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野暮用?アステルのお役立ち?

アステルの話をしようと思う。

同志アステル・ハロ。

ルフロ・ハロ製紙魔導院という秘伝の魔導を操る家に生まれた跡継ぎの一人。

長女なのか次女なのか、ルフロ・ハロの何番目の子供なのかは知らない。

ただ、秘伝である製紙魔導を拙いながらも使いこなす魔導士であり、本人曰く求道士モンクである。


見た目から言えば、栗色のおかっぱ頭に大きな眼鏡、大きな胸の十七歳の美少女……いや、成人女性に美少女というのもおかしいか。

でも、顔つきは童顔なので、美少女の方がしっくりくる風貌をしている。


でも、アステルを印象付ける特徴として、それらの記号はあまり重要ではない。


彼女は同志である。

志を同じくするもの。

つまり、読書家、本好き、本の虫。

俺の同類である。

アステルと話すことと言えば、大抵は本の話だ。

あれが面白い、これは特徴的だ、この作者が、あの作品が……と尽きることはない。


俺の家、いわゆる『塔』に来たアステルは本を満喫していた。

同志として、とても喜ばしいことである。

ただ、少し気になることもある。

アステルは「家を継ぐ気がない」と言った。

それ以上は聞けなかったが、それはかなり重要な話だと思う。

製紙魔導はハロ家の秘伝。俺も一度、お世話になっているので大きなことは言えないが、かなりヤバかったんじゃないだろうか。

だが、「家を継ぐ気がない」と明言した後のアステルはとても清々しい顔をしていた。

それからというもの、アステルは『塔』で本を読むだけでなく、たまに冒険者互助会で仕事を受けたと思えば、じいちゃんに一般的な魔導術を習ったり、俺の研究所で雑用をやったりとイキイキと働くようになった。


しかし、死霊術を学ぼうとしてくるのはちょっと問題だな。

『サルガタナス』は触っただけで呪われるし、そもそも俺以外の人間に読ませるつもりはない。

まあ、元々アステルの前では『サルガタナス』を開かない、見せないようにしているから、俺の死霊術の出処は分かっていないようだが、だからこそ、俺に直接習おうとしてくるのはちょっと困った。


