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色眼鏡!武威徹!

ソウルヘイ五日目。

魔導飛行機の魔改造がようやくひと段落し、岩塩も大小様々集まり、それはこっそりと研究所に送ってある。

そろそろ、戻るかと俺は朝のベッドの中で考えていた。


「……困ります!まだ、皆さんお休みで……」


「ええい!弟子風情が何を言う!私はソウルヘイ・クイラス様の特使!つまりは私の言葉はクイラス様の言葉ぞ!

呑気に寝るなど言語道断!」


うわぁ、うるせぇ……。

対応してるのはサンディか。特使?あれか初日に会ったやつ。

とにかくうるさくて寝られないので、ベッドからもぞもぞと起き出す。


「ご主人様、シメて来ましょうか?」


どうやら、俺の部屋で待機していたアルファがそんなことを言う。

いきなり過激だな。

まあ、俺もセプテンも三徹明けで、昨日の深夜、ようやく寝られたところなので、それを知るアルファの憤りも分からなくはない。

ちなみにサンディはまだお子さまなので、初日以外はちゃんと寝かせている。

その分、弟子というよりお手伝い分が多くなっているのは申し訳ないとも思うが。


「ああ〜……いいよ。ようやく形になったところだしな……」


俺とじいちゃんと、セプテンとサンディで作りあげた魔導飛行機を早く誰かに見せたいという思いもある。

俺はヨロヨロとベッドから這い出して、何やら偉そうな特使とやらのところへ向かう。


特使とやらはキーキーと喚きたてているので、位置が分かりやすい、今、階段手前くらいだろうか。

二階ではアステルもセプテンもまだ寝ている。

起きて来る前になんとかしなくちゃな。


「……ですから、お話なら弟子の私がお聞きして、ちゃんと師匠に伝えますからっ!」


「ええい!お前のような子供に何が分かる!いいから、どけ!」


とりあえず、サンディが頑張っているのは分かるな。

俺はふらふらと階段まで行くと、下まで降りて特使の前に立った。


「サンディ……俺が話す……」


「ベル兄さん!寝てて下さい……」


「なんだこの肥満児は!セプテンを出さんか!セプテンを!」


「はいはい……『知識の塔』大魔導士アークウィザードカーネルを祖父に持ち、錬金技士アルケミースミスレイルの息子で良ければ、お話を聞きますよ……」


「な、なんだと!?」


特使とやらは白を基調とした法衣を着た細身のおじさんで、薄い頭に烏帽子みたいな頭飾りを載せ、カイゼル髭を伸ばしている。

その鼻の下から横に伸ばした髭をぶるぶる震わせて特使が目を見張る。


「ほら、この腹とか七光りっぽいだろ……」


「は、ははーん……さては、そういうことか……!」


「なにが?」


一瞬、動揺を見せていた特使だったが、急に一人で納得いったようで、俺のことをジロジロと眺め回していた。


「この錬金館の資金についてだ!

この二、三日で急に支出が増えていると思えば、高級食材のレア岩塩を買い漁っているという情報も私の耳には入って来ているんだよ!貴様か!貴様のせいか!」


特使は俺を指差して、口から泡を飛ばして吠えた。

慌てて弁明を始めたのはサンディだ。

俺は一瞬、この特使が何を言っているのかよく分からず、考えてしまう。


「ち、違います!支出はあくまでも『飛行』魔術のためです!ベル兄さんは悪くないんです!」


「……言っておくが、岩塩は自分の金で買ったものだ。

セプテンからはビタ一文貰ってないぞ」


「いーや、分からんぞ、なにかこの『ソウルヘイ領』の公金を上手いこと横領する手立てでも見つけたに違いないっ!」


鬼の首を取ったように勝ち誇った笑みを浮かべる特使。

そんな時、二階から顔を見せたのはアステルだった。


「あの……いったい何事が……」


「お前っ!」


特使が叫ぶ。


「は、はい!」


「お前は何者だ!」


「彼女は俺の冒険者仲間だよ」


「冒険者だと?なんで、冒険者がここにいるんだ!」


「いや、色々と手伝ってもらうことがあるんだよ」


「はっ!そもそも、『塔』の御曹司だかなんだか知らないが、冒険者上がりなんだろ?

さも、偉そうにしていたが、所詮は下賎の輩じゃないか!

