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仮面の少女冒険者!依頼、受ける。


『塔』に帰って数日、俺はアル、アステル、アルファと一緒にアル復活後の生活を考えていた。

アルが死んでから一年三ヶ月程は経っている。

モニカさんとリートさんは現実を受け止めて、アルを忘れる努力をしている。

バイエルさんは、目を瞑って、現実を見ないようにしている。

今のところ、俺の考えている筋書きとしてはこうだ。


俺はアルが死んだ時、クロット、フロルの二人に置いて行かれた。これは事実だ。

アルを連れて帰ろうとした時、モンスターに襲われた。これも事実。

しかし、モンスターに殺されそうになった時、俺はアルを見捨てて逃げた。実際には撃退して、そのモンスターの魂はアルファになったのであるが、ここはアルを置いて逃げたことにする。

その後、アルは実は死んでいなかった。ここからは創作になる。

満身創痍だったが、アルはふらふらとダンジョン内を彷徨う。

そして、偶然にもランダム転移の魔法陣に触れてしまい、ダンジョンから遠く離れた地へと転移してしまう。転移の魔法陣は実際にあったので説得力はあると思う。

そこはワゼン国だった。

ワゼン国の人に助けられたアルだったが、傷と毒のせいで記憶を失ってしまう。それくらい離れていれば、バイエルさんたちがお礼を言いに行くなどと言い出さないだろうという計算だ。

そして、アルがやれることと言ったら冒険者しかない。

冒険者として、活動しながら旅をしたアルは、『テイサイート』に立ち寄った時、全てを思い出したのだ。

そして、アルは自分の家へと帰るのだった。


と、こういう物語なら長く帰れなかった言い訳になるだろうという事になった。


問題は未だに現実に目を背けるバイエルさんが心労に倒れたり、自暴自棄になったりしないようにしなければならないということだ。


今後、ちょくちょく『バイエル&リート』に行って、様子を見なければならないだろう。

それから、アルの冒険者互助会への登録と実績作りもしなければならない。


冒険者互助会への登録は、誰でもできる。

識字率が高くないこの国では、複雑な手続きもない。

【冒険者バッヂ】は個人を特定するものではあるが、故人を特定しないのでアルが新しく冒険者になることはできる。

ただ、『テイサイート』で活動するのは問題がある気がする。


「つまり、仮面の少女冒険者、私の誕生ってことね!」


アルが鼻息荒くそんなことを言う。


「いや、まあ、あくまでも俺の研究所を中心に動く訳だから、『テイサイート』が利便性が高いのは分かるけど、バレないか?」


「せめて登録は別の場所がいいかもしれないですね……」


次善の策としてアステルは登録場所の変更を上げた。

冒険者互助会は横の繋がりが緩い。

基本的にはどこでも同じ規格を採用しているが、一枚岩というには各街の領主との縦の繋がりが強いため、アルの出自などが詮索されにくくなる。

そういう意味では、『テイサイート』以外の場所で冒険者登録をして、それから『テイサイート』に本拠地を移すという形にするのは、それなりに意味があるのだ。

これは冒険者互助会同士に横の繋がりがあるからできることだが、その繋がりが緩いからこそ俺たちにとっては有利に働くこととなる。


アルはルガト=ククチだが、見た目はもう復活したようなものだ。

ただし、冷たい身体は尋常ではないので、他人と触れ合うことは避けないといけない。


話し合いから、さらにひと月掛けて、どうにかアルの冒険者登録の目処が立つ。

新しく馬車を買った。

アルの鎧兜と剣も用意した。

東は色々と問題があるらしいので、塩の街『ソウルヘイ』で冒険者登録することにする。


いざ出発という時の見送りは、孫バカみたいな顔をしたじいちゃんだった。


「アルちゃんや、くれぐれも正体がバレんように、気をつけるんじゃぞ……」


「うん、じいちゃん、ありがとう!」


「アステルちゃん、ベルちゃんは周りが見えなくなりやすい。

見ていてやっておくれ……」


「は、はい!」


「アルファちゃん、おるかな?」


「はい、カーネル様!」


「うむ、皆のこと、頼んだぞい」


「はい、精一杯、務めさせていただきます……」


「では、気をつけてな!」


じいちゃんが手を振る。


あれー?俺には何もないの?

まあ、いいけど。

なんとなく釈然としないものを感じつつも、俺は繋がれた馬たちに、手綱を使って進めと指示を出す。

馬車はしっかりとした造りの二頭立て馬車だ。

扉付き、窓付き、駅馬車の少し小さい版という馬車は庶民としては相当に豪華な部類に入るだろう。


その中には鎧兜一式を身に付けたアルと、すっかり冒険者らしくなったアステルがいる。

アルファは霊体化して俺の隣、御者席にいる。

道中は何事もなく、一週間ほどかけて『ソウルヘイ』を往復、さすがにアルの冒険者登録時に兜を被ったままでは無理なので、素顔を晒したが、『ソウルヘイ』の冒険者互助会にアルを見知った人間がいるはずもなく、そこはすんなり通った。

それから、『テイサイート』で本拠地の変更なのだが、これは【冒険者バッヂ】と本人確認用の魔導具を照らし合わせるだけなので、これまたすんなり終わる。


「はい、これで貴方はここ『テイサイート』を本拠地とする冒険者になりました!

おめでとうございます!初心者講習なんかもやってますから、分からないことはどんどん聞いて下さいね!」


転拠受付を終えた職員がアルににこやかに説明するのを、アルは片手を挙げて間に合っていると伝えると、俺たちが待つ場所までやってくる。


アルが親指を立てて、バッチリだったとハンドサイン。

アステルは「それは良かったです!」とにっこり。

俺も小さく頷いてから、ぐっと身体を伸ばす。


「よーし、じゃあ、帰るか!」


「は?」


アルからのくぐもった、ありえないとでも言うような声に、俺の動きが止まる。


「え?」


「依頼、受ける……」


不機嫌そうなのが、アルの声から分かる。

兜の中からなので、くぐもっているのだが、それでも不機嫌そうだと分かってしまう。

俺は嘆息しつつも、認めるしかなかった。

デコピンは嫌だしな……。


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