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ゾンビ軍団!地道な時間。

黙々と作業する。

母さんに手直しされた部分なんかに気をつけつつ、『異門召魔術』用の原版を彫っていく。

これがひと段落したら、次は研究所だな。

アルと一緒に研究所へと向かう。


今、研究所では配下の進化計画を進めると同時に、配下となるゾンビの激増が起きている。

何故なら、『騒がしの森』内でゾンビの腐敗進行を抑えるべく、モンスターを襲わせたら、襲われたモンスターがゾンビ化して増えるという事態が起きた。


ある時、冒険者互助会で依頼を眺めていたら『アンデッド退治』という依頼が出ていて驚いた。

ウチの配下には武器を持たせていたので、『ゾンビ化の呪い』は回避出来ると思っていたんだが……。

気になってポロとリザードマンの後を尾行すると、噛みつき、引っ掻き攻撃しか使っていなかった。

ちなみに、冒険者はちゃんとスルー、もしくは難儀しているようなら救助に向かう辺りは、きちんと命令を守っている。

冒険者を助ける時は武器を使うのは何故だろうか?

武器を使う分には『ゾンビ化の呪い』は回避出来ているようなので、これはもしかして俺の命令の出し方に問題があったかと思い返してみる。


「モンスターは好きに襲っていい。人間を見掛けたら、その人間の獲物には手出ししないこと。

ただし、その人間が勝てないだろうと思われる時、救助が必要だと思ったら介入してもいい。

怨まれると面倒だから、獲物は譲ってやっていいからな!」


うん、『好きに襲え』って言ってるわ……。

獲物を冒険者に『譲る』には、『ゾンビ化の呪い』は邪魔だもんな……。


そうか……命令通りだな。

優秀だな、ウチの配下は……ちくせう。


そんなことがあって、『サルガタナス』に聞いたところ。


《武器で死者を作り出しても、オドの補充にはならぬのは、道理じゃろ……》


と、一蹴されてしまったため、モンスターを襲うのを止めるのではなく、ゾンビ化したモンスターは持ち帰るという命令を足すこととなったのである。


さすがに『ゼリ』のダンジョンでは未だアンデッド系モンスターの出現記録がないので、その対になっている『騒がしの森』でだけアンデッド系モンスターが出るというと、変な憶測を呼ぶからな。

近場にネクロマンサーが住み着いた〈事実〉とか、アンデッド化しやすい土地柄だ〈半真実〉とかは噂でも困る。

たまたま、放置された死体がアンデッド化した程度の話なら、無くはない。


俺は『サルガタナス』の研究がてら、配下を進化させたり、研究所を拡げたり、たまに『飛行』魔術の研究を進めたりとやることは多い。


この二十日で王国の近衛騎士団の部隊が百万ジンを持ってきた。

全員が馬に乗って、二十人程度だろうか。

どうも、俺が旅立ってから毎月入れ替わりで来ているらしい。

彼らは冒険者互助会にゴリ押しして、『炎』の異門召魔術を試しに来るということをしている。

百万ジンの護衛、兼行軍演習、兼制式装備の練習と一石三鳥狙いらしい。


今回、十セット程渡したので、ものすごい喜びようだった。


オクトと協議の結果、異門召魔術用の箱は鋼鉄製になり小盾としても使える上、制式装備用のインクと魔術符は高級品仕様、中身の判子もじいちゃんから正答率九割六分とお墨付きを貰っている。

箱は魔法金属で軽量化しようかと試作して貰ったが、値段がふっかけるにしても洒落にならない金額になった上、希少性が高くなりすぎたので断念せざるを得なかった。


仕方がないので、ワンオフ物として俺が使っている。


現在、国から送られて来たのは最初に俺が貰った分と併せて六百万ジン。

じいちゃんとの話し合いの結果、俺の取り分は半分で三百万ジンも貰ってしまった。

冒険者相手の異門召魔術貸出業務の上がりと合計すると、所持金が凄いことになっている。


定期的に配下のアンデッド用の武装を買い求めても、全然余裕だったりする。


そんな配下のアンデッドたちだが、森に溶け込み易いという意味で緑を基調とした装備をお揃いで作ってもらっている。

オクトの知り合いの鍛冶屋で何も聞かず、何も言わずに作ってもらえるので、俺としては大変ありがたい。


「ねえ、ベル。どこかと戦争でもするつもりなの?」


「せん、そう……?

あ、『黄昏のメーゼ』とのやつ?

