どうだ、セプテン?しっかり師匠してるなぁ!
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお見守りいただければと思います。
年末からここまで急に更新頻度上がってきてますが、決して暇だという訳でもなく……ち、ち違うよ。暇じゃないよ!暇だからじゃなくて、筆がのったの。そう、筆がのっただけなの!勘違いしないでよねっ!
ということで、ちょっと読み難いかもですが、行間を味わっていただきたい新年一発目です。
あ、この前書きの行間は読まない!おいらと君の約束だ!www
徹夜明け、気を利かせて朝食を準備してくれていたアステルに礼をしつつ、俺とセプテンとサンディは何度もおかわりを繰り返した。
セプテンのブレーキに始まって、途中から魔導飛行機の改造というアイデアが出て、俺たちは止まらなくなったのだ。
本来ならばアステルに見守ってもらいつつ、実験をする予定だったが、今日はこのまま錬金作業に打ち込むことになる。
なので、アステルはこのまま岩塩のセリ市へと向かうことになった。
アルとアルファもアステルと一緒だ。
二人には、岩塩を見てピンときたらアステルに伝えてくれと頼んである。
「サンディ、炉に火を入れてくれ!」
「はい!師匠!」
「セプテン、こっち繋いでおくぞ!」
「了解です!坊ちゃん、こちらの結線は?」
「俺がやる!セプテンはもう炉に回っていいぞ!サンディ、『竜巻』の魔法陣分かるか?」
「はい!」
「縮尺は書いておいた。これ見て叩け!」
「はいっ!……え?」
それまで常に全力で「はい!」としか言わなかったサンディだったから、押し切れると思ったんだけどな。
昨日、あれだけ叩いてリズムを染み込ませたから、感覚を忘れない内にもうひと叩きしておきたい。
鉄は熱い内に打てってやつだ。
「あの……私……その……」
だが、自信がないのだろう。サンディが急に言葉に詰まる。
しかし、それを遮るように声を掛けたのはセプテンだった。
「サンディ、やってみなさい。
私も坊ちゃんも忙しくて魔法陣を叩いている余力がない。
ブレーキは魔法陣の威力を外部から調整できるから、発動すればいいだけだ。
迷っている暇はないよ!」
炉の温度を炎の色で確かめながら、セプテンが言う。
忙しくて、猫の手も借りたいとでも言わんばかりにアレコレと動きながらの言葉だ。
俺もそれを見習って、作業を進めながら言う。
「いいから叩け!俺もセプテンも忙しいんだ。煩わせるな!」
「は、はい……!」
俺のキツめの口調に慌てたようにサンディが動き出す。
銅板を用意して、俺が紙に書いた七割九分の設計図を横に、ジッと銅板と設計図を見比べる。
ふぅぅ……と深呼吸してから、サンディが叩き始める。
作業といいながら忙しいフリをしていた俺とセプテン。実際には確かに手を動かしてはいたがお互いに適当な、手を抜いても問題ないような箇所をやっていた俺たちは、一瞬だけ呆けたようにその姿を見守った。
コンコン……コンコン……コンコン……。
おお、調子良さそうだな。
サンディがチラリと設計図に目をやり、銅板を叩き、と繰り返していく。
その表情は真剣そのもので、俺とセプテンに迷惑を掛けてはいけないというプレッシャーを背負っているのが良く分かる。
よしよし……上手いぞ、その調子だ……。
ふとセプテンと目が合う。
セプテンは何も言わずに目礼する。なんとなく「この娘に機会を与えて頂き、ありがとうございます……」とでも言いたいのだろうと察するように目が語っていた。
俺は悪戯が成功した悪ガキの目で、ニヤリと笑った。
それから、お互いの手が止まっていることに気づいて、俺たちは二人して、それぞれの作業に戻った。
半日もした頃、サンディの手が止まり、顔を上げる。
「あの……」
忙しく作業していたセプテンがそれに気づいて、顔を向ける。
「どれ、できたか?」
「は、はい……」
サンディは叩いた『竜巻』魔導具をセプテンの元へ。
「ふむ……」
俺は我慢できなくなって、作業の手を止めてセプテンのところに行く。
「どうだ、セプテン?」
セプテンが俺に魔導具を見せてくる。
少し歪だが、どうにか形にはなっている。
八割、ギリギリ発動はしそうだな……。
あ、風を表す紋章の一部が欠けているか?
あれ?俺、設計図に書いたよな?
