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スコーチの誤算?道が出来た……


ソウルヘイからの帰路、一日目の終わり。

夕闇が迫っていて、そろそろ野営の場所を探さないといけない。

林に囲まれた街道で、動物はちらほらと見かけるものの、モンスターの姿は見えない。

少し拓けた場所があるといいけど……。

アステルとふたり、目を凝らす。


「あ、人がいます。木こりでしょうか?」


「え、どこ?」


アステルが指差す先を見るが、逆光になっているからか、沈む夕陽が眩しい。

木こりならこの近くに住んでいるかもしれない。泊めてもらえるとありがたいけど。

良く見えないので、一度、馬車を止めて、手で庇を作って見てみる。


「え?」


アステルが驚いたように俺に見えていない木こりの方を見て、目を剥く。

だが、その光景は俺にもすぐ見えた。

木立の影から、ひとり、ふたり、三人……アステルは木こりと表現したが、アレは蛮族的生活に身をやつした、盗賊というやつだろう。


「ベル!」


アルが俺に行っていいかを聞く。

続々と現れる蛮族的盗賊の中にひとり、見たことあるのがいるな……。


「ちょい待ち……アイツ誰だっけ……」


筋肉の固まりみたいな大男。偉丈夫。

そいつだけは蛮族という格好からかけ離れた文化的な格好をしている。


「おい!馬車を戻してもらおうか!」


偉丈夫はこちらに声を掛けてくる。

蛮族的盗賊は、手に手に斧やら鉈やらを持っているが、構えている訳ではないので、いきなり襲われるという訳でもなさそうだ。


「えーと……見たことあるよな?」


「なっ!?覚えてないのか?」


「ん〜……クイラスの部下!だよな?」


「スコーチだ!」


「あ、名乗るんだ……」


「じゃあ、来た道を戻ってもらおう」


「いや、もうソウルヘイに用はないぞ」


「いやいや、クイラス様に魔術を教える仕事が残っているだろ?」


「ん?そりゃクイラスの差し金……いや、違うな……あ、特使の息子!」


ようやく記憶から特定の人物を見つけて、思わず俺は御者席から立ち上がる。


「その通りだ。

クイラス様にお前を差し出して、それで我が父に恩赦をもらう!」


話ながらも蛮族的盗賊たちが俺たちを囲むように動いていた。


「はあ?何を言って……」


「お前が戻ったら、クイラス様が喜ばれる。

そうしたら、父は帰ってこられる!」


「んな訳ねーだろ!

……んで、この周囲のやつらは?」


「もちろん、お前を安全にエスコートするために集めた俺の私兵だよ。夜の街道は色々と危ないからな!」


俺は飽きれたように御者席に腰を降ろす。

コイツ、何考えてるんだ……無理やり連れ戻したところで、クイラスは多分、怒るだけだろうに……いや、俺を人質にしてクイラスと交渉するつもりか?

でも、暫く頭を冷やしたら特使は解放するとか言ってたよな……。


「危ないのはお前だよ!

クイラスは、暫く頭を冷やしたらお前の父親を解放するって言ってたぞ?

それとも、父親共々、クイラスから金を奪って国外逃亡でもするつもりか?」


「何を言っているんだ?何故、国から逃げる必要がある?

俺は手柄を立てて、クイラス様から恩赦を勝ち取る。それだけだ……」


え?全部、真正面に話してたの?

そりゃ、脳筋どころか、普通に馬鹿過ぎないか?

俺は頭に手を当てて、ちょっと落ち込む。

色々と考えてたのに……ちくせう。


「いいか!俺を無理やり連れ戻して、クイラスが喜ぶとでも思うか?

わざわざ家宝まで土産にくれるほど、気持ち良く送り出してくれたんだぞ!

それに、お前の父親はもう数日したら解放される。そのほんの数日は待てないのか?

