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そういえば、ミラと名乗る目の前の人物は空を飛び自分達の前へとやってきていた。
普通の人間であるならば空を自由に飛ぶことは出来ない。だがしかし、それは自分が元いた世界の話だろう。
この世界であれば。昨日ジャンが見せてくれた『言ノ葉』があれば空を飛ぶことも可能なのだろうか。
「…何故、飛べる?」
言葉が世界に膨大な量あるというのであれば、言ノ葉もそれと同等の種類があると考えていいだろう。
それよりも何も、空を飛んでいるという異常に。自分は大きな好奇心を抱いていた。
「ん? あぁ、『言ノ葉』っていう魔法のお陰だよ。その辺りについてはジャンから説明済みかな?」
やはり言ノ葉だったか。ミラからの質問には無言で頷く。断片的ではあるが説明はされている。
「んじゃ、ちょっと実践してみようかな。ほい、『Soar』っと」
ミラが口から『Soar』と発音すると、その口にした言葉が文字として浮かび上がってくる。
その文字はミラの身体へと吸い込まれていき、文字が完全にミラの中へと取り込まれると足が地面から離れていく。
それは跳躍によるものなどではなく、完全に重力から生じる圧力への勝利であった。
彼女の身体は宙へと浮き、自由自在に空を舞っている。凄く羨ましい。
「…なるほど」
「へへー、凄いでしょ? しかもこの『Soar』は物を浮かせるだけの力じゃかいんだよ! 『言ノ葉』の元になる言葉にはたくさんの意味が存在するからね」
…確かにそうだ。Soarだけでなく、言葉には複数の意味が存在するのが多い。
それこそ、本義とはかけ離れているような意味を持つ言葉も中には存在しているだろう。
だとすれば、『言ノ葉』は思ったよりももっと面白い魔法かもしれない。
「…ねぇ、ジャン…? この娘、凄く悪い笑み浮かべてるんだけど…」
「…多分喜んでる…はずだ」
自分の興味心をくすぐられるものに、つい顔が緩んでしまったようだ。いけないいけない。
こうなってくると、自分の『言ノ葉』がどんなものなのかもっと気になってきた。
出来ることなら、面白いことが出来そうな『言ノ葉』であると嬉しいのだが。