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愛と異能と戦場4

今回は文字数が少ないです

外に出ると太陽はとっくの間に沈んでおり月が顔を出していた。

仕事を終え自宅へ帰る足は自然と早くなっていた。寂しく暗い夜から逃げようと思ったからではない。別に職場の人間関係や業務内容が合わなくなったというわけではない。家に帰り玄関のドアを開けることが楽しみになっているからだ。過去の私が知ったらきっと驚くだろう。けれども帰宅することが楽しみになっているのは事実だ。

今までなら睡眠をとるために帰っていたのだが最近ではそれ以外の目的ができたのだ。鍵を回しドアを開ける、この瞬間がこんなにも気持ちが昂るとは知らなかった。

玄関に入るとザーザーと水が流れる音が聞こえた。台所にいると思われる人物に声をかけるため私はキッチンのある方へ進む。

私が帰ってきたことに気が付いたクルハは調理器具を洗っていた手を止め振り向いた。

「あ、アズマさんお帰りなさい」

「ああ、ただいま」

このやり取りももう何回も繰り返しているのだがいまだに違和感が拭えない。

「帰ってきたのなら呼んでくれてもよかったのに」

「邪魔したら悪いと思ったからな」


1人で暮らしていたころは職場以外では会話をする機会は少なかったが同居してからは話し相手ができ、家にいて陰鬱な気分になることが格段に減った。初めは他人と住むことはできるのかと思っていたのだが案外うまくいっている。

私がクルハに同居を持ちかけたのは彼を一晩泊めてからのことだ。帰宅するとクルハの姿はなく机の上には手紙があった。一晩泊まらせてもらった礼と、鍵はドアについてあるポストに入れたとのことであった。一応何かあったら連絡してこいと入ったものの連絡はなく、住居のことは解決したのかと気になった。

クルハに連絡を取ったところ、例の空き巣に入られたことを理由にアパートを追い出されていたことが分かった。

自宅に呼び出しどうして連絡をよこさなかったのか呆れながらこ

の2日間どうしていたのかと問いただした。

「1日目は住宅街やコンビニなど人がいそうな場所を探してじっとしていました。2日目は運良く安いホテルを見つけたので泊まることができました」

「3日目はどうするつもりだった?」

「1日目と同じで周辺をぶらぶらとするつもりでした。安くても毎日泊まることは金銭的に無理がありましたし」


何のために連絡先を交換したと思っているのだ、もっと人を頼れと叫びたくなったがぐっと堪えた。

もしかすると迷惑になると思い一人で何とかしようと思ったという可能性もある。解決する前に人に頼ってほしかったものの早くに気が付けたのは幸運だった。

とりあえずしばらくは泊まっていけと言ったが、彼の性格的にまたしばらくすると迷惑になると思い出て行ってしまうのだろう。

さて、どうすればいいのかと思ったときに思いついたのがルームシェアだ。突拍子もない考えであったが、当時はこれならいい返事をしてくれるだろうという根拠のない自信がなぜかあったのだ。

今は同居しているという事実から結果は言うまでもないだろう。

彼は住居を探している、私には空いている部屋があった。彼一人が増えたところで迷惑ではなかったのだ。


初めのうちはそんな迷惑はかけられないと断っていたが何回か説得を重ね、最後には迷惑かけても知りませんよ、などと訳が分からない発言をしたものの同居が決定した。

もともと同居可能な部屋でこの物件を購入してよかったと初めて思った。念のためこのマンションの管理者に連絡を入れ許可ももらった。同居生活を初めかれこれ2週間ぎこちない部分はあるものの概ね私生活の方は順調であったが職場の方で問題が発生した。些細な問題なのだがネイトからの当たりが強くなった。

それがはっきりとわかったのはクルハと同居することになり時間が足りず昼に新たに必要な書類を書いているときであった。

「アズマ先輩珍しいっすね休憩時間に書類を書いているなんて」

声と共に書いている書類をのぞき込もうとする気配がした。振り返るとミイロとネイトが物珍しそうにこちらを見ていた。

「ああ、クルハと住むことになったからな。そのための書類を書いていたのだが家だと時間が足りなかった」

「それって同居ってことっすか! 人が増えると狭くなったりしませんか?」

私のは狭いアパートなんで2人で住むなんて無理っすねと人懐っこい後輩は快活に笑う。

もう一人はというと会話を聞きながらただニコニコと笑っているだけであった。ミイロと同じく笑っているはずだがどこか冷たい何か裏があるのではと疑いたくなるような笑い方であった。

その後2人は仕事に戻ったがネイトの姿はいつの間にか消えていた。

業務のことでミイロも探していたようで通りかかった人を捕まえ聞いたところ体調が悪くなり早退していたことがわかった。

次に会ったときは急にいなくなったら心配だから一緒に行動していたミイロくらいには言えと注意しようと思った。だが翌日、ネイトは体調がすぐれないとのことで休みを取ったと聞かされた。

彼はこれまで一度も体調不良で休んでいない。そのため負担を増やすための嫌がらせなのだろうか、と勘繰ってしまうのだった。


体調不良で休んだ翌日から、以前ならば私とミイロ以外の人前であれば隠していたと思われる私への嫌悪感を隠さなくなった。

いや、以前よりも過激になっている気がする。

事務員などネイトのあの性格について知らない者からは何かあったのかと聞かれることが多くなった。今までもあんな風だったと言っても全員どこか納得していないようでそれはおかしいというのであった。

そして、以前にも増して私へ嫌味も増えた。以前なら週に2回ほどそれも任務でもっといい手段があったなどの反省点や馬鹿にしながらもこちらを心配しているような意味合いののものが多かった。

けれども、ここ最近は明らかにこちらを敵視するような発言やクルハなど私の私生活に言及してくることが多くなった。

最近ではネイトではなくミイロと組ませてもらえるよう所長に申し出をした。そちらの方が嫌いな奴と顔を合わせずネイトも業務がしやすいだろう。

せっかくできた初めての部下から嫌われるのは心が痛んだ。彼が何をしたいのか1年間一緒に働いて来たのだが心の内がよくわからずにいた。ぼんやりと外を眺めている彼を見て一度くらいは腹を割って話しておきたいと思うのだった。

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