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謎の冒険者。かいもーん!


 霧深い街『カフィー』。

 夕方から朝にかけて、濃密なミルクを流し込んだような白に覆われるこの街は、煌びやかな街灯で夜を彩る。

 この辺りの霧は多量のオドを含んでいるらしく、霧が出ると勝手に魔導具を組み込んだ街灯が反応して明かりがつく。

 その街灯が歓楽区だと様々な色にしてあって、フルーツミルクみたいで見目に楽しい。


 ただ、霧によって視界は極小、床に貼られたタイルのナンバーと街灯の明かりで、当たりをつけて移動しなければならない面倒さがある。

 そんなダンジョンのような状況を観光として楽しむのが、大多数の観光客だが、そういう状況ゆえ、犯罪者も多い。

 貧民区スラムの方へ足を向ければ街灯なしというのもザラにある。


 そして、肝心のダンジョンだが、この街の管轄下にはふたつのダンジョンがある。

 ひとつは『ポショーン湖』のほとり、中級以上が推奨の『オーレダンジョン』。

 俺たちが狙うのが、『マドラ山』中腹にある上級以上が推奨になっている極悪ダンジョン『エスプレーソダンジョン』だ。


 あまり人目につきたくない俺たちは、朝、入街可能な時間になると同時に街に入る。

 乳白色に染まる街中を抜けて、すぐに『マドラ山』方面の街道に出る。

 ここからは山登りだ。

 途中、道は二股に分かれていて、右にダンジョン、左に進むと領主の城がある。

 コウス王国の仮想敵国は、東のワゼンなので東側の領主の館は城になっていることが多い。

 もちろん右に行く。


 つづら折りの山道を歩いていく。

 冒険者互助会には寄って来ていない。

 目立たないためと、依頼を受けるつもりがないからだ。


 今のところ他の冒険者に会うこともないので、やはり極悪ダンジョンは人気がないようだ。


 『エスプレーソダンジョン』は山の中腹にある洞穴が入り口らしい。

 なぜ、らしいと伝聞調でいうのかといえば、その洞穴を囲むように砦が作られているからだ。


 砦は洞穴を抑え込むように作られていて、近くには掘っ建て小屋が剥き出しで幾つか置かれている。


 その掘っ建て小屋の外では兵士たちが朝餉あさげの時間なのだろう、煮炊きする煙が上がっている。


「あれって領主のとこの兵士だよな? 」


 俺が疑問を口にすると、クーシャが教えてくれた。

 普通、ダンジョンの出入りを管理するのは冒険者互助会で、ここも出入り自体は他のダンジョンと同じ方式を採用している。


 ただ、このダンジョンは難易度極悪。

 滅多に踏破者が出ない。

 そのため、いつダンジョンが暴走するか分からないので、憂慮した領主がダンジョンを囲むように砦を作ったのだそうだ。


 普通、ダンジョンが暴走する時は『対になっている場所にダンジョンのモンスターが大量発生する』というのがあって、それでもダンジョンに人が訪れないと、『ダンジョンからモンスターが溢れ出す』という段階を経る。

 なので、暴走を心配するなら『対になっている場所』を見張る方が効率がいいと思うんだが、ここの領主は領民の安全に気を配った結果か、ダンジョンを恐れたかで、ダンジョンの前に砦を置くという方法を取ったらしい。


 まあ、万が一があっても大丈夫なようにしておきたいというのは、分からなくはない。


 幾つかある掘っ建て小屋の内、一ヶ所だけ、他とは違う炊事をしている場所がある。

 小屋の中ではなく、外にかまどを作って、そこで調理しているのは同じだが、食事内容が少し豪華だ。

 しかも立ち働いている者の鎧が、領主のところの兵士たちと違い、ちぐはぐだったりする。


 あそこが互助会の受付なのだろう。


 クーシャを先頭に、俺、アル、アステルと続く。


「こんな時間に珍しいな。もしかしてエスプレーソに挑むつもりなのか? 」


 俺たちの姿を認めた受付らしき冒険者が声を掛けてくる。


「ああ、そのつもりだよ。

 受付はここだよね? 」


 クーシャがスラスラと受け答えをしていく。


「そうだ。

 一応、きまりだから言っておくが、ここじゃ潜る日数の申告は必要だが、救助隊が動くことはない。

 日数を過ぎれば、死亡扱いで各所に連絡が行くだけだ。いいな」


 なるほど、『ゼリダンジョン』なんかは、救助が来てくれる仕様だったが、この極悪難易度ダンジョンは救助に行ける人材がいないということか。


「うん、理解してる」


「メンバーは全部で四人だな。じゃあ、冒険者バッヂをここに……」


 受付の冒険者が登録用の魔導具を出す。

 受付の冒険者は俺たち全員にきっちり驚いてみせてくれた。


「はぁっ!? ディ、ディープパープル!! 

 待て、赤よっつだと! 

 ん、赤ふたつ……。

 はぁっ!? 赤ひとつ!? 


 な、なあ、こいつら殺すつもりなのか? 」


「いや、三人とも僕が認めた冒険者だよ。

 神官冒険者、魔導士冒険者、謎の冒険者……」


 クーシャが俺たちを紹介していく。


「いや、謎の冒険者ってなんだよ……」


 俺が心の中で叫んでいたツッコミを受付の冒険者が代わりに入れてくれた。


「俺……謎! 」


 アルが胸を張って、そう言った。

 受付の冒険者は口をポカンと開けて、目が点になっている。


「あ……ああ、確かに、なぞだな……」


 この脱力が効いたから、とは思いたくないが、俺たちはすんなりと通ることができた。


 受付の冒険者が、兵士に向かって言う。


「おーい、ディープパープルご一行がダンジョンに挑むとよ! 

 驚くなよ。

 開門。かいもーん! 」


 合間のひと言は俺たちに向けられたものだった。

 驚くな、と言われてもデカい扉の開け閉めくらいでビビったりはしないんだが……。


 と、思ったのも束の間、なんとか俺は声を押し殺す。


 砦の門が開かれると高さ四〜五メートルはある洞穴が見える。

 門から洞穴までは十メートルほどだろうか。


 そして、洞穴には二体のオーガが待ち構えていた。

 直立不動で三メートルほどの鬼たちは金棒を構えてこちらを凝視している。


「見張り……もしかして、見張りなのか? 」


「ああ、扉が開き始めた時点で、一匹は奥に知らせに行っているはずだ。

 ここのオーガどもは、洞穴からは出てこないが、連携してくる。

 せいぜい気をつけるんだな……」


 俺の言葉に受付の冒険者が教えてくれる。


「右……」


「じゃあ左で」


 アルとクーシャが同時に剣を抜く。


 まあ、正面突発できないやつはお断りな仕様らしい。


 二人に続くように、俺たちも駆け出すのだった。


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