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2話『死にゲーって気持ちいいよね』


 ジリリ……ジリリ……ジリリ……ジリリ……。

 白のカーテンに朝の日差しが遮られ、電気の消されている暗い自室に、目覚めを報せる音が鳴り響く。

 音源はピンクが基調のベッドの枕元にあり、フカフカな羽毛の枕には、沈む様に一人の少女が頭を預けていた。

 が、その頭には白のゲーム機器が取り付けていた。

 間違っても寝心地など良くはなく、その姿が今もなお彼女が起きていてゲームをしていることを示唆している。

 

「やったあああああああ!!!!!! レコード記録更新だあああああああああ!!!!!!!!」


 目覚まし時計のアラームが八回鳴ったと同じく、その音を更に超える大きな声が部屋中……否、家中に轟いた。

 それは私──藤田(ふじた)(さく)の、嬉々とした大歓声であった。


「あっ……おおきなこえだしちゃった…………」

 

 ベッドから身体を起き上がらせた私は、ふぅと一息吐くとフルダイブ型VR機器(ヘッドギア)を取り外し、アラームの音を消した。


 西暦二千五十年の現代では、フルダイブ型VRゲームが流行の最先端を走っている。

 その理由は一重にゲームへの没頭感にあり、ヘッドギアを利用することで、現実の自分の意識をゲーム内の仮想世界のアバターに憑依させることが出来るのだ。

 それこそ恋愛シュミレーションゲーから推理ゲー、バトル系のロールプレイングゲー、パズルゲーなどなど。

 多岐にわたるジャンルのゲームを、まるで自分がその世界に存在するかの様な没入感で楽しめるのである。

 それはまさに、前時代のゲームプレイヤーの夢を体現していることに他ならず、フルダイブ型VRゲームが流行るのは自明の理というものであった。


「ふっ……へへ、ふへへ…………」

 

 私は自分で言うのも何だがゲーム廃人である。

 こうして何時も、ヘッドギアを装着しながらベッドに横たわって、徹夜でVRゲームへと勤しんでいる。

 特に私が愛してやまず、自分から好んでプレイしているのは『死にゲー』というジャンルである。

 

 死にゲーとは、何回、何十回、何百回、何千回と、理不尽に意地悪な運営に殺されながらも、繰り返し繰り返しプレイしていくことで攻略していく……。

 そんな、サイコパスですら逃げ出すような、死ぬことが大好きで堪らないマゾヒスト向けの鬼畜ゲー──。

 と、いうのが一般人からした客観的な意見である。

 

 死にゲーマーから言わせて貰えば、死ぬことはいくらゲームの中とは言え苦痛である。

 それこそ最初の頃は角待ちやら即死攻撃やら、ボスだと思っていた敵がモブキャラだったりだとか……。

 プレイヤーを弄びワインを嗜む運営にガラスで出来ていた繊細なハートを粉々に砕かれ、憤ったプレイヤーがコントローラーをぶち壊すのが常であるくらいだ。

 

 では、何故私達は死にゲーをするのだろう?

 その答えは一つ。──気持ちが良いからだ。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も死にながら、やっとの思いで理不尽な難易度のゲーム──目標を達成することが出来たとき。

 そこには他のどんなゲームでも得られない、最高級の達成感を貪り味わい尽くすことが出来るのだ。

 その快楽といったらもはや言葉にならず、プレイヤーを更なる深みへと沼に沈めてくるのである。


「まさか……防具無し、レベル一、武器縛り、バク無しトロコンRTAでデモエクの世界をとる事が出来るとは……」


【|Demon'sExorcistデモンズエクソシスト】──略してデモエク、それが私がプレイしていたゲームである。

 簡単にゲームの内容を説明すると──悪魔を祓うエクソシストの家系である主人公が、悪魔に殺された両親の仇を討つべく、封印された魔の領域『デモンズヘル』に悪魔狩の旅に出るゲームである。

 

 そして。

 そんなデモエクを私は今夜、縛りプレイでトロコンRTAをして、しまいには世界記録(ワールドレコード)を樹立してしまっていたのだ。

 ゆうに三十回以上のやり直し、時間換算で合計ほぼ二日分の青春を費やしての成果。

 その達成感と言ったら凄まじく──このとき深呼吸をして少しだけ冷静になっていた私は、一人、大切な親友の顔が脳裏に過ぎっていた。

 

「りょーちゃんに自慢してイキろーっと」


 高橋(たかはし)涼真(りょうま)

 幼稚園児の頃からの幼馴染で、私にゲームを広げた第一人者であり、たった一人の私の友達である。

 彼はプロのゲームチームに入っており、|GunFightOnline《ガン ファイト オンライン》というFPSゲームの大会で優勝をしている。

 とてもゲームが上手で、誰よりも明るくて優しくて、周りの皆から好かれる──まるで太陽の様な男の子だ。


「………………………………」


 私はカーテンを開け、呆然と真隣の家を眺める。

 その家は親友の住んでいる家で、ほんのちょっとの下心と思惑の他に、特に何かがある訳でもない。

 ただ少しだけ、感動の余韻に浸っているだけだった。


「次は何のゲームをやろう……」

 


■■■


トロコン

▶︎ トロフィーコンプリートの略

▶︎全ての実績を解除すること


RTA

▶︎ リアルタイムアタックの略

▶︎特定の前提下で、他のプレイヤーとクリアまでの時間を競うこと

▶︎バク無しバク有り。Any%(トロコンなどのゲームの要素を無視しクリアを最短で目指すこと)と100%(Any%の逆でゲームの要素を全て集めてクリアすること)などなど……色々な条件がある


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