21話 いざ会場へ
パーティー当日。俺と八雲は店で仕立てた服を着て王城へ来てみたものの、早速帰りたくなってきた。
『あれが噂の・・・』
『ええ、私も耳にしております。なんでも神狼を従えているとか』
『しかし殿下の誕生パーティーに亜人を参加させるなど・・・』
『隣の狐獣人は何者だ?』
『さあ・・・?』
ひそひそ。ざわざわ。
貴族らしいといえば良いのか、好奇・値踏み・侮りなどの様々な視線が四方八方から無遠慮に向けられる。
いずれにしても、あまり快いものではない。
「むぅ・・・気持ちの悪い視線が多いのぅ。人間の貴族というのは見た目が華やかなくせして、裏はなんとも醜いものよ」
八雲が扇で口元を隠しながらぼやく。
「そうでなければ生きていけないからな。仕方ないことではあるんだが」
そう言いつつ俺は近くの席からワインの入ったグラスをふたつ手に取り、ひとつを八雲に手渡す。
「おお、すまぬな」
「見たところ会場入りしてるのはまだ下級貴族だけだから、上位貴族が揃って本格的にパーティーが始まるまではもう少しかかりそうだ・・・ん?」
「ふにゃぁ・・・」
あちゃ~、八雲は下戸だったのか・・・。
葡萄ジュースとでも思ったのか、一気に飲んでしまったのも相まって完全に酔いが回ったらしい。
「まったく、パーティーはこれからだってのに・・・」
「にゃははは~~~。あるじさまぁ~、酒とはずいぶんうまいものなのだなぁ~」
すっかり酔っぱらいと化した八雲は念力でワイングラスを呼び寄せ、次々とあおっていく。
「あーあー、酒が弱いならそんなに飲んじゃ」
「むぅ~うるさいのじゃあ~!こんなうまいものを独り占めとは、ゆるさんのじゃ~!」
「分かったからそれこっちによこせ・・・」
ついにはボトルまで呼び寄せ始めた八雲。注目が集まり始めたこの場でラッパ飲みなどさせようものならさすがに悪目立ちが過ぎるので取り上げた。
「あー、こらーっ!なにするんじゃ~!妾のじゃぞ、返せ~~~っ!!」
「駄目だ。さっさと酔いを覚ましてこい」
暴れる八雲を抑えながら大広間を退出。スタッフに控室の場所へ案内してもらって彼女を連れていき、対魔獣用に用意している眠り薬(シェーラ作)で強制的に休ませた。
・・・絵面が犯罪的すぎて警備兵を呼ばれかけたが。
八雲を寝かしつけたところで後の事をその場にいたメイドに任せ、俺は大広間に戻った。
「また少し人が増えたかな・・・」
上級貴族もちらほら見え始めた。となると・・・
「あ、シグルさん!いらしてたんですね!」
声をかけてきたのはロドニーだ。クライム侯爵と夫人もいる。
「やあロドニー。クライム侯爵と夫人におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「あらシグルさん、こんばんは~。ご丁寧な挨拶痛み入ります~」
ほわほわとした感じで挨拶を返す侯爵夫人と対照的に、侯爵は少々眉間にシワが寄っているのだが・・・
「フム・・・シグル、君は一人で来たのかね?」
「いえ、仲間の一人と一緒に来てたんですが、酒が弱いと知らずにワインを一気飲みしてしまいまして・・・。今は控室に寝かせてメイドさんに面倒見てもらってます」
「ハァ・・・考え無しに行動してしまうのは君だけではないのか。大丈夫なのかね?君のパーティーは」
「あはは・・・まだ組んだばかりですし、他にも仲間はいるんで今後に期待ですかね」
まずい、侯爵の中での評価がどんどん下がってるような気がする・・・さっきから呆れを含んだ視線がグサグサ突き刺さっていてなんとも居たたまれない。
「まあ良い。それよりも君、あまり一人で行動するのはおすすめしないな」
「なぜです?」
「この前、君はすでに貴族たちの間で噂になっていると言っただろう。油断していると囲まれるぞ。特に、あまり余裕がない貴族は相手が平民であってもなりふり構わず娘婿に迎えようとしてくるかもしれん」
「あぁ~、なるほど。それは確かに勘弁願いたいですね」
「それにこの国ではまだヒト以外の種族を"亜人"と呼んで忌み嫌う者たちも少なくない。・・・うっかり王城を吹き飛ばされでもしたらかなわん」
「さすがにそこまで考え無しじゃないですよ・・・」
このままじゃ悪い意味で父さんのようになってしまいかねないな・・・気を付けないと。
「そこでだ。私の所属する派閥の者たちに君を紹介しよう。・・・だから露骨に嫌そうな顔をするんじゃない」
そりゃ嫌な顔もするだろう。貴族の派閥に組み込まれるなんてごめんだ。
「いや、君の考えているようなものではない。ただここまで貴族社会に関わってしまった以上、コネはあって困ることはない。だからその橋渡しをしてやろうというのだ」
一理はある。貴族なんてどいつもこいつも腹の底じゃ何考えてるか分かったもんじゃないからな。ある程度はニオイで見分けられるものの、頼っても大丈夫だと思える者は多いにこしたことはない。
「・・・言っときますけど、変な考え起こしたらなりふり構わず吹っ飛ばしますよ」
「分かっているから脅すような事を言うんじゃない。不敬罪で訴えるぞ、まったく・・・」
ここまでのやり取りから侯爵は多分信頼出来る人物なんだろうけど、どうにも相性が悪い。まあ、俺がこの国の貴族をまだよく知らないせいで警戒しすぎてるのが原因なので、時間が解決するだろう。
侯爵に連れられていった先には数人の貴族たちがグループを作っていた。
見たところ、周りと比べて体格の良い者が多い。案外武闘派なのだろうか?
