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叫ぶよな!最悪だ。


「さあ、見るが良い、我が偉大なる『土壁』の大魔術をーーー!!」


ずもももも……。


一本の巨大な畝を作るように土壁が立ち上がる。

俺はそれを見ながら、ウンウンと頷いていた。


「何、頷いてんの?」


『サダラ』と対峙する高台にある陣中、アルが嘆息と共に聞いてくるので、俺は喜色を浮かべて答えることにする。


「やっぱさ、叫ぶよな!」


紋章魔術の行使において、叫ぶ必要は皆無だ。

なんなら、使う魔術の説明をしてしまうなど、戦闘においては害悪とも言える。

だが、宮廷魔導士であっても、否、宮廷魔導士だからこそ、今、ここに、必殺技を使用しているのだと、叫ぶのだ。

そこに深く共感する俺。


「はぁ……なにかおじいちゃん仕込みの工夫とかしてるのかと思った……」


アルが肩を落としたであろう雰囲気が伝わってくる。


理解が得られなかったので、俺も肩を竦める。


「急げ!魔導士殿の魔術を基点に補強を進めよ!」


陣地の内側では冒険者と騎士が一緒になって、土壁に階段をつけたり、端に柵を取り付けたりしている。


ふと、振り返れば、陣中では『従軍神官』たちの唱和によって集められた武器を聖別している。


従軍神官と神官戦士。

さらに聖騎士。

このみっつはほぼ同じだが微妙に異なる職である。


従軍神官はつまるところ神官だ。

『治癒』や『浄化』、『聖別』などの奇跡を神に願い賜る。

普段は神殿の中で祈りを行って、神に声を届けるために人々を導くのが役目だ。


これが神官戦士となると、人々の脅威を打ち払う役目を負うことになる。

神官に戦士の役目がプラスされている。

神官程ではないが、ある程度の奇跡が使えて、さらに神殿が秘匿している魔術を使えるやつもいる。

『神殿系魔術』というのは部外秘になっているのだが、自分を強化したり、相手を弱体化したりする魔術らしい。

物語の話になってしまうが、例の副神が書いたダンジョン産の名著『ゲームキング』内の用語で言うバフ・デバフ魔法みたいなものだ。


そして、聖騎士。

俺が一番警戒しているのがこれだ。

聖騎士は、役割として神官や神官戦士を動かす権利を持っている。

例えば神敵認定。もちろん、聖騎士が単独でそれを為せる訳ではないが、それに近いことが出来る。

例えば、聖騎士が俺を孤立させようとするならば、国に訴え出るのだ「ヴェイル・ウォアムを討伐する軍を出さなければ、この国は神に従わぬ国として、この国の神官・神官戦士を全て引き上げさせる!」こう言われたら、国は動かざるを得ない。

もちろん、いきなりそんな無茶を言ったら大変なことになるので、根回しやら、俺への実態調査やらは必要になるが、それだけ大きな権限を持っているだけで恐怖だ。


そして、それだけではない。

聖騎士は神官戦士と神官の上位互換でもある。

上級冒険者並みの戦闘力、一瞬で奇跡を起こす精神力、『サンライズイエロー』が仲間のエインヘリアルを一撃の元に消滅させた特殊能力などを兼ね備えているのがヤバい。


まあ、『サンライズイエロー』は聖騎士としての権力は使えないだろうし、幸か不幸か、今、この場に聖騎士はいない。


そんな従軍神官や神官戦士の中でアステルは彼らと共に奇跡を願っている。


奇跡を願う文言などは宗派によって違いはあるようだが、武器の聖別の手順などは同じようだ。


まず、水を張ったたらいを用意する。

この盥は魔法金属製が最上のものらしいが、今、使っているのは銀製の盥だ。

『黄昏のメーゼ捕縛部隊』の編成が早すぎて、魔法金属製の盥は後詰めの歩兵が持ってくる手筈になっているらしい。


この盥の水を神官たちの祈りで『聖水』とする。


それから盥の『聖水』を丹念に武器に掛けながら文言を唱え、空中で振り回しながら文言、砂を掛けて文言、火の中を潜らせて文言、最後にまた『聖水』を振りかけて文言を唱える。


