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とても綺麗な景色だ。
田舎の山に囲まれ、周りには高いビルなど、一つもない。
窓から見える景色は、小さな駄菓子屋。
ママチャリで子供を荷台に乗せたおばちゃん。
とても寂しい風景。
高速バスに揺られうたた寝をしていた田中雄三は、バスのアナウンスで目が覚めた。
『あっ…』思わず声を出してしまった。
さっきまでの風景とは違い、瞳に写るのは、高層ビル、田舎では見る事のできないギャル、それよりも、
この人の多さは、なんなんだ?
こんなに人が密集していいのか?
車なんか、あっても逆に大変なんだろうな…
そんな事を思いながら田中雄三は、バスを降りた。
徳島―東京間の長時間の移動で少し疲れた。
今日はホテルで休もう。
まだ18の雄三にとって一人でホテルなんて、なんてリッチなのだろう。
都会の街を満喫したいが、これからは、毎日ここで生活するのだから、明日に備えてゆっくり休もう。
高校卒業間近、雄三は進学か就職か迷っていた。
雄三には、夢がある。
それは、スポーツ選手になりたい、芸能人になりたいなどと言った物ではない。
小さい頃から、特に遊ぶ事もなく平凡に育った雄三にとって都会と言うのは、とても憧れであり、自分も都会の華やかな色に染まりたいと思っていた。
田舎のつまらない街とは、早くオサラバしたかった。とにかく、都会に行く。
親は徳島から離したくない
長男なのにどうするの?
とにかく就職にしろ進学にしろ県内にしろと、しつこく言ってきたが雄三は、親の願いむなしく就職を選んだ。
大学になんか行っても金の無駄。
勉強なんてこりごりだ。
就職して金を好きな事に使う。
雄三は結局有名な中華料理店に就職する事にした。
飲食店というのは、まかないが付いていて、寮もついている。
金を貯めるには絶好だ。
決してかっこいい仕事とは言わないが、そんなのは、金を貯めて違う仕事につけばいい。
お洒落なバーでも開こうかな?
窓から都会の街を眺めながら雄三は思い出していた。明日からは新入社員研修。今日はもう寝よう。
雄三は昔から夢見た都会人になれた嬉しさでいっぱいだった。
期待と不安で満ちてると言うが雄三に不安など全く無かった。