おじいさん?依頼!
すいません。家族が倒れたりして、更新遅れました。
一応、問題はなかったようで、ひと安心です。
三番と書かれた部屋に入ると、白く長い髭を蓄え、つるりとした頭のおじいさんが待っていた。
「おや、随分とお若い依頼人ですな……ささ、そこにお座りなさい。
お茶はいかがかな?久しぶりにいいのが入ったんじゃよ!」
「え、あ、どうも……」
おじいさんのフサフサした白髭は、ちょっと俺のじいちゃんに似ていて、親近感を覚える。
俺は言われるままに座ると、おじいさんがお茶をいれてくれる。
熱々をひと口啜れば、香ばしさの中にフルーティーさを感じる良い香りと、口の中をキュッと引き締めるような苦味が拡がる。この苦味がふた口目のフルーティーさに甘味を感じさせてくれる。
「……ふぅ、んまい」
肉料理の後なんかに飲むと、もっとうまいかもしれない。
荷物が重かったので、解放感と相まって、ちょっとゆっくりしてしまう。
「ほっほっ……分かるかね!この旨さを分かってもらえるとは、なかなか嬉しいもんじゃ!
おお、そうじゃ!若い人なら茶うけにコレがいいじゃろう……」
おじいさんが懐から出して来たのは、バターたっぷりのクッキーだ。
「ほれ、これをひと口齧ってな、それからこの茶を啜るとな……ハグッ……ズズズ……うむ、よいのぅ……。
ほれ、やってみなさい……」
おじいさんが差し出すバタークッキーを受け取り、齧る。
じゅわっ、とバターの香りと脂が染み出す。
甘味に使っているのはドライフルーツとダンジョン産の甘味料かな?
たぶん、通称シュガーモンスターと呼ばれる、植物系モンスターから取れる甘味料だろう。
少し甘味が強い。だが、これがお茶と合う。
「……うまっ……ハグッ……ズズズ……ふぅ……」
「ほっほっほっ!うまいじゃろ?ほれ、もっと食べていいぞ」
思わずおじいさんを見返す。
安くはない品だ。少し戸惑ってしまう。
「若いもんが、遠慮するでない……ほれ、袋ごとやるから、楽しむがええ……」
「い、いいの?」
「良い、良い。若いもんの食べっぷりは見てて気持ちいいでな……」
「ありがと!」
素直に好意に甘えさせてもらう。
しばし、夢中に食べ進めていると、おじいさんは孫でも見るようにニコニコとそれを眺めていた。
「はぁ……うまかった……おじいさん、ごちそうさまです……」
それなりに量があったが、全部食べきってしまった。
「うむ、うむ。
喜んでもらえて、良かったわい。
さて、では、本題に入ろうかの?」
おお、軽く忘れるとこだった。
「えっと……アイアンヘッジホッグの針二十本とクズ鉄晶石を取ってくる依頼を出したいんです!」
「ほうほう……赤ふたつからの依頼じゃな……針は二十本でいいのかね?一匹分ならもっと取れるが?」
「はい。二十本でいいです」
「場合によっては鉄晶石になっても?」
「いえ、それは困ります」
「ほっほっ……そんなこと言われたのは初めてじゃわい!
では、クズ鉄晶石のみということじゃな。
基本で依頼としては二十ジンじゃな……じゃが今の時期は『ケイク』のダンジョンに潜る冒険者が少ないんじゃ……もう少し上乗せ出来るかな?」
「どれぐらい出せばいいですか?初めてなので、相場が分からなくて……」
「急ぐのならば、赤ふたつ依頼じゃから、二ジンで青一点の依頼、六ジンで青二点の依頼にできるのう。
見たところ、お主は冒険者……いや、その腕輪は【ロマンサーテスタメント】かの?」
おじいさんは俺の腕輪に気付いた。
「真っ黒というのは見た事がないが……『ロマンサー』であれば護衛依頼にしてしまうのも手じゃのう……。
この街でダンジョンの緑依頼というのは珍しいから、受けたがる者が増えるかもしれんぞ?
