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俺が魔王か。使ったらダメですよ。


 『オル』と『ケル』による騎乗作戦は随分と早かった。

 街道ではなく、方向だけを頼りに進んだのに荒野で小休止を入れ、仮眠を取った上で翌日の昼には『スプー湖』の畔に着いてしまった。


 『オル』と『ケル』に礼を言って、影に戻ってもらう。


 ここは村なども近くにあるようには思えない場所だ。

 追っ手がかかっていても、簡単に見つかることはないだろうと思う。


 魔導黒板で『提督』に連絡を取ったので、それほど掛からずに迎えに来てくれるだろう。


 俺とアステルは、二人でぼーっと『スプー湖』を眺めている。

 クーシャは疲れをものともせず狩りに出掛けた。


 本来ならじいちゃんに手紙を書いて研究所経由で送ったり、母さんやセプテンにも早めに連絡を入れて謝ったりしないといけないんだが、それは『スッシー』に乗り込んでから考えよう。


 今はちょっと、ほうけていたい。


「俺が魔王か……」


 つい、口から出てしまう。


「確か、最初からそのつもりだったみたいなこと言ってましたよね……」


「ああ。考えてみれば、フレンドリーに接してくる割にはところどころでやけに冷たい対応されてたり、四六時中、監視をつけられたり……もう少し警戒するべきだったよな……」


「でも、この国の王様が何を考えているのかなんて、ちょっと冷たくされたくらいで理解しようとするのは無理ですよ……」


「それもそうか……」


 つい、アステルもクーシャも、すんなり受け入れてくれたものだから、俺の中に油断があったのは確かだ。

 世の中、全員が全員、話せば分かるって訳にはいかない。

 そんな世の中なら、争いなんて起きないしな。


 ただ主張をしないのは違う。


 話し合いが無意味だとは思わない。


 まあ、『主神』からして、人間たちが相争うのを求めているようだしな。

 力を示さないと通らない主張というのはあるのだろう。


 力を示す、か……。

 正直、他人を殺すということに抵抗はある。

 できないとは言わないが、殺さなくていい命を奪うというのは、いい気分じゃない。

 でも、魔王認定された以上、当然、戦いが起きるだろう。


 腹を括らないと、とは思う。


 でも、知り合いと命のやりとりをするかもしれない。

 例えば、衛兵隊長のダインやその副官であるカンドゥ。

 例えば、俺の護衛、兼監視役だったセイリアとワツイズ。

 例えば、俺に助言を求めてきたヒラメノム。

 例えば、金十字騎士団長エスカー・ベッシュ。

 例えば……と上げていけばキリがないくらいには知り合いが増えた。


 それもこれも、俺がアルの生を望んだからだ。

 アルが俺を庇って死んで、それからまた元の引きこもり生活に戻っていれば、出会わなかった人たち。

 そんな、彼、彼女たちと戦わなければいけないという現実は結構キツイ。

 自分の中の天秤にアルと他の人たちを乗せれば、当然、アルの側に傾くものの、だから辛くないとはならない。

 辛くても前に進む。

 それだけは決めておく。


「魔王の魔法陣。あれも調べておくかな……」


「また覚えちゃったんですか……」


「ああ、今回はちょっとズルしたけど、魔王を倒すには必要かと思って、なんとかね……」


「使ったらダメですよ」


 ふと、アステルがこっちを向く。

 少し悪戯っぽい、でもたぶん真剣なやつだ。


「使わない。『主神』に利用されるなんて、まっぴらだからね」


「まあ、ベルさんは『主神』嫌いですもんね……」


 アステルがまた『スプー湖』を眺める。


「いや、アステルもだろ……」


 俺も視線を湖にやって、呆ける。


 風もなく、湖面は凪。

 これからのことを考えると、嵐の前の静けさみたいに思えてくる。


 と、湖面がざわめく。


 なんだよ、無粋だな。

 もう少し、ぼけっとしていたかったのに。


 それは波を蹴立てるように湖面を割って、黒い金属質な頭を持ち上げた。


 ほぼ同時に、クーシャが戻ってくる。

 鹿と兎ともぐらが獲物らしい。もぐら!? 


 もぐらは一応、自然発生するタイプのモンスターらしい。

 ダンジョンやその対になっている土地以外でたまに見つかるやつで、焼くだけで旨いというのはクーシャの弁。


「ご、ごちそう……」


 らしい。


 うん、『スッシー』の内部でバーベキューとか背徳的だが、確かに美味しかったです。

 ただし、塩は振ろうぜ、クーシャ。


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