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リザードマン・デュラハンズ!棒人間。


「どうだ?それっぽいのいるか?」


都市上空から俺たちは王兄を探す。


「指揮しているのは、シ、シーザー・クルトだね」


クーシャはシーザー・クルトを見たことがあるらしい。

華美ではないが、鎧兜に黒いマント、オーガを思わせる兜飾りをつけている。


確かに、昨日俺が見た王兄とは違う。

王兄は赤いマントに金の胸当て、兜は被らず素顔を晒していた。

なので、目印は赤マントだから目立つはずなんだが……。


俺たちが王兄探しをしている頃、地上はかなり大変だったらしい。




「魔導士を守れ!堀が埋まるまでは耐えてみせろ!」


「バリスタだ!絶対に射線に入るな!

異門騎士ゲートナイトに救援をっ!」


「ほらっ!ボサっとしてんじゃないよ!

緑任務だと思えば、見えてる矢を叩き落とすくらいできんだろ!」




戦場は攻城戦、敵要塞の堀を埋めて、城壁に取り付き、内部へと侵入、城門を開放せよ、みたいな作戦をやっていたというのは、後から聞いた話だ。


今の俺たちから見ると、城門前でたくさんの人が矢嵐に晒されながら耐えている中、数人がゴソゴソ動いているなあ、という程度にしか見えない。


「あ、あれは?」


クーシャが指差す先に、城がある。

二重、三重の城壁に囲まれ、遠くまで見渡せるようにか、高く高く造られている。

その城の天守部分、物見のためなのか小さな空間に赤いマントがはためいていた。


あそこに『武威徹』を横付けという訳にはいかないか。

少し下に広めの屋根が見える。

屋根にも物見用の場所が設けられている。


「あそこに武威徹を置いて、中に乗り込むか……」


俺は『武威徹』の高度を下げていく。

と、目が合う。

それまで、眼下の戦風景を眺めていた『王兄』が高度を下げる俺に気づいた。


鮫のように笑うとは、ああいう表情を言うのかもな。鮫は図鑑でしたか見たことないけど。


『王兄』はマントを翻して中へ消えていった。


「まあ、バレるよな……」


「先に私とアルファちゃんで先行した方が良かったんじゃない?」


「アンデッドだからな……視えるだろ……」


アルは相変わらずバカだが、今回の着眼点は悪くない。

罵らないでおいてやろう。


俺が『武威徹』を着地、と同時にアステル、クーシャが素早く城の屋根に降りたって索敵する。


今頃、城の中で迎撃準備をしているだろうから、こちらもそれなりに準備しよう。

せっかくクーシャが気をきかせて、俺が自重しないでいいようにしてくれたんだ、その心意気に答えないとな。


「行こう!」


「ちょっと待って……」


逸るアルを押し留めて、俺は『取り寄せ』魔術を腰のベルトから抜く。


「まずは……いでよ、リザードマン・デュラハンズ!」


ひと部屋にぎゅうぎゅうに詰め込まれたリザードマンのデュラハンたち。

ただし、今回は大角魔熊グールは呼ばない。

大角魔熊グールにライドオンさせたリザードマンデュラハンの突撃は、ちょっと引くくらいの威力があるが、城の屋根の上では足場が悪過ぎる。

まあ、殲滅力で言えばリザードマン・デュラハンズ総勢三十八体で充分な気もする。


リザードマンキングのデュラハンを筆頭に、リザードマンナイト、リザードマンメイジとただでさえ強力な個体が首無し騎士デュラハン化しているのだ。

十や二十の成り立てヴァンパイアなら圧倒できるだろう。


少々、手狭な屋根の上だが、出現と同時に隊列を揃えて、俺の号令を待つ態勢を作る辺り、非常に優秀だ。


だが、これで終わりになどしない。

俺はさらに『取り寄せ』魔術を使う。


「来い、トウル!」


エインヘリアルのベルセルクとメーゼに言われた上級アンデッド、俺を主神と崇めるトウルを呼び出した。


「オオ、ワガシュシィィイイィィィィっ……」


「え……」「は……」


俺とアルは、二人で何とも間の抜けた声を上げる。