「七割九分……ギリギリですが……」
セプテンが俺に意見を求めてくる。
「一度、試してみるか?」
「そうですね……」
サンディは判決を待つ虜囚のように神妙な面持ちで俺たちの判断を待っている。
セプテンは俺に魔導具を預けて、魔石を取りにいく。
俺は気になったので、サンディに聞いてみる。
「なあ、ココ、欠けてないか?」
「あ……そこは、どちらにせよオドが流れないので……」
「ん?……あ、翡翠の瞳ってやつか!」
「え……!?あの、し、知って……その……」
「ああ、力の流れとか見えるんだろ?」
「……は、はい。」
「その瞳で見ると、ここは要らないってことなのか?」
「あの、その……はい……」
もしかして俺たちが覚えている紋章というのも完璧ではないのかもしれないな。
「へえ、面白いな……」
俺が感心しているとクズ魔石を手にセプテンが戻ってくる。
俺がサンディが叩いた魔導具をセプテンに返すと、セプテンはクズ魔石をソレに当てる。
発動するかどうかを見るなら、クズ魔石で充分だ。
果たして……俺たちが見ると、魔導具から小さな渦巻く風が生まれる。
「いけるな……ギリギリだが発動はする」
「あ、ありがとうございます!」
サンディが頭を下げる。
セプテンは実物をサンディに見せるようにして、ポイントの解説を始める。
「ココとココ、それからココも歪みがあるな……あとは全体的に厚みの差がある……」
「ああ、セプテン。サンディによるとソコは必要ないらしいぞ……」
一応、サンディの援護をしてみる。
だが、セプテンは急に怒りだした。
「サンディ!お前、瞳を使ったな!」
「で、でも、師匠……」
「あんなものに頼るなと何度も言ったはずだ!お前がちゃんと錬金技士として一人立ちするまで、やらないと約束したよな?なのに……」
「ちょ、ちょっとセプテン!何を急に怒り出してるんだ?」
「坊ちゃん、申し訳ないが、これはウチの問題だ。口出ししないでください!」
「サンディ!お前は師との約束が守れないのか!」
「で、でも……」
「口答えするな!約束が守れないかと聞いている!」
「す、すみません……」
「違う、約束が守れないのか!」
サンディがぷるぷると首を横に振る。
どうやら話しぶりからすると、セプテンも『翡翠の瞳』については知っているらしい。だが、その上でその『翡翠の瞳』を否定している?
そもそも、オンオフできるものなのか?
俺がそんなことを考えている間もセプテンの怒りは収まらない。
「横着するな!ちゃんと答えろ!約束が守れないのか!」
「い、いいえ……ま、守れ、ます……」
「なら、なんで使った!お前の技士としての寿命を縮めると何度も説明したはずだ!これで何度目だ!」
「さ、三度目、です。でも……」
「でもはいらん!」
なるほど、セプテンとしては失明を恐れているってことか。
まあ、それは分かる。だが、そもそもオンオフできる類いのものなら、それが嫌なら使わなければいいという話で、そんな物なら教会に駆け込むやつなんか出ないのではないだろうか?
そろそろ、一度止めるか。
「おい、セプテン。少しはサンディの話も聞いてやれ!」
「ですが、坊ちゃん。理由などどうでもいいのです!私は……」
「いや、分かった!セプテンが怒っている理由は分かった。
でも、サンディにだって言い分はあるだろ?ただ頭ごなしに怒鳴りつけても、こういうのはダメだ……」
「ぐ……わ、分かりました……。
サンディ、言いたいことがあるなら言え!」
「……ご、ごめん、なさい……」
サンディはそれだけ言うと、いやいやする様に首を振って、黙り込んでしまう。
うーん。参ったな……どうするか……。
「サンディっ!」
「いや、セプテン!セプテン!ちょっと待ってやれって!
ああ、もう……サンディ、ちょっとこっち来い!
セプテン、少し休んでてくれ……」
仕方がないので、サンディを俺は連れ出す。
場所は裏庭、バラされた魔導飛行機の残骸がポツンとあるそこは、なんとなく物悲しい雰囲気に見える。
「あー、その……なんだ……えーと、そもそも、その『翡翠の瞳』ってオンオフできるのか?」
サンディは泣くのを堪えて、ただ首を横に振った。
「えーと、それはオンオフできないってことか?」
サンディはまた、ぷるぷると首を横に振った。
どういうことだよ?ただ、否定のために首を振ってるだけなのか?
いや、サンディにはサンディなりの言い分があったはずだよな?途中でセプテンになんとか言い訳しようとしていた訳だし……。
俺はなんとなく裏庭の隅に腰を落ち着け、サンディにも座るように促す。
「えー……あ、そうだ!
