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魔界の王の総選挙

作者: 古緑空白

 ここは魔界。悪魔たちが住まう場所だ。

 悪魔は人間が思うほど無法な存在ではじつはない。ある意味で人間以上に知的な存在である彼らは法によって統治されているのだ。

 法によって統治されている、ということは悪魔たちには人間でいうところの王様がいるのだ。

 王様は選挙によって決まる、そして今が悪魔たちの王――魔王を決める時期なのだ。

 民衆である悪魔は候補者の王の姿を見る。無法な存在ではないが、人間が思うように自堕落な存在でもある。

 選挙の演説で何を言っているかわからなかったり迂遠な言葉を発すれば短絡的に野次を飛ばす。

 演説する方も慣れたものではあるが、相手にする民衆は数が多い。選挙に出るからといって真面目ではないのが悪魔なので、やけになって逃げ出すものや、即座に立候補を取り消すものも少なくない。

 民衆の期待感が落ち込む中、一人の悪魔が壇上に立った。

「皆さんはじめまして、私は悪魔の世界、魔界をより良くするために粉骨砕身したいと思います」

 さわやかな口上で始まり、民衆は好感からくる期待とこれまでの悪魔たちと同じなのではないかという不安を同居させながら聞いていた。

 政策について語りだすとまずやじが飛んだ。それに対して悪魔は微小すら浮かべて小粋なジョークでやり込める。期待がかかる。

 老後保証や社会保障を盛り込み、民衆もやじよりも耳を傾ける流れへと変わっていった。

 そして、終わった際には壇上の悪魔は万雷の拍手によって去っていった。

 全ての演説が終わる中民衆はあのさわやかな悪魔に票を入れる雰囲気へと変わった。

 他の立候補者は何とか蹴落とそうとするが、蹴落とすだけの悪略は出来なかった。

 なんと、あの悪魔は前魔王の肝いりであるというではないか。

 しかも、自衛手段としての後ろ盾のみに使い、あとは本人の能力だけということが知れ渡ると、悪魔たちは感服と同時に勝てないという敗北感に打ちのめされた。

 そして魔王へと就任した。その際に前魔王は意味深な発言をした。

「彼が政治の内容がわかった時には、国民は二重の驚きを得るだろう」

 前魔王の保証、と民衆はそう高をくくった。

 だが、政治が始まり、民衆は自身を省みずこう彼を呼んだ。

「この、悪魔め!」

 悪魔たちは自分たちにとって彼が悪魔であるといったのだ。これはひどいジョークだ。

 これに対して魔王は、私は悪魔ではないですよと微笑混じりにコメントしていた。

 彼が何をしたのか、ということは労働の時間の制定だ。

 これを満たさないものは老後の保証を受けられない、といったものである。

 人間の世界では当たり前のことだが悪魔の世界にはなかった言葉だ。

 ――働かざるもの食うべからず。

 悪魔たちは粛々と働き人間界へ聖者の誘惑や魂の獲得の効率化が新しい魔王によって行われた。

 一番目の驚きはわかった。しかし、隠された二番目の驚きはまだわからない。

 広報局の悪魔が新しい魔王に尋ねる。

「前魔王は、貴方が二重の驚きを国民に与えるとおっしゃいました。しかし、貴方がこれ以上私達に何を驚かせるというのでしょう」

「それは私の出自に関わります」

 魔王は語り出す。

「私は前魔王閣下に拾われました、そして私の人間界への深い憎しみを閣下に理解していただき、協力していただきました」

「深い憎しみ、人間界にどんな因縁が」

 恋人を殺されたのです、魔王は遠く昔のことへ思いを馳せているようだ。

「彼女は美しく心優しい女性でした、私は彼女との結婚を考えていました」

 悪魔は少し理解に齟齬を感じていた。

 何かがずれている、しかし何がというところが、簡単すぎてわからなかった。

「けれども、私達の結婚を認めない連中によって私は半殺しにされ、彼女は陵辱された」

 そうか、と悪魔は気づく。

「彼女は私への負い目から自殺してしまいました、私はその時ほど人間界を憎んだことはありません」

 ですから、魔王はこぼす。

「人間界へ復讐を果たしたいのです」

 成程、悪魔は頷く。

「貴方は――悪魔ではなく」

 魔王は、否□□は答える。

「そう――私は人間だ」

 人間の魔王、その報せは魔界中を駆け巡った。

 ここに前魔王の二重の衝撃が響き渡ったのだった。

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