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いい飯屋知りませんか?お大尽様いぇーい!


朝が近くなったころ、じいちゃんのところに出したアルファが帰ってくる。


アルファには俺が調べた『フツルー領主』レイモン・グレフルと『銀輪騎士団長』アンティ・パストの話と、俺が王から公認死霊術士の内定を貰っているという話、さらにじいちゃんが出掛けてからの少女のメーゼによる襲撃と、俺が先にここまで来られたのが『飛行魔術』によるものであるという話を持って行かせた。

ついでに、ジュン兄のことも聞けるようなら聞いてきてくれと伝えておいた。


風もないのに、木戸がパタリと閉まる。

俺は読んでいた本から顔を上げ、囁くように言う。


「それで?」


アルファの囁きが蝋燭に照らされた室内にゆっくりと流れた。


「カーネル様は、ご主人様と接触しないようにと会議で決まったようです」


ふーん……まあ、じいちゃんは王が認めるくらいに俺に甘いからな。

王の信頼を勝ち得るために必要な措置ってところか。


「それから、こちらの話をしたところ、大層驚かれてました……」


「だろうな……」


少女のメーゼの襲撃が無ければ、慌てて俺が王都まで来て、しなくていい死霊術士としての告白をする必要はなかった。

じいちゃんが来て、『王兄派』なる集団に襲われたから、防備を固めましょう、で良かったのだ。

たまたま、じいちゃんが『王兄派』の内乱が始まる前に間に合ったから、俺の動きが無駄骨になったが、それでも俺がやったことは無駄ではないはずだ。

クーシャを連れて来たことで、すぐに超級冒険者の派遣もできたし、『黄昏のメーゼ』が危険分子だと確認はできた。


だが、遅い。


国の動きが、思うよりも相当、遅い。

俺としては、明日にでも『黄昏のメーゼ』への討伐軍を出して欲しいくらいだが、そのお陰でレイモン・グレフル、アンティ・パストという怪しい奴を見つけたので、一概にダメだとは言えないが……。


