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研究所!計画変更!

ルガト=ククチの作り方。

ファントム:一体

岩塩:沢山

紫水晶:ひとつ

魔宝石:親指の先程度のもの

人工霊魂:沢山

魔法陣:ひとつ


暗号を解読した結果、判明したルガト=ククチの材料だ。

岩塩と人工霊魂が沢山必要らしいが、たくさんってどのくらい?


朝から『サルガタナス』の解読を続けて、どうにか見えてきた答えが、ふわっとしている。

どれくらい必要か分からないのは怖い。いや、ファントムの時には霊体の大きさに合わせて人工霊魂を使ったら間に合ったんだから、それくらいでいいのか?

でも、怖いよな。

アルファの時はそれで良かったけど、アルの時は余った人工霊魂を全投入して、それを全部使った。

いや、人工霊魂は霊体強化に繋がるって話だったから、そうした理由だけど。


だとしたら、岩塩も多ければ多いほどいいってことなんだろうか?

一応、そういう線で考えておこう。

と、なると大きさの指定がない紫水晶も、なるべく大きなものがいいのかもしれないな。

『サルガタナス』からヒントが貰える可能性は低いが、ダメで元々、聞いてみるか。


「なあ、サルガタナス。岩塩の沢山とか、紫水晶のひとつって分量がやけにふわっとしているんだけど、お前はどう思う?」


《ルール違反になる故、答えられぬ……》


あ、やっぱりか……。


《が、ひとつだけ。

塩の柱は神魔が去りし肉体と関係する……》


おや、ヒントというか、それは答えなのでは?

神がこの世に顕現し、その去った後には塩の柱が残るという話は昔話で良く語られる。

つまり、肉体を構成する要素として使うという意味かもしれない。

人工霊魂と同じような記述方法を使って書かれているから、これも同じく肉体強化的な意味があるのかもしれない。

だとすると、多ければ多いほどいい。


こりゃ、塩の街『ソウルヘイ』まで行くべきかな……。

『テイサイート』で大量の塩の買い付けなんてしたら、目立って仕方がない。

『ソウルヘイ』まで行けば、産出元だから安く、大量入手も比較的簡単なはずだ。

『ソウルヘイ』は近くに塩湖、塩山なんかが幾つもある。

また、ダンジョンからも大量に塩の入手が可能という話もある。

行くべき、だよね……めんどくさ……いやいや、アルの進化のためだしな。


ちょっと、昨日一日、読書三昧で充実したのがいけなかったのか、だらだらゴロゴロしながら読書三昧という誘惑に一瞬だけ負けそうになる。


『ソウルヘイ』行きは少し後で考えるとして、先に人工霊魂と街で紫水晶の出物がないか確かめるか。

となると、先に街、紫水晶の出物がなければ依頼も考えないとな。

それから、水スライム狩りか、これも依頼がいいだろうか?

