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『飛行』魔導書!骨の紋章?


「さて、少しはお分かりいただけましたでしょうか、特使殿?」


俺は、目を回し半ば朦朧としている特使フィランティーのずり落ちそうな頭飾りを直してやりながら、上から目線でそう聞く。


「わ、分かった……充分に分かった……まさに武威を遍く徹す、空の支配者……グリフォンやフレースベルク、サンダーバードにヤタガラスにも対応し得る力……うぷっ……」


おいおい、なんだか適当に言ってないか?と心配になるが、特使はその場で土下座する格好になって、えずきながらも震えている。


「それで?」


俺は特使に続きを促す。


「そ、それで……?」


「他に言う事はないのか?」


「は?」


特使は理解できていないのか、必死にこちらの顔色を伺っている。

こりゃ、自覚なく他人をバカにしてるタイプだな。


俺が特使を見下ろしながら、どうしてやろうかと思案していると、アステルが近付いてきて訊ねる。


「あの、怪我とかされてませんか?必要なら回復の奇跡を神から賜りますが?」


顔を上げた特使がアステルを見る。


「回復……あ、いえ、そこまでのことでは……」


「そうですか、それなら良かった。

……ベルさん、もう少し安全面の配慮をお願いします……あんな無茶して……同志としても気が気じゃないですよ……」


アステルは特使に気遣いを見せたかと思うと、俺には少し怒ったように言う。

あれー?アステルも特使に対して怒ってなかったっけ?

だが、そんなアステルは困惑顔の俺を他所よそに特使へと向き直る。


「特使様」


「は、はい!」


「色々と誤解されているようなので言っておきますが……『知識の塔』のカーネル様もヴェイルさんも、この魔導飛行機のために何日も時間を費やしておいででした。

そして、ここに来てからもヴェイルさんは初日に死ぬような目に会ってまで魔導飛行機の実験をなさり、ほんの一日、神からの奇跡で取り留めた命をたった一日休んだだけで、それからの三日三晩、寝ずに魔導飛行機の調整を続けて来られました。

報酬もなく、ただ血縁者の弟子であるセプテン様が困っているからという理由だけでです……。

これが何を意味するか、お分かりですか?」


「は……?は、はい!

