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是である!奮起せよ!

三人称なので、外伝にしようか迷ったけども、一応、本編です。


白旗を掲げた伝令、三人が『サダラ』の城門前まで辿り着く。

彼らはこの『サダラ』で何度もワゼン国を打ち破ったこともある歴戦の勇士だった。

その功が認められて『金十字騎士団』に抜擢されたのだが、今はその『サダラ』の領主を捕縛するために来ているのだ。

皮肉が効いている。


「開門!開門せよ!

我らは王命により来た、『金十字騎士団』の使者である!」


三人は待つ。

バリスタは動いていない。城壁にいた守備兵が動いている。

これは、話を聞こうとしているのだろう、と三人は油断なく視線を配りながらも、開門を待った。


城門の上の物見部分に身分の高そうな男が立った。

男は両手を拡げ、声高らかに言う。


「は〜っはっはっ〜!

王命と来たか!さしずめクルトの捕縛が目的といったところか?」


その歌うような言葉に、使者である三人は道化の類いだろうかと首を捻ったが、開門されないならば、交渉で開かせるしかないと言葉を交わすことにする。


「シーザー・クルトが『王兄派』を名乗り、我が国の正道を乱そうとしたことは明白!

心ある者は聞け!これは紛うことなき王命である!」


「笑止!貴様らもコウス王国民ならば、正当なる王位が何処いずこにあるか、理解すべきであろう!

簒奪者に従うは悪である!

しかしながら、余が神の試練においてそれなりに時を掛けた故、人心が惑うのも仕方なきこと……余の寛大なる慈悲を持って、一度だけは赦そう……」


道化は満足そうな顔で天を仰ぐ。


「その脳髄に刻むがよい。

この国の正当なる王位継承者、フォート・フォル・コウスの帰還なるぞ!

さあ、戻って伝えて来るがよい!

今なら帰参を赦す、とな!」


道化はあろうことか、フォート・フォル・コウスを名乗る。

フォート・フォル・コウスはアンデッド。

そう聞いている三人の目には、多少奇天烈な道化に映るものの、普通の人間に見える。

三人は訳が分からなくなってきていた。


昼日中に、晴天の下で朗々と歌うように話すアンデッドなどいるのか?

もし、この道化が本当に王兄様で、本人が言うように『神の試練ダンジョン』で生き延びていたとするならば……いや、しかし王権は既に現王ポワレン・フォル・コウスにある。


「ふ、不敬なるを承知でお尋ねしたい!

我らはフォート・フォル・コウス様は既に身罷みまかられ、不死者と化していると聞いている!

その是非や如何に!」


一人が「お前はアンデッドなのか?」と勇気を出して尋ねた。

偵察に出た死霊術士からはアンデッドバードに襲われたという話を聞いているのだ。

混乱しているとはいえ、確かめずにいられなかった。


道化はそれに微笑みながら答えた。


「是である!

余は試練の中、現人神たる力に目覚めたのだ!

見よ!これが敵国に打ち勝ち、この世に真なる神国を顕す力である!」


道化が隣に並ぶ兵士の腰にある剣を抜き、それを高々と掲げたかと思うと、自分の首を貫いて見せる。

剣を伝い、黒い液体が流れ、城門を汚した。

道化はにこやかに刃を掴んで剣を抜く。


その姿を見ているはずの城壁上の兵士たちに動揺は見られない。


「とくと見たか?見たならば、ありのままに余の臣民たちに伝えよ!

神国コウスの体現、現人神が帰ったとな!」


三人の使者は顔を青ざめさせて、逃げるように馬首を返した。


「王よ。替えのお召ものをすぐ用意させます……」


フォートの後ろに控えていた『サダラ』領主シーザー・クルトがフォートを促す。


「その前に、腹が減ったな……食事をすればどうせ服なぞ汚れる。

着替えはその後でよい」


「はっ……」


シーザー・クルトが応えて、その黄色く濁った瞳を見せた。

その濁った瞳を見る度にフォートは自分の失敗を見せつけられているような気がして、憎々しく思う。

本来ならば瞳は紅玉ルビーにならなければならない。

転化になんらかの要因が加わったのだろう。

だが、これでも臣民である。

であるならば、それを上手く使うのもまた王の資質というものなのだろう。


フォートは食事をした。

銛状の舌を引き抜く。

ほんの少し、スープが零れる。

王として、現人神として相応しい振る舞いにしたいのだが、ナイフもフォークもなく、マナーとて確立されていない。

料理人の工夫によって、今日は貴族の子女のような盛り付けをされていたが、味はこちらの方が良いな、と思った。


「お食事中、失礼致します。

どうやら詐称王の軍勢は愚かにも戦の支度を進めているようですが、いかがなされますか?」


「ふむ、よかろう……ならば戦だ!

ただの籠城ではつまらんな……久しぶりに王の差配を見せてくれよう。

具足を持て!」


フォートはなるべく優雅に見せるべく、口元に零れたスープをナプキンで拭うと、立ち上がる。

だが服は悲惨な程に凄惨なありさまだった。


「王自ら、出られますか?」


「うむ、レッサーヴァンパイアが二千でよい。陣を整える前に叩く。

急げよ!」


フォートが乗る馬はアンデッドホースだ。

女子供は自分の食事として残してあり、兵の指揮を取る者はフォートが転化させた。

そして、指揮官は兵を転化させた。

兵には動物の血を啜ることしか許していない。

王は始祖たるウピエル、指揮官はウピエル、兵はレッサーヴァンパイア、動物はゾンビで、街の人間は概ね無事と言っても良かった。

それは王の財であり、手をつけることが許されていなかったからだ。


フォートは二人の指揮官を抜擢し、それぞれに五百のレッサーヴァンパイアを指揮させる。


「見事、余の期待に答えれば、街のモノを食わせてやろう!奮起せよ!」


「「はっ!」」


二人のウピエル〈ヴァンパイア種族・銛状の舌を持ち、それで吸血する。『膂力増強』『吸血回復』『吸血眷属転化』『動物変身』などを持つ〉は身を震わせて応えた。


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