それから、このまま俺たちを行かせてくれれば、ただの見送りで済ませてもいい。

そうでなければ、普通に犯罪者だぞ?」


「あ、いや……待て……父が解放?」


「そうだ。ソウルヘイにはお前の父親が必要なんだとクイラスも言っていた。

今回の投獄は、クイラスの言葉をちゃんと理解できなかったお前の父親を反省させるためだぞ?」


「こ、このまま帰れば、お前はことを荒立てないんだよな……」


「ああ、なんならお前から良くしてもらった、感謝しているくらいの手紙を書いてもいいぞ」


「そういうことなら……」


「そういうことなら、お前らは人質、家宝もこちらに貰おうか!」


スコーチの言葉を遮るように言うのは蛮族的盗賊のひとりだ。


「ハイホイン!何を言っているんだ?」


スコーチが私兵だと言っていた蛮族的盗賊に驚いたように顔を向ける。


「スコーチ様も人が良い……本当にこのデブが感謝の手紙など書くと思いますか?

スコーチ様に脅されたとでも書かれたら、スコーチ様は良くて投獄、下手すりゃ斬首ですかね?」


「な、なんだと!?」


スコーチが驚いたように俺を見る。


「いや、そんなこと書かねーから!」


「こ、こう言っているぞ……」


不安そうにスコーチがハイホインと呼んだ男を見る。


「そりゃ、口では何とでも言えますからね!

そもそも、フィランティー様を解放する話だって、そいつがこの場を逃れるために吐いた嘘かもしれませんぜ!」


チラチラとスコーチがこちらを見る。

なんでそこの判断がつけられないんだよ!

そもそも、ハイホインって何者だ?

普通に見たら蛮族的盗賊だが、スコーチは私兵だと言っていたよな?

おっと、どちらにせよ反論はしておかないとな。


「おい!そいつの口車に乗って犯罪者になるつもりか?」


「は、犯罪者だと!?」


「嫌がる俺を無理やり連れ戻したら、犯罪者だろ?

しかも、そいつは家宝も奪うつもりみたいなこと言ったよな?

クイラスがわざわざ兵士と一緒に俺に持ってきてくれたものだ。

戻って聞けば、すぐ分かる!」


「ハ、ハイホイン、まさか俺を騙したのか……」


「あ〜、めんどくせぇ……単純バカで戦力にもなるから、使ってやってたが……もういい……」


ハイホインが腕を上げると、他のやつから手斧がスコーチに投擲される。


「避けろ!」


「なっ……ぐっ!」


俺の叫びが届く前に、スコーチの背中に手斧が深々と刺さっていた。

スコーチが、どうと倒れる。


「ここらでの仕事も限界だったからな。

最後にひと稼ぎして、とんずらするつもりだったんだ。

スコーチ、お前は使えそうだったから、連れて行ってやろうかと思ったんだがな……まあ、今回の情報だけは感謝しといてやるよ!」


そう言ってハイホインはスコーチの頭を蹴りつけた。

つまり、蛮族的盗賊はやっぱり蛮族的盗賊だった訳だ。

スコーチはあの性格だから、言いくるめるのは簡単だったのかもしれないな。

それで、スコーチの下に着くフリをして、情報を集めたりしていたってことなんだろう。

とと、そんなことより、逃げないとな。

途中で数えるのはやめたけど、蛮族的盗賊は十人以上だ。

数の暴力はヤバい。


「アルファ、単純バカ回収できるか?」


「はい!」


少しだけ時間を稼ぐことにする。


「アステル、手綱頼む……」


俺は腕の芋ん章魔術をポンと押す。

新しくなった芋ん章魔術はインク式なので、血を染み込ませる必要がない。

即応性が高まったのはいいことだ。


「おい、お前ら、これを見ろ!」


引き抜いた魔術符に光が灯る。


「なっ!?