アルとアルファ……いや、じゃなくて、あれだ。俺の護衛の冒険者いただろ?」
チラリとサンディを見ると、やはりこちらを向くようなことはないが、何かに耐えるようにジッと俯いたまま止まっている。
俺は話を続ける。
「あれな……見えてるのサンディだけなんだ……」
ピクリ……肩が動く。
「ん〜、何て言ったらいいかな……内緒だぞ。
セプテンにも内緒なんだけどな……俺は死霊術士なんだ……」
ゆっくりと、ゆっくりとだが、サンディが顔を上げる。
「まあ、あの黒髪の方な。俺の幼なじみでさ……俺のせいで死んだんだ……それで、なんとか生き返らせようと、俺は死霊術士になった……いや、目算はあるんだよ。
生き返らせる算段は一応、ついてる。遠い、遠い道のりだけどな……って、そこは重要じゃない……あ〜、つまりだな……あいつらが見えるってことは、サンディの『翡翠の瞳』って普段から使ってるってことだろ?」
「あの……」
「あ、告げ口しようとかじゃないからな。さっきは事情が分からないままに、ついセプテンに言ってしまったけど……それについては、悪かった……」
「え……」
「ああ、まあ、それも蛇足だな。
何が言いたいかと言うと、セプテンも無茶を言うよなってことだ!オンオフできないのに、ソレを使うなって、無理だろ!って話だ……」
するとサンディはこちらを見ながら首を横に振る。
「違うんです……」
「違う?」
「確かにこの『瞳』は任意で切れるものじゃないんです……でも、薄めることは出来るんです……敢えて意識を向けないというか……そうすると負担が減るというか……」
「ああ、そういう……なるほど……ん?だとすると、なんで今回は?」
「あの、ぼ、坊ちゃんはよく分からなくて……」
「なにが?あと、無理に坊ちゃんって言わなくていいぞ……母さんの弟子連中は諦めてるけど、俺はヴェイルだ。言い難いなら……ベルでいい」
「そのベル兄さんはこの『瞳』のこと知らないと思ってたから……つい口が滑って……」
ベル兄さん!?いや、まあ、言いやすいならいいや、それで。
「それで、師匠もベル兄さんも急いでたから……少しでも力になりたくて……それで、形成部分を削れるだけ削れば、少しは早くなるかと……その……」
「ああ、そうか……俺たちが忙しそうにしてたのに、気を使ったのか……そりゃ裏目だったな……」
「裏目?」
「ああ、急いでたのは本当だけどな。
でも、それは切羽詰まってっていうより、早く形になった物が見たいってだけで……セプテンもようやく打開策になりそうな案だったから、それで解放感から徹夜とかしちゃってたけどな……」
「ええっ!?」
「あとは……だな……その、サンディにも物作りの楽しみを教えたいというか……」
「えっ?」
「あ〜……うん……セプテンが『飛行』魔術で悩んでただろ……それで、サンディの修行もあまり見てやれてなかった訳だ……それで俺がちょっとお節介を発揮して……いや、正直言うと、アステルから説明聞くまで『翡翠の瞳』なんて知らなくて、その……サンディの作品を見てみたかったのもあるんだけど……それで叩かせた訳だ……いや、まさかセプテンが『翡翠の瞳』を否定しているとか、知らなくてだな……」
「師匠は!師匠は……私のためだって……『翡翠の瞳』は確かに錬金技士としは有利になる。でも、それに頼るようじゃ良い錬金技士にはなれないって……」
「ああ、確かにそれはそう思う……」
なんとなく空を見上げてしまう。青空に雲が散っていて、母さんとかセプテンの顔が浮かぶ。
『翡翠の瞳』は酷使すれば簡単に失明してしまう諸刃の剣だ。
そんなものに頼るくらいなら、地道でも地力を培って、手が勝手に動くくらいになるまでやれ!とか、あの二人はそういう努力を惜しまないタイプだ。
「……なのに、私は師匠の言いつけを破って……自分勝手な理論で……うっ……ぐすっ……ううぅっ……」
ああ、うん、どっちも相手のために良かれと思ってってやつか……。
うおお、なんだろなぁ……やりきれない感じになるよなぁ……。
セプテンは確かに俺に「理由などどうでもいいのです」とか言った。それは、サンディのためだ。
でも、それを聞いたサンディは、自分の中で「師匠や俺のために良かれと思って……」というのが、自分勝手な理論だったのだと理解した。
そりゃ、もう言い分なんか無くなるよな。
サンディはぐずぐずと泣いていたが、それを吹き飛ばすように俺はしっかりと言葉にする。
「いやあ、セプテンもしっかり師匠してるなぁ……」
つい、ニマニマと笑いが漏れる。
セプテンもサンディも、師匠と弟子として、相思相愛ってことか。
なんだよ、俺だけピエロじゃねーか。
でも、不思議とそう悪い気分でもなかった。
「よし、サンディ。お前はセプテンのとこ戻れ!
俺はちょっと出掛けてくる!」
雨降って地固まるではないが、お互いの頭も冷えた頃だろう。
ここは邪魔をしちゃいけないところだ。
ああ、気分がいいから、肉でも買いに行くか。
「え、あの、ベル兄さん……」
「ああ、サンディって好きな食い物とかある?」
「はい?えと、フルーツとか……」
「ふむふむ……分かった!」
「あの……戻れと言われても、師匠にどんな顔して戻ったらいいのか……」
「ぶふっ!サンディってしっかりしてそうだけど、そういうとこガキなんだな!」
「はあっ?ベル兄さんと五つくらいしか違わないと思いますけど?」
「ああ、元気出てきたじゃん。でも、セプテンの前に行く時はもうちょい殊勝な顔して行けよ!」
まあ、先輩としてのアドバイスだ。
それだけ言って、俺は手をひらひらさせて、その場を後にするのだった。