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震える。なんでいんの?


二日後。

秘密兵器こと『スッシー』でソウルヘイの森の外れに乗り付けた俺たちは、セプテンの錬金館を訪れていた。

ちなみに『スッシー』と提督を見たクーシャは「ふおぉぉぉ……な、なんかワクワクする……」と訳の分からない興奮の仕方をしていたことを付け足しておく。


「……という訳で、武威徹ブイトールを一台くれ!」


俺は、母さんとセプテン、サンディを前に大見得を切った。

もちろん、言えるだけ全ての状況を説明した上でだ。


「……分かった。それじゃ、今晩ひと晩で組み上げようじゃないか……」


母さんが腕組みしながら言う。

今の状況を理解してくれたようだ。

いや、理解を通り過ぎて、賛同、諸手を挙げての積極的、了承というか……。


「し、師匠……」


セプテンが震える。


「いや、今あるのでいいんだけど……」


俺も震える。


「なーに、そんなに身構えるこっちゃないだろ?

王様にお見せするんだ。レイル派として、最低限の体裁くらいは整えようって話さ……」


母さんの最低限……いや、師匠の最低限か……。

九割八部で、武威徹に使われる数多ある魔法陣を全部整えるんですか……やーだー、それ、めちゃくちゃヤバいデスマーチじゃないですか……。


「あの……私はどうすれば……」


サンディがおそるおそる母さんに聞く。


「サンディはいつも通りでいいよ。まだ、子供なんだ。夜は寝るのが子供の仕事だよ。

その代わりって訳でもないけどね。

今から領主館に行って、かき集められるだけ人手を寄越してくれるように、言ってきてくれるかい」


「は、はい!」


「な、何かお手伝いできることがあれば!」


手を上げるのはアステルだ。

ちなみに、今ここにアルとクーシャはいない。

二人には別のことを頼んである。

魔石、主に魔宝石を買えるだけ買い漁って貰っている。

昨日は『テイサイート』で同じことをした。

『スッシー』は魔宝石じゃないと動かないからな。

母さんとアルはまだ会わせる訳にいかないし、アルを一人にする訳にもいかない。

なので、俺とアステルで武威徹を貰ったら、夜に『スッシー』のところで待ち合わせの予定だったんだけど……こりゃ、途中でアルファにでも伝言を任せるしかないかもな。


「じゃあ、アステルさんには私らの補助をお願いしようか」


「はい!頑張ります!」


昨日の夜中にこっそりソウルヘイまで来て、今は朝一番で錬金館。

たしかにまだ予定には余裕があるが、なるべく早く王様と謁見したいんだけどな……。


「じゃあ、始めるよ!」


母さんの号令で、俺たちは動き出すのだった。


時間は進む。

最新型の武威徹は翼竜の皮膜やら魔鉄やらを使って軽量化、強靭化され、魔法陣を成型する素材もミスリル銀という魔法金属に変更されていた。

風防にも硬化したミズゼリーフィッシュという魔物素材を使っていたり、あちらこちらが変化している。

全体的に丸い形をしている。

ドデカスライムの上にデカスライムを載せたような形と言えばいいだろうか。

ドデカスライムの下には五匹のスライムが上下逆にしたように足代わりについている。


それにしても、ミスリル銀の加工がヤバい。


取り付け場所によって他の金属を混ぜた合金にしているらしく、加工の難易度が半端じゃない。

硬いのから、柔らかいの、脆いのなんかもあって、やり直しできない脆い魔法陣を打つ時は極度の集中を必要とする。


「これはどこに繋げれば?」


サンディが呼んできた人手か。

俺は一度、手を休めて、設計図を確認する。


「ええと、右翼側面五番……」


と、説明しながら動きが止まる。

だって、領主のクイラスだったら、思わず止まるよな。


「なんでいんの?」


「師匠がいらっしゃっていると聞き、いてもいられず……」


おまえ、領主やんけー!と叫びたい衝動を必至に抑える。


「クイラス様、それはわたくしめが……」


「触るな、バカ者!お前のバカ力で魔法陣が歪んだらどうする!」


「はっ!申し訳ございません!」


あ、前の監督官の馬鹿息子……のスコーチだったか。


