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愛と異能と戦場5-2

30分ほどが経った頃だろうか私の方をじっと見ている参加者の男がじっと見ていることに気がついた。

腹の出た中年の男だ。私が気づくと手を招いてこちらに来いと言っているようだ。

「いかがなさいましたか?」

「ああ、あそこにいる彼はここの従業員かい?」

彼が指さす先にはネイトの姿があった。

「彼は私の部下です。私も彼も今回こちらの警備のために配属されました」

「彼をここの警備から外した方が良いと思いましてねえ。先ほどからあそこにいる男が彼を見ているのは知っているかい? あれはよからぬことをたくらんでいる顔だ。私の勘はよく当たるのでね。まあ信じるかどうかはあなた次第だが」

彼の視線の先には今回の依頼主である主催者の男がいた。彼の警備はミイロの役目であったためそれほど気にはしていなかったのだが、確かによく見るとネイトの方を気にしていることがわかる。

「確かにあれは……」

言葉を濁してしまうほどのねっとりとした執着を向けている視線であった。事務所で見たあの爽やかな好青年というイメージが崩れるには十分であった。何か嫌な予感がするとおれの勘が告げている。

「ありがとうございます。彼には気をつけるように言いつけておきます。あのどうして彼ではなく私に教えてくださったのでしょうか?」

もしよろしければ教えてくださいと男に聞くと快く答えてくれた。

「俺も初めは彼に伝えようかと思ったのですがねえ、どうも避けられているようなのですよ。まあ、顔見知りと会うことはまずいですからな。それに彼は君の方を気にしていたからねえ、君に話した方が彼の耳にも伝わると思ったのだよ」

男は豪快に笑うが私は男の放った言葉に仰天してため笑うことはできずにいた。

顔見知り、彼は確かにそう言った。

ネイトがここで働くようになったのは所長の一声があったからだ。

彼はこれまでどこで何をしていたのか語ることも聞いたこともなかった。そのため私は彼の来歴については知らないままであった。最も彼のことを詳しく知っているのは所長くらいであろう。この男はネイトの何を知っているのかとても気になって仕方がない。

「彼はどのような人物であったのですか?」

「ああ、彼は先代の秘書をしていた男だ。若いのに優秀でねえ、先代もかわいがっていたよ。けれども急にいなくなった。跡形もなく忽然とね、顔は微妙に変わっているが間違いないさ」

「ネイトは本当に優秀な男ですよ」

「へえ、ネイトっていうのだな。秘書やっていた時はヒバナっていう名前だったが」

まあ偽名を使っているとは薄々わかっていたけどな、と思い出したようにまた笑い始めた。

「その、失礼ですが騙されていたのですよね? どうして笑っていられるのでしょうか?」

私には彼が笑っていられる理由がわからなかった。偽名を名乗り忽然と姿を消したなど怒りや恨みはあるとしてもどうして笑うだけで済むのか到底理解できるものではなかった。

だから聞きたくなったのだ。私がその話に興味があると気づいた男はしょうがねえなと言い、ここだけの話にしておいてくれよと小さな声で告げた。

「俺の会社はなあ、先代の代まで一部の輩が表にはできねえようなことをやらかしていたのだが、ヒバ……いや今はネイトか。彼が来てからそれがぴたりと納まったんだよ。どんな手を使ったか知らねえが。それに関わっていた奴らが同時期に一斉に消えてよお。今じゃ昔とは違ってクリーンな会社になった。だからむしろ感謝しているくらいだ」

「彼のことを恨んでいるというわけではないのですね」

「ああ、それじゃあ伝言、頼むよ」

彼は人だかりができている中央へと去っていく

「承知いたしました。それとありがとうございます」

私の声は聞こえていたようで彼は右手を上げ左右に振っていた。

その姿も彼の周りに人々が寄ってきたため見えなくなった。

先程あの男が話していた良くない噂のあった人物が同時期に会社から去るという話、ネイトならいともたやすく行うことができるだろう。

奴は私と同じく能力者だ。しかも人を自分の思い通りに動かすことができるものだ。能力の発動方法も簡単で対象者に声を聞かせるだけだ。あとは命令を下せば思い通りに動いてくれるというわけだ。