何故なら、トウルは俺の顔を見た瞬間、大仰に臣下の礼をとろうとして、屋根から足を滑らせて落ちたからだ。


狭い部屋からいきなり開放感たっぷりの屋根に召喚されたんだ。これがリザードマン・デュラハンズなら分かる。

一体くらい落ちても不思議じゃない。

だがトウルは俺の研究所の最高戦力として特別待遇を与えているというのに……。


「お、落ちたよ……」


クーシャが緊張感たっぷりに言う。

一瞬、クーシャと目が合いそうになるのをサッと逸らして俺は言う。


「リザードマンキング・デュラハン!俺の配下にないアンデッドを殲滅だ!」


リザードマンキング・デュラハンが杖を振ると、デュラハンズが動き出す。

ナイトが前、メイジが後ろと統制の取れた動きだ。


屋根を走り、窓を打ち壊し、続々と内部に侵入していくデュラハンズは実に頼もしい。

どこかの脳筋に見せてやりたいが、アイツは今、地面と濃厚キスの真っ最中……多少のダメージなら酒飲んで回復するから、とりあえずは見なかったことにしよう。


そう決めて俺は皆と一緒に動き出した。

クーシャは誰もが目を逸らすので、そういうものかと納得したらしい。

アステルでさえも弁護の言葉は持てなかったとか、あの脳筋に救いはない。


デュラハンズが打ち壊した窓から中へ。

内部は通路になっていた。

俺から見て右側には上へと繋がる階段。左側は下への階段。正面は扉が幾つかあって、全て開いている。

ひとつの扉では、敵がいたのだろう。

開け放した扉の中へリザードマンメイジ・デュラハンが水流を鋭利な剣とする魔法を何本も撃ち込んでいた。

下へ向かう階段はナイトとメイジの混成パーティーががっちり抑えてあり、キングは上をまず潰そうとしているようだった。


いちいち細かく命令する必要がないので、楽だ。

この短時間で『王兄』の始祖ヴァンパイアが下に逃げたとも考えにくいので、俺たちも上を目指すことにする。


上がってみると、扉がひとつ。

この城の構造からいくと、かなり広いスペースが取れそうだ。

『王兄』は戦うならここを選びそうだな。

さらに通路の奥には上へと階段がある。


「たぶん、ここかな……」


「そうみたい……」


クーシャとアルが言う。


二人に分かるって、たぶん俺の推測とは別な理由な気がする。強者の臭覚とか強さオーラの感知とか、そういう得体の知れない何かだろう。


まあ、デュラハンズを盾に、押し込んですり潰して終わりにするけども。

俺は竹筒の聖水を握りしめてデュラハンズに命じた。


「狙うは大将首、ただひとつ!

突入せよ!」


俺の号令にデュラハンズが応えた。

扉を開くと同時にまずはリザードマンナイト・デュラハンが二体、盾を掲げて躍り込む。


どすっ、どすっ!


鈍い音がふたつ。


リザードマンナイト・デュラハンの左右から突き出された槍が、リザードマンナイト・デュラハンの身体に突きたっていた。


リザードマンナイト・デュラハンたちの、乗せていただけの首がコロコロと二個、落ちて転がる。


「おいおい……この程度の歓迎で終わるなど、許されんぞ、人間……ん?モンスター?」


リザードマンナイト・デュラハンたちの左右には、レッサーヴァンパイア兵と思われる個体が二体。

部屋の中心に背の高い円卓。

円卓の上には地図と幾つかの駒。

円卓を囲むように立つのは、少し見なりの良い格好をした、おそらくヴァンパイア兵が四体。

さらに奥、一段高くした領主用の椅子の前に赤いマントのヴァンパイア、推定『王兄』が立っていた。

『王兄』は一緒、狼狽えたが、すぐに表情を興味深そうに変える。


「ふん……モンスターを使役するか……余が少し休んでいた間に、時代というのは随分と変わるものだ……空飛ぶ円盤、モンスターの使役、まだ他にもあるのかな?」


円卓周りのヴァンパイア兵たちが一斉に剣を抜く。

俺たちは何も答えず、デュラハンズがなだれ込むのを見送る。


『王兄』は余裕があるのか、それとも自己顕示欲が人一倍あるからなのか、よく喋る。


「くくく……さあ、歯向かうやつらは皆殺しだ!

余の慈悲に縋りたくば泣いて赦しを乞うがいい!