魔術士だ!散開!散開しろ!」


ハイホインが叫び、全員が散る。

おお、意外と統制取れてるな。


「もう遅い!全員、ここで散れやー!」


俺の掲げる『光』の魔術符は、夕陽の影の中、抗うように光っている。


「…………。」


少しの間、ハイホインが地面に伏せる姿が見える。

他は逃げ惑っているな。


「ベル!」


アルがアルファと一緒にスコーチを引き上げたのだろう。


「アステル!」


俺の声にアステルが馬車を走らせる。

俺も転ばないように御者席に座る。


「行きます!ハイヤッ!」


荷運び用の馬だから、それほどのスピードは出ないが、それでもそれなりのスピードは出ている。

ハイホインってやつは戦争帰りとかか?

他のヤツらに比べて、動きがちょっといい。


俺はアステルから手綱を受け取って、馬車を走らせる。

アステルはスコーチを見に行く。


「どうだ?」


俺の質問にアステルとアルファが答える。


「まだ息があります!」「追ってきてます!」


スコーチは生きてるし、賊は追ってきてるのな。


「『煙幕』を使う!アステル、視界塞がれるから気をつけて!」


左腕に着けているのは『煙幕』の芋ん章魔術だ。

俺は魔術符をバラ撒く。

同時にアステルも叫ぶ。


「アルさん、身体を抑えて!

くっ……ぅぅうっ!」


「抜けた!」


「そのまま止血を!奇跡を賜ります!」


「アルファ、魔術符左右に飛ばせ!広範囲に隠すんだ!」


俺たちは大わらわという感じだった。

それは追い掛けてくる蛮族的盗賊も同じだっようで、あちこちから音がする。


「ぐわっ!いてぇー!」「くそ!見えねえぞ!」「馬だ!馬を出せ!」「逃がすな!」


混乱しているな。今の内に距離を稼いでおきたい……。


「街道は一本道だ!狼狽えるんじゃねえ!」


ハイホインか。厄介だな。

確かに街道を逸れるとなると、暗闇が迫る中、勇気と運が必要だ。

なるべくなら街道をこのまま進みたいところだが、ヤツらに馬があるなら、追いつかれる可能性が高い。


少しだけ良い材料なのは、林の木立があまり密集していないので、上手くいけば抜けられることだろうか。

ただし、灯りは目立つから点けられない。


「アルファ、街道を逸れるぞ!フォローできるか?」


「はい、お任せ下さいご主人様!」


アルファならファントムだから暗闇も見通せる。さらにポルターガイスト能力で物理的にフォローもできるはず。

そう信じて、俺は街道から外れることを決めた。


スピードを落とし、林の中へと馬車を進める。

揺れが激しい。


「アル、そいつ頼むぞ!」


アルにスコーチが振り落とされないように頼む。


だが、良いことばかりでもない。

街道を逸れることで、今まで街道を覆っていた煙幕が晴れてしまう。

そうなると、今度は煙幕が良い目印になる。


「いたぞ!逃がすな!」


俺たちは夜通し、あちらこちらと逃げるハメになった。


「くそ……しつこいな!」


徒歩連中はあらかた置き去りにできたが、そいつらを尻目に馬で追ってくる連中。

ハイホインとその他、三人。

計四人の馬組がしつこい。


そろそろ夜が明ける。

朝日が闇を吹き飛ばそうと、その勢力を広げていく。

正直、俺たちは疲れていた。

林の木立を抜けると、そこは川だ。

慌てて手綱を引いて、馬車を曲げる。


「ぬおおおおお!曲がれーっ!」


「フォローしますっ!土輪不倒どりふとぉぉぉぉっ!」


ぶひひーんっ!

馬たちが立ち上がるようにして、どうにか向きを変え、荷馬車の荷台がありえない角度でちょっとズレた。


ガラガラと嫌な音を響かせながらも、川沿いを下る。


「うおっ!か、川……」


蛮族的盗賊の声がして、直後、ざざぼんっ!と大きな物が落ちる音がする。


「ひとり、落ちた!」


後ろの状況を見ていてくれたアルが報告する。

ついでに全員落ちてくれればいいのに。


「まだ追ってくる!あとふたり!」


アルの報告に少しだけ首を傾げる。

ひとり落ちたなら、残りは三人じゃないのか?