実際に私は奴が能力を使うところを見たこともある。今から4か月くらい前のことだ。とある歌手の護衛任務の依頼があった。

依頼の内容としては数週間前から誰かに付きまとわれているような気がして落ち着かないとのことであった。

彼女も能力者であったらしく同じ能力者がいるうちの事務所に依頼したらしい。一人は能力者を護衛に入れてほしいという条件に合致し腕っぷしに自信のある私と、護衛だと悟らせず、彼女を護衛できるという理由でネイトが選ばれた。私とは違い華奢な体格に見えるネイトは歌手である女性と並ぶと絵になる光景であった。何も知らない人が見れば美男美女のカップルにも見えなくはない。


ネイトはこれが初めての護衛任務で緊張していたようなのだが何も大きな問題が起こることなく終わろうとしていた。護衛として彼女と共にショッピングモールへと行った。彼女が満足するまでいくつものブティックに連れまわされ気が付けば数時間経過していたことには驚いた。ショッピングを満喫した歌手を自宅まで送り届け任務は終わるはずだったのだが、何やら大声で喚いている男がこちらにやって来た。彼女が言っていたストーカーだろう。

何を誤解したのかネイトを歌手の彼氏だと思い込みナイフを持ち襲い掛かってきた。まあ見ていて誤解するのもわからなくもないがそれが理由で襲ってくるのは違うだろう。そう思いながら男を押さえ込む。だが男は興奮しているのか暴れ逃げ出そうとする。

「あの女の声は俺のものだ。この前もその前も私だけを見て歌ってくれていた。それなのになぜ男といる? なぜ俺以外の男と話している? 俺が許可してもいないのに」

支離滅裂な言葉を言い放ち未だ逃げることを諦めていない。このままでは周囲に被害が出てしまうと考えると、逃がしてはいけないと抑える手に自然と力がこもる。けれどもじりじりと押し負けているようで男が逃げ出すのも時間の問題であった。


気絶させた方が良いかと考えていたとき、ネイトが男の元へやって来た。ネイトと叫ぶが足を止めない。このままでは火に油を注ぎかねないと思ったがネイトが暴れるな、と一言言うと男はまるで糸が切れた人形のように動かなくなった。そんな男の様子に周囲は何が起こったのかと騒がしくなる。あの男が何かしたのではとネイトを指さす人がいた。全く潜んでいない声は遠くにいた私にもはっきりと聞こえた。誰かが通報したのかやってきた警官に男を引き渡したことで騒がしさはなくなった。

やれやれ最後の最後で面倒なことになったなと考えていると警察の事情聴取から解放されたネイトがのろのろと歩いて来た。

「アズマさん」

「どうした、何かあったのか?」

ネイトはどこか不安そうな顔をしていたため親とはぐれた迷子の子どものように見えた。少しかがんで目線をネイトと合うような体勢をとる。

「アズマさんは私のこと怖くないのですか? こんな人を洗脳できるような能力を持っているのですよ。気味が悪いと思わないのですか?」

先程のやじ馬を気にしているのだろうか? どこか悲しそうな声色であった。確かに、ネイトの能力は人を意のままに操ることができるものなのだ。けれども人数が一人に限られていることや能力者には通用しないという欠点もあることを知っている。けれどもそれ以外に彼の能力を恐ろしいと感じない理由があった。

「そうは思わない、なぜなら私は信頼しているからだ。お前がその力を使うのはそれしか解決の糸口が見えなかったときだけだろう。悪意があって使うなんてことは絶対にしないと私は信じている」

私や周囲に被害を出ないようにするためにはネイトの能力しか対処のしようがなかった。ネイトが動いていなければ男は暴れ始め被害が大きくなっていただろう。

今回もそうだろう? 助かった、ネイトが動かなければもっと被害が出ていた。あの状況で何が最善か考え、人のために行動できる者が恐ろしいとは思えないな。それに私の方が見ていて気味が悪い能力なのに慕ってくれて嬉しい、と言い彼の頭に手を伸ばした。