「銀輪騎士団長とフツルー領主についてはカーネル様から奏上頂けることになりました」


「ああ。じいちゃんから言ってもらえれば、少しは早くなるか……」


「それから、ジュン様は、聖印と紋章の関係性を調べるためにカーネル様がねじ込んだとかで……」


なるほど……俺が聖印と紋章の関係に着目する遥か前から、じいちゃんは既に着目していたってことか……。

これは、やられたな。さすが、じいちゃんとしか言えない。

こうなると、他の弟子たちも神官やらされてるやつとかいそうだな。


魔術の深淵を覗き込んだら、神官になってましたとか、意味分かんないんだろうな……。


金が貯まったら、弟子全員で奇跡と魔術の総当りとかやるんだろうか……。

ぶるる……と、俺の背筋に冷たいものが伝った。


こうなると、俺は他にどう動くべきか……。

城に居るやつら全員を探る訳にも行かないし、何かとっかかりが欲しい。

じいちゃんに怪しい奴がいないか聞くか。

アルファがいれば、会えなくても連絡は取れるしな。


後は……俺の護衛兼、監視であるセイリアとワツイズから聞くのもいいかもしれない。

なにしろ、アンティ・パストは下級騎士の取り込みに動いている訳だしな。


「アルファ、ありがとう。また明日、じいちゃんと連絡取るために動いてもらうことになりそうだ……」


「かしこまりました……」


俺は読み途中の本に栞を挟んで、少しの仮眠を取ることにするのだった。




目が覚めて、とりあえずセイリアとワツイズに協力を頼んでみるか、と動き出す。


「おはようございます……」

「いや、もう昼前じゃねえか……」


扉を開けると、セイリアと『ガーディアンズ』の魔導具使いが今日の見張りだった。


「おはようございます。さすがに腹が減りました……」


「そりゃ、昼まで寝てりゃあな……」


飽きれたように魔導具使いが言う。

『ガーディアンズ』との関係はかなり友好的だと思う。

何しろ、俺の護衛をしているだけで『冒険者互助会』から凄い金額が貰えている上、俺も【冒険者バッヂ】を付けているから、気楽で気安く声を掛けてくる。

まあ、俺もうるさいこと言わないし、あちこち出掛ける訳でもないから、仕事も楽なんだろう。


アルとアステルは、俺の護衛ということになっているが、かなり自由に動いている。

他の護衛には、そういう契約だからということで納得してもらっている。


「どこか、いい飯屋知りませんか?」


俺はセイリアに聞く。


「はぁ……そうですね……」


金額は高くてもいいので、とにかく美味い店を教えてもらう。

セイリアに勧められたのは貴族たちが多く住む辺りにほど近い、かなりお洒落な店だ。


「折角なので、皆さんも一緒に食べましょう!」


そう言って、多少強引に護衛を店に引っ張り込む。


「今日は俺が奢りますから、皆さん遠慮なさらずに!」


「ふぅー!お大尽様いぇーい!」


ガーディアンズの面々は凄い喜びようだった。

セイリアさんは慌てたように耳打ちしてくる。


「あの、値段の多寡は気にせずと仰ってたので、本当に高い店ですよ……自分も他の貴族の方から数度だけ連れて来ていただいたことがあるという程度なので……」


俺は事も無げに微笑む。


「大丈夫ですよ。これでも俺は金持ちですから!例えば……ほら、最近『近衛騎士団』で採用された『異門騎士ゲートナイト』のかたが使う装備って分かりますか?」


「ええ、この前、大々的にお披露目がありましたから知ってますが、それが何か……?」


「アレね。発案者は俺なんです」


「え!?」


「かなり儲かりました……」


ニヤリと笑う。

セイリアとワツイズは二人ともかなり驚いたようだ。瞳孔開きっぱなしという感じだった。


『ガーディアンズ』は早速、ひとつのテーブルに固まってメニューと睨めっこしているので、俺はウェイターにメニューの上から下までをあっちのテーブルとこっちのテーブルに、と注文して、セイリアとワツイズをこちらのテーブルに促す。


「酒は護衛に問題が出ない範囲でお願いします」


「おっ!いいのかよ!?」


「これでも俺も冒険者ですからね。少しアルコールが入った方が動きが良くなる人もいるってことくらいは理解してますから!」


「ふぅー!お大尽様、いぇーい!」


また『ガーディアンズ』は盛り上がる。

セイリアとワツイズは、コイツらバカか?という目で見ているが、多少騒がしくしてもらった方が、セイリアたちとは話しやすいからいいのだ。


「えーと……俺のことはどこまで知ってますかね?」


俺はセイリアとワツイズに聞く。

さすがに質問が広すぎたか。

疑問顔だ。

少し絞ろう。


「祖父がカーネル・ウォアムで、母がレイル・ウォアム。

『異門召魔術』の発案者にして『飛行魔術』を持って来た『ソウルヘイ』からの使者。

他に何か知ってますか?」


それを聞いただけでセイリアとワツイズは目を白黒させている。


「あれ?聞いてませんか?

どう聞いてます?」


「……あ、その、真偽の計れない内乱の報告をしてきた者と……」


おおう、そりゃ予想外だわ……。

俺の出自が伝わっていないのみならず、そもそも、俺の言葉が疑われていたとは……。

まあ、『魔導飛行機』の中で無理矢理聞かせた話が発端だしな。

王は普段の口調が軽いから誤解しがちだが、気をつけないといけないかもな。


まあ、じいちゃんが来たから『王兄派』の存在くらいは信じてもらえるだろうし、それが『黄昏のメーゼ』と繋がっているかはともかくとして、クーシャの報告によって『黄昏のメーゼ』が国を裏切っていた事実だけは判明している。


俺としては敵対している『黄昏のメーゼ』が『王兄』を立てて、この国を支配したりしたら、非常に困る。

だからこそ、なんとか今のポワレン王の治世を後押ししたいところだが、どうやらポワレン王にしてみれば、じいちゃんや母さんの名前があったところで『信頼』とは別物ということらしい。


『信頼』……それはまあ、今後の課題としてだ。


下級騎士の取り込みに動くアンティ・パストの動きを証明するには、ダイン以外の証言が欲しい。

それもある程度、数を揃えたいところだ。

アンティ・パストが本当に『王兄派』なのであれば、少女のメーゼの口振りからしてもXデーは迫っているはず。

だとすれば、なりふり構わず空手形を乱発して、とりあえず味方を増やしているのではないかと予想している。

『内乱』さえ成功すれば、現王側の大半が粛清、領土や給金が浮くからな。

だが、逆に行けば、現体制下でアンティ・パストが抱えきれない空手形を乱発していれば、それは裏切りの証明になると見ている。


「俺としてはポワレン様に信じていただきたかったんですが……。

そうなると、セイリアさん、ワツイズさんに教えていただきたいことがあるんですよ……」


「あの、我々は確かに監視でもありますが、護衛というのも間違いではなく……」


ワツイズが弁明しようとするのに、手を挙げてそれを遮る。


「大丈夫です。

別に気を悪くしたりしてませんから。

それよりも、最近、同僚の方で、特に功績がないはずなのに、急に出世された方はいませんか?