「アル、もうひとりは!?」


「もうひとり……?

あ!木立の向こう!早い!」


そうか、知らぬ間に街道と平行して走っているらしい。

目敏く街道を見つけたヤツがそちらを通って先行しようとしているらしい。


川沿いの道とは呼べぬ木立と川の隙間を、細かく右に左にと絶妙なアルファの手綱捌きで進んでいく。

俺はもう、アルファの手綱捌きの邪魔にならないように、手綱に手を添えるだけな状態だ。

前方に意識をやると、橋が見える。

だが、その橋は朝日を浴びてキラキラと幻想的な光を放っている。


「マジか!水神様の橋だろあれ!」


木立の隙間から宿が見えてくる。


「どうしますか、ご主人様!

ひ、光ってます!」


アルファが聞くのは川向こうに渡るかどうかということだろう。

橋が幻想的にキラキラと光る時は橋を渡ってはいけない。

この辺りの言い伝えだ。

この川の向こうはすでに『テイサイート領』だ。

心情的には、渡りたい。

しかし、キラキラしている間は水神様の時間。

運が悪いと水神様の怒りを買って、消されてしまう。

俺は運には自信がないが、考察力があると自負している。

さて、試してみるか!


「行くぞ!」


「ベルさん、水神様の怒りは!?」


アステルが声を挙げる。

なので、俺も答える。


「要は、怒りを買わなきゃいい!」


川沿いの途切れ目、街道へと復帰できる場所には蛮族的盗賊が馬を止めて、慌てて弓矢を用意している。

騎射ができるほどの腕ではないのだろう。


「止まれや、こらー!」


一射、二射と矢が飛んでくる。


「アルファ、手綱頼む!」


「はい!」


俺は腰の芋ん章魔術を起動、『火』を用意する。

一射目の矢は遠く外れ、二射目が俺の頬を掠めた。

頬が熱いが、それよりも俺は心中で予想が外れてくれるなよ、と祈っていた。


「アルファ、速度このまま!橋を渡れ!」


「はいっ!」


「……どけや、おらぁぁっ!」


ごっ!


魔術符を破って、特大の火炎球をお見舞いする。


「うおっ!」


別に当てる必要はない。

こちらの馬はアルファがちゃんと制御してくれている。

対する正面の盗賊は、手綱を離して弓矢を構えているので、無制御状態だ。

近くに火炎球が迫れば、馬は棒立ちになって逃げ出す。

三射目は撃てず、盗賊は馬から転げ落ちる。


「どきなさいっ!曳きますよ!」


「ひぃぃぃ〜っ……!」


情けない声を尻目に、荷馬車が大きく曲がる。

後ろからはまだ二騎が追い掛けてきている。


「くそっ!

人質は辞めだ!家宝だけでも奪え!」


ガリガリと砂煙を上げて、馬車が橋に差し掛かる。

ここだ!