「アステル、悪いけど死霊術は教えられないよ……。

アステルが知識を求めているのも、俺の役に立とうとしてくれているのも分かるけど、本当に危険なんだ……。

アステルは今でも充分に助けになってくれているからさ」


「ど、同志ですから……一蓮托生、共同体、死ぬも生きるも一緒です!」


「いやいや、それぞれに役割分担してこその同志だから……」


「役割分担……」


「そう。冒険者の時もそうだろ。

前衛と後衛、攻撃と防御、全員が同じことをしても非効率だろ?」


アステルは小さく頷く。


「そう……ですね……確かにスプー冒険者互助会で習ったはずなのに……」


「ああ、そっちの互助会だと、特に役割分担がしっかりしているんだっけ」


「はい。それぞれがそれぞれの役割をきっちり果たして、それが全体としてひとつの動きになるんだって教わりました。

腕には腕の、足には足の役目がある。

一隻の船が一人の人間として動けるのが理想なんだって言ってましたね……」


「ああ、まさに運命共同体だもんな、船って」


「そう、そうですよね……あっ!」


アステルが急に何かに開眼したのか声を挙げる。


「うんっ?」


「分かりました!」


「何が?」


「私のやるべき事です!」


「お、おお……」


俺には全く分からなかったが、アステルは何やらピンときたらしい。

俺は分からないままに感嘆の声を挙げていた。


それからのアステルは部屋に戻らない日が多くなっていく。

元から冒険に出掛ければ、三日、四日、長ければ七日くらい帰らないというものなので、俺からすればちょっと冒険に行く頻度が上がったな、という程度の話だ。


「おや、アステルちゃんはお出掛けじゃったか?」


じいちゃんは多めに用意した朝食のスープを見て、俺に聞いてくる。


「ん?アル、何かアステルから聞いてるか?」


俺はアルに話を振る。

姿を表しているアルはポルターガイスト能力を纏った手で竹筒を開けて、人工霊魂を口にしながら、にひひと笑う。

最近アルはじいちゃんの前では姿を表していることが多い。

じいちゃんもどうやらそれを受け入れているようだった。


「今日は野暮用の方だね!夕方には帰るって言ってたよ!」


「ふむ、作り過ぎてしまったようじゃのう……」


俺はじいちゃんに向けて、自分を指さして見せる。

じいちゃんは多少、逡巡してみせてから、やれやれと肩を竦めた。


「ま、程々にするんじゃよ……」


俺は満足そうに頷いて見せる。

よし、俺の朝食が増えた。

それから、アルへと向き直る。


「ところで、野暮用って何?」


「内緒!ねーっ……」


アルは悪戯っぽく、アルファと一緒に頷き合って見せる。

まあ、いいか、と俺はパンを口にする。


「あ、じいちゃん。次に近衛騎士団の人たちが来たら、その後ちょっと出掛けてくるから……」


「ふむ、遠出なんじゃろうか?」


「ソウルヘイまで、岩塩仕入れに行ってくる」


「岩塩?」


「そろそろアルに身体を作ってやろうと思って。アルファにも。」


「ふむ……進化、というやつじゃな……」


「ああ、ルガト=ククチってやつにしようと思う」


言いながら俺は『アンデッド図鑑』を拡げて見せる。


「ふむ……ふむ……吸血鬼の一種じゃな……あー、ベルちゃんや……」


少し言い淀むじいちゃんに分かっているという風に頷いて見せる。


「大丈夫。問題ないよ」


「ふむ……そうじゃな……後でじいちゃんの部屋に来なさい」


これはじいちゃんなりの配慮だろう。

アルやアルファが吸血鬼になることの危険性、またその対処は考えてあるのかなど、アルの目の前で話すことではないだろう。


「分かった」


俺は快諾する。

朝食が終わり、俺はアルにお願いをする。


「アル、アルファと一緒に狩りに行ってきていいぞ!」


「え?ホントに?」


普段、アルが狩りに行く時は必ず俺が同行している。

まあ、俺の心配性がそうさせる訳だが、アルとしては多少の不満もあるらしい。

まあ、全部配下のアンデッドにお膳立てされて、はい、トドメだけどーぞってやるのがいけないというのは分かっている……。


「アルファ、トウルとオル、ケルも同行させてくれ。

頼んだぞ!」


「はい、お任せ下さい!」


ウチの最高戦力、トウルとオル、ケルも付けておけば、とりあえずは大丈夫なはず。

俺の見ていないところで、アルに自由にさせる。不安になるが仕方がない。


「んじゃ、いってくるねー!」


意気揚々と空中に浮かぶ剣が進む。

ここにアステルが居たら「アールガート……」とインテリジェンス・ソードの名前を口にしたことだろう。

残念ながら、アルからは知性よりも野生を感じるんだが……。


俺はアルを送り出してから、じいちゃんの部屋を尋ねる。


