5話 登録
「さて、お姫様。貴女の方はこの後どうするんだ?」
もらったメダルを懐にしまいながら、お姫様にたずねる。せっかく知り合ったし、メダルもくれたし、協力するのも吝かではない。
「そうですね・・・馬車の馬は殺されてしまいましたし、徒歩しか方法がありません。なので、もしよろしければ貴方にも護衛をお願いしたいと思っているのですが・・・もちろん、一番近くの町であるグトナムまでで構いませんし、報酬もきちんとお支払します」
「よし、引き受けた」
「ええ、もちろん私のような王族と行動を共にして目立ってしまうのは貴方にとって望まないことなのは承知しており・・・え?」
俺の即答が予想外だったのか、反応が遅れたお姫様。そんなボケをかますとは意外だな。
「よ、良いのですか・・・?」
「もちろん。なんなら馬車も壊れてはいなかったんだからヴォルガに引いてもらおう。良いだろ?」
「ウォン!」
「そこまでしていただくのは申し訳ないのですが・・・」
ヴォルガも快諾してくれた。馬の代わりを嫌がるなんてことはないようだ。
まあ普段から俺を背中に乗せているし、その延長みたいなものなのだろう。
「別に100%親切心で協力するって訳じゃないさ」
まず、馬車を使えるなら使った方が圧倒的に楽だし速い。
次に、馬車の近くで倒れていた騎士たちの遺体を放置するのが忍びなかった。
そして、俺たちは大食らいなためとにかく食費がかかる。正直言って、出来るだけもらえるものはもらっておきたい。
「最後に。情けは人の為ならずという言葉がある」
「確かそれは、勇者様が住まう地であるニホンという国の言葉でしたか」
「おや、よくご存知で」
この世界ではおよそ100年の周期で出現する魔王に対抗するため、勇者を召喚している。それが何回か繰り返されているので日本に関することもある程度知られている。
「情けは人の為ならず」とは、よく『他人を情けで甘やかすのは良くない』と誤解している人が多いが、本当は『人に施した良い行いは良い結果として自分に返ってくる』という意味である。
「つまり、単なる打算だよ。だから安心して親切にされておいてくれ」
お姫様は少し呆けていたかと思うと、すぐに吹き出した。
「・・・ふふっ、うふふふふ。本当に、貴方は気持ちの良い方ですね。ありがたく、その親切をお受けいたしますわ」
「おう!任せとけ!」
やれやれ、笑うとさらに美人が際立つなぁ。思わず惚れてしまいそうだ。
「シグル殿、私からも礼を言わせてくれ。我ら第七近衛騎士隊は、この恩を決して忘れぬ」
隊長さんや騎士たちもこちらへ頭を下げてくる。
「気にしないでくれ、と言われてもだよな。どういたしまして」
その後は周りで気を失っていた黒装束たちを縛り上げ、馬車の近くで倒れていた騎士の遺体も、亜空間に仕舞った。
あとはお姫様を馬車に乗せ、馬の位置にヴォルガをつなぎ、後ろに黒装束をつないで風の魔術で浮かせておく。
「さあヴォルガ、王族を運ぶなんて滅多にない機会だからな。張り切っていこうぜ!」
「ウォン!・・・ぐぅ~~~・・・」
「プッ、アハハハ!そういや昼飯がまだだったな!お姫様、悪いけど出発は飯のあとで良いか?」
「クスクス、はい。よろしいですよ」
ヴォルガの腹の虫のおかげで何となく締まらない感じになってしまったが、雰囲気は和やかになったのでよしとしよう。
・・・ぐぅ~~~・・・
あ。
ー ー ー ー ー ー
腹ごしらえを済ませたあとは、何事もなく順調にことが運んだ。
あるとすればグトナムに到着したときに王家の馬車を神狼が引いてきたもんで門が騒ぎになりかけたが、王女様の威光によって無事に通過出来た。
お姫様はそのまま王都へ向かうとのことなので街中へ入ったところで報酬の金貨をたっぷりもらい、そこで別れた。
「さてと。とりあえず冒険者登録を済ませるとしようか」
「ウォン!」
街中に入ってからというもの、視線がビシビシと突き刺さりまくっているが、パニックにならないだけ中々肝が据わっていると思う。
冒険者ギルドは大通りに面した大きな建物で、看板には盾・剣・杖が描かれたエンブレムの下に『冒険者ギルド・グトナム支部』とある。
それにしてもこの町は辺境にある割にはそこそこ規模が大きいな。
いや、辺境だからこそっていうのもあるのかな?