魔瘴石と魔宝石は互助会で買えるはず。


でも、街に行くのは明日だな。

今日はもう『サルガタナス』のルガト=ククチの作り方を細かく解読していたから、昼を過ぎている。

今から街に行ったら、帰りは夜になってしまう。


それなら、研究所の様子を見よう。


「アルファ、研究所行くぞ!」


アルの部屋で待機中のアルファに声を掛ける。

アルファはアルとポルターガイスト能力の訓練中らしく、アルの部屋の中をぬいぐるみと枕が飛んでいた。


「あ、研究所?私も行く!」


ぼてっ、とぬいぐるみが落ちる。

枕は、すっとベッドに戻る。

どっちがどっちを動かしていたのか一目瞭然だな。


「様子見だけだから、大して面白くないぞ?」


「まあまあ。アステルも集中しちゃってるし、じいちゃんも今日は忙しいらしいから、暇なんだもん」


「へいへい……」


アルとアルファの二人を連れて、『塔』を出ると、『騒がしの森』入口付近の研究所へ向かう。

隠れるように偽装された木立を掻き分け、洞穴の中へ進む。

『光』の魔術符で辺りを照らす。

入口は、熊の寝床かのような雰囲気だが、少し進めば、すぐに補強された地下空洞が現れる。

下りのスロープを進むと正面に扉がある。

『危険!立ち入り禁止』と看板があり、もし冒険者なんかが間違えて入った時に、これを見てここが『塔』の管理下にあってヤバそうだな、と思って貰えれば幸いである。


扉を開くと降りの階段があり、その先は小さな部屋。

雨具やら机と椅子、壁には灯りの魔導具が据えられていて、管理小屋みたいになっている。

奥にはまた扉がある。

ここは倉庫として使っている。

そして、倉庫の奥には隠し扉がある。


倉庫の隠し扉からは広い通路が続いていて、通路の片側には俺の部屋、アルの部屋、厨房、工房、儀式魔術の部屋と続いている。

通路と各部屋には灯りの魔導具を設置予定で、各部屋の内装なんかも、まだほとんど出来上がってはいない。

前はここから『取り寄せ』魔術用の空間が拡がっていたが、一部を残して改修した。


本来、じいちゃんなんかにバレないように死霊術の研究を進めるために作ったから、バラしてしまった今となっては、あまり意味がないけれど、秘密基地として今後も拡張予定ではある。

さすがに『塔』で死霊術の研究をするのははばかられるしな。


広い通路の一番奥、そこの扉を開けば、またもや下りのスロープで『取り寄せ』魔術部屋へと続いている。

そして、扉を開けた瞬間、目の前には鳥のオーブであるトーブが居る。

目線を下に落とせばリスのスケルトン、リスケが、壁に目をやればサルのスケルトン、サスケが壁に張りつくように控えている。

この三匹は現状唯一の保安要員である。

俺が旅に出ている間、ポロとサンリ、オルとケルは俺の戦力として『取り寄せ』部屋待機を命じていたので、それぞれの部屋にいる。

さらには旅の間に配下にした三十八体のリザードマン、エインヘリアルのトウルも部屋で待機中だ。


他にも各部屋にはアステルから預かっている魚の冷凍オブジェ、百万ジンという大金、保存食、今は空になってしまったが人工霊魂の竹筒、読み終わった本、冒険用の装備なんかも置いてある。


「お宝はっけーん!

いよいよ、ここもダンジョンじみてきたよね!」


アルが嬉しそうに十万ジン入りの皮袋を握って言う。

研究所でダンジョンごっこって、子供かよ!


「こらこら……戻しておけよ。

それと、魔法陣のオド吸入口には絶対に触るなよ!

魔晶石一個分のオドが吸われた上に、大変なことになるからな!」


俺が……とは言わない。

下手に言って、遊ばれたらシャレにならない。

そう、魔晶石一個分なら、アルは衰弱するもののそこまで酷いことにはならないのではないか、というのが俺の見立てだ。

むしろ、下手に発動されると俺の腰に備えたガンベルトが爆発する。

魚の冷凍オブジェが取り寄せされたりしたら、俺の身体の向き次第で、潰されることもありうる。


そっとガンベルトを外して置いておく。


「うん、分かってるよ!

罠の対処は冒険者の基本だからね!」


罠ってことになってんのな、アルの中では……。

まあ、それならアホなこともしないだろうとは思う。


とりあえず、今いる全員の確認をしておくか。


俺は部屋を見て回る。

最初はポロとサンリだ。


元・『赤よっつ、緑むっつ、青ひとつ』冒険者で『ロマンサー』のポロと、元・『赤鬼夜行盗賊団、頭目』でポロの仇敵の一人であるサンリは人間のゾンビだ。

被せてあるローブを脱がせると、もう少しで骨だけになりそうな勢いだが、ぎりぎりゾンビというところだ。

彼らを生き返らせるつもりはないが、戦力増強という意味では進化を考えたいな。

ただ、もう見た目が酷い。

いっそ、スケルトン化した方がいいかもしれない。


『黄昏のメーゼ』という敵がいる以上、戦力増強は急務だと思う。

今は休戦中だが、それはあくまでも休戦でしかない。

いつかは雌雄を決する必要があるだろう。

最短なら四ヶ月、いや、アンデッドは不眠不休で動けることを考えると、時間は三ヶ月ないという程度で考えた方がいいだろう。


次に確認するのは、ケルとオルの二匹だ。

半ば骨の上に毛皮を被っただけみたいに見えるが、この二匹は『ゼリ』のダンジョンで配下にした巨大狼、ゼリグレイガルムのゾンビだ。

やっぱりゾンビは見た目がかなりヤバいな。

紋章魔術で臭いは消してあるが、腐汁とかで部屋もかなり汚れているし、せめて腐らないように進化させるべきか。

これは、リザードマン、ポロ、サンリにも言える。


そして、リザードマンズだ。

うん、部屋が狭い。

三十八体ものリザードマンがひとつの部屋にいるのは、かなり窮屈だな。

まあ、ゾンビだから不平不満を言うわけでもないけれど、全員立ったまま、ただ待っているというのも辛いな。


あ、そういえば、アンデッドの他者を襲うことでオドを補う性質があるって話があったけど、そこら辺どうなんだろう?