俺は『火』の芋ん章魔術を連続して放つ。

光が、逃げていく。


「水神、様……」「スライム!?」


アステルとアルが呆然と、驚いて、それぞれの言葉を漏らす。

波のように光を反射し、キラキラ橋を作っていたのは『フクラシ湖』でも有名な『水スライム』だ。

この川は『フクラシ湖』へと注いでいる。

『フクラシ湖』は『水スライム』の生息域で、一匹見つけるとワラワラと湧いて出るように襲ってくる。

そこで考えたのが、『水スライム』が川沿いの上流に住処を持っている可能性だ。

『水スライム』の生態というのは分かっていないことの方が多い。

強いて言うなら、綺麗な水を好むということくらいだ。

しかし、『フクラシ湖』はそれほど澄んでいるのかと言うと、綺麗なことは綺麗だが、そこまででもないだろうというのが俺の感想だったりする。


『火』を嫌う『水スライム』たちは、俺の芋ん章魔術に逃げ惑うように散る。

やつら『水スライム』の狩りというのは、獲物に一匹が食らいつくと、大挙して他の『水スライム』も食らいつくというものなので、そうなると確かに獲物は消える。

いや、消えたように喰らい尽くされるというのが正解だろう。


つまり、最初の一匹にさえ食らいつかれなければ、水神様の怒りに触れることはない、というのが俺の予想である。


「道が……できた……」


アルの呟きが聞こえた。

アルファの操る馬車は、俺の指示通り速度を落とすことなく橋の中央、キラキラが消えた道を走る。


「うわっ!?なんだ?」「速度を落とすな!」


盗賊たちの声がすぐ背後で聞こえる。

俺は思わず、背後を振り返る。

俺たちの馬車から、ほんの一馬身の位置にハイホイン。そのすぐ後ろにもうひとりの盗賊がいた。

こんなに近付かれたのか!

だが、最後尾の盗賊は俺が火炎球で開いた道が閉じるのに巻き込まれたのか、キラキラに覆われいった。


「ひっ!ハイホイン、助けっもが……」


「どうし……っ!」


仲間の悲鳴にハイホインは一瞬だけ後ろを振り返り、その異常事態に息をのんだかと思うと、必死に馬を駆る。

こちらを追うというよりも、追い越してでも逃れようという必死の形相だった。


だけど、それは無理だな。何しろ、お前には消えてもらうつもりだからな。


俺は魔術符の狙いを背後へと向ける。

一瞬だけ、胸の【ロマンサーテスタメント】に触れる。

時の流れが重く、遅くなる。


ゆっくりと俺の見ている前で、ハイホインの目が驚愕に彩られていく。


《現在、七万……》


俺の頭の中に流れるシステムメッセージを無視して、魔術符の狙いをハイホインの馬へと向ける。

魔術符から『火炎球』が放たれる。

揺れる身体は超スローモーションなら俺でもバランスが取れる。

外からは激走する馬車の御者席に後ろ向きで仁王立ちする俺が見えることだろう。


ゆっくり進む『火炎球』はハイホインの馬を焼く。

ハイホインがバランスを崩し倒れゆく様を最後まで見ることなく、俺は座る。

ロマンサーとして使える超スローモーションが終わり、音が帰ってくる。


どう、と倒れる馬と「ぬおっ!?」と馬に巻き込まれないように身体を避けるハイホイン。

だが、そこは既に水神様の領域だ。


「なんっ!?くそっ!やめ……」


俺たちの馬車が橋を渡りきるまでには、ハイホインは消えていた。

橋の向こう、ひとり残った盗賊が逃げていく。

どうやら逃げきれたらしい。


「スコーチは?」


「傷は塞ぎました。息もあります。

血が流れすぎたので、安静にしていれば大丈夫だと思います……」


俺の質問にアステルが的確に答えてくれる。

アルとアステルは夜通しスコーチが馬車から飛び出さないように抑え続けていたので、疲れも相当だろう。


キラキラ橋の出口、行きに泊まった宿にスコーチを預ける。

金を少し多めに渡しておくことで、宿の女将は快く受け入れてくれた。

一応、スコーチはソウルヘイの領主クイラスに仕える身だ。

身分が保証されているから、女将も安心だろう。


俺としてはことを荒立てるつもりはないので、このままスコーチは放置していく。

目が覚めてから、困惑するかもしれないが、それくらいは迷惑料だ。

せいぜい想像の檻に捕まって、びびってくれていいと思う。


女将にスコーチを託したら、俺たちはそのまま『テイサイート』へと向かう。

さすがに盗賊どもは追って来ないと思うが、このまま女将の宿に泊まるほど豪胆にもなれない。

女将には、スコーチはたまたま盗賊に襲われたところに出会でくわして、一緒に逃げる途中で怪我をしたので、俺たちはそれに感謝しつつ、先を急ぐために失礼するという説明をしてある。


「それにしても、あんたら随分と気前の良い商人さんだねえ……」


そんな言葉に見送られつつ、俺たちは『テイサイート』へと馬首を向けるのだった。


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