19話 次はエルフ姉妹とのデート、のはずが・・・
「なあ、二人とも。デートしないか?」
・・・・・・。
「・・・は、はぁ!?いきなりどうしたのよシグル!?変なものでも食べたの!?」
「・・・意外」
八雲と買い物、もといデートに行ってから数日後。俺はシェーラとノーラも誘ってみた。
案の定シェーラは威嚇する猫のような警戒心MAXの反応で、ノーラは・・・いつも通りだな。
「失敬な。俺はいたって正常だぞ」
「ならなんだっていきなりデ、デートなんかに誘ったりするのよ?」
「八雲とのデートが思ったより楽しかったからな。それに同じパーティーメンバーなわけだし、親交を深める良い機会だと思ったんだ」
「う、う~ん・・・言ってることは分からないでもないけど・・・」
「・・・ダメか?」
やはり性急過ぎただろうか。しかし適切なタイミングとか考えていても結局分からんしな・・・
若干気まずい空気に俺もどうしたものかと悩んでいると、ノーラが口を開いた。
「・・・私は良いよ」
「っ!?」
「おっ!ありがとうノーラ!」
「ちょ、ちょっとノーラ、そんな簡単に・・・」
「・・・逆に姉さんが難しく考えすぎ。別に結婚の申し込みとかじゃないんだから」
この時俺は結婚とはまた飛躍してるなあ・・・と思っていたのだが、実はエルフの間ではデート一回でもほとんど結婚を前提とした交際と認識されるそうだ。
エルフは長命種なので相手を選ぶ時間が充分にあることと、文化的に『清楚なお付き合い』が貴ばれるお国柄であることが関係しているらしい。
・・・とすると逆にノーラはノリが軽いということになるが大丈夫だろうかと思ったのだが、彼女曰く「・・・下心があればぶっ飛ばすから・・・姉さんが」だそうだ。それに姉妹共々里で散々男に言い寄られたのでそういうのを見分ける目は養われてるとのことだった。
「う~~~ん・・・」
「・・・なら姉さんは八雲とお留守番して。私はシグルと『二人きり』で・・・」
「分かった、仕方ないから付いていってあげるわ」
即答かい。妹のことになると即断即決だな。
ノーラはわずかに嘆息した様子で、さらに続ける。
「・・・『仕方なく』付いてこられても楽しくない。やっぱり姉さんは留守番で」
「うっ・・・うぅぅうぅ・・・」
おいおい、シェーラの顔が赤くなるどころか少し涙目になってきてるんだが・・・ノーラって意外と容赦ないんだな。
俺はノーラに小声で耳打ちする。
「な、なぁノーラ。別に無理にとは言ってないんだし、シェーラにはもう少し加減してやったらどうだ?」
「・・・姉さんはもう少し素直になることを覚えた方が良い。だからこれは教育」
本当に容赦ないな・・・ノーラの見た目は確かに小柄だが、このやり取りを見てるとどっちが姉か分からなくなる。
この間シェーラは頭を抱えて悩んでいたが、ついに覚悟を決めてやけくそのように叫んだ。
「あぁもう!分かったわよぉ!私もデートに行きたい!これで良いでしょ!?」
「・・・よく出来ました」
ノーラはそう言って満足げに微笑んだ。
それにしても、シェーラはシスコンでノーラは隠れSか・・・なんというか、だんだんキャラが定まってきたな。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
翌日、俺と姉妹の三人で再び王都の商業区へやって来た。
八雲は今回二人に譲ると言って、ヴォルガと一緒にギルドの依頼を受けに行っている。
天気はよく晴れて絶好のデート日和。ノーラは顔にはあまり出ないものの、上機嫌な雰囲気だ。それに引き換え・・・
「なあシェーラ。お前ら姉妹はいつもこんな感じなのか?」
「ええ、そうね・・・」
なぜシェーラがこんなにもどんよりとしているのかというと、出かける直前でまた彼女が渋り、それに対してノーラが軽くキレたのだ。
「・・・姉さん。そこに正座」からの非常に淡々とした理詰めで行われるノーラの説教は傍から見ててもちょっとビビった。なにしろ普段口数が少ない彼女が長々と喋っていたのだ。それだけでも結構迫力があった。
八雲とヴォルガも関わりたくないとばかりにそ~っと出ていった。神獣をも恐れさせる説教か。彼女は怒らせないように気を付けよう。
説教は30分ほど続き、最後には「・・・姉さんのバカ。アホ。腰抜け間抜けのアンポンタン。頑固者。小心者。意地っ張りに見栄っ張り・・・」とただの罵倒になってシェーラが半べそをかきはじめたあたりで流石に止めた。
「それにしてもノーラはずいぶん怒ってたが何でだ?」
「・・・姉さんが昔からヘタレだから」
なんでもシェーラは気が強い性格と、肝心なところでヘタれる(特に異性関連)のが相まって誤解されたりすることが多いのだとか。
その度に母親から説教を受けていたのだが、姉妹が成長していく過程でその役をノーラが行うようになっていったらしい。
「本当にどっちが姉なのか分からんな・・・」
「・・・よく言われる。この際私が姉ってことにする?」
「いや、それは流石に困るのだけど!?」
「・・・フフッ、冗談」
「あなたの冗談は冗談に聞こえないのよ・・・」
姉妹はそんなやり取りを交わしつつ、なんだかんだ楽しんでいるようだった。
それからしばらく三人で露店巡りをしていたときのことだった。
「・・・ねぇ、シグル。聞こえた?」
「ああ、路地裏の方だ。子供の悲鳴に聞こえた」
「・・・どうする?」
「もちろん首を突っ込むに決まってんだろ?」
「はぁ・・・やっぱりね。面倒なことにならなきゃ良いけど」
シェーラが呆れたようなため息を吐くが、仕方ない。全ての困ってる人を助けたい!なんてお花畑の頭はしていないが、せめて手が届く範囲くらいは何とかしたいと思うのは人情だろう。
風で探知してみると表から資格になっている場所に4~5人ほど反応があった。うち一人はやはり子供だ。人攫いだろうか?