アレは戦争なんて規模じゃなくて、せいぜい暗闘……くらいじゃね?」


メーゼとの闘争はどれだけ数が揃えられるかが重要なのではなく、政治的発言力が物を言うはずだ。

アンデッド同士の戦いは、基本的に千日手だ。

お互いに配下をけしかけあったところで、頭を取らねば武力的抗争に意味はない。

現状、アンデッドすら倒せるアンデッドであるエインヘリアルの『トウル』が俺の配下にいることで、多少は有利かもしれないが、そのエインヘリアルをメーゼは捕らえていたのだ。

つまり、エインヘリアルを捕らえる術をメーゼは持っている。

エインヘリアルはアンデッドの中でも上級に位置している。

となると頭を取るにはエインヘリアルより強いか、暗殺特化などで確実に頭を取れるアンデッドが必要になる。

だが、これだっていい手とは言えない。


一番いいのは、とっとこアルを復活させて、死霊術を封印することだけど……まあ、アルを復活させたら、それこそ『黄昏のメーゼ』のように国公認の死霊術士になるって手もある。

そうなれば、やはり政治的発言力が重要になる訳で。


結果、国に恩を売れる近衛騎士団の制式装備作りがかなり重要になる。


アルの復活は時間が掛かることになるが、復活後のことを考えれば、これが一番の近道だ。


「あの、さ……ベル。

このゴブリンとか大角魔熊とかウルフとか……なんか珍しいモンスターまでいるゾンビ軍団は、どうするつもり?」


「どうするって、そりゃお前……研究?」


数がどんどん増えている訳で、現在、研究所は地下へ地下へと拡がり続けている。

確かにアルの言う通り、ちょっと多いかな?と思わなくもない。

ただ、ゴブリンゾンビなんかは人間に近しい身体なので、実験なんかには使いやすいのだ。


「私に聞かないでよ……」


飽きれたように嘆息と共に言葉を吐き出すアル。


「いやいや、ちゃんと考えてるから!」


「本当に?」


「お、おう!なにしろ俺は天才だからな!」


やべえ、アルのジト目が止まらない。

研究所の一室、儀式部屋で新しく配下としたゼリホーンドゴブリンの差し出す腕に噛みついて血を飲み下しながら、俺は考える。


うぇっ……やっぱりまずい。

うん、ただの時間稼ぎだ。考えてないな、俺。考えるフリをしているだけだ。


「ご主人様、ただいま戻りました!」


リザードマンゾンビ五匹を引連れて、いや、今は進化したからリザードマングール五匹を引連れて、ファントムのアルファが帰って来る。


リザードマングールが抱えているのはゴブリンよりもふた回りはデカいオーガ種だ。

『ゼリ』のダンジョンはようやく七階層まで攻略が進み、デカくて強いの代名詞、オーガ種が表れ始めているらしい。

それに伴い、対になっている『騒がしの森』にもごくまれだが、オーガ種が表れ出している。


「げっ!オーガじゃん!」


アルは恥じらいなく蛙の断末魔みたいな声を上げる。


「一匹だけ森の奥からはぐれたみたいで、冒険者の方々を襲ってたんです」


アルファの説明が始まる。

最近のアルファはもっぱら『騒がしの森』モンスター襲撃部隊の先導役を任せている。

『塔』にいる間は、じいちゃんもアステルもいるし、研究所にいる間はわんさか配下がいる。

俺とアルの護衛をやらせておくには、アルファはもったいない。

意思を持ち、言葉を普通に発し、隠密性に優れたアルファは、冒険者を助けるかどうか、どのモンスターを襲うか、などの判断をきちんとつけることができる。

アルファ本人としては俺の傍に居たいという想いがあるらしく、『騒がしの森』から帰ると相変わらず俺の近くに控えていたり、アルの相手をしていたりするのが常になっているが、配下の中ではアルファほど融通の利く者は今のところいない。


「その冒険者に見られてはいないのか?」


俺が聞くのは、もちろんリザードマングールたちのことだ。

ファントムのアルファは自ら姿を現すか、点眼薬を使わないと見えるはずがない。


「はい。遠間からいつも通り援護して逃げてもらい、それから仕留めたので大丈夫です」


そう、アルファがモンスター襲撃部隊の先導をしている時は、他の冒険者のフリをして声を掛けて、襲われている冒険者を逃げるように誘導、それから配下たちで片をつけるという方法が取れるので、冒険者に獲物を譲る必要がなくなる。

たまにエインヘリアルのトウルが先導する時もあるが、トウルだとこういう臨機応変さは望めないんだよな。脳筋だから。


そうして、遠回りながらもアル復活に向けて下地を整えていたら、いつの間にか冬を越えていた。


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