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人でなし……、隊長!


俺たちは機を見計らって、街道へと出る。

『スッシー』は近くにある深い森の中だ。

俺とアルが、今は『武威徹、弐壱型』に乗り、アステル、クーシャはその横で歩いている。


すれ違った馬車がこちらの異様な光景にギョッとなるが、無視して進む。

たぶん、普通に街道を人が行き交っているので、まだ王都に混乱はない。

メーゼたちの狙う『革命』が起きてたら、こんな普通に人が行き交っているとは思えないからな。


王都『スペシャリエ』は城塞都市だ。

同時に物流の中心でもある。

王の城を中心にぐるりを城壁が囲い、近場に小さな『神の試練ダンジョン』はあるものの、そこは兵士たちの鍛錬場と化していて、冒険者が少ない。

城壁の外は穀倉地帯が広がっていて、ある意味、長閑な風情がある。


左右に小麦畑が広がる中を王都に入るための列がゆっくりと進んでいく。

だが、どうも俺たちの周りだけがうるさい。


今、武威徹は推進機関を使わず浮かせているだけで、それを一番体力に余裕のあるクーシャに曳いてもらっている。

アステルは王都に入るに当たって、会いたくない人がいるとのことで、口元を布で隠している。


浮遊する円盤に乗るデブと金属鎧の戦士、軽装で円盤を曳く白ターバンの男とその横を歩く半ば覆面状態の女性。


怪しい……。

俺が言うのもなんだが、異国から来た面妖な輩が奴隷をこき使ってこの街まで来たみたいになっている……。


ちなみにコウス王国には奴隷制度はない。

ただし、他国の奴隷制度に口出しすることもない。国としては、だ。

奴隷を連れて他国から来た人たちは、まず冷たい耳目を集めることになる。

例えば、今の俺たちのように噂話があちこちで聞こえる。


「野蛮人……」「人でなし……」「よくこの国で堂々と……」


次第に噂が広がっていく。

でも、決して俺たちに話し掛けることはない。

うわぁ、いたたまれなくなってくる……。

降りた方がいい気がしてくるが、俺は『武威徹』の浮遊を維持しなきゃならないからな……。


「アル、降りるか?」


「降りない……」


アルは頑なに降りようとしない。

睨まれるだけだろうに……。

肉体を得てから初めての『魔導飛行機』体験。

出発時はとても楽しそうに乗っていたアルだったが、今は不機嫌を絵に描いたような雰囲気がビシバシとしている。

ついでに睨むなよ。アルが周りを睨むと、余計に悪い噂が広まるだろうに……。

降りてしまえば、突き刺さる視線からは解放されるはずなんだけどな……。


そうして、多少の騒ぎを巻き起こしつつも順番待ちをしていると、都市の方から何人かの兵士が出てくる。


「こら!何を騒いでいるか!」


ざわざわと他の順番待ちらしき人々が何やら兵士たちに訴えている。


「よいか!我が国は他国の政治形態に口出しをしない!

我が国で犯罪なりを犯したならばともかく、そうでないなら罰することなど出来ん!」


「馬車ほどもある大きな乗り物を一人で曳かされてるんだぞ!」


「そうだ!可哀想じゃないか!」


「ええい!黙れ!それ以上、口さがないことを申せば、お前たちを罰するぞ!」


兵士の一人が半ばキレかけたように怒鳴る。


「まあ、待て待て……お前たちも待つんだ。

ちゃんと俺たちが確認するから……」


「隊長……」


「ほら、確認するから通してくれ!」


そんな声が聞こえて、少し身形の整った兵士とそれに付き従う兵士がこちらへとやってくる。


「あー、騒がせてすまんな……あんたら、ちょっと目立ち過ぎて……なんじゃこりゃ!?どうやって動いてんだ?」


俺を見上げる形になって眩しいのか、細めた目で言ってから驚いて立ち尽くすのは、ダイン?


「ダイン?」


「あ?俺を知ってるのか?」


ああ、俺が『アンデッド図鑑』を求めて旅した時に出会った馬車の護衛、『赤いつつ』冒険者のダインだ。

最初はその態度の悪さに辟易とさせられたが、別れ際は商人のカモっさんと意気投合、最後は……別に仲良くなった訳ではないが、旅の同行者だったと認めるのもやぶさかでない、くらいの間柄だ。

確か貴族の息子で冒険者として『赤いつつ』になるまで帰ってくるなと放逐された奴だ。

それで、無事に帰って、今は門の警備兵を纏める隊長ってことなのかな。


ダインが手で庇を作って、どうにか俺の顔を見る。

すると、目を丸くして、それから『魔導飛行機』やら、クーシャとアステルやらを見て、また目を丸くする。


「奈落大王……」


どうやら覚えていてくれたようだ。あまり覚えていて欲しくなかった異名で。


「ヴェイルな……」


一応、訂正しておく。


「なんで……いや、これは……じゃなくて、どういうこった?

