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ゲートナイト!ベルチャンガ……


王様への謁見は翌日に急遽、予定を入れてもらえることができた。


俺以外は護衛に雇っただけということになっているので、謁見は俺だけだ。

もちろん、アルとアルファは霊体化して着いてきている。


昨日、ダインに聞いた限りでは、王都での黒い噂などはなかったので、少なくとも表面上は『王兄派』の動きはないように見える。

逆に王都ではなく、地方都市の方が噂が飛び交っているあたり、余計に不穏なモノが漂っているように感じる。


朝から来るように言われ、謁見だが物が大きいため、城の練兵場に『武威徹』を入れる。

ここで先に文官相手に説明。

王様が来るのは昼過ぎになるらしい。


文官への説明が終わると、部屋で待っていて良いと言われるが、せっかくスペースがあるので『武威徹』の最終調整をやらせてもらう。

多少は見栄えが良くなるように、泥落としなんかもやる。


俺の最終目的は、王様に『武威徹』に乗ってもらうことだからな。

現状、かなり簡素化されているとはいえ、『武威徹』の運転は俺しかできない。

つまり、王様に乗ってみたいと思って貰えれば、王様と二人っきりになることができる。

そうすれば、誰にも邪魔されず王様だけに情報を伝えることができるという寸法だ。


魔石と魔法陣の接触面を確認したりしていると、ちょいちょい兵士がやってくる。


「ヴェイル・ウォアム殿ですよね?」


「ああ、そうだけ……じゃなくて、そうですが?」


「やはり……『知識の塔』でお見かけしたもので、一度、ご挨拶をと思っていたのです。

私は近衛騎士団のヒラメノム。

一応、『異門騎士ゲートナイト』を賜った身です」


「ゲートナイト?」


「ええ、近衛騎士の中でもその実力と忠誠を真に認められた者が『異門騎士ゲートナイト』を名乗ることが許されています。

異門騎士ゲートナイト』になると、これが支給されるのです……」


そう言ってヒラメノムが右腕に装着した『異門召魔術』の箱を示す。

おお、つまり俺と同じ『芋ん士』の人か!


「ヴェイル殿は『異門召魔術』の作成者にして、それを使いこなして数多の冒険をこなして来たとカーネル様からお聞きしました。

私は『異門騎士ゲートナイト』を賜りましたが、未だ『異門召魔術』を使いこなしているとは、とても言えず……よろしければヴェイル殿の冒険の話などを聞かせて頂ければと思ったのですが……」


俺は少し考えた末に、最終調整をしながら少しだけということで、話をすることにした。


「ああ、それから自分は魔導士ですから、騎士の方の参考になるとは思えませんが、それでも?」


「ええ、ぜひお願いします!」


俺は問題の出ない範囲で話をしていく。

近衛騎士たちに卸したのは『火の異門召魔術』だけなので、話はそこに終始する。

あれこれと話していくと、どうやらヒラメノム的に参考になる部分もあったようで、感心したり、細かい部分で質問したりと、それなりの反応があった。


「……なるほど、ただ火球として使うだけでなく、モンスター相手の牽制に火柱として振り回し、時にはその場に置くことで手数を増やし、扱い方を変えることで随分と応用の幅があるのですね。勉強になります……」


「自分は魔導士ですから、近付かれないようにするための使い方というのが多いかもしれない、です……」


「いえ、どれだけ強力な力でも当たらなければ意味はない、そう思っていたのですが、敵の動きを制し、選択の幅を縮める。

そこに光があるように見ました。

参考にさせて頂きたいと思います……」


それから、少し世間話をする。

まあ、世間話に偽装した意識調査だ。

王様の治世に反感を抱いている者はいないかとか、金遣いが荒い領主はいるかなどをオクトっぽく商人視点で見ているフリをして、聞いてみる。


俺がじいちゃんの孫だからなのか、俺に近付いてくる騎士や兵士は意外と多い。

金の話をして、多少鼻白む奴もいるが、魔術の研究は金が掛かるので……というと、途端に皆、納得した顔になる。

じいちゃんは王都で魔術について、どんな教えを流布しているんだろうか……。

まあ、『塔』では出資者というのは認めていない、何しろじいちゃんはすぐ新しい魔術などを広く公表してしまうから、口出しされる金はいらん!という考えが基本になっている。

