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モウ、アンシン!何しに来たんだ……


俺とクーシャはたくさんのことを話した。

もちろん、誤解は解いた上での話だ。

親愛と愛情は別物だからな。


そして、クーシャは今、俺の研究所のトウルの部屋で模擬戦をやっている。

アルとアステルも研究所だ。


俺は『塔』の自室でクーシャのお土産である『神の水』を『闇月水』と仮定して、他の素材について、色々と調べ物をしている。


現状、他に必要な素材は……

・魔神の血

・鬼の心臓

・魔女のスープ

・魔宝石


分かっているのは、魔神の血は最高難易度ダンジョンの最下層辺りで取れることと、魔宝石はある。


鬼の心臓……これはオーガの心臓でいいんだろうか?

どうも、そんな簡単ではないような気がしている。

確かにオーガ系モンスターには、自己回復能力があるのでヴァンパイアに必須なような気はするが、伝承に謳われるヴァンパイアは自己回復なんて生易しいものではなく、半ば再生と呼んでいいほどの回復力を誇る。

傷が塞がるのが『回復』であるなら、失くした四肢が新たに生えるのが『再生』もしくは『再生成』と呼ぶべきヴァンパイアの能力だ。


『サルガタナス』の記述として、オーガの心臓ではなく、鬼の心臓とあるのも、俺が躊躇う理由だ。

鬼……オーガ系種族を指す古語だ。

『再生』くらいの力を持つオーガがいれば、使う気にもなるんだが。


魔女のスープは絵本にヒントがあった『闇月水』のことがあるので、魔女の出る本を読み直している。

絵本や伝承なんかに『魔女のスープ』の記述があったように記憶しているが、どの本だったかまでは思い出せない。


ちなみにクーシャは暫くの間、『塔』に滞在することになっている。

今、家にじいちゃんが居ない理由を説明したのが発端だ。

王兄派なる怪しげな集団に狙われる可能性があると説明したところ、それなら護衛がてら暫く滞在したいと、クーシャから申し出があったのだ。

まあ、元からクーシャとしては暫く滞在して、俺との友誼を深められれば、という想いで来たらしいので、ついでに護衛もするという程度の話らしい。


ついでで護衛が務められる超級冒険者か……。

まあ、モンスターだらけで常に神経を張り詰めっぱなしのダンジョンに住むことに比べれば、楽だと言っていたので、素直に頼むことにする。

というか、ダンジョンは住むって認識なんだな、クーシャ……。


「ただいまー!」


アルの声が外から響く。

俺は読みかけの本を置いて、入口へと向かう。


「おかえり。なんか戻るの早くないか?まだ、夕食の準備すらしてないぞ?」


ここ数日、昼から夕方までは、クーシャとアルは他のアンデッドたちを巻き込んで修行をしている。

今日はアステルも一緒に行っている。


そんな、アル、アステル、クーシャにトールまでが一緒になって『塔』へと戻って来ていた。

まだ三時くらいだぞ?


「うん、クーシャがね、戻ろうって!」


「どうもね……嫌な予感がするんだ……ダンジョンでいうボス部屋直前みたいなさ……」


クーシャが、いや、今の演技してるっぽい話し方は『ディープパープル』と呼ぶべきか。


「だから、トウルも来てるのか?」


「ワガシュシン……トールガキタカラ、モウ、アンシン!」


エインヘリアルのベルセルク、脳筋アンデッドのトールが胸を叩く。


「うん、まだ敵らしきやつの影も形も見てないけどな……」


俺が脳筋にツッコミを入れると、アルが『塔』から延びる街への道の方に視線をやる。


「ベル、誰か来てる……」


アルは小脇に抱えている兜をゆっくりと被る。

どうやら、アルも嗅ぎつけたようだ。


「アルとトウルはとりあえず中へ……」


「でも……」


「まずは見極めないとな。

大丈夫。クーシャもアステルもいてくれる!

それに、アルとトウルは伏兵してくれた方がいい!」


俺の目線にクーシャとアステルが頷く。


「危ないと思ったら呼んでよね!」


「ああ」


アルに答えて、俺は道へと視線を向ける。

アルに引かれてトールが『塔』の中へと身を潜ませる。

その直後くらいに、大きめの馬車が見える。

貴族ほどではないが、豪華な馬車だ。

それが俺たちの目の前で止まる。


御者の人物が扉を開け、中にいる者をエスコートする。


「随分と寂れた場所にあるのね……これが叡智の塔とは思えないしょぼさなの……」


それはドレスを着て、これから夜会にでも行くのかというような『黄昏のメーゼ』だった。

しかも、俺が知る四人のメーゼの中でも、一番苦手と思えるタイプ。

少女のメーゼだ。


「何しに来たんだ、メーゼ……」


俺は油断なく『異門召魔術』へと手を這わせながら、聞く。


「いやだわ……客の出迎え方も知らないなんて……やっぱり、メーゼじゃなくて、メーゼが来れば良かったのに……」


「相変わらずうぜぇな……じゃなくて、一応、別のメーゼと休戦の約束はしてるはずだぞ。

早く用件だけ伝えて帰れよ……」


「何なの、お前!

