表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/246

メーゼは進まなければならない!なんだありゃ……


「んん? いや、まてまて……俺が見逃してた? 

 いや、違うな……魔導書? 

 はあ!? それも邪神の……いや、でもあいつはそういうことしねーしな……ってことは、やっぱりあっちか……」


 特徴のない男が独り言を呟く。

 何故か俺はそれに釘付けだった。

 何かが分かりそうな、しかし、何も答えを得られないような、意識にモヤがかかるような感覚に包まれる。


「ベルさん、あれ!」


 叫ぶアステルに、俺はそちらを見る。

 台形ピラミッドの頂上部、そこに身体を細かくブレさせながら、メーゼたちが顕現しようとしていた。


 なんだあれ? もしかして老年のメーゼこと元『斜陽サンライズイエロー』のテレポートなのか。


 老年のメーゼ、老婆のメーゼ、壮年のメーゼ、青年のメーゼと俺の知るメーゼたちが勢ぞろいしている。

 七柱の魔王だったか。

 ということは、少女のメーゼ、死霊のメーゼと、あと一人。

 おそらく、あの特徴のない男なのだろうか。

 普通のメーゼって感じか。


「オーラソード! 」


 クーシャのオーラソードが老年のメーゼを狙う。

 だが、サイコキネシスの派生であるオーラの刃は、同じ超能力属性だからなのか、一瞬、テレポートでブレるメーゼたちを大きく乱すものの、オーラの刃もまた、乱され霧散してしまう。


「超能力で負ける訳にはいきませんな」


 クーシャの動きを牽制するように視線で制しながら老年のメーゼ。


「なんだ、この木は……まさか、これで……」


 壮年のメーゼは台形ピラミッドの頂上部に屹立する俺の『樹絡魔術』の痕跡を見上げる。


「あれは魔導機? そうですか……ソウルヘイでの開発は遅々として進んでいないと聞いていたのに、いつのまにかそんなところまで……」


 冷たい瞳で武威徹を見上げながらも、上から目線で語る老婆のメーゼ。


「うん……これはもう、計画は変更せざるを得ないね……面倒がらずに対処しておくべきだったか……ねえ、君、君が今持っているのが『サルが使えるタナトス魔術の書』だったりする? 」


 青年のメーゼは俺に向けてそう言った。

 俺は答えない。でも、顔には出てしまったのだろう。

 何故? どうして? とは思うものの、そういえば先輩がメーゼになったんだったか。

 どこまでだ? どこまでの情報が漏れたのだろうか。


 メーゼになった時、そいつが記憶している『魔導書』の情報が『ウリエルの書』に記載される。

 先輩が覚えている内容は『ウリエルの書』に収録されたはずだ。

 それがどこまでなのかが分からないが、一番知られたくない『契約方法』はバレたと見るのが正解だろう。

 メーゼの使う『調教』は、アンデッドに言うことをきかせるまで、時間が掛かる上、絶対的な命令権がない。

 だが、俺の使う『契約』は名前を書き込んで、アンデッドの一部を体内に取り込むだけで、絶対的な命令権を得る。


 エインヘリヤルのトウルのように、俺はメーゼのアンデッドを奪うことができたが、もうそれはできなくなったと思っておくべきだろう。


「……うん、やっぱりね。

 上級アンデッドを奪われた時から、何かメーゼの知らない方法を使っていると思っていたんだ……」


「そのような瑣末なことに気を取られている暇はありません。

 多少のリスクを負ってでも、計画を進めなければ! 」


「そうだ、メーゼは進まなければならない! 」


 納得いったという風に頷いているのか、船を漕いで首が揺れているのか、微妙な間で青年のメーゼが言うのに、老婆のメーゼがそれを切り捨てるように、壮年のメーゼがそれにさらに被せてくる。