どうせ、セプテンに金があると思って、たかりに来たんじゃないのか?」


「いや、さすがにそれは失礼だろ……」


特使のぶっ飛んだ物言いに、怒りではなく困惑させられる。


「フィ、フィランティー様!こんな早朝にどうされたんですか!?」


ああ、セプテンを寝かせておいてやろうとしてたのに、結局うるさくて起きだして来てしまったらしい。

それから、場所を応接室に移して、第二ラウンドが始まってしまう。


「……どうなっているのか納得のいく説明はしてくれるんでしょうな、セプテン殿!」


傍若無人な振る舞いの特使フィランティーの口撃は、はっきり言って難癖をつけているというものだった。

勝手な想像で、俺やアステルを傷つけるようなことを言い、果ては母さんすらも貶め始める。


「確かにクイラス様は『飛行』魔術のためならば、金は幾ら使っても良いと仰せになりましたが、これは領地の税収であり、クイラス様の金です!

それをやれ師匠の旅行代を出せ、やれ魔石の代金を払えと、何かと言えば金の無心。

そのくせ、今の今まで何も成果は上がらない。

何度も何度も、秘蔵の魔術書を見せろと言ったり、そもそも、人としても下劣だと思われませんか?

稀代の魔導技士レイルの弟子と触れ込みだけはご立派だが、そのレイルは何をしてくれました?

師が師なら、弟子も弟子だ。

実験だなんだと魔石をねだるばかりで、浮かぶ時間が五秒延びた?

それが『飛行』ですか?

挙句にレイルの息子とかいう穀潰しまで呼び込んで、その愛人共々養って……セプテン殿はどのようなおつもりか聞かせていただきたいですな!」


「全ては『飛行』魔術のためです!

レイル様もヴェイル様も、こんな私のためにわざわざここまで足をお運び下さり、精一杯の協力をして下さっているのです!

いくらフィランティー様と言えど、さすがにその言は納得いきかねます。

何卒、撤回を!」


セプテンは怒りをどうにかやり繰りしながら、それでも毅然とした態度で発言する。


「どうでもいいけど、その色眼鏡で物を見るのはなんとかならないのか?」


アステルとサンディも同席しているが、怒りで熱くなっており、まともな話し合いは無理そうだったので、代表して俺が喋る。

アルとアルファには応接室に移動する時に、俺がなんとかするから、どうにか堪えてくれるよう頼んである。


「なんと失礼な!私は特使ですぞ!

クイラス様の名代としてここに来ているのです!

つまりは私の言葉はクイラス様の言葉!

それを撤回しろだの、色眼鏡だのと、言いたい放題……あなた方は何様のつもりですか?

恥を知りなさい、恥を!」


「な、なんたる……」


話している内にセプテンも頭に血が昇ってきたのか、怒鳴る気配が見えたので、慌てて俺は口を挟む。


「あれだ!見てもらえば分かるだろ!」


「い、いや、あれはまだ……」


魔導飛行機はひと段落と言っても、完成ではない。

とりあえず、いい気になって魔改造したが実験すらしていないのだ。


「なんだ?なにか進展があったとでも言いますかな?

また、五秒、浮く時間が延びたとでも言いますか?くだらない……」


「フィランティー様!あなたが……」


「いいよ!見せた方が早い。

ほら、セプテン、準備しよう」


怒りになかなか動こうとしないセプテンやサンディをどうにか動かして、裏庭に準備をする。

その準備中。


「あの、ベル兄さんはあれだけ言われて平気なんですか!?」


「俺?俺はまあ……他人からどうこう言われるのは慣れちゃったからな。

ただ……」


「ただ?」


「アステルと母さんまで色眼鏡で見てるのは許さないよ……」


「え……?」


そう、俺のことはどうでもいいが、俺の周りの人間を揶揄されるのはどうにも気に障る。

普段なら論戦で二時間でも三時間でも徹底的にやってやりたいところだが、そうなると俺の身体が保たない。

三徹して中途半端に寝たものだから、身体は火照っているし、これは無理出来ないぞと本能が訴えかけていた。


「これはいったい、なんだと言うのだ!」


裏庭で待たせていた特使が運び込まれた魔導飛行機を見て声を挙げる。

最終調整をセプテンに任せて、俺は特使の前に立った。


「お望みの『飛行』魔術を魔導具化したもの、空を自由に飛び回る魔導具の集合体、魔導飛行機、その名も『武威徹ブイトール試作型』だ。

戦場に於いて、この魔導飛行機を使えば、まさしくその武威を遍く徹すこととなる、空の支配者だ!」


「ぶ、ぶいとおるだと!」


「特使殿は『塔』の名にも屈せぬ豪の者、ぜひこのソウルヘイを代表して、最初に空を味わっていただきたい!」


「お、おう、もちろん我とて騎士の称号賜りし武勇の士……な、なれど、今日はちと腰の具合が……」


「おや?ただ浮かぶだけでは許さぬと豪語されたのは特使殿ですよね?

