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第弐話
吹雪が止んだら勝手にいなくなるだろうと思ったら、本当にいなくなった。
矢張りそうだ、私の事が恐いのだと思っていると、彼女はしばしば城に来るようになった。
「ヴァンパイアさん、こんにちは」
どうやら私の耳が聴こえていることには気付いていないようだが、それでも彼女は私に話し掛けてきた。
何が楽しいのだろうか。
「今日は薔薇が咲いたので持って来ました」
私に薔薇の色は分からない。
香りはおろか、頬にくっ付けられても棘の痛みすら分からない。
それでも彼女は来るたびに薔薇を新しくすると言った。
新しい家具を揃え、カーテンやテーブルクロスまでも変えたらしい。
そして、味覚のない私に、食料を持ち込んで食事を作って食べさせた。
全く無駄なことを。
それでも私は、次第に彼女の到着を待ちわびるようになっていた。
「私、吸血鬼さんと話してる時が、一番落ち着くんです。だって、吸血鬼さんは、私の話を黙って聴いてくれますから」
「私も貴方の話を聴いてみたいな」と彼女は言った。
私の名前すら知らない、私も彼女の名前すら知らない、おかしな関係がいつまでも続いていた。