そして彼のきれいに整えられた髪がぐちゃぐちゃになるような荒っぽい動作で頭を撫でる。彼が私の手を振り払わないことをいいことに気が済むまで撫で続けた。しばらく撫で続けているとアズマさんと虫の羽音と同じくらいの小さな声で私の名前を呼ぶ声が聞こえた。目線を下げると顔を真っ赤にしたネイトがいた。やってしまった、これは嫌がらせになるのだろうか? と考えたものの時すでに遅し、パッと手を離すとネイトは真っ赤な顔で綺麗な目を潤ませながら私から逃げるように離れてしまった。

それ以降、あの時の仕返しだというかのようにネイトが私に嫌味を言うようになったのだ。


「ああ、ネイトそこにいたのか」

過去の出来事を思い出しながらも男の言葉を伝えるため、私は会場内をぐるりと見渡し彼の姿を探していた。広い会場であったため探すのに時間がかかるかと思われていたのだが、ネイトはすぐに見つかった。彼は私の背後に幽霊のように虚ろな顔をして立っていた。


話があるんだ、と言おうとしたのだがただならぬ様子にその言葉は喉の奥へと引っ込んだ。

「あの男と何を話していたのですか」

ネイトがどこか焦っていることは理解できる。知り合いが自分の隠しておきたい話をしているかもしれないと焦ることは私にもあったからだ。ただ、その焦り方は尋常ではないように感じた。

「彼からはお前を警備から外した方がいいと言われただけだ」

変に勘違いされることを避けたかったため、男との話は簡潔に伝えた方がいいと思った。

だから男が私に伝えたことをそのまま告げたのだがそれが良くなかったみたいだ。

私が告げた言葉を聞いたネイトの顔は一気に真っ青になった。

「どうしてですか何かアズマさんの気に障るようなことをしましたか? すみませんでした、反省もします。だから外さないで」

「別にお前の言動に腹を立てたわけではない。お前の安全のためにもここの警備を変わってもらった方がいいという意味だと思うが」

それともあの男から聞いたのですか? と私の話を無視しネイトは聞いてくる。何のことかと首を傾げていると彼は僕のことを聞いたのでしょう? 落胆しましたかと言う。

「なんのことだかさっぱりだ。あの男が言ったのはお前に執着している男がいるから気をつけろという伝言だけだ」

それにあの男はお前のことを心配していたぞ、と補足する。

するとネイトは男の言葉を信じていないらしく疑わし気にこちらをじっと見てくる。

「……あの男から聞いたのはお前が偽名を使い何かの目的があって男の会社で秘書をやっていたこと、そして突然消えたことだ。お前を恨んでいるようには見えなかった。むしろお前のことを心配していたからこそ警備から外した方がいいと忠告してきたのだと思うが」

ネイトの視線に耐えきれなくなり男との会話を洗いざらい話した。

けれどもこちらを疑う目を止めることはなかった。

「そんなはずはない。だって……私は」

「どうした? ネイト」

ネイトの様子がさらにおかしくなったことに気がつき彼の手を取ろうとしたときだった。

バンッという音が聞こえた。


「何やっているんですか!」

続いて聞こえてきたのはミイロの怒鳴り声でそれは会場全体に響き渡った。異変に気付いた人々はざわざわと騒ぎ出す。

音の正体はすぐにわかった。何せ昔は毎日のように聞いていた音であったからだ。音がした方向には、奥の椅子に座っていたベイルがいた。彼が突然拳銃を取り出し天井に向かって発砲したのだ。

