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コーンスープ

作者: ミカイラ

ものすごい音で雨がふる。

その姿がたくましくて感動的で、しばらく見とれていた。

窓から手を出して、手の平に叩きつける雨音を楽しんむ。


パチ、パチ、パチ


それは焚火のようで、ひどく懐かしい気がした。

手の中ではねる雨粒が少し顔にかかり、

ふと顔を上げた。


曇り空も、山も、家もみんな白く見えるけれど、その白の中に、ぽつんと影が見えた。

それは、こちらに近づいてきた。



姿が見えてきたそれは、ヒトだった。

声をかけられたくない気がして、そっと窓を閉めてから離れた。



しばらくそうしていたが、やっぱり気になって、

そうっと窓を覗く。

しかしヒトは見えず、真っ白な色だけになっていた。



ピーンポーン



ひどく控えめにチャイムが鳴った。

ヒトだろうと思い、ドアを開けた。



わっ・・・



雨音の大きさと、白い世界に驚かされ、小さな声をあげてしまった。



あ、ごっごめんなさい



ペコンと頭を下げ、謝るヒトの髪の毛から、

ふわっといい香りがした。

ああ、たぶん、突然チャイムを鳴らしたことを言っているのだろう。


怖がらせないよう、ゆっくりにこりと微笑んでみた。

するとヒトも安心したように、にこりとした。


嬉しくなり、ヒトを中に入れようと思ったが、

いい香りのするその髪の毛は、びっしょり濡れていた。


あわててタオルを持ってきて、わしゃわしゃと髪の毛を拭いてやる。


ヒトはキラキラと雨水を降らせながら、ふっと微笑んだ。

この場所に笑顔と香りがふわりと舞って、ぱあっと広がる。



髪の毛から落ちる雨粒がなくなり、服も変えて、

部屋の奥のイスに座らせた。


寒く、つめたい雨の日にぴったりな、あたたかいものをご馳走しようと思い、

すぐに思いついて、とっておきのものを作った。


ふんわりとゆげの立つ淡い黄色のスープをヒトに差し出す。

ヒトはふわりと微笑み、スープに口をつけた。


ぱあっと顔を輝かせ、ごくごくと飲み干す。

とても美味しそうな顔をしているので、またスープをすすめると、ほんのりと笑い、コップを差し出す。

まんたんに入ったスープをとても幸せそうに見つめる。



「なにか、とても大切なものを失くした気がする」



小さな、けれども強い声でヒトがしゃべる。



「それがなになのかは分からないけど、とても大切なもの」



何のことを言っているのかまったく分からないけど、

ヒトの綺麗にひびくその声を聞いているのが好きだった。



「とても小さなもの。何かのかけらのような」



そして、コップのスープを少し口に含む。



「そう。このスープのように、少し哀しくて、とても優しいかけら。もしかして、この・・・」



そう言いながらヒトはむねの辺りをこぶしでおさえた。


思っていることがとてもよく分かる気がして、嬉しいような、

それでいて哀しいような気持ちになった。

さっきまでヒトが飲んでいた、ほっこりゆげの立つスープを、

ヒトは目の前に差し出した。



「・・・こんな気持ちのかけらなのかもしれない」



柔らかく、ゆげの立つ黄色のスープがいい香りをさせる。


ああ、このむねの辺りがギュッとなる感じは、いつからしていたのだろう。

ヒトはゆっくりと微笑み、そっとコップを握らせた。


優しいあたたかさが、いつかに見た焚火のようで、懐かしい。



ひとくち、スープを飲む。ゆっくりと、あたたかなスープが身体に流れこむ。



ああ、こんなにも懐かしく愛おしいおもいは、

いつからしていたのだろう。



そう思ったとき、

なみだがそっと頬を伝わった。

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