者ども、余にモンスターどもの首を捧げよ!」


そのひと言にリザードマンキング・デュラハンが歯列を覗かせて、カッ、カッ、と二度杖を床に打ちつけた。

前に出ていたリザードマンナイト・デュラハンたちは、纏まって膝立ちになり盾を揃える。

後ろに並ぶリザードマンメイジ・デュラハンたちは一斉に『王兄』に向けて首を差し出した。

これは文字通り、首を両手に持っての行いだ。


その前のリザードマンキング・デュラハンの笑いというか、歯を剥き出しにする皮肉気な表情と合わせると、彼なりの皮肉だろうか。


「おお、物の道理を知るモンスターとはなっ!」


『王兄』は両手を広げて喜色満面になる。

口内に見える尖った舌が、なんとも不気味だ。


確かに、見ようによっては、ナイトたちは片膝立ちで臣下の礼を取っているようにも見える。

メイジたちは首を捧げようとしているようにも見える。


だが、ナイトたちの動きは射線を遮らないようにするためであり、メイジたちの首は魔法の媒体代わりの物である。


一斉に放たれる水流弾が両手を広げる『王兄』に殺到する。

ボシュッ!ボシュッ!と『王兄』の身を削る。


『王兄』の見た目は水流弾で削られまくって、下手くそが描いた歪な棒人間みたいになっていた。

やはり、モンスターの魔法は『魔術』よりも威力が大きい。


「え?終わり?」


アルが素っ頓狂な声を上げる。

終わり、ならいいけどな。

アル以外は油断なく構えている。


『王兄』の黒い血が泡立つ。

コポ。コポ。とグジュグジュと。


「再生してるな……」


「再生してるね」


俺の言葉をクーシャが断言に変える。

『王兄』は始祖ヴァンパイアだ。

そりゃ、再生くらいする。

上半分が無くなった頭から黒い血が溢れる。

鼻が右目が再生する。

右目は赤く濡れたように、てらてらと光を放つ。

その右目が辺りをギョロリと睥睨する。


「何ヲ呆然とシテいる……貴様ラそれデモ余の臣民カ……」


『王兄』のざらついた声に弾かれたようにヴァンパイア兵たちが動き出した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!」


ヴァンパイア兵は口中の舌を膨らませて、声にならない声でデュラハンズに挑む。


だが、リザードマンキング・デュラハンに指揮されたデュラハンズは普通に鉄壁だった。

リザードマンナイト・デュラハンたちが盾を固めて突き出す。

吹き飛ばされるヴァンパイア兵。

怯んだところにリザードマンメイジ・デュラハンたちの水流弾。

一撃受ければヴァンパイア兵の着る鎧は、もう鎧として機能しなくなるくらいボロボロだ。


「これは……すごいね……」


そう言うクーシャはこいつらを全員一撃で首チョンパしているので、俺は結構、複雑な気分だ。

たぶん、集団戦になっているからこそリザードマンキング・デュラハンの指揮が生きているのだろう。


ヴァンパイア兵の一体がその銛状の舌を、リザードマンナイト・デュラハンたちの盾の隙間に突き込む。

その勢いに一体のリザードマンナイト・デュラハンが倒れた。


あの舌、すげー伸びる。


そして、一体が抜けた穴を突くようにヴァンパイア兵たちの勢いが戻る。

攻防は一進一退だが、だんだんとリザードマンメイジ・デュラハンたちの魔法が散発的になってきた。


「あ、まずい……」


俺は気付いてしまった。


「ほえ?」


アル……気が抜ける声、出すなよ。


「何ですか?」


「これ、デュラハンズ負けるわ……」


「え?」


アステルも分からないという顔をしているので、俺はひとつ頷いて説明する。


「アンデッド同士の戦闘は基本、千日手になるって話したっけ?」


「ええ、メーゼに目をつけられた後に説明いただいたと記憶してますね」


「決着するには、敵のオド枯渇に持ち込むしかないんだけど……こりゃ敵のヴァンパイア兵の方がオドの内包量が高いみたいだから、無理だわ……」


しょせん、中級上位のアンデッドであるデュラハン、しかもウチは粗食だ。

ヴァンパイア兵たちがレッサーヴァンパイアならそれでも勝てたかもしれないが、普通のヴァンパイアは最低でも上級アンデッドに分類される。

『王兄』が人間独り占めとかしてれば、粗食VS絶食みたいな感じでいけると思ったんだけどな。

まあ、レッサーヴァンパイアがあれだけ沢山いるってことは、始祖じゃないヴァンパイアもそれなりにいるってことか。


「じゃあ、僕らの出番かな!」


爽やかクーシャが言う。

ああ、なんとなく理解してきたな。

爽やかな時は『ディープパープル』のモードに入ってる。


「ああ、頼む」


クーシャとアル〈持ち込んだ鎧兜着込み済み〉にそう言って、リザードマンキング・デュラハンにデュラハンズを下がらせるよう伝える。

うーん……引き際も見事に足並み揃えてるから、余計な追撃とか来ない。


これはもっと数を増やして、金十字騎士団の用兵と並べたら、楽しそう……とか思考をあらぬ方に飛ばしてしまうくらいに、俺は暇だったりする。

アンデッド同士が戦ってる中に『聖水』をぶちまける訳にもいかないしね。


そんなことを考えていたら、戦いは第2段階へと移行していた。


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