「じいちゃん、いいかな?」


「うむ、入っておいで……」


ひと声掛けて、扉を開く。

じいちゃんのベッドに俺は腰掛けて、じいちゃんは椅子ごと身体を回す。


「さて……まあ、分かっているじゃろうが、吸血鬼となると色々と問題が出るじゃろう……」


「吸血衝動……というか食べ物問題だろ」


「そうじゃな。アルちゃんもアルファちゃんも、今は人工霊魂、じゃったか?それで何とかしておるようじゃが……その辺りのことはどう考えておるのかの?」


「南の森で狩りをする。もちろん、後処理も考えてある」


細かい話をしないのは、アンデッド化した獲物が現状、俺の配下に組み込まれているからだ。

聖水を掛けて浄化した後に火葬という方法が本来、じいちゃんが考えている方法だろう。

俺が『考えてある』と言えば、じいちゃんとしては浄化後の火葬を想像するだろう。

なるべくなら嘘はつきたくないが、全て正直に言うのが絶対的に正しいとは思えない。

じいちゃんは俺の味方だが、味方だからこそ注意が必要だ。

俺の考えを全面的に肯定してくれている訳ではないしな。


「ふむ……人里に出ることはどう考えておるのかの?」


アルのこと信じてるから、大丈夫!なんて答えた日には半日コースでお説教だろうな。

まあ、実際のところアルと未だに契約を結んでいないので、俺はアル任せにしている現状を変える気がないんだが、ここは嘘を吐くしかないな。


「例の本、アレにアンデッドに命令を聞かせる方法が載ってる。心配ないよ」


「うむ、そうか……」


『サルガタナス』に頼る旨を伝えると、じいちゃんは途端に渋茶を飲んだような顔になる。

やっぱり『サルガタナス』に関しては、素直に認める気にはなれないということなんだろうな。


「そういえば、じいちゃん……」


「なんじゃ?」


このままだとツラいので、俺は話の方向性を変える。


「ソウルヘイ行くからさ、セプテンの魔法陣、少し考えてみたんだけど……」


「ほう……じいちゃんも少し考えたんじゃがな……」


「あ、じいちゃんもやっぱり考えてたんだ!」


「うむ……魔法陣の大きさや使う魔石の種類では、変化と言ってもたかが知れとる。

となると、紋章の方に手を入れるしかないんじゃがな……余白からすると、まだ幾つか紋章を入れる余地はあるじゃろ……」


俺は頷く。

紋章魔術は幾つかの紋章を大きな円の中に配置、それを幾何学模様の回路と呼んでいるもので繋げることで効果を生み出すというものがほとんどだ。

だが、紋章同士の大きさは均一でなければならない。

母さんが持って来てくれた『飛行』魔術の魔法陣は既に大きさの定められた紋章が描かれているので、このバランスを崩してしまうと、最悪の場合、魔術として発動しないなんてこともある。

じいちゃんと弟子たちで発見した効果の分かっている紋章というのも結構な数があるのだが、それと照らし合わせて見ても、『飛行』魔術の場合、理解できる紋章は全体の半分程度という具合だ。

まだまだ紋章の理解というのは学術的に未解明なモノが多い。

そんな中、俺たちに出来る事と言えば、幾何学模様の回路の余白に他の紋章を配置する程度で精一杯だ。

それも、ある程度手探りでやるしかないというのが、今の技術の限界だったりする。

セプテンも『塔』で勉強した以上はある程度、効果のありそうな紋章を余白に描きこむくらいのことはしているはずで、それで改善が見込めないからこそ、母さんも苦労しているということだ。


「そもそもじゃな……この魔法陣は遺跡で見つかったという話じゃったじゃろ。

すなわち、太古の昔、人の手によって利用されていた魔術のはずなんじゃ……」


魔術、その発祥はモンスターの使う魔法だと言われている。

新しい魔術の発見とは、未知のモンスターとの遭遇、もしくは『神の試練ダンジョン』での発見に他ならない。

今回の『飛行』魔術の発見というのは遺跡で見つかった、つまるところ遺失魔術の発見ということなのだ。

まあ、遺失魔術と言えば『 世界紋章魔術大全、別冊、捨てられた紋章魔術』に詳しい。

要はそれを愛読書にしている俺とじいちゃんにはお馴染みのやつだったりする。

じいちゃんが『飛行』魔術が遺失魔術だと言うからには、そっちからのアプローチだろうか?


「そこで考えたんじゃが……『飛行』魔術は用途、というか使い方が違うのではないかと思うのじゃ……」


「使い方?」


俺は首を傾げる。


「人の身に直接かける魔術ではないのではないか、ということじゃ」


「あ〜……つまり、人間が飛行するための魔術じゃないってこと?」


「うむ。『飛行』魔術と言ってはいるが、実際のところ『浮遊』がせいぜい。

となると、例えば馬車からの荷物の上げ下げなんかには、便利じゃろう?