異国のバカな商人って聞いたのに……」


ダインは忙しく俺、武威徹、クーシャとアステルと眺めて、また俺へと視線を向ける。


「あ、いや、奈落大王がバカとかそういう意味じゃなくてな……ええと、どれから驚けばいい?」


「俺に聞くなよ……」


「お、おう、そうだよな……ええと、そうだな……ちょっとここじゃ目立ち過ぎだ。

着いてきてくれ」




場所は変わって、警備兵の詰所だな。


「いや、まさか王都で奈落大王に会うことになるとはな……それと、そっちで顔を隠してるのはハロ……いや、あの時のお嬢さんだろ?」


お茶は出ないが、水の一杯くらいはみんなに振る舞われて、ダインと世間話が始まる。


「それで、あんたは奴隷なのか?」


「僕が!?」


奴隷呼ばわりされたクーシャが自分を指さして驚く。


「いや、そういう噂になってたって話でな。

よければ身分証を見せて貰いたいんだが……」


魔導具を部下に持ってこさせたダインが身分証の提示を求める。


「俺たちも出した方がいいよな?」


「ああ、頼む。何しろここは王都だからな」


誇らしげにダインが胸を張った。


クーシャが取り出した【冒険者バッヂ】、そして全員がそれぞれに【冒険者バッヂ】を出す。

確認用魔導具にかける前から、ダインの動きが止まる。


「ちょちょちょ……アンタ、まさか……」


クーシャはそれに答えず、魔導具へとバッヂを置く。

映し出される結果にダインが目を剥いた。


「なんで?あ、いや、その……サ、サインもらえないか?」


クーシャが不思議そうな顔をする。


「ダインは元『赤いつつ』冒険者なんだ。

逸話でも聞いてるんじゃないか?」


「あ、ああ、そうなんだ!

踏破したダンジョンは数知れず、時にはひと月もの間、ダンジョンに篭って延々とモンスターを狩り続ける男……『ディープパープル』は俺の憧れなんだ!」


ダインは捲し立てるように言葉を紡ぐ。

興奮と驚きが綯い交ぜになって、顔が真っ赤だ。


「いや、そんな大層な者じゃないけれど……」


「違う!アンタはすげえ男だ!不味い携帯食に不満も言わず、互助会の無茶な要求に答え続けた!

そのくせ、他の超級冒険者のように増長することなく、下の者にも常に優しく接する。

男として、憧れない訳がない!」


「いや、そんな……」


やめたげてー!

携帯食好きな可哀想な味覚なんだよ、クーシャは。

互助会の無茶な要求は断れるメンタルしてなかったの!

他人が怖いぼっちなクーシャは普段は爽やかイケメンな演技で必死に誤魔化してんだよ!

みたいな擁護をすると逆に可哀想になるからしないが、今のクーシャは引き攣った笑顔をしている。


俺たちといる時は普通にしていられて楽みたいなんだが、やはり、誰とでも仲良くとはいかないらしい。


「ダイン、どうかしたのか?」


興奮して騒ぐダインに、何事かと別の兵士が入って来る。

一般の警備兵より少しだけいい格好をしている。


「聞いてくれ、カンドゥ!『ディープパープル』だ!『ディープパープル』なんだよ!」


「お、おう……部下たちの手前もあるんだ、少しは抑えてくれ……って、奈落大王じゃないか。

ダイン隊長のお知り合いのようで……なんて部下たちが言ってたから、誰かと思ってたよ。

しばらくぶりだな。元気してたか?」


誰かと思えばダインの相棒のカンドゥだった。


それから、俺たちはダインを宥めて、ようやく話ができたのだった。


それによれば、ダインはこの門の警備隊長でカンドゥはその副隊長をやっているらしい。

それから、俺たちへの誤解も解くことができた。

俺は異国の人間じゃないし、クーシャが『ディープパープル』だと分かったしな。


「それで、なんで奈落大王は王都に?」


カンドゥは職務に忠実なようだ。

俺は、ソウルヘイの『飛行魔術』のお披露目に来たと目的を語る。

さすがに『王兄派』なる不穏分子の魔の手が迫っていることをご注進差し上げに来たとは言わない。

これは誰が敵か分からない状態で話せる話じゃないからな。


「な……もしかして、お前が乗ってきたアレか?」


「そうだよ」


「バ……お、おい、すぐに何人か回して警備を!」


表の駐車スペースにぞんざいに置かざるを得なかった『武威徹』は慌てて保護されるのだった。


それから、兵士の一人が慌てて城まで走る。


こりゃ待たされそうだ……。

ダインたちに最近の王都の様子なんかを聞きながら、ゆっくりするしかないな。

俺は荷物から干し肉を出して、齧り始めるのだった。


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