7話『不安だらけの初配信』
配信の設定を終えた。
動画投稿サイト『WeTube』のアカウントを新しく配信用で作り、なんか色々な注意事項に同意した上でファンタジー・クロニクルとリンクさせた。
ついでに住所と銀行口座も入力したから、広告が出るようになったら収入も入ってくる。
まあ、どうせ誰にも見られないんだろうけど……。
「大体二十分くらいの作業だったけど、なんだかどっと疲れちゃったな……なんでだろ?」
ゴキッと肩をまわしてみるが、効果は無かった。
「そういえば、ファンタジー・クロニクルも最先端のゲームなだけあって、身体の動きがリアルで良いね」
以前のVRゲームは、なんていうか違和感があった。
全然思った通りに身体が動かないし、当たり前ではあるんだけど、自分の身体って感じが一切しなかった。
その上でバグやら何やらで、急に身体がデカくなったり変に曲がったり、ハプスブルク顎になったり……。
そんな多大な改善点を抱えながら、VRゲーが廃れていくのかと思われたときに、一つの会社が台頭した。
その会社の名を──『ドリームリンクス』。
独自の技術と知識を元手にVRゲーを進化──特に仮想身体への憑依と、その周辺動作において、ゲームの歴史を塗り替えたとして教科書にも載っている。
しかも世界中で大流行している『|GunFightOnline《ガン ファイト オンライン》』を制作し、この『ファンタジー・クロニクル』をも手掛けているのだ。
ハッキリ言って化け物である。
「まあ、ドリームリンクスだから当前か……って、ん?」
むむむ……そういえば、何か忘れてるような?
「あ、そういえば、配信するの忘れてた……!」
そうだ、そうだ。そういえば、配信するためにアレコレ設定やったんだった!
「えーっと、確かUIを操作して……」
空中をタップすることでUIを表示させ、「配信」とあるアイコンまでスクロールする。
「あ、あった……これをタップすると、配信画面にいくんだよね……? よ、よーし! いくぞー!」
ポチッ!
ーーー
【初配信】
配信者ボーナス目当てですみません……(_;´꒳`;):_
配信者:サク
ー概要欄ー
#ファンタジー・クロニクル #ゲーム配信 #初心者
初めまして、サクと言います。
見つけてくれてありがとうございます。
陰キャですが寂しがり屋なので、何でもコメントをくださると嬉しいです。
でも誹謗中傷は傷つきます……。
今日始めたばかりの初心者なので、優しくしてね?
※配信者ボーナスが欲しくて始めました
ーーー
サムネ、概要欄、その他諸々──終了!
「ふぅ……! こんな感じで良い、よね……? よく分かんないから心配だなぁ……」
得体の知れない不安感に駆られつつ、視線を落として「配信開始」のボタンを凝視する。
「こっ、ここここ、これを押したら……正真正銘、私の配信が始まるんだよね……?」
ここからが本番である。
ポチッと「配信開始」のボタンを押すと、なんとあの、自他ともに認める陰キャの配信が始まるのだ。
当の本人といったら、手がプルプルと震えている。
なんなら、配信することを躊躇ってさえいる。
そのくらいに心が弱くて、どうしようもない私ではあるけれど、決めたものは決めたのだ。
ならば、完遂するのがゲーマーというもの!!
これも配信者ボーナスのためだからぁ──!!
「どうにでも、なれーーー!!」
勢いに任せて「配信開始」のボタンを押した。
すると私の目の前に、突然、撮影用ドローンが現れる。
『プレイヤー名「サク」。配信を開始します──』
「──うわっはぁあ……っ!!」
突然目の前に現れたドローンにびっくりして、盛大に尻もちを着いてしまった……。
しかも間抜けな声も出ちゃって、恥ずかしいよぉ……。
あれ? そういえば配信の始めてって、視聴者のみんなに挨拶をするんだよね?
はぁ……ふぅ……それじゃあ、い、いくぞ~!
「ひゃじめまして! わわわわわ私は、サ、ササ、ササクと言いましゅ! よよよ、ヨロシクでしゅ!(チーン)」
うん、予想通り噛んだね。ヨシ!
「………………はぁ」
開始早々黒歴史を作ったことに溜息を吐きつつ、チラッと視聴者数に目を向けた。
当たり前だが、視聴者数は不動のゼロである。
「誰も居ないことを悲しめば良いのか……誰にも見られていないことを安心すればいいのか…………はぁ……」
悲しみと安堵。
二つが交じり合った感情を吐露すると「まぁ……一人なら一人で気楽に遊ぼ……」と歩を進めた。
もちろん私が行くのは、ご丁寧にも道が舗装され、矢印が書いてある看板の方向ではなく、その反対側である。
先程まで背を向けていた場所には、なにやら木々に囲まれた森が広がっていて、中々どうして怪しい雰囲気だ。
「そういえば、この先って行けるのかな?」
一番近くにある木に触れ、その先に足を伸ばしてみた。
うん、大丈夫。ちゃんとこの先にも行けそうだ。
「むっふぅ。この探索してる感じ、やっぱり堪らん!」
りょーちゃんと二人で近所を探索した小さき頃。
何時もは通らない細道や、見たことの無い景色。
山に行っては草木を掻き分けて前へ進み、二人して雨に濡れたり泥に塗れたりで服を汚した。
いっぱい遊んで疲れたら公園で休憩して、少ないお小遣いでジュースを買って二人で飲んだ。
凄く楽しかったのを今でも覚えている。
だから私は好きなのだ。どんなにちっぽけだろうと、童心を思い出させてくれる探索が……。
まあ……最近は、現実での探索なんてしないけどね。
私もりょーちゃんもゲームで忙しいし、来年は受験とかもあるしで、人生について色々と考えなくちゃいけない。
だから、そんな幼稚なお遊びをする暇がないのだ。
大切な思い出のアルバムにそっと閉まっておこう。
それはそれとして、第一進路はやっぱり……。
およ、およm……およよ…………およよよよよ(泣)。
「…………? あれ? いつの間にか、森を抜けてた?」
あれこれ考えに耽りながらも、一歩一歩、確かな歩みを進めていた私は、知らない間に森を抜けていた。
目の前には崖なのだろうか、水平に広がる空を断つ様に地面が隆起している。
「まだ、そんなに歩いて無いはずだけど?」
そもそも森じゃなかったのかな?
それとも、もともと森の端っこにリスポーンしていた、とかなのかな?
ん〜? 調べてみないと分からないなぁ……。
「とりあえず、前に進んでみよっか……」
爽やかな風が吹く。
ザワザワと、芝に似た草の群れが舞揺れる。
私の意識は既に、内側ではなく、外へと向いていた。




