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……鼠です。殲滅こそ正義だ!


明朝八時には作戦開始だ。

『武威徹』は三人乗りが限界だが、俺にはアルとアルファがいてくれる。

浮遊が使えるアルとアルファは霊体で『武威徹』に掴まってついてくることになっている。

ヒラメノムは置いていく。

近衛騎士だし、見せたくない物も多いからな。

定員的にも無理だし。


エスカー・ベッシュからは、必要な物は出来る限り用意すると言われているので、夜の間に神官たちに頑張ってもらう。


俺たちは陣地中央、夜の見張りなんかも命じられていないので、ゆっくりと休ませてもらうことにする。


始祖ヴァンパイアである王兄を強襲するとなると、緊張はあるが、こちらのアルとアルファも始祖ヴァンパイアだ。

格で言えば、同じだ。それに超級冒険者ディープパープルことクーシャもいるしな。


俺は割り当てられたテントの中で、ゆっくりと目を閉じた。

安心して眠るというよりも、やけっぱちの不貞寝みたいになるのは、仕方ないだろう。


確かに今回の行動で、俺は国の役に立つ死霊術士ネクロマンサーだという証明を求められているが、まさかメーゼを捕らえるついでの感覚で寄ったサダラ領主、シーザー・クルト捕縛の任が戦争になるというのは予想外だといえる。

しかも、相手は始祖ヴァンパイアの王兄、フォート・フォル・コウスで、そこに決死隊として強襲を掛けることになるなんて……。




モヤモヤしつつも、なんとか寝ようとしているところに喧騒が聞こえてくる。


「ぎゃあ!なんだ!?」「よせ!狂ったか!」「こんな……なんで!?」


なんだ?敵襲か?

そうだよ、相手はアンデッド。夜の方がヤバい。

俺は飛び起きるようにして、装備を掴むとテントから出た。


「アルファ、何が起きてる?」


暗闇の中、陣の外側の方で人が騒いでいる。


「……鼠です。恐らくヴァンパイアラットかと……」


「ベルさん」「ベルくん!」


アステルとクーシャ、アルも俺のところに集まってくる。


ヴァンパイアラット。レッサーヴァンパイアが襲う相手がいなくなると、近場の動物などまで襲われるようになる。

そうして生み出されるのが、ゾンビよりも劣等種と言われるヴァンパイアラット、ヴァンパイアドッグなどである。

劣等種の劣等種、端的に言えば食べカスがアンデッド化したもの。

本能レベルで使う『眷属転化』のせいで、噛まれると軽い『呪い』にかかり、噛まれた部分を中心に自分の意思が効かなくなる。


ヴァンパイアラット自体は『聖水』を掛けただけで死ぬ。脆い、弱い、でも、放置はできないという嫌なアンデッドである。


俺は『光の異門召魔術』を次々と捺印しつつ言う。


「なるべく明かりを!それから、ヴァンパイアラットは聖水で倒せる!踏み潰したっていい!アステルとクーシャも皆に知らせて回ってくれ!」


片手に聖水入り竹筒、片手で魔術符をばら撒きながら、叫んで回る。


アステルとクーシャも松明を片手に走り出す。


しばらくすると、『異門騎士ゲートナイト』たちが火球を放ち始めた。


ヴァンパイアラットたちは『サダラ』から門を通って、一直線にこちらに押し寄せているらしい。


ヴァンパイアラットによる嫌がらせは朝方近くまで続いた。

そう、『嫌がらせ』だ。

被害は軽微だ。最初の数人が『呪い』に掛かり、怪我をしたが、神官の『解呪』によって『呪い』は消えている。

俺たちはまともに眠れず、ひたすらヴァンパイアラットの処理に追われた。

士気は高い。高いというか、怒りだ。

全員が怒っていた。殺気に溢れていると言ってもいい。


まあ、正直、眠気はあるがアドレナリンで行けそうな気もする。


「やつらはモンスターだ!」「「「そうだ!」」」


「やつらはアンデッドだ!」「「「そうだ!」」」


「殲滅こそ正義だ!」「「「そうだ!」」」


騎士も冒険者も神官までもが声高に叫んでいる。


少しの仮眠を挟んで、作戦開始時刻になる。


「……では、頼んだ!」


エスカー・ベッシュが全員を代表して、敬礼をする。

二千の人間が俺たちを見送る。


俺は無言で頷き、魔導飛行機『武威徹・弐壱型』の円盤をゆっくりと上昇させる。


眼下ではエスカー・ベッシュの鼓舞が聞こえる。


「モンスター共に人間の強さを思い知らせてやるぞ!突撃!

城門を打ち砕き、王兄様を僭称するアンデッドに鉄槌を下せ!」


「「「応っ!」」」


動き出す騎士の隊列を眺めつつ、その動きに正直、ワクワクを隠せない。

ふと、横を見るとクーシャも瞳を輝かせている。


俺たちは頷き合う。

君も男の子じゃのー。


「どうかしましたか?」


アステルに聞かれるが、俺はクーシャと二人、ニヤリと笑うだけに留めた。

すると、アルが飽きれたように言うのだ。


「無駄、無駄……男同士でああいう顔してる時は、エロい話か心底どうでもいい話をしているから放っておきなさいって、母さんが言ってた」


言葉を交わしている訳じゃないけどな。

クーシャとは目で語りあっているのだ。


軍靴の音を響かせながら、隊列が崩れないギリギリの速度で走る騎士たち。

ああいうのは、冒険者じゃできない行動だよな。


動きながらも陣形を変え、要塞都市『サダラ』へと迫っていく。

おお、かっこいい!

ただ、いつまでも見ている訳にもいかない。


「そろそろ、高度を上げるぞ!」


俺はそう声を掛けて、『武威徹』の高度を上げるのだった。


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