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だめっ!ダメになる……。


 振り返ると受付の冒険者が洞穴の入り口から、まだ見ている。


 たぶん、入ってすぐ死ぬなんてこともちょくちょくあるのだろう。

 その状態で帰らない冒険者をいつまでも待つのは、受付係としても微妙な気持ちなのだろう。


 まあ、俺はひたすら紙とペンでマッピングしながらついて行く予定が大幅に狂って、あわあわしている最中だ。


 大雑把に曲がり角を記憶するに留めて、走る。


 アルとクーシャの前衛二人は、当たるを幸いちぎっては投げ、ちぎっては投げという感じでガンガン進む。

 オーガたちは、見張りがいたことから分かる通り、分厚い層のようになって押し寄せてくる。

 進まねばならない。常に移動していないと、あっという間に押し包まれてしまうだろう。


 もちろん、【ゾンビパウダー】を使っている暇もない。

 オーガならば『騒がしの森』にもいるので、アンデッド化して連れ帰る意味も薄いから、問題はない。


 受付の冒険者の目が届かない場所まで行くと、俺の影に潜んでいたオル、ケル、いつものように完璧に俺をガードしてくれるアルファが参戦して、ぐっと楽になった。


 体感で半日経たない内に俺たちは下への階段を見つける。


 下に降りると、もうオーガたちは追って来なくなった。


「……ふぅ。ようやくひと息つけるな」


「ベル、だめっ!」


 俺が壁に寄りかかってひと休みしようとすると、アルに引っ張られて、おもいきり地面に叩き伏せられた。

 俺は瞬間的にアルが死んだ時のことを思い出して、顔面蒼白でアルを見た。


 アルは片手で剣を壁に突き刺し、もう片手は俺を放り出した後の形で俺を見ていた。


「あ、ごめーん、力加減間違えちった……」


 ぺろっと舌を覗かせ、手をわきわきしている。

 俺はホッとすると同時にイラッとした。

 それから、また顔面蒼白になる。


 壁……壁の一部が動いて、もがいて……。


 それは擬態というやつなのだろう。

 茶色い壁肌に似たカブトガニ。確か毒持ちなはずだ。しかも、空を飛ぶはず。

 大きさ的にはひと抱えはありそうだ。

 毒が無くても、体当たりだけでもヤバそうだ。


 良く見れば、壁のあちこちに張り付いてやがる。天井もか。


 天然の罠、兼モンスターだ。

 一瞬、カブトガニの下部が魔法陣的に光る。

 魔法陣は壁とカブトガニの体の間に浮いているらしく、その全貌は見えない。

 ふわり、と浮いたかと思えば俺たちに向けて飛んでくる。


 あぶな……くなかった。


 天に向けて伸ばしたアステルの足がカブトガニを上から叩く。

 オル、ケルは爪と牙、影を操って敵を拘束、アルファはポルターガイスト能力を針のように研ぎ澄まして、狙撃を決めまくる。

 アルやクーシャは言わずもがなだ。


 暇になった俺は『取り寄せ』魔術で『リザードマン・デュラハンズ』の呼び出しをしてみる。


「ベル、少し休んでなさい……よっ! 」


 そんなことをカブトガニを屠りながらアルに言われ、俺は従うことにする。

 『リザードマン・デュラハンズ』を呼び出したら、場所が狭くなって、俺は動く余地がなくなったしな。


 リザードマン・デュラハンキングが部隊を編成してあちこちに派遣しだした。

 うん、狭いもんな。


 喧騒を聞きつけたのか、カブトガニが寄ってくるが、天井の高さに限界があるので、壁を足場にすればアル、クーシャ、アステルなんかの体力組にすれば大して問題にならないらしい。


 その内、獲物を抱えたリザードマン・デュラハンズが戻って来て、キングは情報をまとめて地面に杖で地図を描き始めた。


 俺? 俺はカブトガニのアンデッド化と契約と契約が終わったカブトガニを研究所に送る仕事があった。

 カブトガニの体液は青かった。

 ちょっと生臭くて、飲むのがツラい。

 最初は毒かと思ったが、契約主に飲ませるはずはないから、我慢して飲んだ。


 そうしていると、キングの地図が出来上がっていた。

 紙に写す。


 あるぇー? ダンジョン攻略ってこんなだっけ? 


 死なないアンデッドと超級冒険者の組み合わせは、極悪ダンジョンより、極悪だった。


「えっと……地図、できたわ……宝箱、開けてく? 」


 俺の声にぞろぞろと移動する。

 先頭はクーシャとアル、その後ろにアステルと俺。

 俺の肩の辺りにアルファが霊体化していて、俺の影の中にオルとケル、さらに俺の後ろにリザードマン・デュラハンズがぞろぞろと続く。


 ううむ……楽勝だ。

 ちなみに宝箱は空だった。

 さすがに二階層目程度は来られる冒険者もいるらしい。


 二階層の階段前で、仮眠を取る。

 安全地帯じゃないけど、安全地帯よりも安全だ。

 周囲はリザードマン・デュラハンズが不寝番、超級冒険者と防御最強のアステル、食事は俺が『取り寄せ』魔術で新鮮な食材を用意、単なるキャンプだな、これは。


「こ、これは、ダメになる……」


 アルがぷるぷると震えていた。

 緊張感がなさすぎるという訴えらしいが、知ったことか。

 誰かに見られる心配がほとんどないこの極悪ダンジョン限定仕様みたいなものだ。


 入れる人数やアンデッドは挑んではいけませんみたいなルールを作らなかった『主神』が悪いということにしておく。


 そうして、クーシャの言う通り、俺たちは大して日数を掛けることなく、ガンガン進んで行くのだった。


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