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そういうことじゃなくて!ダンジョンを攻略しよう。

 俺たちは帰ってきた。


 じいちゃんからの返信はまだない。

 昨日の今日だから当たり前だが、ヤキモキする。


 王はいつ動くだろう。

 『金色ゴールデンドーン』の魔王の探索と俺の探索、どちらを優先するだろう。

 まあ、あまり日はない。


 母さんたちにも謝りに行かなくちゃな。


 アルとアルファが出迎えてくれる。


「ベル……魔王になったって……」


 不安そうなアルの顔がなんとも気まずい。


「アル……お前、馬鹿なの? あ、いや、すまん、馬鹿だもんな。

 俺のどこを見たら魔王に見えんの?

 手紙に書いただろ。魔王認定な。

 魔王と同じくらい危ないやつだから、この国では魔王ってことにするってやつな! 」


 と、つい憎まれ口を叩いてしまった俺は悪くないはずだ。


 アルの顔が真っ赤になったかと思うと、いきなりヘッドロックされた。

 そこからの流れるようなデコピンの嵐。


「こ、の……人が心配してるのに! このっ! このっ! 」


「あだだっ、待て、待て、せめて防御動作くらいさせろやだだだだ……」


 アステルからは、「女の子にそういうこと言ったらダメですよ……」と飽きれられ、クーシャとアルファはあわあわするばかりで役に立たない。

 なんか、昔に比べてアルの動きが早くなっている気がする。

 これも死線で踊った成果だろうか。


「分かった……悪かった! 悪かったから! 」


「もう、すぐベルはそうやって憎まれ口ばっかり……もしもの時は呼びなさいって言ったでしょ! 」


「いや、もしもの時は逃げるって言っただろ。

 ほら、現にちゃんとこうやって逃げて来たし! 」


「そういうことじゃなくて! 」


「は? んじゃどういうことだよ!? 」


 ぷりぷりと怒るアルがまた訳の分からんことを言い出したので、分かるように話せやとばかりに言葉をぶつける。

 すると、またアルは顔を赤くして「ぐぬぬ……」と唸る。

 サッと腕をクロスしてガード。

 よし、今度は間に合った……と思っていると。


「もういい! 」


 アルは踵を返して研究所に歩いていってしまった。


「訳分からん……クーシャ、分かる? 」


「さ、さぁ……? 」


「アステル、分かる? 」


「うーん……ベルさんには教えません」


 アステルは少し考えた後、そう言ってそっぽをむいてしまう。

 むむ……謎だ。

 だが、俺にはその謎に立ち向かっている暇はない。


「あ、そんなことより、アルファ。

 頼んでおいた作業は? 」


「あ、はい、現在、急ピッチで進めています」


「クーシャ、悪いけど知恵を貸してくれ」


 俺は昨日の内に頼んではいたが、改めてクーシャに頼む。

 クーシャはしっかりと頷いてくれる。


 クーシャへの頼み事というのは、他でもない。

 研究所、ダンジョン計画である。

 遅かれ早かれ、王は俺に対する討伐軍を差し向けるだろう。

 その差し向ける先は、恐らく『塔』になるはずだ。

 俺の研究所はその『塔』からほど近いところにある。

 バレるのは時間の問題だ。


 一度に大軍を相手にすると、どれだけ防備を固めても大きな損害を覚悟しなくちゃならなくなる。

 なので、研究所をダンジョン化して、敵を分散、各個撃破をしながら、俺たちの存在を認めさせるだけの力を示す。

 王が交渉のテーブルに着けば、俺たちの勝ちという方針だ。


 俺たちから攻めるというのも考えはしたが、結局、王を破滅させれば、ことは一国の内乱で収まらなくなる可能性が高い。

 世界を相手に戦う気はないので、こちらから攻める気はないというアピールがダンジョン計画なのである。


 そして、ダンジョンと言えば『ディープパープル』ことクーシャの出番だ。

 様々なダンジョンで引きこもり生活を送ってきたクーシャは、ダンジョンに詳しい。

 そこで、俺たちのアドバイザーとして活躍してもらう予定だ。

 敵の分断、厄介な罠、的確なモンスター〈但しアンデッドのみ〉の配置。

 ただ、ウチのダンジョンは『神の試練ダンジョン』ではないので、不思議パワーはない。

 その分、頭を使わないとな。


 現状、アルファに頼んで研究所の拡張を任せているが、ここからは迷宮化も考えないといけない。

 俺たちが迷わないようにするための地図も作らないといけないので、ある程度、計画的に作業を進めていく必要がある。


 そんなこんなで、時間がないのだ。

 なにしろ、ウチのダンジョン計画は全て手作業だしな。


 俺たちは研究所まで歩きながら、計画を詰めていく。

 地下でも育つ食い物のことや、最悪を想定して『スッシー』が置いてある『黒歴史の泉』までの脱出路をどうするか、それから必要な物を書き出して、それらを今の内に集めておかなくちゃならない。

