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自信しかありません!キラキラ橋?


「おはようございます、師匠の坊ちゃん!」


じいちゃんが見守る中、アステルと二人、木箱を運ぶ。

そこに現れたのが、オクトだ。

オクトに頼んで、荷馬車を貸してもらうことにしたのだ。


アステルと運んでいるのは『飛行』魔導具の試作品で、ベッドくらいの大きさがある。

形は寸詰まりの小舟みたいな形をしている。

その小舟の周囲には『竜巻』魔導具がいくつも付けられていて、床面の『飛行』魔導具で小舟を浮かし、各部の『竜巻』魔導具で高度と方向を制御しようという試みだ。


一応、何度か実験したが、街中じゃ乗れない。運転は複雑過ぎて汎用性がない。魔石が幾つも必要で金食い虫な実験機であるが、確かに飛行する。

これをまともに使えるようにするのは、もっと専門的な錬金技士の知識が必要だというのが、俺とじいちゃんの統一見解である。


「ほうほう……これが例のアレですか……」


オクトが興味深いという目付きで荷馬車に載せられる『飛行』魔導具を眺める。


「まだ、商売にはならないからな」


一応、釘を刺しておくと、オクトは心外だと言わんばかりに目を剥いて。


「セプテン兄さんの奴ですよね……下手に口を突っ込むと、やぶ蛇ですからね。

なぁんにも言いませんよ。なぁんにもね……」


「ほっほっ……オクト殿は未だ兄弟弟子は苦手かな?」


じいちゃんが優しげな目をして、オクトに聞くと、オクトは途端に緊張したような顔をする。


「は、はいっ!お恥ずかしい限りですが、わたくしはレイル様の弟子としては力不足でした……そんなわたくしのような者にもレイル様は飽くことなく沢山の時間を割いていただきました。

ですが、兄弟弟子からすれば落ちこぼれのわたくしがレイル様の時間を奪ってしまうことに不満を覚えるのも仕方がないとは思うのですが……ただ、わたくしとしましてはレイル様の弟子になったのであって、兄弟弟子たちの弟子になったつもりはありません。

レイル様から錬金の術を教わるならともかく、兄弟弟子たちの半端な知識をさも正解だというように無理矢理教えられるのは納得がいかなかったもので……」


「ふむ……兄弟弟子と上手くいかなくて錬金技士の道を諦めたということかの?」


「いえいえ、そうではないのです。

修行を続ける内に、自分で限界を感じてしまったのと、あとはやはり、自分の才能の使いどころを見つけてしまったのです!」


「ぶふっ……自分で言っちゃったよ、オクト……」


一応、じいちゃんとオクトの仲直りではないが、二人がお互いに歩み寄る姿を見せていたので黙っていたが、オクトの言葉にツッコミを入れずにいられなかった。


「あれ?何か変でしたか?」


何故か顔を綻ばせたオクトが聞いてくるので、笑いを噛み殺すように答える。


「うん、変だろ。自分で才能とか、どんだけ自信あるんだよ!」


「いえいえ、それはもう……こと数字の帳尻を合わせることにかけては、自信しかありませんよ!」


俺のニヤニヤが止まる。

大魔導士のじいちゃんの前でそれを言いきることができるオクトがどうしようもなくカッコイイと思えてしまった。

ちくせう。


「ふほほっ!オクト殿に資金の運用を任せれば、すぐ二倍くらいにしてくれそうじゃの」


じいちゃんもオクトの言葉に感心したのか、そんなことを言う。


「ええ、ええ、資金の多寡にもよりますが、ふた月あれば倍にしてお返ししますよ」


オクトは自信ありげにそう返す。


「……お、おい、オクト。

あんまり大言壮語なこと言うと……」


「ほう……では、これも何かの縁じゃしな、一度、任せてみようかの?」


俺が慌ててオクトに耳打ちしようとするが、機先を制するようにじいちゃんはそう言った。

家の家計が基本厳しいのは、じいちゃんの研究のためだ。

オクトに商才があるのは知っているが、いくらなんでも、ふた月で倍は厳しいんじゃないだろうか?