だから、俺の商売話にも付き合ってくれる奴も多かった。


総合すると、東の要塞都市サダラを治める『クルト公爵』というのが不満が多そうだ。

隣国『ワゼン』と隣接していて、現在では停戦協定が結ばれているが、小競り合いが多く、戦費が嵩んで苦しいとたまに愚痴る姿が見られるらしい。

一応、隣国との玄関口だし、いつ戦争再開となるか分からないので、国から補助も出ているのだが、それでも苦しいとなると不満は大きそうだ。


そうして情報を集めながら、『武威徹』の仕上げを進めていると、また文官がやってくる。

そろそろ、王がお見えになるから準備をするようにと言われる。


先程、話していた近衛騎士たちが練兵場の入口に並ぶ。

俺も言われた場所に跪いて、王のお越しを待つ。


「王のお越しである!捧げ、槍!」


練兵場入口に並ぶ近衛騎士たちが槍を交差させ、王を出迎える。

王の周りには文官・武官が付き従う。

王の歩みに合わせて、槍が開かれていく。


王が止まる。俺との距離は十メートルほどだろうか。

王の元へ簡単な椅子が運ばれ、王が座る。


「面を上げよ」


言われた通りに顔を上げる。

王は三十代前半、髭が似合ってない。

見た目で言えば、穏和そうな顔でそれなりに鍛えた身体をしている。


「もう少し近くへ参れ」


立ち上がって数歩、また跪こうとすると、王が言う。


「今少し前へ。もっと、もっと……」


俺が跪こうとする度に、もっと、もっとと言われるので、距離は五メートルない。

いいんだろうか?

俺に叛意があったら、一瞬で詰められる距離なんだが……。

豪胆なのか、じいちゃんの威光が大きいのか、少し迷うな。


「……ふむ。やはりじいの面影があるな。

じいは息災か?」


「……はい」


「それは良かった。して、今日はソウルヘイよりの使者として来たと聞いたが?」


「はい。本日は錬金技師アルケミースミスレイル・ウォアムの名代としてまかりこしました。ヴェイル・ウォアムと申します」


「うん?」


王が訝しげに声を上げる。


「は?」


俺もつい間抜けな声を上げてしまう。


「ベル・ウォアムではなく?」


ぐふっ……色々と想像を巡らせて精神的ダメージを負う。


「じいがこちらに来る度に『ベルちゃんが』『ベルちゃんが』とうるさくてな。

もしかしたら、じいの孫の名前は『ベルチャン』か『ベルチャンガ』なのかと思っておったのだ」


「ぐふっ……」


ちょっと衝撃が大き過ぎて、思わず声が出る。

俺は慌てて無作法を詫びるように手を口に当てる。


そんな俺を見て、王様が笑う。


「ふふふ……あまり堅苦しくせずとも良い。

じいがこちらに来る度にお前のことを事細かに話すのでな。

あまり他人という感じがせんのだ。

取り繕ったベルちゃんというのも面白くはあるが、自然体で接して良いぞ」


そう言って王は立ち上がると、俺に手を差し出してくる。

さすがに王に補助されて立ち上がる訳にもいかないだろ……。


それは王の周りの文官・武官も同じ想いだったようで、何人かから王を諌める言葉が出てくる。


「ポワレン様、いくらカーネル翁の孫とはいえ、お遊びが過ぎます」


「カーネル様は一代限りの名誉貴族。

この者は平民です。さすがにそれは……」


「やれやれ……この国は頭でっかちばかりになってしまったか……嘆かわしいことだ。

そう思わないか、ベルちゃん?」


王は手を差し出したまま、俺に振ってくる。

正直、やめて頂きたい。

ただ、ずっと王が手を出したままなので、あまり固辞するのも失礼だろう。


「国のことまでは分かりかねますが、王がご寛大な御心を持って接してくださっているのは分かります。

失礼致します……」


俺は王の手を借りて立ち上がる。


「うむ、もっと素のベルちゃんで良いのだがな。

今はこれでヨシとするか。

さあ、『飛行魔術』を見せてもらおうか!」


王が俺の横に並ぶので、俺は恐縮して見せながら、近くに置いてある『武威徹』を指し示す。


「はい。こちらが『飛行魔導機』になります」


「うん?『飛行魔術』とは違うのか?」


「はい、恐れながら、『ソウルヘイ』にて発見されました『飛行魔術』ですが、解読を進めましたところ、翼竜の持つ『飛行魔法』などと毛色の違う魔法陣だということが判明致しました。

ですが、それを応用して作り上げましたのが、こちらの『飛行魔導機』になります」


「ふむ、見慣れぬ物があるとは思っていたが、これはどういう物だ?」


俺は説明を始める。

なんか普通に王が俺の肩に手を置いて気安いのが気になるが、それを考えるのは放棄した。

王の側近たちの視線は痛いが気にしてたら話が進まない。


「簡単に言えば『空飛ぶ馬車』のようなものです」


「ほう……」


「少し動かしてお見せしたいので、人手をお借りしたいのですが……」


「よかろう……何人使う?」


「おひとりだけ、お願いします」


王の指示で近衛騎士の一人がやってくる。

あ、さっき挨拶した……ヒラメ……そうだ、ヒラメノム氏だ。

俺は『武威徹』に魔石をセット、浮遊だけ起動させて、ヒラメノム氏に『武威徹』を曳いてもらう。


「なっ……軽い……」


ヒラメノム氏が驚く。


「そのまま、王の前までお願いします」


「あ、ああ……」


ヒラメノム氏が片手で『武威徹』を曳行する。

王の周りの文官・武官がざわざわしだす。

俺たちを囲むようにしている近衛騎士たちも、声に出したりはしないが、皆、一様に驚いているようだ。


「……なるほど、空飛ぶ馬車か」


俺は一度、『武威徹』を下に降ろして、王の前に跪く。


「これがソウルヘイ錬金館、セプテンの作り上げました『飛行魔導機』。

その名も『武威徹・弐壱型』にございます」


シン、と辺りが静まり返る。

そんな中、一人の側近が声を上げる。


「それが『飛行魔術』だと?