「……わかった。では、進める。メーゼはメーゼを守れ」


 青年のメーゼの瞳がカッ、と見開かれる。

 あ、でも細目だからそれほど大きな差じゃないな。

 それから懐からチョークを取り出した。

 魔法陣を描こうというのだろう。

 床に這いつくばって、チョークを走らせていく。


 もちろん、クーシャも俺だってそれを許すほど甘くはない。


 だが、老年のメーゼがクーシャを抑えに掛かる。


「アステル、もう少し近づいて! 」


「はい! 」


 アステルが操縦桿を操る。

 俺は火の魔術符を構える。


「マミーたちよ、あの浮かぶ魔導機を落とせ! 」


 壮年のメーゼが叫ぶ。

 いつのまにか、マミーたちが台形ピラミッドを這い上って来ていた。


 マミーたちは剣を持たない方の手を一斉に武威徹へと向ける。

 その白骨の掌の前に魔法陣が現れる。


 ゴウッ! その魔法陣から放たれるのは熱の篭もった空気の塊だ。


「きゃあっ! 」「え、ちょっ、わっ! 」


 武威徹が揺れる、揺れる、揺れる。

 俺が手にした魔術符は、燃えながら下に落ちていく。

 拡がることはなくなったものの、台形ピラミッドの前は死霊のメーゼが生んだ闇と、伸びる亡者の腕が草原のようになっている。

 その一部を焼いて、その部分だけ闇が晴れたが、それだけだ。


 熱塊が武威徹に当たる。

 嫌な音が武威徹下部で聞こえるが、魔導具が滑落したりはしていない。

 それよりも気持ち悪くなってくる。まるで嵐の海に翻弄される小舟のようだ。


「ベルさん、そ、操縦が、効かないっ! 」


「くっ……」


 武威徹内で立っていられず、俺は座り込んでしまっている。

 アステルの言葉に俺は床板を剥がそうと試みるが、床板は堅い木材で継ぎ目の隙間はない。

 ちくせう! いい仕事してやがる! 


「床板が……何かナイフかなにか……」


「床? 床板が剥がせればいいんですか? 」


「ああ、風の魔導具が歪んでいたら無理だけど、応急処置くらいならできる」


 熱塊で押されたせいか、マミーたちの射程から外れて、武威徹は流されていた。


 このままでは、台形ピラミッドからどんどん離されてしまう。


「ベルさん、どいてっ! 」


 俺がどうにか継ぎ目を広げようとしていると、ふいに頭上に影が指す。

 なんとなく嫌な予感がして、俺は身を引く。


 アステルは足を開いて前屈み。

 そこから繰り出される打ち下ろしの正拳。

 乾いた音が俺の足と足の間、股間から十センチくらいの位置に響く。

 めきょ、という感じで床板が割れていた。


 アステルが顔を上げる。

 うおっ、近い、近い。まつ毛長い。


「どうですか……あ、えと、これで見えますか……」


 顔を真っ赤にしたアステルがそそくさと体勢を戻す。


 ええと、顔の近さに照れればいいのか、股間の寒さに青くなればいいのか分からない……じゃなくて、故障の原因を確認するんだったよな、あばばばば。


 少し混乱したが、気を取り直して割れた床板から内部構造が見えている。


「あ、伝導管が折れてる……」


「あ、あの……」


 不安そうにクーシャの方とこちらを交互に確認するアステルに、俺はにっこり笑う。


「任せろ! 魔石を移動させる操縦桿との伝達が切れただけだ。

 この隙間から、直接、魔導具に魔石を設置すれば、まだ動く! 」


「それって……」


「細かい動きは無理。だから、武威徹ごと突っ込む! 方向の指示を! 」


「で、でも、それじゃあベルさんたちの努力の結晶が……」


「床板粉砕しといて、アステルがそれ言う? 」


「あ、いえ、その、それは緊急回避というかですね……」


「ぶふっ……あ、いや、冗談だよ、冗談。

 マジな話すると、元から戦争に使うような機体じゃない。

 ここまでだって、細かく整備しながら騙し騙し持ってきたようなもんだ。

 それに、母さんたちなら、もうコイツを叩き台に次のやつに着手してるよ。これ、絶対ね」


 長年の諸々から導き出される、弟子の勘で、息子の勘だ。間違えようがない。


 そうして、アステルが指差す方向へ、俺は武威徹を直接的に操作する。

 青年のメーゼが描いた魔法陣を壊せれば、俺たちの半分勝ちだ。

 闇の草原の消し方もなんとなく目処が立った以上、遠巻きに見ているしかできない味方を引き込んで、全員、逮捕してやる。


 そう意気込んで、武威徹を突っ込ませる。


「ああっ……ベ、ベル、さん……」


 台形ピラミッドの方を目視していたアステルが声を震わせる。

 俺は床板の底に手を這わせて、武威徹を直接、操作しているので見ることが適わない。


「なにかあったのか? 」


「あの……あ、あ、あれ……」


 いや、だから見られないんだって……あ、アステルの視界を盗ませて貰えばいいのか。

 俺は、久しぶりの『盗み見魔導具』を起動させる。

 片手で武威徹の操作、もう片手でゴーグル装着と操作と、忙しいが最も近い場所にいるのが、アステルなので、すぐにアステルの視界を共有できた。


「な、なんだありゃ……」


 意味が分からなかった。俺は困惑を全面に出した声を挙げるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