その中の一人が侯爵に気付いた様子で、こちらへ歩み寄ってきた。
「これは、クライム侯爵閣下!ご機嫌いかがですかな?」
「ロイド辺境伯、そちらもお変わりないようで」
挨拶を交わしているのはグループの中でも一際厳つい中年の男。・・・貴族服がミシミシと悲鳴を上げているように見えるのは気のせいだろうか。
「紹介しましょう、こちらは冒険者のシグル。ほら、例の襲撃事件で手柄を挙げた・・・」
「おお、噂の竜人殿か!思っていたよりずいぶん若いな!」
「はじめまして、冒険者のシグルです。どうぞお見知りおきを」
「私はフィリップ・フォン・ロイド。東の国境を守護する辺境伯であるッ!」
おぉう・・・気合いの入った声だ。服がさらに「ミシィッ!!」といったぞ。
アートレア王国の東側で国境を接する国と言えば、新興勢力でありながら徹底した実力主義のもと短期間で繁栄した強大な軍事国家、ゲヴァルト帝国がある。
当然領土的野心が非常に強く、アートレア王国を含めた周辺国との緊張関係が続いている。
彼はそんな国との境界を守る役目を与えられる程に信用と実力があるらしい。
「この派閥は主に私と彼が中心になって形成されている。自称しているわけではないが、"改革派"と呼ばれることが多い」
「つまり、反対に"保守派"がいたりするんですか?」
「察しが良いな、その通りだ。あとは"無派閥"だな」
「奴らには特に気を付けた方が良いな!"保守派"のジジイどもは頭がアダマンタイトのごとき固さであるし、"無派閥"に至ってはほとんど無能と犯罪者紛いしかおらんッ!」
・・・また「ミシィッ!!」っていったな。大丈夫か貴族服。ずいぶん高価そうだけど。
その後に入った侯爵からの補足によると、"保守派"とは従来の価値観を重視する者を指すが、その価値観というのが"人族至上主義"だ。これは勇者が日本人であり、当然ながら人族であったことに由来している。
それからもうひとつ、獣人やエルフなどはほぼ一つの能力に特化しているのに対して人族は才能に偏りがない。故に剣士や魔術師といったあらゆる戦力を満遍なく揃えることができ、戦略的に優位に立てる。そして戦略と数の力を活かして人族の国は広大な土地を支配し、繁栄してきたのだ。その過程で一時期は人族以外が酷く冷遇されていたこともあったとか。
そんな時代の考えが抜けない"保守派"は侯爵曰く「悪人ではないが、信用もならない古狸」らしい。
"無派閥"の方は、正確に言うと「どちらの派閥にも受け入れてもらえない」者たちである。一部は深い事情により中立を保たなくてはならない者や、あまり他家と関わろうとしない変わり者もいるが、大半は無能、あるいはヤバい奴とのことだ。
こちらは何があっても絶対に関り合いになりたくないな。
「ハッ!? 待てよ、今の思考で盛大にフラグ立ったような気がするが・・・まさかな」
「何をぶつぶつ言っているのかね?」
「いえ、何でもないです」
ちなみに"改革派"は実力・現実主義で、種族による差別もないので部下や私兵として他種族を雇っている者も多い。むしろ「他種族の特化した能力を活かさない手はない」と考えている。
それぞれの割合は保守5、改革4、無派閥1らしい。
「この辺に集まっているのが"改革派"の中でも特に我が家との結び付きが強い者たちだ。出来るだけ顔と名前を覚えておくと良い」
「ありがとうございます」
そういうわけで、侯爵が橋渡し役となって俺は何人かの貴族と顔合わせをしていった。