それでは精々が『浮遊魔術』ではないか!」


「うむ、確かにそうだな。カラーゲの申す通り、『飛行魔術』とは似て非なるものと言わざるを得ない」


俺は顔を上げて言う。


「飛びますよ。

今は皆様を驚かせるのもどうかと思い、人手をお借りして曳行させましたが、もちろん『飛行魔導機』をうたう以上、これは一人で操って飛びます。

お見せしましょうか?」


「ほう、それはぜひ見たいものだな」


「では、安全性の確認のためにもヒラメノム様、同乗して頂けますか?」


「わ、私ですか?

え、ええ、私でよければ……」


俺はヒラメノム氏に同乗してもらい、今度こそ飛ぶ。

あまりスピードを出す気もないので風防は開けたままだ。


フワリ、『武威徹』が浮き上がる。

右足のペダルをゆっくりと踏み込めば前進する。


「「「おお……!」」」


歓声が上がる。


「このまま少し飛び回ります。安全帯を付けて下さい」


ヒラメノム氏に告げる。


「は、はい……」


まだ地上、一メートルに満たない高さだ。

速度もかなりゆっくりなので、ヒラメノム氏の緊張は初めての体験によるものだろう。


高さを五メートルほどまで上げる。


「お、お、お……」


右旋回、左旋回、何か動きを入れる度に地上からは歓声が聞こえる。


少しだけ、遊ぶか。

俺は風防を閉じる。


「少しだけ揺れます。辛かったら言って下さい……」


高度を取る。スピードを上げる。

それだけで練兵場を飛び出してしまう。


「お、お、おお!す、凄い!鳥だ!あ、あんなに城が……お、おひゅ……」


急降下すると、負荷が掛かって変な気分になる。

慣れるとちょっと面白くなってくるけどな。


俺は練兵場に戻って、スピードを落とすと、ゆっくり逆噴射をかける。

徐々に降下していく。

止まるのが難しい。

多少、前に行ったり、後ろに行ったりしながら、どうにか止まることができた。

最後に、ドスンと落ちる感じで止まるしかないのは、まだ改良の余地がある。


「お疲れ様でした。大丈夫ですか?」


声が出ないのか、ヒラメノム氏はコクコクと頷く。


「……凄い……鳥でした。まるで自分が鳥になったような……さすがは『知識の塔』のヴェイル殿……」


たぶん、本人は何言ってるか理解してないかもな。

俺は礼を言って、降りるように促す。


『武威徹』から降りた瞬間、ヒラメノム氏はへたり込んでしまった。

安全のために王たちから少し離れた場所に停めたので、ヒラメノム氏に肩を貸して歩く。


どこからか、拍手が起こる。

それに吊られるように、あちこちから拍手が、警備のはずの近衛騎士たちも拍手して、あちこちから賞賛の声が上がっていた。


俺は王の前まで行く。


「まさに『飛行』!素晴らしい!」


「よろしければ、一度、ポワレン様も空を味わいますか?」


なるべくにこやかに、ここが正念場だと気付かれないように、さらりと王に聞く。


「おお!うむ、ぜひ頼む!」


よっしゃ!掛かった!俺は内心で歓喜する。

直訴だ!直訴ができる!


王の側近たちにはヒラメノム氏の感想を聞いてもらうとしよう。

みんながヒラメノム氏に注目している間に、俺は王を案内するのだった。


人物紹介

ヒラメノム・ニエル

ニエル子爵家の三男坊、近衛騎士団所属の異門騎士ゲートナイト

ベルにマジリスペクトっすって言ったために『武威徹』の実験台にされた。

でも、そのお陰でベルへのリスペクト度は上がった模様。


カラーゲ・クーン

宮廷魔導士・筆頭。百メートル級の紋章魔術三つを使いこなす天才。

カーネルの後釜として筆頭の地位にいるが、カーネルのせいで存在が空気。

今は詠唱魔術を勉強中。一代限りの名誉貴族。


ベルチャンガ

魔導士にして錬金技師の天才発明マンにして神童。

家から出ることはないが、その知識と技は祖父と母からしっかりと受け継いでいるらしい。

神の啓示かと思うような何気ないひと言がたくさんの人、主に家の弟子や祖父を救った。勘違いという噂もある。

「誰だそれ……」とは本人の談。

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