そんな俺の心配をよそに、オクトは大きく頷く。


「お任せ下さい!百ジンだろうが、千ジンだろうが、ふた月できっちり倍にしてお返しいたしますよ!」


「うむ、では五百万ジン任せようかの」


「ご、ひゃく……」


「まん、じゃな……」


サーっと血の気が引いていく音が聞こえてきそうだった。


俺は思わず頭を抱えていた。

今は家に金があるんだよ……。

だから、教えてやろうとしたのに……。


チラリ、オクトを覗き見る。

最初、真っ青だった顔色が白くなり、でも、それから覚悟を決めたのか、真っ直ぐに前を見る。


「分かりました!オクト商会の全力を持って五百万ジン、お預かりさせていただきます!」


「うむ。任せるぞ、オクト殿」


出発間際、俺はオクトに顔を寄せて聞く。


「なあ、大丈夫なのか?」


何か協力できることがあるかもしれない。

オクトには色々と協力してもらっているし、何か出来ることがあるなら、ある程度、譲歩してもいいと思っている。


「はっはっはっ!大丈夫、大丈夫ですよ、師匠の坊ちゃん。

……分かりました!カーネル様の五百万ジン、このオクト商会がお預かりしますっ!」


俺へは呟くように、じいちゃんには自信満々に見せつつも、俺にはちょっとだけ裏側が透けて見える雰囲気で答える。


アステル、アル、アルファの三人は各々、馬車の中でどうにか居場所を見つけ、俺は御者席へ。


「それでは、師匠の坊ちゃん。

わたくし、このままカーネル様と話がありますので……」


「分かった。

じゃあ、じいちゃん、オクト、いってきます!」


「いってらっしゃいませ!」


「おお、セプテン殿のことは任せたからの!