 金、足りるかな……。

 俺は現在、金持ちだと言えるくらいには稼いでいるが、それにしたって国家予算と張り合える訳ではない。

 なんとか母さんの弟子で今では大商人になっているオクトとか巻き込めないだろうか……。

 利があれば、巻き込める気はするけど。


「ダ、ダンジョンを攻略しよう」


 クーシャがいきなりそんなことを言い出した。


「いや、そこまでの時間は……」


「だ、大丈夫。ぼ、僕たちならそんなにかからない。

 ベルくんのアンデッドたちも連れて、い、行けばいい」


「ん? それはアルファやらオルとケルやら、あとはリザードマンズとか……確かにそれなら攻略も簡単だと思うけど……」


「ああ、戦力の拡充と資金調達ですね! 」


 アステルが手を、ポンと打った。


「う、うん。あと、ば、場所は『カフィー』にある『エスプレーソダンジョン』がいい」


 『カフィー』って言うと、位置的には『サダラ』の北、霧深い街だ。

 俺たちのいる『テイサイート』からは王都『スペシャリエ』を挟んで南西と北東、コウス王国内で一番遠い場所になる。

 『スッシー』を使えば、多分一日かからないで行けるが、『スッシー』の燃料は魔宝石限定で不安が残る。

 俺としては、遠慮したいところだが……。


「あ、あそこには、ま、魔宝石の鉱脈がある。

 僕が見つけた」


「え? そんな話、聞いたことないぞ? 」


 同じ国内でも端っこ同士なので、情報はあまりないが、それでも魔宝石の鉱脈なんて情報があったら確実に大騒ぎになる。

 そして、そんな話は聞いたこともない。


「な、内緒にしてたから……」


 詳しく聞くと、昔、クーシャが国からの依頼で『エスプレーソダンジョン』を攻略したことがあるらしい。


 『エスプレーソダンジョン』は、近年発見された新ダンジョンだが、難易度が極悪レベルに高いので、他の冒険者は入りたがらない。

 しかし、放置しておくと『神の試練ダンジョン』はモンスターを周囲に撒き散らして危険である。

 数十年に一度、攻略してやれば、モンスターの大量発生は防げるので、とりあえず一度、攻略をという話になった。

 そこで、超級冒険者であるクーシャに白羽の矢が立った。


 クーシャは断りたかったらしい。

 しかし、他の超級冒険者は別のダンジョンに潜っていたり、他国に行っていたりで頼めるのがクーシャしかいないと泣きつかれた。

 そこで、クーシャは断りきれなかった。


「な、何度も死にそうにな、なった……」


 一階層目からオーガが出た。

 二階層目に空を飛ぶデカい毒持ちカブトガニ。

 三階層目に額に宝石のある大きな猫、カーバンクルと、とにかくヤバいモンスターが目白押しだったらしい。

 そうして、逃げこんだ安全地帯の小部屋の中、隠し通路があった。

 その隠し通路の中は天然の洞窟のようで、そこも安全地帯になっていた。

 中は暗かったが、明かりをつけると辺りがキラキラと輝く。

 そう、それは全て魔宝石の鉱脈だったのだ。

 その景色を大層気に入ったクーシャは、そこに拠点を構えた。

 いつもの引きこもり生活だ。

 そこを起点にクーシャは『エスプレーソダンジョン』を攻略したという話だった。

 そして、クーシャはそんな危険なダンジョンにぶち込まれた腹いせと、その景色を自分だけの思い出にとっておくために、鉱脈の話は国に伏せたのだった。


「十階層目がボ、ボス部屋で、ま、魔神を名乗る悪魔みたいなやつがいた……」


「魔神? え? 魔神!? 」


 俺は目を見張る。

 魔神の血。それはアルが吸血鬼の中の吸血鬼、ヴァンパイアに進化するための重要素材だ。


「た、倒した時、『我は魔神の中でも最弱、いい気になるなよ……』って言ってたから、こ、攻略するたびに強くなる可能性がある……」


 え、自分で言っちゃうの、ソレ……。

 いや、でも、魔神だ。

 そうか、魔神か。血も体も、余すことなく利用してやる! 


「行こう……いや、行かなくちゃならない。

 是が非でも! 」


 俺は昏い執念が燃える瞳で、そう宣言したのだった。



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