「ヴェイル様……その節はお世話になりました……」


スコーチは深々と頭を下げる。


「あ、ああ、いや、別に……」


スコーチは無事に生き残って、またクイラスの元で働いているらしい。

まあ、そうなるように動いたからだが、随分と恩義を感じてくれているらしいことは、頭の下げ具合でわかる。


「ベル!手が止まってるだろ!」


母さ、いや、師匠が俺の失敗作のミスリル銀を投げつけてくる。

直撃コースではないのが、せめてもの慈悲だろうか。

金属製の板なので、近くの棚に突きたっているが……。


俺は慌てて作業に戻る。


師匠モードの母さんは手が出るからな。

クイラスとスコーチも真っ青な顔になって、そそくさと作業部屋を出ていく。


「ベル兄さん、右翼下部一番、二番、お願いします!」


「ああ、一番、二番な!」


「それが終わったら、開閉弁をお願いします!」


サンディは寝る時間になるまでは精一杯にやってくれている。

全体の動きを把握して、仕事の割り振り、各員の様子を確認して適度に休憩を入れさせる、合間に食事の用意や炉の温度調整と休む暇なしに動いている。

アステルも同じように動いてくれているが、さすがに仕事の割り振りはできない。

専門じゃないからな。


サンディが寝たら、仕事の割り振りはセプテンがやる。

母さんは魔法陣に集中してもらった方が効率がいいし、俺は正直、そこまでの余裕がない。


ひたすらに割り振られた仕事に全力投球して、夜が空ける頃、レイル派として最低限の仕事、魔法陣の正答率九割八部が全てに施された『武威徹ブイトール弐壱ニッチ型』が完成したのだった。

弐壱型は希少素材をふんだんに使用しつつ、運用のための魔石消費を極限まで抑えた周遊観光専用機と言える。

パワーやスピードを抑え目、とは言っても馬車などとは比べ物にならないが、あくまでお披露目を目的とした『魔導飛行機』である。

乗員二名、貨物部分を座席に変換すれば、一応、三名までは乗れる。


「できあがるものですな……」


感慨深いという感じで、錬金館の裏庭に直座りしたクイラスが言う。

領主のくせに徹夜で仕事を手伝ってたのかよ……。


「まあ、最終調整なんかは俺が移動中にやるから、とりあえず組み上がったって感じだけどな……」


「なるほど……」


「部品なんかは今までの試作機からの流用も多いし、正直、コレを王様にお披露目となると、母さんやセプテンは思う所も多々あるとは思う……」


「いや、しかし、今まで見せてもらった試作機の中では一番の出来だと思いますが……」


「ああ、一番なのは間違いない……完成品かどうかは別にしてな……」


「何故、ここまで急ぐ必要が?」


「ああ、詳しくはセプテンに伝えてある。

悪いけど、今は急ぎたいから、このまま失礼するよ……」


そう言って俺は立ち上がる。


「なるほど……詳しくはセプテンから聞くとして……。

師匠はまた、行ってしまうのですね……」


クイラスは何とも悔しそうだ。


「ああ、悪いな。いつか、時間が取れるようになったら、また魔術談義でもしよう」


「はい。では、一日千秋の想いでお待ちしております……」


クイラスは聞き分け良く、頭を下げた。


「坊ちゃん!一応、飛び立てるようにはしましたが……」


セプテンが手を上げる。


「ベルちゃん、お父さんのこと、お願いね……」


母さんが個人で集めていた魔石を袋ごと俺に渡してくれる。

魔宝石を幾つか融通して欲しいとお願いしたのは俺だ。

俺は弐壱型に乗り込んで、母さんに応える。


「うん、母さん、ありがとう!

じいちゃんのことは任せてよ!

俺の助力がなくてもじいちゃんに心配はいらないとは思うけど、やりすぎないように見ている人間は必要だと思うからね……。

アステル!行こう!」


俺はアステルに手を伸ばす。


「はい!」


アステルの搭乗を補助して、宝晶石や魔晶石をセット。

風防を閉鎖する。


大きく手を振るソウルヘイ領のみんなに親指を立てて、サムズアップ。


俺は『武威徹弐壱型』を空へと飛び立たせるのだった。


弐壱型はいわゆる円盤型UFO

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