船を陸地に揚げるとかな……」


「いや、でもじいちゃん。

セプテンは『飛行』魔術って言ってるし、それで今さら用途が違うって言ってもマズイんじゃないの?」


「そこでじゃ!……人が乗る箱を浮遊させて、推進用に別の魔法陣を用いることで『飛行』とするのはどうかと考えているんじゃよ。

元よりセプテンは錬金技士じゃ。

魔導具とするなら、それも可能じゃろう……ただ問題は『浮遊』の時間なんじゃが……」


「それは俺に考えがあるんだけど……」


「おお、さすがベルちゃんじゃな!」


「さすがに総当りとはいかないんだけどさ……」


俺は元からある、数字と色を表す紋章を余白に重ねていく。

これは事前に実験済みだ。

ただ浮遊時間は飛躍的に延びるものの、高さや移動に問題があるため、更なる試行が必要だと考えていたものだ。


「……これで一時間くらい浮遊していられる」


「なんじゃと!?」


ちなみに、『サルガタナス』にある数字と色を表す紋章を使うと更に浮遊時間が延びることが分かっているが、それは表に出すことはない。

じいちゃんがまた渋茶を飲んだような顔になるのが分かりきってるしな。

でも、もっと言うと、提督が操る飛空船『スッシー』の魔導技術を調べれば、じいちゃんがやろうとしていることの完成形が見つかるのではないか、と思っているがそれを調べる程の時間は現状なかった。

もしかしたら、複雑過ぎて俺の理解が及ばない可能性も高いしな。

余裕ができたら、『スッシー』の色々を調べるのもアリかもしれない。


「実験してあるから確実だよ」


「うーむ……それならば後は他の魔術との組み合わせでなんとかなりそうじゃな……」


じいちゃんが考え始めてしまったので、とりあえず話は終わりということなのだろう。


「じゃあ、俺、異門召魔術の方やってるから……」


「うむ、ベルちゃんがソウルヘイに行くまでには、ある程度の形になりそうじゃな。

高度や推進についてはじいちゃんの方で考えておくでな……」


「うん。俺の方でも、じいちゃんの言ってた方向で考えてみるよ」


そう言ってじいちゃんの部屋を退出した。


そこからはいつもの作業だ。

午前中は原版作り、午後は研究所に移動して死霊術の研究、合間に少し『飛行』魔術のことも考える。

ゼリホーンドゴブリンのゾンビを相手に『飛行』魔術の実験をしたり、リザードマングールをデュラハン化してみたりした。

リザードマングールのデュラハン化では面白い結果を得た。

元々、リザードマンソルジャーだった個体はデュラハンに進化させると普通に首なし騎士といった姿になるのだが、リザードマンメイジだった個体をデュラハンに進化させると全身から闇色の霧のようなものを漂わせ、それがローブのように見える。ご丁寧に頭部分はフードを被ったように霧が覆い中身が見えない。しかし、頭は手で掲げ持ち、まるで水晶球を扱うように頭部分を使うのだ。

