決死隊?それしかない!
短めです。
陣地内、俺たちの定位置、前後を神官に挟まれた陣地中央、『武威徹』のところへと戻る。
俺は『アンデッド図鑑』を調べていた。
吸血鬼種、生前と変わらぬ姿、先端が銛状になった長い舌、変身能力……記憶を辿ってページを捲る。
『ウピエル』それが王兄が転化したヴァンパイアだ。
物語に出てくる『ヴァンパイア』との違いは『霧化』『霊体化』などはなく、それよりも肉体特化とでも言うような『黒血操作』という自分の血を操って武器にする能力や『部分変身』という蝙蝠の翼を生やしたり、下半身を狼の胴体、ケンタウロスのようにしたりという能力がある。
「ウォアム殿、団長がお呼びです」
騎士が俺を呼びに来る。
俺たちは請われるままに、土壁近くの団長のところに行く。
どうやら、隊長格を集めての会議らしい。
偉そうな神官、宮廷魔導士、冒険者からはクーシャと『クリムゾン』も来ていた。
「おお、来て下さったか!話はこの者から聞きました」
ああ、さっきの金十字騎士か。
「かなり危険な相手だと判明したとか?」
「ああ、始祖ヴァンパイアのウピエル種ってやつだ。
時間が経てば世界が滅びる」
俺の言葉に場がざわめく。
そんな中、俺に質問を投げてくるのは、宮廷魔導士だった。
「ウピエル?」
「簡単に言えば肉体特化な種類のヴァンパイアだ。霊体化して壁抜けしたり、霧になって姿をくらましたりはしないが、自分の血を武器にしり、翼を生やしたり、鼠、狼、蝙蝠なんかに変身する。
何より、始祖ヴァンパイアの眷属転化を使われるとヴァンパイアが増える。劣化種じゃない。上級アンデッドに分類されるやつらが増えるんだ」
金十字騎士団長、エスカー・ベッシュは腕を組み、おもむろに頷く。
「だからこそ、頭を叩く、ですか……」
偉そうな神官が納得したように言う。
どうやら、俺が来る前にある程度の話が終わっているようだ。
「時間を掛ければ掛ける程、勝算が減る。
さっき、こちらに攻めて来た時に気付けていれば、良かったけどな。
兵を退かせてしまった以上、より攻略は困難になったと見るべきだろうな」
「分かりました。では、決死隊を組むしかないですな……」
「決死隊?」
「策と言えるものではないかも知れませんが、我らの全兵力を持ってサダラを攻めます。
具体的には……」
エスカー・ベッシュの語る内容は次のようなものだ。
王兄は先程、撃退されたことによってしばらくは力を貯め込むためにサダラに引き篭るだろう。
そこで、今いるこちらの兵、二千でもって城攻めを行う。
こうすることで、敵は門に兵力を集中させる。
そうして敵兵を外に集中させている間に『決死隊』を内部に送り込むというものだった。
「内部って……」
「ああ、魔導飛行機を使う!」
……は?
「いや、『武威徹』は本来、戦闘用じゃなくて……」
「それしかない!」
わお……断定された。あれ?でも、それって……。
「魔導飛行機の定員は三名だったな。
ウォアム殿、ディープパープル、あと一名、神官戦士をつけたいが……」
エスカー・ベッシュは偉そうな神官に視線を向ける。
って、待て、待て!
決死隊?
決まって死ぬ隊?
俺?
「ウォアム殿の護衛を務めているそちらの冒険者の方は、神官として高いスキルを身につけておられましたな。
ウチから出してもいいですが、命を賭すとなるなら気心の知れた者同士でこそ背中を預けられるというものではないですかな?」
偉そうな神官がアステルに手を向けてそう勧める。
「ええ、私なら問題ないですよ!
ベルさんと一緒なら負けませんから!」
アステルが両手の拳を握って、両肘を脇腹にやる気を見せる。
ええ!?ちょっ……アステル?
「では、その三名を決死隊として、他の者は全力で外に敵戦力を引きつけるぞ!」
「「「応!!」」」
他に方法は?とか、人選として俺やアステルは初級冒険者!とか色々と言いたいことは山積みだが、クーシャもアステルも瞳を輝かせてこちらに頷いてくる。
え、どういう意味の頷きだよ。
「ウォアム殿、決行は明朝八時、必要な物があれば出来る限り用意させる。なんでも行ってくれ」
エスカー・ベッシュは俺の手を無理やり取ると、両手で包み込むようにそう告げた。
うわー、死刑宣告された気分だ……。
俺がトボトボとクーシャやアステルに引き摺られるように『武威徹』のところまで戻ると、クーシャがニコニコしながら言う。
「ベッシュ団長から決死隊の話を聞かされてすぐ、根回ししておいたのが効いたね!」
「は?」
いや、先に話がまとまってるっぽいなとは思ったが、クーシャが根回しした?
俺が疑問顔でいると、クーシャが説明の必要を感じたらしい。
「あ、えと、最初はベルくんと、金十字騎士と近衛騎士が一名ずつで決死隊を!って、は話になってて……でも、正直心配で……だから、僕が行くって話をして……でも、知らない人がいると、ベルくんは内緒にしたいこと多いかなって……それなら、ベルくんがやらかしても問題ない人がいいかなって……神官さんは人を出したくないみたいだったから、冒険者の神官でもいればいいですねって言ったら、アステルさんを推薦してくれたんだ」
えーと、どこからつっこめばいいんだ……。
どちらにせよ、選択肢が『魔導飛行機』による強襲一択で、俺しか操縦できないから、俺が行くのが確定だった訳だ。
エスカー・べッシュにしてみれば、決死隊の人員は自分たちの中から出すつもりだったのか。
騎士が弱いとは思わないが、『聖別武器』だって折れるし、砕かれる。
その点、クーシャはそれを気にしないで済む。
クーシャに渡してある『取り寄せ魔術』を使えば、予め武器を『聖別』しておくことで替えがきく。
さらに騎士が強いと言っても、超級冒険者には確実に劣るだろう。
しかも、クーシャとアステルは俺との連携を考えてくれるだろうが、知らない騎士が俺との連携を考えてくれるとは思えない。
さらに、騎士たちと一緒だった場合、『取り寄せ魔術』を使うのに躊躇が生まれていただろう。
死ぬかもしれないって時に躊躇するのは馬鹿だが、いちいち俺のすることに驚かれたり、『取り寄せ魔術』の秘密を持ち帰られたりするのもかなり問題がある。
そういう意味では、クーシャにグッジョブと言わざるを得ないが、サラッと俺が『やらかす』とか言うな。ちくせう。
「……そ、そうか。クーシャのおかげで助かったんだな……ありがとう……」
エスカー・ベッシュやその他の奴らに、多少なりとも釈然としないものは感じるが、その中ではクーシャのおかげで最善を引けた訳だ。
クーシャはにっこり笑って、役に立てて良かった、と言った。
日が暮れていく。
俺は神官たちに武器の『聖別』を頼み、『聖水』を分けてもらい、明日のための準備を整えていく。
だが、これから夜が来るのだ。
人間に休息は必要だが、アンデッドには関係ない。
それを失念していたのは、俺も疲れていたということだろう。