愛はハンカチに丁寧に包んで抱きしめて
じゃあちょっと聞いてくれよ。
僕はここからちょっと遠いところから来たんだ。
目的は別に君じゃないさ。ただ単に偶然見つけただけに過ぎない。
でもこれって運命じゃない?こんな僕の前に現れた、話を聞いてくれる穴だってさ。
ちょうど吐きたいなって思ってたんだ。嬉しいよ。
さて、誰が来るかわからないしさっさと始めようか。
何から話そうか…そうだな、順を追って話そうかな。
あの子と出会ったのは、僕達がまだ幼い頃なんだ。
それこそ運命の出会いさ。偶然遠出した公園で、なんとなく帰りたくないなと駄々を捏ねていたら、公園の近所に住んでいたあの子が、マンションのベランダからハンカチを落としたんだ。駄々を捏ねて茂みに隠れた僕が、それを見つけたんだ。
ハンカチを探しに来たあの子に渡したら、本当に感謝されたよ。よっぽど大事なハンカチだったんだろうね。
あぁ、あの子っていうのは僕の恋人だった人のことだよ。
でまあ、その時はそれっきりだったんだけど、僕はあの子のことが忘れられなかったんだよね。
綺麗な髪をしていてね、瞳もすごく印象的だった。なんせハーフだったからね、日本人の子供の僕はかなり目を惹かれたんだ。
それから数年して、僕は中学生になった。
中学校の数が多くないからいろんな小学校から集まるんだけど、あの子も同じ中学校に上がることになったんだ。
入学式で見かけた時は、あまりの嬉しさに舞い散る桜の花びらがハートに見えたほどさ。
何年経っても忘れるわけがない。見間違えるわけがない。薄れるわけがない。
あの日見たあの子の髪、瞳。成長期は終わってたんだろうね。すっかり身長も伸びていたけど、綺麗さは全く変わっていなかった。
これを見てもらえれば、それがどれだけ綺麗かわかってもらえるはずだよ。ほら。
とにかく、この中学に来てるってことは住んでいる場所も変わってないはずだ。マンションもわかるかもしれない。そう思って、僕はあの時に公園に行ったんだ。あれだけ大事そうにしていたんだ、まだあのハンカチを使っているかもしれない。
ベランダに見える洗濯物にハンカチがないか探した。
…残念だけど、その時は見つけられなかったよ。
仕方がないから、僕は勇気を出して聞いてみたんだ。あの子は何て言う名前なの?って。
快く教えてくれたよ。
僕はその名前を頼りに、やっとマンションと部屋を突き止めたんだ。
あとは簡単さ。その付近にいれば、あの子が出歩くところを見ることができる。あ、誤解しないでほしいんだけどストーカーじゃあないよ。あんな気色悪い人たちと一緒にしないでもらいたいね。僕は純粋な恋心だったんだから。
一人で歩いている時に話しかければ邪魔は入らないだろうし、あの子だって心置きなく話せるだろ?僕なりの気遣いさ。
期を窺っている最中にあの子の好きなものやよく行くお店がわかったから、話のタネにちょうど良かった。あの好きなものを、どうすれば僕にしてくれるのかを考えるのか生きがいだったよ。
僕以外の好きなものを消すっていうのも考えたけど、それは流石にやりすぎだよね、あはは。
それから僕は努力したさ。あの子に話しかけて、興味のある話題で盛り上げ、あの子のことを最大限気遣ってあげた。高校も同じところにしたよ。あの子はかなり難しい高校を選んでいたけど、僕も同じところに行けるように沢山勉強したもんだ。あの時は本当に頑張ったなぁ。
あの子の家で一緒に勉強したこともあったよ。その時に、あの子の部屋にあの時のハンカチが置いてあったんだ。
それを見て僕は聞いてみたんだ。僕があのハンカチを拾ってあげた時のこと覚えてる?って。
もちろん覚えてるわって言ってくれた。本当に嬉しかったよ。僕たちは同じ気持ちだったんだって思えた。
あ、ちょっと汚れちゃってるけどこれがそのハンカチだよ。この汚れ落ちなくてさー…ショックだよ。