冒険者としては『色なし』のようじゃから、補助ではなく護衛になってしまうか……そうなると最低三十ジンからじゃのう……」
おじいさんが考え込むように髭をしごく。
細かく聞いていくと、次のようなことが分かる。
曰く、依頼の基本は『赤ひとつ』で十ジン、『赤ふたつ』で二十ジン、『赤みっつ』で三十ジンと、素材採取などの赤依頼は基本料金が十ジンずつ増える。
護衛などの緑依頼は『緑ひとつ』で二十ジン、『緑ふたつ』で三十ジンと赤依頼に比べると十ジンずつ上乗せになるらしい。
これが依頼者本人を戦力として数えると、補助となって五ジンの上乗せが基本になる。
さらに、旅の護衛などの依頼だともう少し複雑で、日数手当、危険手当も出さなければならなくなる。
青依頼はそれらの依頼に追加条件を付けたい時に『冒険者互助会』に料金を払うことでつけることができる。
冒険者としては青依頼を積極的に受けることで『冒険者互助会』から便宜を計ってもらえるようになるというシステムらしい。
それと、依頼料は青依頼以外は基本的に冒険者に全額支払われるので、上乗せはご自由にということらしかった。
他にも指名依頼という制度もあるらしいけど、そもそも指名したい冒険者の知り合いがいなかったから関係ない。
ただ、おじいさんによれば五ジンも上乗せすれば、冒険者はつかまるだろうという話だった。
そして、おじいさんのお薦めは緑の護衛依頼にしてしまうということで、この方がより冒険者が集まりやすいだろうという話だった。
『ロマンサー』の依頼は自動的に青一点の依頼として扱われる。何故なら冒険者互助会を作ったのが『ロマンサー』だからというものがあるらしい。
だが、俺としてはダンジョンに潜りたくない。
モンスターと戦うなど勘弁願いたいというのと、『異門召魔術』の判子作りに時間を取らなければならないという理由がある。
「赤依頼で十ジン上乗せ、なるべく早く欲しいので、青依頼二点にしてもらえますか?」
「ふむ、そうなるとしめて、三十六ジンになるのぅ……それだけ出してもらえるなら、すぐ冒険者もつかまるじゃろ」
俺は皮袋から三十六ジン出しておじいさんに渡す。
「後は冒険者バッヂじゃな」
俺は言われるがままに冒険者バッヂを渡す。
魔導具に冒険者バッヂを翳して何やら操作していたおじいさんは、興味深いという風に目を見開いた。
「おや……カーネル殿のお孫さんか……」
「え?じいちゃんを知ってるんですか?」
カーネルというのはじいちゃんの名前だ。
「まあ、少しの。
では、住んでいるのは『知識の塔』かな?」
「あ、うん、そうですど……」
「ふむ、ならば依頼達成の時はそちらに知らせればいいかの?」
俺は頷く。
「普通、街外の依頼人には互助会に来てもらうなりして、確認をもらうんじゃが、『知識の塔』ならば街中扱いでもええじゃろ。有名な場所じゃ。道に迷うこともないでな」
おお、ありがたい!
「……早ければ四日、遅くとも七日くらいで届けられると思うでな……」
「お願いします!」
それから、諸注意なんかを教えてもらって、俺は互助会を後にした。
晩ごはんはアルの生家でもある『バイエル&リート』で取った。
たくさんの優しい言葉と、お土産をもらってしまった。
ついでに食材の配達を頼む。
昔は人が大勢いたのに、じいちゃんも母さんも出不精だったので、しょっちゅうお願いしていた。
そのせいでアルに会えたってのもあるけど。
今は人が減ったので、たまにって感じだ。
リートおばさんは快く受けてくれた。
月に一度、持って来てもらえることになった。
こうして、俺は街が閉まるギリギリに『知識の塔』と呼ばれる自分の家に帰るのだった。
久しぶりに聞いたな……『知識の塔』なんて呼び名。
俺から言わせると、家族の趣味が詰まりに詰まった『趣味の塔』なんだけどね。
「ただいま~」
荷物が重い。
「アル~!手伝って~!」
呼べばアルがやってくる。
アルに細かく指示を出して、荷物を運んでもらう。
こういうことは普通にできるんだよな……。
なんだろ?学習したりしてるのかな?
ふと、思いついたので、アルに今日のこととかアレコレと話しかけたりしてみた。
特にアルに反応はなかったけど、今後も色々と話し掛けてみようと思った。
ちょっと実験みたいで楽しい。いや、普通に話し相手がいることが楽しいのかも……いやいや、あくまでもこれは実験だ。
タナトス魔術型ゾンビの学習実験。
しばらく実験しながら観察してみようと思うのだった。