『サルガタナス』に聞いてみるか。


《なあ、サルガタナス……アンデッドに他者を襲わないようにさせるのってどうなんだ?》


アルがいるから、根性で念話を飛ばす。

まだ『サルガタナス』の存在は内緒だからな。


《うむ、ベルが決めておる基本的なお約束、というやつかの?

今のところはゾンビの腐敗進行程度の話だが、大して動かしている訳ではないしの……動き自体には問題のない範囲だろうとは思うがの……》


え?腐敗が進行するのって抑えられるのかよ!

それと、色々命令すると動きに支障が出るってことだよな……。


うん、問題あるな。

これは交代制で『騒がしの森』のモンスター退治とかやらせるか……。

冒険者とか襲わないようにさせないとな。

それから、『ゾンビ化の呪い』があるから、退治した死体を放置するのもヤバい。

死体を集めて、閉じ込める場所とか作るか……。


おっと、トウルの確認がまだだった。


俺はトウルの部屋に行く。


「ワガ、シュシン!」


トウルは地面に座り込んで、暇そうに酒を飲んでいた。

傍らには猪が一匹、生のまま齧られて置かれていた。

おそらく、猪戦車の置物から呼び出したのだろう。

そうか、トウルはエインヘリアルで上級アンデッドなうえ、飲み食いもできるし、自我も強いもんな。

俺を見た途端に片膝立ちで頭を垂れたけれど、結構辛い想いをさせてしまったかも……。


「あ〜、生で喰ってるのか……悪いことしたな……」


「ココデマツ、ワガ、シゴトナレバ……」


随分と殊勝な物言いだ。

だからこそ、俺の心に突き刺さる。

よし!拡張工事をしよう。

ひとつ下の階層にトウルの部屋、死体置き場、リザードマン部屋、武器倉庫を作る。

武器はリザードマンやトウルが使ってもいいし、ある程度必要だと思っていたのだ。

剣のないリザードマンソルジャーとかいるし、リザードマンキングも武器らしい武器は持っていない。

今後、配下が増えれば必要になるだろうしな。


俺はアルファを呼んで、拡張工事の予定や狩りに出るメンバーの人選を話し合う。

何故かアルファはそういう仕事も得意なんだよな。

人員割り振りとか、作業日程とか。

アルは趣味に走るから、俺とそういう話をするのに向いていないし、トウルは脳筋だから、結果としてアルファに割り振るしかないって話もあるけど。

なんだろう、副官タイプ?

生前のこととか気になるけど、下手につついて前みたいに精神崩壊みたいな形になっても困るから、触らないけどな。


そんなことをしていたら、研究所を出る頃にはすっかり夕方になっていた。


夕食時、明日は街まで行ってくるという話をすると、アステルも一緒に行きたいと言うので、同行することになった。

それから、じいちゃんからも話がある。


「異門召魔術のことなんじゃが。

近衛騎士団の制式装備になるという話があったじゃろ?」


「ああ、言ってたね」


「それでじゃな。今、テイサイートの街で貸し出しているやつがあるじゃろ?

アレと同じものをベルちゃんに作ってもらいたいんじゃが、どうにかならんかのぅ?」


「ああ、そっか!」


つまり、じいちゃんは国に製法は売らずに一千万ジンを引き出してきているのだ。

これは早急に対処しないとマズい。

まあ、異門召魔術もじいちゃんが宣伝しに行っている間に、別物かってくらいに進化を遂げているんだが、どちらにせよ作れるのは俺か、母さん、もしくは母さんの弟子、ただしオクトは除く、それくらいしかいない。

そして、今『塔』にいるのは俺しかいないからな。


「さすがにそろそろ現物を見せんことには、国の使いも帰るに帰れんと泣きつかれてしまってじゃな……。

ちと、面倒なことになりそうなんじゃよ……」


「あー……うん。なんとか時間作るよ……」


オクトの所にも帰った報告をしなくちゃならないし、そうなったら、貸し出し用の『異門召魔術』もまた作らなきゃならない。

まあ、当社の予定の半分で帰ってきたから、オクトの方はもう少し待たせるか。

アルの進化が少し延びるけど、国に目をつけられるのはごめんだから、少し『異門召魔術』に比重を傾けるしかないな。


俺は嘆息しつつも、これからの計画に変更を加えるのだった。


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