もしくは、出世を仄めかしている方とか?」


「何故、それを知ってらっしゃるのでしょうか?」


セイリアたちがまたも目を丸くする。

お、当たりか。きっと内密にするよう言われたところで、それを端々から滲ませる奴はいるだろうと思ったんだ。


「正直に言えば、疑っているからです……」


「「え?」」


「俺が内乱の話を奏上したんですよ。噂を集めるくらいは当然やります……」


「……おいおい、内乱とは穏やかじゃないねぇ」


何気ない風に『ガーディアンズ』の斥候が、俺たちの席に座った。


「聞いてたんですか?」


「おう、ひと通りな。あ、安心しな。

これも護衛業務の一環だ。別にこれを利用しようとも思ってねえ。ディープパープルも奈落大王も敵にしたくねえしな……」


他の『ガーディアンズ』は大騒ぎしている中、この斥候は耳聰く聞きつけて来た。いや、わざと『ガーディアンズ』は騒いでいるのか。

時たま、こちらに視線をやる奴がいる。

あと、何気に俺は『王都』で仕事をしていないのに、『奈落大王』の名が広まっていた。

ちくせう……。


「しいて言うなら、リスク管理だな。

兵隊さんたちが変なことしたら、俺たちが守らなきゃならねえからな……」


斥候は少しだけ凄みのある声を出した。


「なに!?」


ワツイズが剣に手をやろうとしたのを、斥候は笑って止める。


「まあまあ……お互い護衛同士だろ。ただ命令系統が違うってだけだ。

んで、俺らとしてはだ。

こちらの『奈落大王』の満足行く仕事ができれば、互助会からたんまり謝礼がもらえて、ディープパープルからも感謝されるって訳だ。

しっかりと頼まれてるからな」


クーシャがわざわざ、『ガーディアンズ』に頼み込んでいってくれたらしい。

くっ……友よ……感謝する……。


「それでだ。奈落大王は兵隊さんたちの情報が欲しいんだろ?

どうだ、俺たちにもう少し小遣い稼ぎさせてみねえか?

これでも、王都で冒険者やってるくらいだ。

それなりに伝手はあるぜ」


おお、まさかこんな話になるとは思わなかった。


「奈落大王ではなく、ヴェイルです。

それで、幾らくらい欲しいですか?」


俺はさらっと二つ名を打ち消しつつ、交渉に入る。


「お、乗るか?さすがお大尽様だ!

そうだな……百ジンも貰えりゃ……」


「分かりました。では、出世を仄めかす兵士一人につき百ジン、それと裏も探ってもらえたらさらに五十ジンでどうです?」


「ぶっ……一人見つけるだけで百かよ……」


斥候が気取って傾けた酒を吹く。


「ええ、裏が取れたら一人につき百五十ジンですね」


「……そりゃ、結構やべえ仕事だな」


ん?高く値段をつけたら逆に尻込みさせてしまった?


「燃えるぜ!」


おう、そうでもなかった。

ただ、これが危ない仕事だってのは理解してくれたらしい。

俺はセイリアたちに向き直る。


「同じ条件で、どうです?」


「いや……その……」


セイリアは迷っているようだ。


「我らでは、冒険者の方のようにしっかりとした情報が取れるか怪しいのだが……」


ワツイズは乗り気だが、自信がないらしい。


「まあ、怪しいやつを教えてくれるだけでもいいですよ。それなら、一人につき二十ジン出します」


「おお!そういうことなら、同僚でそういう話をしている奴がいるんだ……」


ワツイズは三名ほどの名前を挙げる。

俺は所属やら、どこに行けば会えるかなどをメモして、その場で六十ジン渡す。

ワツイズはほくほく顔だ。

すると、セイリアも乗ってきた。

出た名前は一人だけだが、『銀輪騎士団』に行くことになるかもしれないと、そいつは語っていたらしい。

俺は百ジン出した。

セイリアはそれをやんわりと断った。代わりに俺に言う。


「ヴェイル殿は本当にこの国に内乱が起こるかもしれないと思っておられるのだな……」


「ああ、それもかなり迫っていると見ている。

だが、王からの『信頼』がないせいで信じて貰えない。

俺は確信しているが、物証がある訳でもないからな。

なんとか信じるに足る話をと、思っている……」


「分かった。そういうことなら協力しよう」


「助かる……」


と、俺は先程戻された百ジンをもう一度、渡す。


「いや、これを受け取る訳には……」


「ん〜、人間、美味いものを食うとリラックスして、話がしやすくなる。

ここに来た俺たちみたいにな。

そのための資金にでも使ってくれ」


俺が言うとセイリアは肩を竦めて、大きく息を吐く。


「なるほど……いきなり美味い店を、というから何故かと思ったが……冒険者としてはそういうのが一般的なのか?」


「いんや、こんなのは冒険者じゃなくても一般常識だよ、兵隊さん」


そう言ったのは斥候だ。

まあ、セイリアに店を聞いたのは、セイリアが一番の堅物だから、話を聞き出し難いだろうって目算だしな。


「ふむ……そういうものか……」


そう言ってセイリアは金を受け取ったのだった。


その後、俺は大いに食った。

さすが、貴族が使う店。

高い食材は高い食材なりの美味さがある。


「これが『奈落大王』か……」


『ガーディアンズ』の大食らいを自称する盾持ちが震えていたが、それはどうでもいい。


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