クールなあの子
春の柔らかな陽射しが教室の窓から差し込んで、桜の花びらがひらひらと舞っている。
青葉高校の入学式が終わって、初めてのホームルーム。
僕、神来社いつきは、指定された席に座ってぼんやりと前を見ていた。
ふわぁ……なんか、緊張するな…早く慣れれるといいけど……
制服のネクタイがちょっと緩んでるけど、直すのも面倒でこのまま。
隣の席に、誰かが静かに座った気配がした。
視線をそっと横にやると……
水色の髪が、さらりと揺れている。
ウルフカットの、すごく綺麗な髪。
その子は、教科書を机に置くなり、こちらをじっと見た。
え……?
目が合う。
すごく、澄んだ瞳。
???「神来社、いつき……だよね」
声が、低くて落ち着いてる。でも、どこか柔らかい。
いつき「う、うん、そうだよ……! えっと、君は……?」
「私は川村藍。よろしく」
藍ちゃんはそう言って、ふっと小さく微笑んだ。
え、えええ!? なんか急に距離近い!?
彼女は自分の椅子を少しだけ僕の方に寄せてきて、肘を机につきながら、顔を近づけてくる。
藍「隣、良かった。運命みたい」
いつき「えっ、う、運命!? そ、そんな大げさな……!」
心臓がドキドキしてる。なんで!?
藍ちゃんはかっこいい顔のまま、でも目がちょっと細くなって、嬉しそうに続ける。
藍「席替えとかないよね? このまま、ずっと隣でいいよね?」
いつき「ええええ!? いや、僕が許可できる立場じゃないよね!?あと多分席替えあるよ!?」
慌てて手を振ると、藍ちゃんはくすっと笑った。
その笑顔、めっちゃ可愛い……!
やばい、なんか顔熱い……!
周りのクラスメイトがちらちらこっちを見てる気がするけど、藍ちゃんは全然気にしない。
むしろ、僕の袖をそっと指でつまんで、
藍「ねえ、いつき」
急に名前呼び!?
いつき「うわっ、な、なに!?」
藍「これから、毎日一緒に帰ろう?」
いつき「えええええ!? い、いきなり!? まだ入学式終わったばっかりなのにぃ!?」
藍ちゃんの瞳が、ちょっとだけ鋭くなる。
でも、それは怒ってるんじゃなくて……すごく真剣で。
藍「他の子に取られたくないから」
いつき「え……?」
一瞬、教室の空気が止まった気がした。
藍ちゃんはすぐにいつものクールな表情に戻って、教科書を開く。
藍「冗談。……半分は」
半分って!! どっちが本気なの!?
心臓が完全にバクバクしてる…
この子、クールなのに……僕の前だと、なんかすごい感情が溢れてくるみたい。
桜の花びらが、もう一枚、窓から舞い落ちてきた。
藍ちゃんがそっと手を伸ばして、僕の机の上に置く。
藍「これ、君の」
いつき「……ありがとう、藍ちゃん」
彼女は少し頰を赤くして、でもすぐに顔を背けた。
藍「……ふん。早く慣れなよ。わたし、いつきのこと、独り占めしたいんだから」
いつき「え、えぇぇぇぇぇぇ!!?」
心の中で叫びながら、僕は顔を真っ赤にして俯いた。
川村藍。
こんなにクールなあの子が、僕の隣で、静かに、でも熱く、燃え始めていた。
これから、どうなっちゃうんだろう……
ドキドキが、止まらない。
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入学式の翌日。
まだ桜が少し残ってる四月の夕方。
僕は教室で荷物をまとめながら、ぼんやりしてた。
昨日、藍ちゃんに「一緒に帰ろう」って言われたけど……本気だったのかな……?
隣の席の藍ちゃんは、教科書をカバンにしまう手を止めて、じっとこっちを見てる。
藍「いつき…」
いつき「はい!?」
藍「一緒に帰ろ」
藍ちゃんの声は静かだけど、なんか、有無を言わせない感じ。
いつき「う、うん!もちろん!」
僕は慌てて立ち上がって、藍ちゃんの後ろに続いて教室を出た。
廊下を歩きながら、藍ちゃんは僕の隣にぴったり寄り添う。
袖が触れ合うくらい近くて、心臓がドキドキする。
藍ちゃんは前を向いたまま、でも口元が少し緩んでる。
そして藍ちゃんの口が開く。
藍「ねえいつき。昨日さ、他の子に取られたくないって、言ったよね」
いつき「うん、言ってた! びっくりしたよ…!」
校門を出て、桜並木の道を歩く。
夕陽がオレンジ色に染めて、風が花びらを散らしてる。
藍ちゃんが、急に立ち止まった。
藍「手…」
いつき「え?」
藍ちゃんは、そっと自分の手を差し出してくる。
水色の髪が、風に揺れて、すごく綺麗。
藍「繋いで、いい?」
いつき「 い、いいよ! もちろん!」
突然手を繋ごうと言われ、僕は慌てて手を差し出すと、藍ちゃんは指を絡めて、ぎゅっと握ってきた。
冷たくて、細くて、でも力強い。
藍「これで、少し安心する」
藍ちゃんの声が、少しだけ震えてる。
藍「いつきが、他の子と話してるの見ると、胸が、ざわつくの…だから、こうやって繋いでると、わたしだけのものだって思える」
藍ちゃんは俯いて、頰を赤く染めてる。
クールな顔が、こんなに照れてるなんて……可愛すぎる!
いつき「僕も、藍ちゃんとこうやって歩くの、嬉しいよ!」
藍「本当…?」
いつき「うん! すごく!」
藍ちゃんの指が、もっと強く握り返してくる。
藍「じゃあさ、毎日、こうしよう?」
いつき「うん! 」
藍「約束だからね」
藍ちゃんが、ぱっと顔を上げて、僕を見る。
瞳が、夕陽に照らされて、キラキラしてる。
藍「大好きだよ、いつき」
小さな声だけど、はっきり聞こえた。
いつき「え…!?」
藍「昨日から、ずっと言いたかった」
藍ちゃんは、僕の手を胸の前に持ってきて、自分の心臓のところに当てる。
藍「昨日からずっと、いつきのことでいっぱいなの」
ドクドクって、早い鼓動が伝わってくる。
いつき「藍ちゃん、僕も、藍ちゃんのこと……大好きだよ!」
藍「!ーー」
藍ちゃんの目が、うるっと光る。
そして、そっと…
僕の頰に、自分の頰を寄せてくる。
藍「えへ……嬉しい」
凄く甘い声。桜の花びらが、二人の周りを舞う。
藍ちゃんは、僕の手を離さずに、また歩き始める。
藍「これから、ずっと隣にいてね?」
いつき「うん! ずっと!」
藍ちゃんの横顔が、夕陽に染まって、優しく微笑んでる。
入学式の翌日。
まだ何も始まっていないはずなのに……。
藍ちゃんとの帰り道は、凄く特別なものになってた。
藍ちゃんの手の温もりが、僕の全部。




