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キャラ作りかよ……我、不満……


アルが依頼を受ける気まんまんで、依頼票を眺めていく。


「これ、やる……」


あ、アステルがいるからと思って、いきなり『赤みっつ依頼』とか選んだな。

本来、冒険者として登録したばかりのアルは『色なし依頼』からスタートしなければならないが、『赤みっつ冒険者』であるアステルが依頼を受ける形をとれば、『赤みっつ依頼』を受けることも可能ではある。


それはそうと、何故かさっきからアルの口調がカタコトになってるのはなんでだろう?

まあ、聞いてみるのが早いか。


「なあ、なんでさっきからカタコト?」


すると、アルは俺の足を踏みつけて身体を寄せ、小声で言う。


「普通に話して、私だって気づかれる訳にいかないでしょ……知り合いがいたらどうすんのよ……」


対する俺も小声になる。


「キャラ作りかよ……まあ、有効かもな……それよりもな……お前、俺の足踏んでる……」


「わざとよ……」


あ、わざと踏んでるのね。

俺の察しが悪いことに対する抗議なのね。

いや、軽く踏んでるだけだから、むちゃくちゃ痛いとかはないけど、別に痛くないわけでもないんだけど……。


俺がジト目でアルに抗議の視線を送ると、アルは踏んでる足を外す直前、一瞬だけギュッと力を込めて、それから足を戻した。


「むぐっ……」


出そうになる声をどうにか抑えて、我慢する。


「ケイクダンジョン、三層、ルトロネリー採取ですか……」


アルが受けたいと言った依頼票を見てアステルが確認するように呟く。

『ルトロネリー』は赤いひと口大の小さな果実で甘酸っぱくて瑞々しい高級食材だ。

たまに森の中なんかで群生してたりもするが、『ケイクダンジョン』の物は普通の『ルトロネリー』よりも大きくて美味い。

アルの好物でもある。そう、アルの好物なんだ……。


「美味しさ、格別……」


アルが言う。アステルは「へえ、そうなんですかぁ……」と嬉しそうに言っているけど、もしもし、依頼だよ?ルトロネリー食べに行く訳じゃないからね!?


「じゃあ、これにしましょうか!」


アステルの言葉にアルが大きく頷く。

まあ、二人がいいならいいけれど……。


こうして、俺たちは依頼を受けたのだった。




神殿を思わせる建物とその手前に建てられた粗末な小屋。

神殿の背後には切り立った崖が聳えていて、行き止まりなのだと、ここから先はダンジョンに進むのだと教えるような構造をしている。


俺たちは粗末な小屋の横に馬車を止め、馬は簡易な馬小屋へと繋ぐ。それから水をやったりしていると、小屋から人が出てくる。

男性冒険者でここの受付の仕事をしている人だろう。


「おお、随分と羽振りの良さそうなこって!

冒険者かい?」


そうだ。と俺が伝えると、受付の冒険者があれこれと説明してくれる。

曰く、この小屋で受付する人間が規定の金額を払えば馬車ごと預かってくれるらしい。

まあ、馬車の中の荷物は関与しないらしいが。

預かり金は一日あたり三十ルーン。全て前金のみ。

俺たちは七日分払っておく。

もちろん、早く帰ってくればその分は差し戻される。

それから、ダンジョンに入るために各自の【冒険者バッヂ】をチェックしていく。


「随分とでこぼこなパーティーだな……。

まあ、余計なお世話かもしれんが、充分に気をつけてな!」


アステルが『赤みっつ』、俺は『緑ひとつ』、アルは『色なし』だから、そりゃあ凸凹だろう。

受付をしてくれた冒険者はこちらを気にかけてくれるあたり、悪いやつではなさそうだ。

アステルが代表して、礼を言って俺たちは『ケイクダンジョン』へと挑むのだった。




「アステルちゃん、いったよ!」


二層、俺は買ってきた地図を確認しつつ、アル、アステル、アルファに守られている。


「ハァッ!」


アルが前衛、アステルが中衛、俺が後衛でアルファは同じ後衛に位置して俺の背後を主に受け持っている形だ。


前衛のアルがシャンデリアバット五匹を相手にしているが、そこからあぶれた二匹のシャンデリアバットがアステルに向かう。

相手が飛んでいると、さすがにアルでも七匹は無理だったか。


まあ、それでも一人で五匹を相手どり、その足止めをしつつ致命打を狙うあたり、アルの実力は『赤いつつ冒険者』くらいはあるのかもしれない。


そして、アステルだ。

アステルの格闘術は受け身で使うとクーシャに勝るとも劣らない。

クーシャ、俺が知り合った『ディープパープル』という二つ名を持つ超級冒険者だ。

まあ、そうは言ってもアステルの場合、半径二メートルの受動形最強とでも言うのが適当か。


アステルは動き回るのは不得手としているようで、敵の攻撃を待ち構えて、受け流し、攻撃に繋げるといった動作は正しく舞を舞うかのようだ。


今も噛みつきに来たシャンデリアバットの牙をサラリと避けて、その勢いを使って壁に叩きつけている。


でも、アルのように壁を蹴ってジャンプ一発、剣でシャンデリアバットを一刀両断というような動きはできない。


ここに来るまでもポイズンワイルドキャットの毒魔法なんかに散々苦しめられた。

まあ、アステルは神官の奇跡を呼び起こせるから、食らっても自分で治せたりするんだけどな。


こういう狭い空間で専守防衛している時は、アステルは非常に頼りになる。


それでも、アステルの拳は基本的に自衛の為の拳だ。

俺の背後から来るブラックドッグにまでは対応できない。

なぜなら、狙われているのは俺だからだ。


「ヴォウッヴォウッ!」「ガルルグァッ!」


確認していた地図から、チラと目を上げて、また地図の確認に戻る。


多少の瘴気を扱える黒犬程度、正直、俺が指示出しするまでもない。

アルファが、ふんはっ!とポルターガイスト能力で叩き潰して終わりだ。

まあ、アルファは、ふんはっ!ではなく「やぁ!とぅ!」と叩き潰していたけれど……。


「うん、ここまでは問題なさそうだな……」


「それじゃあ、このまま三層まで行っちゃう?」


呟く俺に敵を片付けたアルが聞く。

表情は兜の面覆いで見えないが、俺にはアルが鼻の穴膨らませてドヤってるのが分かる。


まあ、ここまで騒ぐアルに引き寄せられて、モンスターとは散々戦ったものの、その全てに圧勝しているから、強気になるのは分かる。

しかし、『光』の魔術符はすでに二枚目で結構な時間が経っている。

あと、魔石は確保しているが、歩き疲れた。


「いや、今日はこのまま安全地帯を目指そう」


「我、不満……」


と、キャラを作ったまま、ぶーたれるアルを適当に宥めながら、二層の安全地帯を訪れるのだった。


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