それで僕たちは同じ高校に行くことができて、結構仲良く過ごせたと思う。
でもまだ恋人にはなれなかったんだ。流石に大学は別れちゃったしね。
でも、やっぱり僕らは運命の赤い糸で繋がってたんだ。
一年前街のカフェで再開することができたんだよ。彼女がよく行くお店も変わっていなかった。
懐かしい話で盛り上がって、あの子の好きなメニューを食べて、僕たちは付き合いが始まった。
そう、付き合えたんだよ。長い片思いだった。僕の努力がやっと実ったんだ。あの時は、この幸せは死んでも離さないと思ったね。
会えない日も多かったけど、その分会えた日はたっくさん遊んだよ。あの時駄々を捏ねた時間に出会えた彼女と、時間なんて気にせずいつまでも遊ぶことができる。これ以上にない幸せな時だったよ。
でも、次第に会えない日が多くなっていったんだ。
最初は単純に彼女が忙しいだけだと思ってた。我慢したよ。よく我慢した。
それで彼女が会えないって言った日に、仕方ないから一人で出かけたんだ。暇だったしね。
あてもなくのんびりと歩いていた僕の目に、晴れた空の太陽の光を見ていた方がまだマシだというような光景が飛び込んできた。
彼女が、知らない男と歩いていたんだ。
僕は問い詰めたよ。彼女は訳のわからないことを言うんだ。
僕と付き合うのは疲れるって。中学の時、あの男に僕が彼女の名前を聞き出していたって。いろいろ知り過ぎてて気持ち悪いって。僕よりもあの男の方が好きだって。
なんでそんなこと言うんだって僕は怒っちゃったよ。だって全部彼女が好きだからやったことだ。彼女のためにしたことだ。なのになんで悪く言われなきゃいけないんだ。
また新しい好きができちゃったんだ。また僕にむかせなきゃ。でも、好きを消すのはやり過ぎだよね。でも僕にまだできることってなんだろう。そう考えた結果、一つの結論に辿り着いたんだ。
彼女の世界を僕だけにすればいい。
一番簡単なのは監禁じゃない?だからまず彼女のために可愛い部屋を用意したんだ。
不自由しないようになんでも揃えてあげた。彼女を傷つけたくはなかったから。
特にヘアケア用品は充実させてあげた。この綺麗な髪を維持して欲しかったから。
ドールみたいな可愛い服もあげた。この綺麗な瞳を映えさせたかったから。
僕こんなにしてあげたんだよ。なのに彼女は泣いてばかりだった。ちっとも喜んでくれなかった。
次第に泣かなくなったけど、相変わらず笑ってはくれなかった。
それでこの間、とうとう暴れ出しちゃったんだ。暴れる彼女はそれでも綺麗だった。
でもこれ以上暴れたら、綺麗な髪が乱れちゃうし、綺麗な瞳がくすんでしまう。僕はそれだけは絶対に嫌だった。
だからね、仕方なく動かないようにしたんだ。
振り回す手足なんていらない。下品に動く胴なんていらない。重い頭なんていらない。
僕は髪と瞳さえあればいいんだ。さっきも見せたでしょ、すっごく綺麗なんだ。
思い出のハンカチで大事に包んでここまで持ってきた…いや、逃げてきたんだ。
流石にね、僕だってこれがいけないことだってわかってるんだ。だから逃げてるところだったんだよ。
あの子に罪悪感だってある。好きだったから。彼女だったんだよ?当たり前だよ。
誰かに打ち明けなければ、一生あの子の亡霊に取り憑かれる気がしたんだ。
そんな時に君に遭遇した。本当に助かったよ。こんなこと誰にも言えないからね。
は〜スッキリした。さて、そろそろ僕は出発するよ。
聞いてくれてありがとう。君は今までも、これからも、沢山の罪を受け止めるんだろうね。
溜め込んだ罪は、一体どこへ行くんだろうね。
おっと、サイレンが聞こえてきたかなーーー
初めまして。
もちろんですがフィクションのお話になります。
どこへ繋がっているかわからない、不思議な穴のお話です。
ものすごく気まぐれで書いていこうと思っています。
今後ともよろしくお願いします。