気をつけて行くんじゃよ!」


馬車はゆるゆるとまずはテイサイートの街へと向かう。

テイサイートの街には入らず、外壁に沿って北へ。

北の街道に出れば、そのまま北上していく。

荷馬車は幌なしだが、雨が降った時用に大き目の防水布が積まれている。

飛行魔導具、この場合、魔導具の集合体なので魔導機と言うべきか、その飛行魔導機が結構な場所を取っているので、馬車はあまり広くない。

ある意味、御者席が一番ゆっくりと腰を降ろせる場所だ。

なので、途中からアステルは俺の隣に座っている。


「北の街道は随分と整備されているんですね」


隣のアステルが流れていく景色を見ながらそんなことを言う。


「まあ、ソウルヘイが一番近い隣街だからな。

一番内陸にあるテイサイートからしたら、塩の街は生命線だしね」


商業的にもテイサイートからはソウルヘイに流れ込む商品がとても多かったりする。

そういったことから、北の街道は手入れが行き届いている。

まあ、そうは言ってもモンスターが出ない訳ではなく、完全に安全とはいかないのは仕方がない。

それでも、街道に付き物の停留場は多いし、交通量も多めなので、『オドブル』までの道行きを考えたら、はるかに楽だ。


そうして、三日ほどは何事も無く、アステルに馬車の動かし方なんかを教えながら進む。

俺たちの中で一番、馬車の操作に慣れているのは、アルだ。

なので、アステルに教えるのも、もちろんアルだ。

俺は知識として知っているだけ、アステルは知識もない。

アルファ、アルファはアステルと同程度だろうか。生前は馬車に乗ったことはないようだった。

少し興味深いのは、アルファに手綱を握らせた時、「悪せる」がどうとか「ぎあーひー」と叫んだり、よく分からない言葉を発していたことだ。

生前の記憶のフラッシュバックのような雰囲気だったので、少し気に留めておくべきかもしれない。


まあ、結果として俺が一番御者が下手になったのは解せぬ……。ちくせう……。


三日目、夕景に照らされて大きな橋が見える。

この川はテイサイート方面の『フクラシ湖』に注いでいるらしく、この橋を越えれば『ソウルヘイ領』に入ることになる。

橋のあちらとこちらには大きくはないが宿屋が建っている。


「おおっ!絶景だね〜!」


「わあ……」


見れば川面が夕陽を乱反射していて、眩しいくらいだ。

この光に包まれて橋を進むというのも幻想的でいいかもしれない。


「よし、行くか!」


俺が馬たちに進むよう促そうとすると、この幻想的な雰囲気を壊そうとでもいうのか、おばちゃんのだみ声が響く。


「あんたら〜、悪いことは言わないから、今日は泊まっていきなさいな〜!」


俺とアステルが声のした方を向くと、やはり声の雰囲気通りのおばちゃんが手で、来い来いと俺たちを呼んでいた。

どうしようかと俺とアステルは顔を見合わせる。


「え、どうせ宿を取るなら川向こうのがよくない?」


アルが小声で言ってくる。まあ、俺も同意見だ。頷く。

宿は川のこちらとあちらに一軒ずつ建っている。

どうせなら、幻想的な雰囲気を味わってから、今日の締めくくりとしたい。

だが、アステルは小首を傾げる。


「なにが悪いことは言わないから、なんでしょうね?」


言われて見れば、というやつだった。


「確かに……ただの客引きならもう少し言いようがある気はするよな……」


なんとなく、馬車を進める気にもなれず止まる。

すると、おばちゃんは小走りにこちらへと近付いてきた。


「今はもう水神様のお時間だから、橋は渡んないほうがいいよ!」


「水神様?」


「ほれ、橋が光ってるでしょ!あれが水神様がお帰りになる合図なんだよ〜」


「えーと……通行止めってこと?」


「いやいや、運が良い人は渡れるんだけどね……たまに水神様のお怒りを買う人がいるんだよね〜」


どういうことだ?


「あの、怒りを買うとは……?」


気になったのかアステルが質問する。


「……消えるね」


消える……?


「消える……?」


「言葉通りだよ〜。馬も馬車も人も、お怒りに触れると消えるんだ……」


「うーん……」


俺の言葉にならない言葉に、おばちゃんが反応する。


「どうかしたかね?」


「よし!今日は泊まろう!」


俺がそう決めると、アルから無言の圧力が掛かる気がするが、身震いひとつでそれを耐える。

アステルも何も言わないが、目線がチラチラと俺の背後、アルがいるであろう辺りに飛んでいる。


「毎度どうも〜」


おばちゃんに案内されて、部屋へ。

アステルと一部屋ずつ取って、一人きりになった瞬間、アルが話し掛けてくる。


「な・ん・で、泊まるのかな?」


ああ、怒ってらっしゃる。

ただ、いきなり暴力に訴えないってことは、そこまでじゃないってことなんだろう。


「アル、お前、祟られたいの?」


「はあ?ベルが言う?

普段、こういう言い伝えとかバッサリ、迷信だろ、で片付けちゃうベルが?」


まあ、アルの言う事も尤もだと思う。

意味のない言い伝え、形骸化してしまった迷信というのは結構あるもので、夜に歌うとゴーストが寄ってくるとか、森に霧が出る日は人死が出るとか、そんなものは迷信に過ぎない。

夜に歌うと来るのはゴーストではなく、親や年長者からのお説教で、森に霧が出なくとも人死は出る。

そういう意味のない言い伝えは、迷信だと断言できる。

いや、むしろ積極的に迷信だと切って捨てることにしている。

だが、今回の水神様の言い伝え。

これは迷信だと言いきれない。

なにか理由があるのではないかと思っている。


橋が夕陽に照らされて輝くことはないとは言わないが、幻想的に思えるほどの輝きを放つというのは何か特殊な状態にあるからこそだろう。

見た目は普通に木製の橋なので、やはり何かがあると見るのが正解だと思う。


「長年の馬車や人の往来で橋がつるつるになった?いや、それであそこまで輝くか?」


「は?いきなり何言ってんの?」


「いや、あの橋さ。ただの木製だろ?

