそうなので、オクトが喜びそうだ。


「「あっ! 」」


 俺とアステルの声が重なると同時に視線を合わせた。


「ここで来るのか、ゲームキング二巻! 」


 そう、いつか『副神』からの手紙にあったダンジョン産の本。

 『ゲームキング2 こいこい十二月迷宮』が宝箱には入っていた。


「これ、新刊ですね! 」


 お互い同時に手が伸びたので、途中で止まる。

 バチリ、と火花が散った気がする。


「とりあえず……とりあえず、俺の鞄に入れておくよ」


「いえいえ、ベルさんの荷物が増えるのは、どうかと思いますので、わたしがお預かりしておきますよ」


「いやいや、俺はほら、荷物持ちみたいなもんだから……」


「そんなことないですよ。

 ベルさんの魔術はいざという時に必要なんですから、荷物は少ない方がいいですよ」


「そんなこと言って、こっそり先に読もうってことだよねっ! 」


 あくまでも笑顔で、ド直球の球を放る俺。


「ち、ちち違います! 

 先を急ぐ私たちにそういう暇がある訳ないじゃないですか! 

 そういうことを仰るということは、ベルさんこそ、後暗うしろぐらい想いがおありなのではないですか? 」


「な、なな何を言うんだ、アステル! 

 俺だって、そんな暇がないことくらい分かってるよ……ただ、ほら、新刊を手にする喜びをだね……」


「そうですよね! 

 ちょっと手を伸ばせばゲームキングの二巻がすぐに開けるところにあるという安心感と言いましょうか……」


「そう! それ! さすが同志! 

 分かるか、やっぱり! 」


「ええ、もちろんですよ! 」


 つい、お互いに手を取り合って、喜びを分かち合う。

 こういうちょっとしたところで共感が得られるというのは、嬉しいものだ。


「そういうことだからね……」


 と、俺が本に手を伸ばそうとすると、アステルが掴んだ両手を強く握り締めた。


「いえいえ、想いは同じということですから……」


 な、なにー! 俺の手が動かないだとー! 

 くっ……分かりあえたと思ったのに……いや、分かりあえたからこそか……。


 アステルはニコニコと笑いながらも、俺の隙を窺っている。

 スピードではアステルに一日の長がある。

 俺もアステルの手を離すまいと指に力を入れる。


 膠着状態。


 くぅっ! どうする? どうすれば……いっそ、アステルの手を固めたまま、口で本を奪取するべきか……。


 そう考えていたら、アルがひょいと本を手に取る。


「あのね……ずっと二人で手を取り合ったままで見つめ合ってるつもり? 」


 とても呆れた声音だった。


「この本は、この場で研究所に送っておきますっ! 」


「「えっ、アル〈ちゃん〉! ちょっ……待っ……」」


 俺の腰から、するりと『取り寄せ』魔術を抜いて、アルが研究所に送る。


「急いでいるのに、無駄なことで時間使わないの! 」


「「ああ〜……」」


 俺とアステルの残念そうな声がハモる。

 ちくせう。怒られた。


 後日、アステルの『製紙』魔術の中にある、『コピー』魔術によって二冊の新刊を作り、それをお互いに所持して、原本は共同所持という形で『塔』預かりにすることに決める俺たちだった。


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