理由が知りたい
・・・・・どうしてこうなったのか、理由が知りたい。
目が覚めて、一番に見るのは何時も愛した人のミニチュア。
サラサラの髪はキラキラとしたブロンドで、隠れている大きな瞳は鮮やかなエメラルド。
鼻筋も通っていて、親の贔屓目にみても十分に美しいと言って可笑しくない顔立ち。
だけれど・・・・性格が何故わたしに似たのか。
髪はサラサラのお蔭で奇跡的に寝癖がついていないが、ナイトキャップは既に頭に無く、夜着は乱れ捲ってお腹が出ている。
ズボンは裾がめくれあがって長ズボンが半ズボンのようになっている。
「・・・・・はぁ、何で貴方は母のそんな所を取って来たのよ」
綺麗に治してやっても無駄だと知りつつ、毎朝律儀に治す自分の負けず嫌いさが嫌になる。
着替えて階下に降りれば既に朝食が用意され、新聞を広げた夫が出勤前の一服をしている。
「ん?あ、おはよう・・・・ご機嫌ナナメだね?」
「おはようございます、申し訳ありません」
貴公子然とした夫の完璧な姿に、外面だけでなく内面も似て欲しかったのにと溜息が禁じ得ない。
「ふふふ、そんなに今日も酷いのかい?」
「最悪ですわ、旦那様」
「可愛いと思うけれどね?」
「絶対、違います」
そもそも、彼の優秀な遺伝子を後世に残す為にと娶られてきたというのに、あの子は外面と頭脳はきちんと受け継いだが、何故だか性格や癖は見事に母をトレースした。
それに対して親戚の前では良い子を演じる癖に、乳母や執事や侍女長など、上級使用人にたいして悪戯をしたり、突然居なくなったりと頭の痛い行動が多い。
その癖下級使用人には理想的な主人なのだから呆れてしまう。
「でもね、愛しい人。あの子は悪戯っ子だけれど、馬鹿じゃあない。ちゃんとして良い人と、いけない人は分かっているよ?」
幼い頃から完璧な子は、かえって大きくなってからが息苦しいものだと苦笑する彼の言葉は、実体験から来ているとはいえ、だから許して良いと言う事ではない。
「旦那様、ですが・・・・・」
「レナ、朝からそんな風に溜息を吐いては駄目だよ?僕は貴女の天真爛漫な所が好きなんだ。だから、あの子はあのままで良いんだ」
笑って、と新聞を放り出し抱き締める為に腰を上げた彼に、レナは優し気な微笑を浮かべて近づいて来る彼から思わず一歩後退りしてしまう。
が、そんな些細な抵抗などお構いなしに踏み込んだ彼は力一杯抱き締める。
コルセットもつけず、化粧もされて居ない素の姿の彼女からは自分と同じ石鹸の香りがする。
「レナは、意地っ張りだけれど、あの子を心配しているからこそだと知っている。だけれど、あの子の悪戯もあと数年したらなくなるよ?あの子が子どもで居られる数年間位、悪戯は見逃してあげよう?」
僕はあの子のする悪戯の報告を聞くのが楽しみなんだと言われれば、彼女はそれ以上は言えない。
シュン、と落ち込んでしまうと、若き侯爵は彼が愛した黒髪にキスを落とす。
絹色の肌に、真っ直ぐで真っ黒な髪。
背は低く、小ぶりで健康的な身体。
何もかもが他の誰よりも華奢で小ぶりで少女めいた姿の彼女の方が10も年上だと言っても誰も信じない。
彼女自身が必死に38だと言い張っているが、肌の張りもあるし、何よりも若々しい。
ボディーラインが崩れていると言われても何処が?とも思うし、そもそも今はであった頃よりも引き締まっている。
痛んでいた髪も日に焼けない(監禁)生活の中で艶めき天使の輪まで出来ている。
肌も、食生活を改善させたら出逢った当初よりも肌理が整い透明感がでた。
自分の愛で美しく日々羽化する彼女に彼は気にする事はないともう一度言い聞かせた。