本当に同一人物なのだろうか? 穏やかな笑みを浮かべていた人物であった。けれども今は顔を歪ませ銃口をこちらに向けている。

ミイロは拳銃を奪おうとするが、どこからともなく現れた黒服の男たちに取り押さえられ動けない状態になっていた。

銃口が向けられた場所にいた参加者たちはパニックになりながらも左右に分散した。

「父さんが捕まったのも母さんが出て行ったのもそのせいで弟と離れ離れになったのも全部全部お前のせいだ。お前のせいですべてが滅茶苦茶だ!」

銃を持ちはネイトの顔を睨みつけ笑い声を上げながら彼は叫ぶ。

この様子だと殺害予告が届いたという話は作り話なのだろう。彼にまんまと騙されたというわけだ。辺りは更にざわつき始める。ベイル青年に睨まれたネイトは硬直し動かない。彼はぶつぶつと何かつぶやいていた。耳を澄ますとそれはごめんなさい僕が悪い僕がいなければこんなことに、と自分を責めている言葉が紡がれていた。

銃口はネイトの左胸を狙っていた。彼を殺そうとしていることは明白であった。

非常にまずい状態だ。このままでは……最悪の事態を考えるより先に体が動いた。

「退けネイト!」

ネイトを思いっきり突き飛ばしたのと同時に銃弾が放たれた。ネイトはテーブル近くに転がっていった。ネイトやパーティーの参加者に命中することはなかったのだが、銃弾は私の肩を掠めた。ネイトがいる方向を見ると目が大きく見開きすぐさま私に近づこうとしてきた。


アズマさん! とネイトが悲鳴に近い声で叫んだ。こちらに来ないよう制止し、大した傷ではないと笑いかける。肩からは数十秒の間出血していたがすぐに収まりぐるりと腕を回してみたが違和感はない。

参加者たちは突然のことでパニックになりあたりは騒然としている。同僚たちが避難誘導しているのが見えた。向こうのことは彼らに任せて問題ないだろう。問題は銃を撃っているベイルだ。

次々に撃ち出された銃弾は壁や床などに当たり、食器や食べ物は床を汚していた。絢爛豪華な会場の面影はもうない。

しばらくするとガラスや陶器が割れる音が収まり、カチカチと銃弾が出ないのにそれでも引き金を引く音がやけに大きく響いた。どうやら弾切れを起こしたようだ。取り押さえるのは丸腰の今しかない。

「行くぞネイト! お前の力が必要だ」

ネイトは力強く頷き立ち上がった。ベイル青年を取り押さえるため走り出す。青年はもう弾の出ない銃の引き金をいまだに引いている。向こうもかなり焦っている。殺せと主人に命令された黒服が襲い掛かってくる。


「ミイロ無事か?」

「アズマ先輩! 助かったっす」

黒服たちを気絶させ、彼らに押さえつけられていたミイロも解放する。どこもケガをしていないことに安心したのも束の間、屋敷の奥から新たに6名ほどの男たちが襲い掛かってきた。

「2人ともそっちは任せていいか?」

「問題ないっす」

声は出さなかったもののネイトも小さくうなずく。

ミイロたちと共に襲い掛かってきた男たちの相手をする。先ほどよりも手ごわそうな相手であったがこの後輩達となら切り抜けられる気がした。

黒服の男たちを伸ばし、私は青年に近づく。

「く、来るな!」

青年は怯え銃口を向ける。会話ができそうな状態ではないことは誰が見てもわかる。立とうとしても恐怖で足が震え逃げることができない彼との距離を一歩ずつ詰めていく。

「こっちは丸腰だ、殺すなんてことはしない。だからその銃を床に置いて」

手を顔の横に近づけ武器を手に持っていないことを訴える。大丈夫だと彼に向かって語りながらあと2メートルあたりまで近づいたときだった。

「アズマさん後ろに!」

突然ネイトが私の名前を叫んだ。何かあったかと一瞬だけ意識がネイトの方に逸れた。それを狙ってかいつの間にか背後に回り込んでいた黒服の男が霧状の何かを噴射した。ぼやけた視界で最後に見えたのはにんまりと笑うベイルの姿であった。

そして私はそのままバランスを崩し、床へと倒れていった。何も見えないが辺りは悲鳴と怒鳴り声で騒がしい。

遠くの方で私の名前を何度も呼ぶ声が聞こえる。返事をしないといけないことはわかっているが意識は徐々に薄れていった。



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