第壱話
永遠の命は人類の憧れだというが本当だろうか。
永遠の命ということは苦しみが長引くということだ。
私は永遠の命を持つヴァンパイア。
目を開けても閉じても、そこに広がっているのは永遠の闇。
私は数百年前の幼い頃に五感の殆どを失っていた。
残っているのは微かな聴力だけ。
耳元で喋って貰わないと何も聴き取ることが出来ない。
他のヴァンパイアたちのように吸血をすることすら満足に出来ず、それどころか、歩くことも、自分の意志で何か言葉を発することも出来ない。コミュニケーションといえば呻き声を上げることはできるが、血色のない肌と相まって、同族ですら私を恐れて近寄って来なくなった。
両親もいつしか私に一言の詫びの言葉を置いて去って行った。
私は広い城に一人、暮すようになった。
月光どころか苦手なはずの日光すら感じられない。
暖かさも寒さも分からない。
宝石で飾られた、母が愛した椅子に座らせられたまま、じっと動かないでいるしかない。
それでも私は永遠に生き続けた。
方法がそれしかなかったからだ。
そんなある日のことである。
誰もいない城に一人の女が迷い込んで来た。
女は私を見るなり悲鳴を上げたが、驚いたのは私の方だった。
何の感覚もない闇の中でいるはずのない女の声を聴いた私の気持ちになって欲しい。
私が動かないと悟ると、彼女はやがて私を相手に話し始めた。
人形を相手に会話するような気分なのだろう。
どうやら外は吹雪らしい。
彼女は道に迷い……何らかの理由でこの城に辿り着き、これ幸いと潜り込んだようだ。
ここがヴァンパイアの城であることは噂で聞いていたらしいのだが……
「本物のヴァンパイアさんに会えるなんて吃驚です」
この女はもしかしたら馬鹿なのかもしれない。