そもそも、自分と彼の出会いが出会いだったとレナ・・・・更科怜奈は完璧なテーブルマナーでおいしそうに朝食をとる息子を眺めつつ思う。
異世界トリップ何ソレ美味しい!!と思ったのは一瞬。
何故此処に落ちる!?と突っ込み、次の瞬間全く身に覚えのない名前で呼ばれ、これまた全く身に覚えのない罪で斬首と聞いて恥も外聞もかなぐり捨てて無実だと土下座した瞬間、ばさりと上質のコートを頭に被せられ抱き上げられたのだ。
『看守、人違いだ。この女は召喚された乙女。手違いでこの階に出現しただけだ』
『はっ、申し訳ありません宰相様』
・・・・・あの時の恐怖と安堵と自分の残念さ加減は今なお継続中である。
そもそも、神殿で伴侶を決めるという方法も元より、何故異世界から召喚する術があるのか。
そもそも、35の女でも処女なら乙女ってなんだそれ。
召喚時にこの世界の常識植え付けるっていうのもオイコラ!とも思う。
まぁ、言葉や文字だけなら許すが、振る舞いまで書きこまれるのはどうかと思う。
お腹一杯食べた息子がきちんと後片付けまでしたのを見てよし、と思うが、本来ならしなくても良い身分である。
だけれど、侯爵夫婦の部屋の間取りを変えてでも一般人の生活方法を身に着けさせたくて我儘を言ったら・・・・何故か夫が主夫になった。
自分よりも美味しいご飯を作り、お菓子を作る。
掃除や洗濯は流石にプロ(使用人)に任せるが、買い出しは普通に仕事帰りにして来るのだ。
洗い物もするし、自分よりも気が利いていて紅茶まで淹れてくれる。
このまま息子が寄宿舎に入っても、困らない反面、夫の料理スキルは天井知らずである。
行ってきます!と学習室に向かう息子に『行ってらっしゃい』と送り出し、溜息を吐く。
「私、絶対経理部のお局様と呼ばれて牛耳ってやるつもりだったのに」
その為に会社でのお洒落を封印して、制服を規則通りに着て毎朝一時間の逆メイクしていたと言うのに。
眼鏡・(コンシーラーで作った)くま・(青色ファンデーションで)血色悪いと言った清潔だけれど近づきにはなりたくないといった一事務員に擬態して来たのだ。
32過ぎた頃からめんどくなってコンシーラーでくま作る事やめたけど。
34過ぎたら普通にしてても血色悪くなって普通メイクにしたけど。
35の誕生日に、友人全員から美容室予約されて髪切らされたけれど。
(それでもパーマはしなかった!!)
「何故、私は侯爵夫人なんてやってんの?」
普通さ、異世界召喚=国王とか王子でしょ!
「何で侯爵?何で宰相??」
そもそも、召喚部屋の下が監獄て可笑しくない?
「いや、でも伯爵夫人の奈々子さんしょうかんはしょうかんでも、娼館に召喚された~と大笑いしていたけども!!」
死に直結と処女消失なら、自分の方が笑えない。
「なんで、こうなった・・・・・」
しかも、召喚されて即国王に報告=婚約、一か月後結婚式ってどうよ?と思う。
(仕事中は冷酷無情な)侯爵は溺愛体質だったから幸せだが、伯爵夫人の奈々子さんところはドMらしい。
人を使う側の反動で、愛する人には虐げられたいと恍惚の表情で見上げられた瞬間『ヤダ可愛いv』と思ったなら召喚結婚は正解なのか??
「確かに、ウチの旦那様ガチ好みだけれども!!」
ただ単に、この世界の男性陣の容姿がレベルが高いだけであり、奥方達は様々な世界から呼ぶのでバラエティーに富んでいる。
子爵夫人が擬態して豊満なボディーな女性だが、その種族がスライム・・・なんて異種間結婚もザラである。
この世界の女子も居る事には居るが、皆目が潰れそうなほど人類の限界に挑戦しているほどの美女・美少女ぞろいである・・・・様々な方向に、という注約は着くが。
「なんで、こうなったのか・・・・・」
侯爵夫人の溜息は、今日も尽きない。