この度はその……失礼に失礼を重ねた言動の数々……なんとお詫び申し上げればいいか……」


「いえ、私に謝ることではございません」


「で、ですが、神官様にも不躾な物言いを致してしまいました……」


「もし謝罪の気持ちがあると言うなら、もっとちゃんと調べてみてください……憶測だけでの物言いは双方にとっても不幸でしょうから……」


「は、はい!」


特使は頭を下げる。

座り込んだ状態からだから、完全に土下座だな。

それにしても、これは……北風と太陽ってやつだな。

いやあ、アステルも意図してやった訳ではないんだろうけど、少しの優しさが人を変えるってことか……俺には無理だな。


それから、特使はセプテン、サンディ、俺と順番に謝って回る。

一応、一件落着って感じだな。

さすがにその日は俺とセプテンがふらふらし始めたので、特使には帰ってもらい、俺は寝た。


翌日、俺、セプテン、サンディの三人はさっそく問題点の洗い出しに入る。

そこに特使が領主秘蔵の『飛行』魔導書を持ってきて、俺はようやく現物を見ることができた。


「セプテン、暫くこっち、任せていいか?」


「はい、坊ちゃん」


魔導書。やはり暗号だらけで、一筋縄ではいかなそうだ。

セプテンや母さんが紐解いた『飛行』魔法陣は概ね正解だと思える。

この魔導書は物語形式で書かれていて、一人の男が冒険の末に『飛行』魔術を完成させるというお話だ。

鬼炎蜻蛉の群れに襲われたり、目玉蝙蝠と戦ったり、風狼や竜まで出てくる。

これらモンスターは大抵の場合、紋章の寓意化だったりする。

風狼は『竜巻』魔術にもよく使われる風の紋章を表し、倒し方でその紋章の変形具合を教えていたりする。

「首に剣を突き入れ」、とあるから風の紋章の上部、頭部分に穴を描き加えるのだなと分かる。

逆によく強化系の紋章として使われるアイアンゴーレムは、「死闘の末になんとか打ち倒すことに成功した」と戦闘描写がないので基本の強化の紋章だな、と分かる。

例の数字と色を表す紋章、あれは今の世に広まっていないことからも分かるようにモンスターでは例えられていない。

たまに挿絵が付いているのだが、特徴的な黄色が使われている。

その黄色を重ねて行くと、紋章が浮かび上がるようになっていた。

ひとつだけ分からないことがある。

それは古代のスケルトンとの邂逅の場面だ。

スケルトンは紋章として使われることはない。それに、倒していないので、もし紋章があったとして、それは『飛行』魔術には使われていないはずだ。

だからこそ、セプテンも母さんもこの場面はただの物語要素のひとつとして無視したのだろうが、俺はそういう訳にはいかない。

何故なら、物語的には主人公はこの古代のスケルトンから翼をもらっているのだ。

挿絵がある。

その翼は特徴的な黄色で描かれている。

しかし、俺が見逃せないのはその翼ではない。


「提督……」


その古代のスケルトンは『スッシー』を操り、自在に空を飛ぶ俺の配下『提督』と同じ格好をしているのだ。

俺は一人部屋の中、魔導黒板を取り出し「塔」「本」「波」の三つの記号から「波」を選んで押す。

少しして、魔導黒板には『提督』が現れる。


「やあ、提督。今、少し大丈夫か?」


俺が聞くのに『提督』がこくりと頷く。


「これを見てくれ……」


俺は自分の顔の辺りに魔導書を持ってきて、古代のスケルトンの挿絵を見せる。


「なあ、これって提督か?」


『提督』が白い骨で自身を指差して、こくりと頷く。

やっぱりか。


「この翼みたいなものって何か分かるか?」


こくりと『提督』が頷いたかと思うと、魔導黒板から『提督』が消える。


「ん?真っ黒になったぞ……」


魔導黒板が黒くなったと思うとひとつの紋章が表れる。

見たことのない紋章だ。


何を表わしているかは分からないが、最初に 『飛行』魔術の魔法陣を見た時、何か足りないような気がしたが、もしかすると コレなのかもしれない。

俺は慌てて、手近にあった紙に紋章を書き写す。

それが完了した辺りで、魔導黒板の紋章が消え、また『提督』が映る。

俺は『提督』に礼を言って、魔導黒板のばつ印を押した。


正直、俺は興奮している。

だが、焦って魔導飛行機にいきなり新しい紋章を投入するほど馬鹿じゃない。

『飛行』魔法陣にある隙間、今は色と数字の変形紋章ふたつと、風の紋章ふたつ、強化の紋章ふたつが入れてある。

これを『提督』から手にいれた暫定名、骨の紋章と入れ替えて、どんな変化が出るか確かめる。

そう決めてから、もう一度魔導書を読み込んでいく。

古代の書物だ。

出てくる地名も古代のもので、旅をしながら主人公は『飛行』の魔術を求める。

普通に読み物として読んでも、それなりに面白いが、やはり魔導書として成立させるために、ある程度の矛盾を孕んでいる。

古代のスケルトンとの邂逅は中盤、何故か古代のスケルトンと主人公は会話を交わしたりしている。

『提督』は話せないんだけどな。

印象的なのは古代のスケルトンの言葉だろうか。

主人公が「叡智の主よ、我に翼を!」と言えば、古代のスケルトンは「そなたの旅路こそが空へと至る道なり、その一助となる翼をここに授けん!」と答える。

まるで預言者のような言葉だ。

だが、ふと思う。

この魔導書はかなり細かく旅路を書いている。

言葉通りに受け取るなら……うーん……じいちゃんの古地図コレクションがあればな……それでも記憶にある地名を頼りに、頭の中で旅路を思い描く。

ああ、やっぱりか……骨の紋章に近い動きをしている。

そうか、ちゃんと読み取れば、『提督』に聞かなくても骨の紋章が見つかるはずだったのかと納得する。


「あの、坊ちゃん……」


部屋の扉がノックされ、セプテンが声を掛けてくる。

俺は魔導黒板を鞄に仕舞ってから応える。


「どうかしたか?」


「師匠がお戻りになりました」


「え、母さん?」


慌てて扉を開ける。


「はい、何やら発見があったとかで……」


「母さんもか!?」


「え?ということは……」


「ああ、たぶん皆が見過した紋章を見つけた……」


「おお!と、とりあえず下に来てください!」


セプテンと一緒に俺は下の食堂に行く。


「……あら、それじゃあ、ベルちゃんが迷惑掛けちゃってるんじゃないの?」


「いえ、私こそ何度も助けていただいてますし、それに何よりベルさんと一緒にいると楽しいですから!」


「あら、まあ!ベルちゃんも隅に置けないわね〜」


俺が扉を開くとアステルと母さんが茶飲み話に花を咲かせていはところだった。


「何の話?」


「あら、ベルちゃん!」「あ、ベルさん!」


「……いえね、アステルさんとの今までの経緯を聞かせてもらってたのよ!

ベルちゃんまでこっちに来ているとはね……ただいま!」


「おかえり。……まあ、いいや。

それより、フツルーの遺跡は?」


「それが、大発見よ!隠された紋章を見つけたの!」


アステルを母さんに紹介する手間は知らない間に省けたようなので、お茶を用意するサンディが配膳するのを待ってから、全員で話をすることにする。


「奇偶だね。俺もこの魔導書から、新しい紋章を見つけたところだよ!」


俺と母さんが懐から紋章の書かれた紙をテーブルに同時に出す。

それは、やはり同じ紋章なのだった。

TRPGあるある的に、プレイヤーがあっちとこっちから同じ情報を持ち帰ることで、情報の強度を高めることができると思ってるんですよ。

メタ視点になりますけど、GMがこんだけ同じ情報が取れるようにしているのだから、これが正解だ、と思わせるとかね。

そんなことが書きたかった今回。

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