せっかくなのでリザードマンデュラハンになった個体には大角魔熊グールを馬代わりに与えてみる。


「威圧感すげえな……」


熊のモンスターに騎乗した首なしリザードマンとか、浪漫溢れる姿だが、上級冒険者でもパーティーじゃないと苦しいくらいの強さじゃないだろうか……。

今度、鍛冶屋に頼んで鞍作って貰おう。


「たっだいまー!」


俺がリザードマンデュラハンを前にニマニマしていると、アルが帰ってくる。

グレイガルムシャドウとなったオル、ケルの背中にはゼリブラックオーガの死体が載せられている。

シャドウというアンデッドは生前と変わらない姿をしているものの、闇を吐き出し、闇に溶け込むことができるというアンデッドだ。

ゼリブラックオーガは『ゼリ』のダンジョンで見つかったレッドオーガの上位種になる。

エインヘリアルのトウルの小脇にはゼリホーンドゴブリンが抱えられている。

空中を浮いてこちらに来るフレイムレインディアと呼ばれる火魔法を使うトナカイはアルファが持って来ているのだろう。


「ご主人様、ただいま戻りました!」


「また、やべーのばっかり仕留めてきたな……」


「ぶいっ!」


アルが満足そうに姿を表わして、指でVサインをして見せる。

俺はフレイムレインディアを見て顔を顰める。


「魔法を使うモンスターはアルやアルファにダメージを入れられる存在だって教えたよな……?」


「ワガシュシン、コイツワ、ボーケンシャ、オソッテタ!」


「トールの言う通り!だから、成り行きで戦うことになったけど、ちゃんと無傷で倒したよ!」


ぐぬぬ……それを言われると怒れないじゃないか……ちくせう……。


「あの……オルとケルの闇で視界を無くして、ちゃんと遠間から攻撃しましたので……」


申し訳なさそうにアルファが言う。


「はぁ……分かったよ。でも、アルがいる時は極力、危険は避けてくれ……」


「ベル……過保護すぎ!さすがにちょっと引くわ……」


飽きれた様にアルが言う。

俺としてはかなり心外だ。


「アル……お前が生き返るまではお前の存在は俺の責任なの!」


「あのねっ!これでも私は冒険……」


「冒険者バッヂも持ってないやつは冒険者じゃないからな!」


アルが言いそうなことは簡単に予想がつく。

なので、先回りして論旨を潰す。


「な……なんだとー!ベルーーーっ!」


「ああ、殴りたきゃ、殴れよ!俺は間違ったこと言ってないからな!俺はアルが大切なんだ!アルが消える可能性に比べたら、見知らぬ冒険者が命を落とすことなんてどーでもいいんだよ!」


「ベ、ベベベ……ベル……」


「なんだよ!」


「あ、いや……その、なんでもない……」


負けを悟ったのか、アルが姿を消した。


「ふん、ようやく分かったか!」


俺は勝ち誇ったドヤ顔をしてやる。アルが生き返るまでは俺の責任、この論旨にいかに隙が無いか、ようやくアルも理解したようだった。


「ワガシュシン、ソノカオ、ヨクナイ……」


何故か脳筋のトウルに窘められた。


そんなことがありつつも、そろそろ夕飯時、アルとアルファを引連れて俺は『塔』へと戻る。


「「ただいまー」」


「あ、おかえりなさい、ベルさん!アルちゃん!」


食堂の方からアステルの声がする。


「おお、帰ったか……じいちゃんは腹ぺこじゃ!」


食堂から顔だけ出したじいちゃんが俺を手招きするので、珍しいな、と思いながらもそちらに行く。

食堂に入った俺は思わず固まってしまう。


「神官……」


そこには白いケープ付きローブを纏った人物が食器を運んでいた。


ヤバい……情報が漏れた?まさか?それとも探りを入れに来た段階か……?


そんなことを瞬間的に思考していたら、神官がくるりとこちらを向いて、ローブの裾を少し持ち上げ気味に俺を見る。


「わあっ!アステルちゃん、可愛い!」


え?あっ!なんだと!?


「アステル……?」


「一応、ひと通りの仕儀の修行が終わりましたので、今日から神官です!

……あの、ベルさん、ど、どうですか?」


「いや……どうって?」


「ちょっとベル!アステルちゃんの神官姿見て、何も思わないわけ?」


まさか、アステルがほんの一ヶ月かそこらで死霊術士の天敵である神官になってくるなんて、何も思わないわけないだろうが……。

え?え?……これ、どうするの!?どうしたらいいんだ?


俺が身動ぎひとつ出来ずに固まっていると、耳元でアルファの声がする。


「ご主人様、アステルさんはご主人様のために神官の奇跡を修めていらっしゃったんですよ……それに女性が服装を見せてきているんです。とにかく褒めて下さい……」


「は?俺のため……?」


「あっ……その……アルちゃんやアルファちゃんは強いですし、剣や牙を恐れる必要もないですけど、あの、ベルさんは生身ですから……怪我を治す奇跡が使えたら、お役に立てるかと……」


「う、あ、うん……そういう……そうか……うん、アステル、ありがとう!

それに、その……まっ白なローブ姿も、い、いいと思う……」


まさかのまさかだった。

役に立つかどうか、なんて目で見ていなかったんだが、そうか……アステルは役に立とうとしてくれたのか。

あ……俺が役割分担の話とかしたから……。

ただ、褒めるというのは正直、上手くできたとは思えない。

しどろもどろだな、俺。


だが、アステルは何やら顔を赤くして、微笑んでくれた。


「あ、ありがとうございます……」


怒りを抑えて、一応、俺の褒め言葉には礼儀で返しておこうということだろうか。

すまぬ……アステル。


それから、アステルの話を聞きながら食事となったのだが、元々アステルは神官見習い的なことをしていたらしい。

なるほど、求道士モンクを名乗っていた訳だ。

その日のアステルはやけに饒舌だった。じいちゃんも終始にこにこしてるし。


それから一週間、俺たちの旅立ちの日が来るのだった。


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