あんなキラキラになるのってなんでだと思う?」


「そりゃ、自然に宿る脅威の神秘現象でしょ!」


なにを当たり前のことを、みたいな言い方されるとバカにしたくなるのってなんでだろうか。


「波間がキラキラするのは分かるんだ……でも、橋まで揺れる波間と同じように光を反射するのって不思議だろ?」


「あ、確かにそうですね……」


「いや、自然って思いもよらないことが起きるものでしょ?」


アルが力説するが、なんだ?野生にでも目覚めたか?


「アル……」


「な、何よ……!?」


「ふっ……」


「ちょ……鼻で笑われた!?」


「仮説その一、実は橋が幻で蜃気楼的にあるように見えている!」


「え?な、何?」


「但し、この場合、宿の女将さんが嘘を吐いていることになるので、女将さんがたった一晩の客引きのために嘘を吐くとは考えにくい。宿の信用にも関わるしな……」


「そりゃそうでしょ、第一……」


アルが付け足しの言葉を言いたそうにしているが、無視だ。


「仮説その二、あの時間帯だけ水位が上がっているため、橋が水で隠されている!」


「ちょっと……!」


「これはかなり有力な仮説だが、問題がある……」


「えーと……水神様の怒りに触れて、消えるという部分でしょうか?」


アルファが考え込むように言った。


「惜しい!例えば、橋の上まで水が流れていた場合、押し流される可能性がある。あのキラキラした状況の中だと、それが消えたようにも見えるかもしれない……もしくは、あの女将さんの独特な表現という可能性もある……」


「では、何が問題なんでしょう?」


「うん、問題なのは水神様のお帰りの時間という部分だ。

帰りがあるなら、当然、行きもあるはずだ……」


「それって、あれじゃないの?干満とかなんとか、勉強した記憶あるわよ」


アルが気を取り直して、話に乗ってくる。


「でも、仮説その二で言えば、水位が上がっている上に、感覚的に言えば、水は上から下に流れるもんだろう?

水神様が行かれる時間と言うなら分かるけど、お帰りの時間と言われると、しっくりこない気がしないか?」


「うーん……それも女将さんの独特な表現だったというのは?」


「まあ、可能性はあるけどな。

ただ、あの時間の橋には何かあるんだと思う……」


「何か、ねえ……」


「調べたい訳じゃないけどな。

わざわざ危険を犯す必要もないだろ?

そこまで急ぐ旅って訳でもないしな」


「あー、はいはい……」


どうやらアルも納得まではいかないものの、諦めがついたらしい。

翌早朝、俺たちは日の出と共に出るつもりだったが、またもや女将さんに止められてしまう。


「あー、今は水神様がお行きになる時間だから、少しゆっくりしていった方がいいね〜」


「あの……その水神様というのは何なんでしょう?」


どうやら、気になっていたのは俺だけではないのか、アステルがそんなことを聞く。


「さあね〜。ただ、この川近辺の家じゃ、日の出、日の入りの時間は川を渡らない方がいいって言い伝えがあってねぇ。

昔から、水神様の行き帰りって言われてるのよね〜」


「では、神殿で言う水の神様とはまた違うということですか?」


「ああ、そんな偉いもんじゃなくてね。

祟りが怖いから、奉っているって感じかね?」


なるほど、土着信仰の神様ということらしい。

たまにモンスターがそう呼ばれていたり、それこそ自然現象が神様ということになっていたりする地域というのは少なからずあったりする。

川に架かる橋を見れば、確かにキラキラと輝いている。


モンスター……モンスターか……。


「あっ!」


「どうかされました?ベルさん」


水神様にひとつ心当たりがある。でも、言ったらアルは確かめようとか言い出しそうだし、それもめんどくさいな。


「あ、いや、なんでもない」


「それならいいですけど……」


俺たちは塩の街『ソウルヘイ』まで、あと二日のところまで来ていた。


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