中へ入ると冒険者たちでかなり賑わっていたが、ヴォルガの姿を見て一気に静かになった。
ま、そりゃそうか。体長が2~3mもある大きな狼が入ってくりゃ驚きもするだろう。
気にしても仕方ない。俺は受付へ真っ直ぐ歩いていき、受付嬢さんへ話しかける。
「こんちは。ギルドの登録がしたいんだけど」
「は、はい。かしこまりました。そちらの狼はあなたの従魔でしょうか?」
「ああ、こちらも登録なんかがいるのか?」
「はい。まずはこちらの用紙に記入をお願いします」
用紙を受けとると、必要事項を記入していく。名前、種族、戦闘スタイルなどだ。
そしてもう一枚。こちらは冒険者としての注意書きというかルールみたいなものだ。
一、冒険者による犯罪行為は通常よりも重い刑罰が科せられるので注意すること。
一、冒険者同士の争いごとに関して、冒険者ギルドはこれに介入しない。ただし、重大な犯罪につながる可能性がある場合を除く。
一、冒険者ギルドにとって不利益になるような言動は慎むこと。
一、冒険者ギルドからの指示にはきちんと従うこと。
・・・うん、ただの常識だな。問題なし。
記入なんかが終わったところで受付嬢さんへ手渡す。
「竜人ですか・・・珍しいですね。少し失礼」
受付嬢さんは用紙をひと通り確認し終えると、驚いたような表情をしたあと、俺の目を覗き込む。
「金色の虹彩に縦向きの瞳孔。確かにそれは竜族の眼ですね。失礼しました」
わざわざ確認するってことは竜人を騙る者がいたりもするんだろうか。確かに見た目は人間とほとんど変わらないけど眼を確認すれば一発で分かるんだよな。今受付嬢さんがやってたみたいに。
「それでは次に訓練場の方で測定を行います」
測定というのは冒険者のランクを設定するための試験のようなもの。結果によってはある程度高いランクから始めることが出来る。
これは稀にいる最初から実力がある者に余計な足踏みをさせないための制度で、父さんもこの制度のお世話になっている。
ただし、冒険者としての基礎は重要なので、1ヶ月はランクに関わらず薬草採取などの低ランク依頼を行うことが義務づけられている。
「それでは、測定を始めます。まずはこちらの魔石柱に触れてください」
よくある主人公最強系は魔力測定で機材をぶっ壊すのがセオリーだが、俺はそんなはた迷惑なことはしない。父さんから事前に教わっているので壊さないくらいに適度な魔力を送る。
・・・ちなみに父さんはぶっ壊したらしい。
「やはり竜人となると相当な魔力量ですね。次は模擬戦ですが・・・」
「俺がやろう」
近くにいたグループの中から大柄で屈強な男が進み出る。でかいハルバードを背負っていて、まさしく戦士ぃっ!という感じの見た目をしている。
「では、お願いします」
「おう!それじゃボウズ、よろしくな。オレはBランクのホアンだ!」
「ああ、よろしく。先輩」
闘技台へ登り、お互いに構える。
「む?武器は使わないのか?」
「俺は魔拳士なんでね」
「なるほど。それじゃあいくぞぉっ!」
ドゴォッ!!
先輩はこちらへ接近し、ハルバードをその見た目に似合わない速度で振り下ろす。
「おおこわ、それに速いな」
「竜人なんだろ?それじゃあ新人でも遠慮はいらねぇよな!」
「全くスパルタな先輩だことで!」
手足に纏わせた風の魔術をクッションにして攻撃を捌いていく。
「おい、防いでるだけじゃ面白くねぇだろう!」
「だって先輩を一撃でのしてしまったら、それこそ面白くないだろ?」
「生意気な・・・その言葉にハッタリがねぇのがますます腹立つぜ!」
「俺をガキだからと舐めずにちゃんと本気を出してる時点で充分尊敬に値するぜ、先輩!」
冒険者は実力主義だが、実際やりすぎると先輩の面子を潰すことになり、あまり良く思われない。これも父さんにちゃんと忠告されている。
・・・父さんは遠慮なく一撃でぶっ飛ばして大層顰蹙を買ったらしいが。
「そろそろ攻めるぜ先輩!」
「よぅし!来い!」
相手の攻撃を誘うため、一端距離をとってから詰める。ハルバードが振り下ろされるタイミングを見極め、右足の蹴りを側面に入れる。
そのままそこを足場として左足の回し蹴りを頭に叩き込む!
「ぐぶぅおわぁっ!?」
ズサーーーーッ!
うん。大柄な男が吹っ飛んでく様は中々迫力があるなぁ。
「そこまで!勝者、シグル!」
「「「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」」」
いつの間にか集まってたギャラリーが興奮に沸き立つ。それに賭けまでやっていたようだ。
「イテテテ・・・やっぱ竜人ってのは強ぇんだなぁ・・・」
「対戦ありがとうございました。先輩」
そう言って先輩と握手を交わす。
良かった。最後に蹴り飛ばしたのは少しやり過ぎたかと思ったが、無事に顰蹙を買わずに済んだようだ。
「測定お疲れさまでした。ランクについては少し協議する必要があるので後日改めてお越しください」
「後日ってのはどのくらいかな?」
「そうですね・・・2日後くらいでしょうか」
「了解。それじゃあおすすめの宿なんかがあれば・・・」
「ああそれと、次回いらしたときにギルドマスターがお会いになるそうです」
「あー・・・やっぱり?」
やれやれ、早くゆっくりと腰を落ち着けたいものだ。
第七近衛騎士隊:第三王女の護衛を主任務とする騎士隊。同じように国王(第一)や王妃(第二)など各王族につけられ、まとめて近衛騎士団となる。
冒険者ギルド:国を越えて世界中の冒険者をまとめる組織。ランクはS~Gの7段階あり、基本的には実力次第ですぐにランクを上げることが出来る。