「はぁ・・・はぁ・・・いやだ、こないで!」
「ったく、手間ァかけさせやがって!どうせ逃げてもムダなんだから大人しく捕まっとけよクソガキがっ!」
「おいよせ、傷を付けるのはまずい」
「チッ・・・運の良いガキだ」
うーん、犯罪臭がすげえな。
「おい、お前ら」
「あぁん?何だテメェは」
「通りすがりの冒険者だ。あんたらどう見ても人攫いにしか見えないぞ」
子供・・・10歳前後の少年だが、特にこれといった怪我も無さそうだ。しかし、よく見るとそれなりに身なりが良いな。
「君、怪我はないか?」
「は、はい・・・」
「おぅおぅニイちゃん、仕事の邪魔してんじゃねえよ」
「ん?よく見たらお前のツレ、エルフじゃねえか!」
「ちょうど良い、目撃者を消すついでに楽しませてもらおうじゃん?」
よし、殺すか。
「・・・シグル、落ち着いて」
「ちょっと、そんな殺意剥き出しにしてんじゃないわよ、あの子怖がってるじゃない」
おっと、まずいまずい。口元をさすって気分を落ち着かせる。
・・・半殺し程度にしておこう。
「あんまり変わってないじゃない。全く・・・意外と激情型なのかしら?」
「・・・自分以外に悪意を向けられるとキレるタイプ、かな」
エルフ姉妹の会話は聞こえないフリをした。
「そんじゃさっさとお楽しみ、ぐふぅっ!?」
「なっ、はや、がふぅっ!?」
チンピラたちの強さは物の数にも入らない。さっさと殴り倒した。残りの奴らも二人が制圧していた。
「く、くそ・・・テメェら、こんな、ことをして・・・ただじゃすまねぇぞ・・・」
「へぇ?どうなるって言うんだ?」
「俺の腕をよく見てみな!」
言われた通り男の腕を捲ってみると気色悪い笑みを浮かべて先のとがった長い舌を出している口元のデザインをした刺青が彫られていた。
「この刺青がどうしたってんだ?」
「聞いて驚け・・・俺たちはあの"悪魔の舌"「ブフゥッ!」・・・何がおかしい!」
「い、いや・・・何でもない」
裏社会の組織か何かなんだろうが、悪魔の舌とはまた・・・偶然ってのは面白いもんだ。
「それで?その、こん・・・"悪魔の舌"ってのは何なんだ?」
「へっ!知らねぇってのは幸せなもんだよなぁ?テメェなんぞ、簡単に・・・ふぎゃっ!?」
「さっさと話せ」
いまだに上から目線をやめないチンピラがウザいので、頭を踏みつけて先を促す。
「ぐっ・・・"悪魔の舌"は、この国の裏社会の中でもトップに君臨する闇ギルドだ・・・」
「で、何で天下の闇ギルド様が、子供を追っかけ回すなんてショボい仕事やってるんだよ?」
「んなの俺が知るかよ!とにかく、ウチの仕事を邪魔するとただじゃすまねぇぞ!」
「これ以上は聞けそうにないか・・・」
「いいからさっさと、ガフッ・・・」
これ以上の情報は得られそうにないので、踏みつけた頭に衝撃を与えて意識を刈り取る。
その後は盗賊用に持っているロープで縛り上げて衛兵に突き出しておいた。そして少年の方だが・・・
「少年、君わりと良いところの子じゃないか?良かったら送ってくけど。それか衛兵の詰所で親の迎えを待つか?」
「ではお言葉に甘えさせていただきます。親の迎えはその・・・色々問題があるので」
「そんなに偉い人なのか?そういえば君の名前は?」
「僕の名前は・・・」
俺は安易に送ってあげると言ったことを後悔することになる。なぜなら・・・
「・・・ロドニー・フォン・クライム。クライム侯爵家の嫡男です」
よりによってそう来たか~・・・