4話『ゲーム、スタート!』
放課後になった。
帰宅部の私はすぐさまに帰宅。
食事とお風呂を済ませパジャマに着替えると、櫛で梳いた頭にヘッドギアを装着し、ベッドに横になった。
「ゲーム、スタート!」
私が今からプレイするのは勿論ではあるが、彼から貰ったゲーム──【ファンタジー・クロニクル】だ。
掛け声と共にゲームを起動させると、意識が現実から遠のいていき──パッと照明が点滅するように、ゲームの仮想世界へと入り込んでいた。
『ファンタジー・クロニクルの世界へようこそ』
「ひゃいっ──!? び、びっくりしたぁ……!」
どこからともなく声が聞こえてきた。
私が周囲を見回しても在るのは白の空間だけで、人の様な存在の姿かたちなど何処にも無い。
『私はチュートリアルを案内します、天の声です。どうぞお気になさらずにお願いします』
「それはご丁寧に……どうも宜しくお願いします(?)」
『それでは早速ですが、ファンタジー・クロニクルにて貴方が使用するキャラクターの作成に移行します』
「っ……は、はいっ!!」
目の前の空間に、突如としてUIが表示された。
そこにはゲームあるあるではあるのだが、キャラクターの名前と性別、種族、見た目、職業、能力などなど……。
ありとあらゆる情報で溢れていることが、スクロールで流し見た感じで理解した。
淡々と説明──チュートリアルが進んでいく。
『目の前に表示されたUIを操作することで、自分好みのキャラクターを設定し、創り出すことが出来ます』
「はいっ──!!」
『またキャラクターの作成が終了しましたら、一番下にある完了ボタンを押すことで、次のチュートリアルへと移行することが出来ます』
「はいっ、分かりました!! ………………ふぅ」
プツリ、と声が聞こえなくなった。
陰キャ拗らせてAIにも緊張する私は、ガチガチに固まって返事をしていた体を弛め、空中に座る様に浮いた。
「やっと一息つける……。それにしても、結構キャラメイクの幅が広いなあ……(ボソッ)」
目の形、瞳の色、睫毛・眉毛の形と色々、顔の堀の深さや形に大きさ、身長、スリーサイズ、太腿の太さ……etc。
人間の容姿として構成される全てが、あれやこれやと自分好みに設定でき、その上で種族や性別が別途である。
「ぐっ……理想の胸やお尻……ぐっ……」
そのパターンは凄まじく、キャラクリガチ勢であれば容易に二桁時間を消費し、理想を体現するのに難くない。
が、私のゲームスタイルはどちらかと言えば効率と性能を優先するため、必要なのは見た目ではなく内容である。
「……し、仕方ない。まずは見た目よりも、ステータスの方を優先にしよう、そうしよう。大きかったら戦闘に支障が出る可能性もあるからね!!うん!!」
一人の女としての強がりを一摘み。
名前を『saku』にして、次々と設定をしていく。
「まずは種族からか……」
種族には人間、エルフ、ドワーフ、半獣人(犬・猫・兎・虎・熊・狐)、機械人、昆虫人があった。
そして、それら種族にはそれぞれ効果がある。
例えば人間なら、レベルが上がりやすく、なんか極々たまに勇者が誕生するのだとか……。
いや、勇者が誕生ってなんぞ?
他の種族だと、戦闘面の特殊能力やステータスの補正があったりするんだよ?勇者の誕生ってなに──?
「──よし、カッコイイから人間で」
種族、人間に決定。次。
「次は職業とサブ職業かあ……量えぐ……」
流しで軽く見ただけで気圧される量に、思わず脱力した私は尻餅を着くように、空中の無へと腰を据えた。
そうして、なんやかんや(キャラクリを主に、一部身体部位に関する葛藤が)あって数十分後──。
「終わったああああああああああ!!!」
職業などだけでなく、見た目などの設定も完成した。
―――
名前:saku
種族:人間
LV:1
職業:剣士
サブ:冒険者
HP(体力):10+()
MP(魔力):20+()
STR(筋力):20+(10)
VIT(耐久):0+(10)
INT(知力):0+()
RES(抵抗):0+()
DEX(器用):20+()
AGI(俊敏):30+()
LUK(幸運):0+()
【装備】
右手:始まりの剣(STR+10)
左手:始まりの小盾(100%カット)
頭:始まりの帽子(VIT+2)
胴:始まりの服(VIT+3)
腰:始まりのズボン(VIT+3)
足:始まりの靴(VIT+2)
【見た目装備(非防具)】
頭:なし
胴:なし
腰:なし
足:なし
【アクセサリー】
なし
【スキル】
なし
ーーー
職業は剣士。
剣と盾を装備できるスタンダード的なポジションだが、状態異常攻撃スキルやら回復スキルやらなど、一人でありあらゆる分野をこなせるため採用。
特にカウンタースキル──盾でのパリイが出来る点が、私のプレイスタイルに超合っているのがグッド!
サブ職業は冒険者。
全ての基本ステータスが一点二倍になり、スキルの取得と効果に補正がかかるのだ。
他にも様々なサブ職業があったが、ゲーマーの直感的にこれが私には似合いそうだったので採用した。
ステータスはカウンター剣士スタイル。
攻撃力と素早さをメインにステ振りし、体力を少し削って他を器用とMPに振った。
まあ、剣士の特徴としてカウンターを使えるので、カウンターすれば体力が実質無限である。
ならば防御力と体力など、あってないようなもんだ。
「ふう。我ながら無駄を削った最高のステ振り……!」
と、自慢気に額の無い汗を拭う私は──現実の私の見た目を基調に、赤の瞳とポニーテールの黒髪になっていた。
しかし。胸は絶壁であり、身長なども盛っていない。
「これは機能美だもん……グスッ……」
自分の胸をペタペタと触り、一縷の涙をポロリと流しつつ、UIの末尾にある完了ボタンを押した。
すると、「本当に完了しましたか?」といった確認のボタンが表示され、直ぐ様にそれをクリックした。
『キャラクター作成の完了を確認しました。それでは、スキル取得のチュートリアルに移行します』
何も無かった白の空間が突如、訓練所へと変化した。
「なにこれすっごい…………」
■■■
ゲームを開始する直前。
私は一度、パッケージ裏の設定を読んでいた。
太古の昔、七つの大罪が世界を闇へと蝕んでいた。
その闇によって万病が流行り、魔物と呼ばれる怪物が出現するようになり、世界中の人々を苦しめた。
そんな、絶大とも言える闇に侵され世界が疲弊し、破滅の一途を辿ろうとしていたとき、人々を哀れに思った女神様が七人の天使を遣わせた。
七人の天使は使命により『聖戦』を起こし、それぞれ七つの大罪を断罪。
その命をもってして、城の形をした結界に封印した。
七つの大罪が封印されたことで世界に安寧が戻り、世界の住人は普通の生活をすることが出来るようになる。
しかし聖戦から千年の時を経て封印の力が弱まり、結界の近くから魔物が再出現することに。
再度七つの大罪の脅威に怯えることになった人々を哀れんだ女神様は、信仰心を守り続けている人の子を護る為、力のある神々の子を遣わせることにした。
神々の子はその世界に生きる種族に生まれ変わり、世界を安寧に導く『旅人』として、七つの大罪を討つ旅にでるのであった。
「子ども人気高いって聞いたけど、めちゃくちゃ死にゲーみたいな設定じゃね? 犬とか海老とか出てきそう……」
これがゲームをする前にチラッとだけ設定を見た、死にゲー脳の憐れな反応であった。