7話 指名依頼
エルフ娘の平手打ちは中々強烈で、少しだけだが意識が飛んでいたらしい。いくら防がなかったとはいえ、竜人の意識を飛ばすとは中々である。
その後エルフ娘はさっさとどこかに行ってしまったのかもうおらず、仕方ないので他の人に道を聞いて無事にお目当ての首輪を手に入れることが出来た。
ー ー ー ー ー ー
それから1ヶ月の間はギルドから指定された低ランクの魔物討伐や薬草採取などをこなして過ごした。
その間に街にも少しずつ馴染んでいき、今ではヴォルガにビビる人も少なくなって、むしろ子供たちや露店(食品関連)の店主たちの人気者になっている。
今では外に出るだけでいろんな人に声をかけられ、子供たちが集まり、店主たちの目が商機に輝く。
ちなみにお姫様からもらった報酬のお陰で食費はバッチリ。さすがに低ランクの依頼で得られる報酬では俺とヴォルガの胃袋を支えるのは無理だからな。本当に助かった。
そうして1ヶ月が経った後、通常のCランクとして依頼を受けられるようになったわけだが、早速指名依頼が舞い込んできた。
「盗賊団の討伐・・・か」
「そうだ。元は近くの伯爵領から少し離れた場所を縄張りにしていたらしいんだが、騎士団による討伐隊が組まれてな。どうもこのグトナムの近くに逃げて来ているらしい」
今は依頼を持ってきたギルマスと話しているところだ。何でも、本来なら指名依頼の説明は別室でギルド職員からされるそうだが、件の伯爵から直々の指名依頼だということでこのような形になったそうだ。
「つまりは、盗賊にまんまと逃げられちまったから俺らに尻拭いをしろってことかね?」
俺の言葉に対してギルマスは渋面になる。
「まあ、そうなるな。しかし・・・」
「ん?」
伯爵という上級貴族に対する不遜な物言いを気にしていたのかと思ったが、少し違うようだ。
「何だ、依頼に怪しいところでもあるのか?」
「いや、盗賊の情報や経緯の説明などに不審な点はないし、報酬も充分な金額をすでにギルドで預かっている」
「じゃあ何でそんな歯切れが悪いんだよ?」
聞いてる限りとても真っ当な依頼であるように聞こえるんだが・・・
「この依頼者・・・ガルベージ伯爵は何かと黒い噂の絶えない人物でな。伯爵領にあるロウタス支部のギルマスからよく愚痴を聞いてたんだよ。典型的な感じの貴族らしく、よく無理難題を押し付けてきたり、情報提供がいい加減だったり、報酬を出し渋ったりと問題ばかりのようでな・・・」
「真っ当な依頼を出すのがむしろ不自然ってことか」
「そういうことだ」
はぁ~~~。いずれちょっかいを受けるとは思ってはいたがまさかここまで早いとは・・・
「それからな、盗賊団は人数が多いのでウチも討伐隊を組むことにした。紹介するから着いてきてくれ」
ギルマスに連れられて別室へ移動すると、そこには7人の冒険者が集められていた。
・・・何か見覚えのある人物がこちらを睨んでいるが、とりあえず知らないフリをしておこう。
部屋に入ると、冒険者の中から長剣を携えた青年が立ち上がる。
「彼が今回の主役かい?ギルマス」
「ああそうだ、紹介しよう。彼が今回指名を受けたシグルだ」
「紹介に預かった、シグルだ。ランクは登録したばかりなんでまだCだが、俺は竜人だし、相棒は神狼なんで戦力に関してはあまり心配しなくていい。よろしくな」
反応は悪くない。変に侮ったり見下したりする視線は特に感じられなかった。
あとはそのまま各自自己紹介する流れとなり、まずは先ほどの長剣の青年が口を開く。
「はじめまして。僕はルイス、君と同じCランクで『青の戦霊』のリーダーをしている」
『青の戦霊』はルイスの他に2人。重戦士の男と魔術師の女だ。バランスの良いパーティーだ。
「俺はバルドだ。Cランクで『荒獅子』のリーダーをしている」
『荒獅子』はリーダーのバルドが大剣使い、後の2人は両方男で槍使いと魔術師である。
さて、気になる最後の一人だが・・・
「シェーラよ。Bランクで弓を使うわ。普段は妹と2人だけどあの子は今回お休み」
へぇ、妹もいたのか。それにBランクと来た。さすが俺の意識を飛ばすレベルのビンタを放つだけのことはあるな。
・・・それにしても、ちょっとだけ臭うんだよなぁ。
これは別に嫌な臭いがするという意味ではなく、悪意の類いを"ニオイ"という形で感じ取っているのである。
ギルマスに視線を向けると、ほんの少しだけ肩を竦めている。どうやら彼も気付いているらしい。
・・・口出ししないってことは面倒事を俺に押し付けるつもりなのだろうか。竜人ならこの程度はね除けられるだろってことですかこのやろう。まあ出来るだろうけど。
自己紹介が終わってからは、情報共有や報酬の分配などについて話し合ってお開きになった。翌日は準備時間として、討伐は明後日に行われることとなった。
「ねぇ、あなた。シグルと言ったかしら?」
他の冒険者たちが帰っていき、俺も部屋を出ようとしたところで、エルフ娘のシェーラに声をかけられた。
「ん?なんだ?」
「分かってると思うけど、私がエルフだってことバラさないでよ」
「ああ、もちろんだよ。忘れてないさ」
「・・・なら良いけど」
俺の胸に指を突き付け、小声で念を押してくるシェーラ。やはり、近くで見るとこの子もめっちゃ美人だなあ。
しかし、せっかく密着した体勢なのにな・・・ナニとは言わないが、もう少し大きかったら、っ!?
「・・・もう一度お見舞いするわよ」
「いや~、それはちょっと遠慮したいかな・・・」
何てことだ。よく女性は男の視線に敏感だと聞くが、あれって本当だったのだろうか。
「はぁ。あなたねぇ、竜族の高潔な精神はどうしたのよ」
「う~ん、そう言われてもな。別に聖人君子って訳じゃないし、なんなら俺ら黒竜族は特に荒っぽい性格だぞ?」
『力こそ全て』の価値観を最も体現しているのが黒竜族なのだ。だからやることと言えば一に鍛練、二にケンカ、三・四飛ばして、五に戦闘。飯に酒に宝に女。欲に溺れず、欲を叶える。それが黒竜族である。
「もちろん、青竜族や白竜族のやつらみたいに、君の想像通りな竜族もいる。それに俺らだって、守るべき道理は心得てるさ」
「へぇ、竜族もいろいろなのがいるのねぇ」
「そうそう。だから胸元に目が行って残念に思ってしまうのは自然なごふっ!?」
今度は鳩尾っ・・・だと・・・!
「アンタいい加減にしないと殺すわよ」
「ふ、ふっ・・・やってみるがいい・・・」
「膝をガクガクさせながら言っても格好つかないわよ」
これは仕方がない。乙女の一撃を甘んじて受けるは男の運命。それを避けたり防いだりするという無粋な真似をするわけにはいかないのだ・・・。
「ま、何はともあれ共同戦線を張るんだ。よろしくな」
「・・・ふん」
せっかく会話を交わしたものの、結局シェーラの態度は軟化することなくツンツンしたままだったが、少しは仲良くなれた・・・かな?
竜族の性格
黒:荒っぽくて大胆
白:清廉で上品
赤:努力家で情熱的
青:知的で冷静
黄:明るい楽天家
緑:やんちゃで無邪気