そして、俺はそれの答えを特等席でお見せしようと思ったまでのこと。

領主様にどれほどの物だったか伝えるのが特使殿の仕事のはず……まさか、臆病風に吹かれたなどとは言わないですよね?」


「む、無論だ!だが、生憎と腰が悪……あひっ!」


用意された床几に座っていた特使は、何かに弾かれたように立ち上がる。

まあ、アルとアルファが肘打ちでも入れたかな。

なんにせよ、これでやりやすくなった。


「おお、さすがは武勇の士!さあ、どうぞ!」


「な、何かが……あ、いや、今は立ったのではなくだな……」


俺、サンディ、アステルが特使の手を引いて、半ば無理矢理に魔導飛行機の後部座席へと載せる。

さすがに運転させる訳にはいかないので、御者役は俺がやることになる。

俺は始動の要となる『飛行』魔導具へと宝晶石をセットすると、普段から首に掛けている『千里眼』ゴーグルを風防ゴーグル代わりに装着する。


「お、おい、これは大丈夫なんだろうな?」


「じいちゃん……大魔導士カーネルからの手紙に概要があったと思いますが、お読みになってませんか?」


ソウルヘイの門番を通じて、領主宛ての手紙は行っているはずなので、恐らくはこの特使フィランティーも読んでいるはずだ。


「そ、それはもちろんクイラス様からお見せいただいた……だが、画期的な新機軸の魔導具としか書かれていなかったのだ……これは船なのか、馬車なのか、とにかくこんな大きな魔導具など戦争用でしか……」


ああ、戦争用の『火柱』とか『雷撃』魔導具は確かに大きい。でも、あれらに比べると小さいくらいなはずなんだけどな。


「じゃあ、とくと味わっていただきましょう!」


俺は始動用のスイッチを押す。


ふわり、音もなく『武威徹・試作型』が地上から一メートルほどの高さに浮く。


「お……な、なんだ?大して変わってないではないか!

大言壮語も甚だしい……」


「舌噛まないように!」


言ってから、俺は高度変更用のレバーを引く。

魔導飛行機の底面に新たに設置された四基の『竜巻』魔導具が唸りを上げて、機体を押し上げる。


「はぐっ……!」


グンと高度が上がり、一気に錬金館より、領主館より高い位置まで上がる。

よし、順調!

ここから、徐々に高度が下がりながら、前後左右へと動けるという仕組みになっている。


「はがが……ひ、ひた噛んだ……」


うーん……特使殿が何か言ってるけど、良く聞こえないってことにしておこう。

まずは前進。操縦桿を操る。体感的に操縦できるようにするため、色々と仕組みが複雑になっているのだ。

後部の『竜巻』魔導具が、ぼふぁっ!と機体を押す。

操縦桿を倒す角度に併せて、噴射口が狭まり、圧力が増す。


「ひぐっ……!」


ああ、向かい風というか空気の壁みたいなもんがあるな。

ゴーグルがないと目を開けるのもやっとな感じかもしれない。あと、寒い。

眼下の景色が結構なスピードで流れていく。

おっと、街から出ちゃうぞ。ブレーキ、ブレーキ。

操縦桿を操って、後退用の『竜巻』魔導具を発動させる。

ガクガクと機体が揺れる。

ありゃ、もうちょい強度上げるべきだな……。

スピードが落ちたので、右に機体を操る。

まだ前進の余波があるから斜めに機体が傾ぐ。進む方向も斜めだ。


「ひぃっ!あぶ……落ち……落ち……」


大きく弧を描くように機体を回していく。

おお、ソウルヘイの街並みが一望できる。

こうして上から見ると、広いな。だが、高度が下がってきた。

少しだけ左の『竜巻』魔導具を動かして、機体をたて直すと、また底部から『竜巻』を出して、高度を取る。


「はぐっ……!と、止め……と、止め……」


さっきから特使殿が言葉にならない言葉を零しまくってるな。


「楽しんでますかー!」


「た、楽し……わけ……るか!」


ふむ、「楽しっ!」なんて、特使殿も満喫してるみたいだな。

それから小一時間ほど、特使殿は無視して、色々と問題点の洗い出しやら、動きの確認などをした。


「予想よりも動きにくそうでしたね……」


「左右に曲げたいと思った時に、結構身体が浮いたりな……」


セプテンも外から見て、色々と思うところがあるようだ。

どうにか動きを止めて、無理矢理着地もしたが、錬金館の裏庭はかなり削れてしまった。


「う……うぷっ……と、止め……」


「もう止まってますよ……機体を運びたいので、早くどいてください……」


気分を悪くした特使殿に、氷のような無表情でサンディはそう言うのだった。

俺はそれを聞きながら、ああ、最初のサンディも俺に対してあんな感じだったなあと、少し懐かしく思うのだった。


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