神官たちはこれだけで汗びっしょりになっている。

だが、武器は『聖別』されているようで、文言ごとに効果は変わるようだが、光を反射すると特定の色に光るのだ。

面白いのは主神の文言によって『聖別』された武器は虹色の反射光になることだろうか。


アステルが戻って来る。


「アステルちゃん、お疲れ!」


「お疲れ様でふ……うぁ……」


アルの言葉に返事をするアステルは呂律が回らなくなっているようだ。

体力の低下とオド不足によるものだろう。


「おつかれ、アステル。はい、これ舐めて。それから水浴びするなら、そこの柵の中でできるよ」


俺が魔宝石を渡すと素直にアステルはそれを口に含む。

それから、「ふぁりはとーごらいまふ……」と柵の内側へ。


水浴びしたら、少し頭がしゃっきりするだろう。


冒険者に割り当てられた区画は陣地の中でも混沌としている。

それぞれに過ごしやすいように好き勝手やってるからな。

俺たちも暇にあかせて色々とやっている。

俺は『武威徹』の修理をしているが、アルもアルファも、ついでにヒラメノムもやることがないので、石を組んで竈にしたり、柵を組んで布を被せて水浴び場を作ったり、結構、やりたい放題している。


アステルを休ませてやっていると、騎士たちが騒がしい。


「何かあったのか?」


「確認してきます!」


ヒラメノムが確認に行って、すぐ戻って来る。


「サダラに向かった伝令が戻ったのですが……」


俺はヒラメノムの言葉の続きを待った。


「その……フォート様らしき人物が現れ、その者にアンデッドかと尋ねたところ、是と答えたと……」


「見た目に特徴は?」


「立派な身なりをして、道化のような話し方、それ以外は普通に生きている人間のように見えたそうです……」


道化のような……ってことは意思があるってことで、それだけで中級アンデッド以上なのは確定だ。

というか、いつからだ?

最初から『サダラ』に居たのか?それとも?

『黄昏のメーゼ』は?

王兄が居るなら、メーゼの中の一人くらいこっちに来ててもおかしくない。

でなければアンデッドの統制が取れないだろうしな。


「いや、待てよ……クーシャたちはクリムゾンとサダラで合流しているんだよな……だとすると……」


その時はまだアンデッドが入り込んでいなかった訳だ。

普通に開かれた街としてあったんだしな。

だとすると、クーシャが『オドブル』に行ってヒラメノムたちを逃がして……あれでメーゼは目を付けられたと理解したはずで……。


クーシャとほぼ同じタイミングで『サダラ』に向かったとして……間に合う訳がない。

クーシャとクリムゾンは途中、森の中でゾンビに襲われて三日三晩ほど足止めされたらしいが、それでも超級冒険者の足は速い。

なにしろ馬があると遅くなるという理由で近衛騎士を置いていったらしいからな。


もしかしたら、メーゼはここに来ていない?

それこそ、俺のように『魔導飛行機』や、空を行く手段があれば別だが、オンモラキはデカいが人を乗せられる程ではない。


ん?そうなると、『王兄』は?

メーゼの本拠地である『オドブル』から来たと仮定すると、空でも飛べなきゃ間に合わない。

それも、ゴースト系ではなく実体系のアンデッドで……。

『ヴァンパイア』という言葉が俺の中を渦巻く。


空を飛べるアンデッドは少ないが、いない訳ではない。

ただ、実体系アンデッドとなると、途端に選択肢が狭まる。

さらには、今の状況だ。

自らをアンデッドだと呼称しても、周囲の兵士たちが騒ぎ立てていないということは、それを知っている者たちだと言うことだ。


自分たちが盟主と仰ぐ者がアンデッドだと知って、それでも仕えていられる人間は、いない。

餌として生かされている自分を良しとはしないだろう。

つまり、兵たちもアンデッドになっているのだろう。

しかし、メーゼがいないのならば、アンデッド化した者たちの統制を取るのは、本来ならば不可能なはずだ。

だが、王兄を頂点として、王兄が眷属を作るのならば、統制は取れる。

そして、それらを可能にするとなると、やはり『ヴァンパイア種』ということになるだろう。


最悪だ。

上級アンデッドで、ある意味一番ヤバいやつじゃねえか。


「ヒラメノム!ベッシュと直接話したい」


考えがまとまったというか、ある一点に集約されてしまったから、早めに対策を考えないとな。


「はい!では、伝えて来ます!」


ヒラメノムが『金十字騎士団長』エスカー・ベッシュのところに、俺が話たい旨を伝えに行ってくれる。

その直後、土壁の見張りが叫びだす。


「敵襲!敵襲だ!数、およそ二千!まっすぐ突っ込んで来ます!」


ざわり、俺たちの陣中は蜂の巣をつついたような騒ぎになるのだった。


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