口の聞き方ひとつ知らないの!?」


少女のメーゼは激昴するが、クーシャもアステルも落ち着いて成り行きを見守ってくれている。

アステルは知っているし、クーシャにも昨日中に俺の状況は包み隠さず伝えてある。


「どこの世界に、相容れないとお互いに分かっている相手に礼を尽くすバカがいるんだ?」


俺は普通に挑発する。

一瞬、少女のメーゼの目が吊り上がるが、何を思ったのか、どうにか激情を抑え込んでいく。


「……くっ……ふっ……こ、これを見ても、まだそういうことを言えますかしら……」


ずい、と差し出された書状の頭には『最後通告』とあった。


確認しよう。確認した。

纏めると、俺が『黄昏のメーゼ』の一人になるか、『黄昏のメーゼ』と全面戦争するか選べというものだった。

全面戦争するならば、『黄昏のメーゼ』側は世界中の神殿を総動員して俺を潰す準備があるらしい。

更に、いたずらに死霊術を操り、死者を冒涜し、国に害成す者として訴える用意もあるらしい。


やあやあ、遂に来るべき時が来たということか。

それにしても、いきなりだったな。

いや、いくつか予兆はあったのかもしれない。

東方面の治安の悪化、『オドブル』近郊にアンデッドが出現しているという噂、そういえば王都に政変があるかもという噂もあったか。

あれなどは例の『革命軍』の話だったのかもしれない。


そういう方向で考えを進めて行くと、見えて来るものもある。

世界中の神殿を総動員するなんてことが『黄昏のメーゼ』に可能だろうか?

普通に考えれば、答えはNOだ。

ただでさえ『黄昏のメーゼ』は死霊術士として、神殿からは嫌われている。


では、神殿を動かし得る人物とは?

ひとつは『主神』を祀る宗教家たちの国、神聖国の『教皇』ということになるだろう。

もうひとつは、その『教皇』と対等に取り引きが出来る者たち、即ち『国王』だ。

『主神』を崇める者を優遇したり、巨大神殿の建立なんかを約束すれば、人間一人を神敵認定するくらいは簡単だ。


それを補強する情報は国に訴えるという部分だろう。

いくら『黄昏のメーゼ』だとしても、現国王は未だに俺のじいちゃんに敬意を持って接するくらいだ。

そのじいちゃんの孫である俺を訴えたとして、国が取り引きして神聖国から神敵認定まで引き出すだろうか?

正直、現実的じゃない。


では、それが現実的に可能になるとしたら。


これはもう、推測でしかないが、収束ではある。


「……なるほど。

王兄『フォート・フォル・コウス』の死体でも見つけたか?」


「な、なんの話かしら……」


「「え!?」」


少女のメーゼはシラを切り、アステルとクーシャは驚いたように俺を見た。


「よくもまあ、まだ実現してすらいない『革命』をネタに、俺に最後通告なんか持って来られたな……」


ふんす、と鼻で笑ってやるが、正直、俺の頭の中では目まぐるしく計算を立てている。

確かに、まだ『革命』は成されていない。

だが、即日の内に『革命』が成される可能性だって皆無ではないのだ。

『黄昏のメーゼ』が『革命軍』を裏で操っているのは、もうほぼ確定でいいだろう。


問題はそれがどこまで進んでいるのかだ。

家の『塔』を襲った連中は、元国軍兵の爪弾き、この一点を見れば、国軍そのものを動かす程の影響力はまだないともとれるが、既に軍部を掌握しつつ、敢えてこちらの力量を測る目的でぶつけて来たのなら話はガラリと変わる。


「じゃあ、メーゼに潰されることを選ぶのねっ!」


「おいおい、そんな短絡的に物事を捉えていいのかよ。

知っての通り、俺は『叡智の塔』大魔導士アークウィザードカーネルの孫で、大魔導士カーネルは先々代、先代、今代と三代に渡ってコウス王家を、陰に日向に支えて来た重鎮だぞ。

今代の王がポワレン様である限り、国軍は動かないし、神聖国とて同じことだ。

これを成しうるのは、どういう状況か、少し考えれば分かることだ。

そして、お前らの『革命』が成るのに、どれだけの時間が掛かる?

急げよ。

明日には王の耳に届いているかもしれないぞ?」


「ふん……メーゼがなんのためにここまで来たと思っているの?

子供の使いじゃないのよ!」


「いや、お前、子供だよ!」


つい、ツッコミを入れてしまうが、少女のメーゼは俺にジトッとした目を向けただけで、ドレスの裾から紙片を取り出す。

御者が馬車に備え付けのランタンを持って近付いてくる。


「この辺りは最近、『ゼリ』のダンジョンの対になったそうね……。

周り中のモンスターをアンデッド化してやろうかしら……ふふん……」


少女のメーゼが持つ紙片に御者が火をつける。

燃え上がった炎の中から一冊の本が出てくる。

魔導書『ミカ……』いや、あれはじいちゃんが勘違いして出た題名か。

魔導書『ウリエル』だったか。

他の魔導書から知識を掠め取って、成長する魔導書。しかし、その知識は取り込んだメーゼが覚えている知識に限られるため、半端な魔導書だと言える。


まあ、それはそれとして……。

メーゼにモンスターをアンデッド化してもらうまでもなく、ここら辺のモンスターは続々と俺の配下のアンデッドと化しているんだが、教えてやるべきだろうか……。


俺が考えていると、『塔』の扉がバン!と開く。


「ヌウオォォォォォォッ!

ワガシュシンノ、テキ、タオス!」


「エインヘリアル……ふん、居るのは分かってたわ!

対策してくるに決まってるでしょ!」


何故か飛び出してきたトウルに、俺は頭を抱えるのだった。

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